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やまねこ翻訳クラブ レビュー集

リディアのガーデニング


21.May.2000 NO.81 Sincerely やまねこの絵本箱 by 田中 亜希子

リディアのガーデニング

サラ・スチュワート文 デイビッド・スモール絵
福本友美子訳 アスラン書房

 庭いじりにぴったりの季節になりました。本屋さんへ行っても、ガーデニングの本がたくさん並んでいます。そんな中で、絵本好きの私の目にとびこんできたのが、これ。『リディアのガーデニング』(サラ・スチュワート文/デイビッド・スモール絵/福本友美子訳/アスラン書房)でした。

 1935年アメリカ。大恐慌のさなか、主人公の少女リディアは、家の経済的な事情で、しばらく親せきのジムおじさんのもとで暮らすことになりました。希望と不安を胸に、リディアは初めておじさんと会いました。おじさんは仕事熱心なパン屋さんで、悪い人ではないようです。けれども、ちっとも笑わない人でした。

「リディアのガーデニング」表紙

「そのうち、にっこりするわよね」とリディアは思いました。ところが、おじさんの笑顔を見ないまま、半年以上が過ぎてしまいます。そこで、リディアはある計画を思いつきました。おじさんの家には使っていない屋上があります。内緒でそこを花でいっぱいにしたら、きっと……!

 その日から、リディアの秘密のガーデニングが始まりました。リディアは自分の庭いじりの師匠でもあるおばあちゃんに、球根を送ってもらったり、パン屋さんの従業員に手伝ってもらったりしながら、準備を進めます。お店も花でいっぱいにしたので、お客さんから「ガーデニングのリディア」と呼ばれるようになりました。ついに準備ができました。花でいっぱいの屋上へおじさんをご招待。果たしてリディアはおじさんの心に、花を咲かせることができるでしょうか。

 この絵本の文章は、リディアが家族に宛てた手紙だけで進んでいきます。そのユニークな構成は、リディアのおじさんや家族に対する思い、意志の強さ、明るい性格をはっきりと伝えていました。また、ところどころに、文章のない絵だけのページも含まれています。ラストシーンにも、ことばはありません。でもそこには、ことば以上に雄弁なことばが感じられました。

 最初は土のように茶色っぽかったページが、だんだんと色とりどりになっっていったり、リディアと出会い、花を見た人たちが、みな一様に明るくなっていったり。リディアの育てた花は、いろんな場所にいろんな形で、すてきな変化をもたらしました。種をまき、肥料や水をやり、大事に育てていく。「花を育てること」と「人との関係を育むこと」はとても似ていますね。

 リディアは私の心にも、いつのまにか種をまいてくれたみたいです。読んだあと、にっこりしている自分に気がつきました。

※本の表紙は、出版社の許可を得て使用しています。


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