21.May.2000 NO.81 Sincerely やまねこの絵本箱 by 田中 亜希子
「そのうち、にっこりするわよね」とリディアは思いました。ところが、おじさんの笑顔を見ないまま、半年以上が過ぎてしまいます。そこで、リディアはある計画を思いつきました。おじさんの家には使っていない屋上があります。内緒でそこを花でいっぱいにしたら、きっと……! その日から、リディアの秘密のガーデニングが始まりました。リディアは自分の庭いじりの師匠でもあるおばあちゃんに、球根を送ってもらったり、パン屋さんの従業員に手伝ってもらったりしながら、準備を進めます。お店も花でいっぱいにしたので、お客さんから「ガーデニングのリディア」と呼ばれるようになりました。ついに準備ができました。花でいっぱいの屋上へおじさんをご招待。果たしてリディアはおじさんの心に、花を咲かせることができるでしょうか。 この絵本の文章は、リディアが家族に宛てた手紙だけで進んでいきます。そのユニークな構成は、リディアのおじさんや家族に対する思い、意志の強さ、明るい性格をはっきりと伝えていました。また、ところどころに、文章のない絵だけのページも含まれています。ラストシーンにも、ことばはありません。でもそこには、ことば以上に雄弁なことばが感じられました。 最初は土のように茶色っぽかったページが、だんだんと色とりどりになっっていったり、リディアと出会い、花を見た人たちが、みな一様に明るくなっていったり。リディアの育てた花は、いろんな場所にいろんな形で、すてきな変化をもたらしました。種をまき、肥料や水をやり、大事に育てていく。「花を育てること」と「人との関係を育むこと」はとても似ていますね。 リディアは私の心にも、いつのまにか種をまいてくれたみたいです。読んだあと、にっこりしている自分に気がつきました。 |
※本の表紙は、出版社の許可を得て使用しています。
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