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やまねこ翻訳クラブ レビュー集

あそぼうよったら おやゆびさん


04.Nov.1999 NO.57 Sincerely やまねこの絵本箱 by 中村 久里子

あそぼうよったら おやゆびさん
ジャン・マーク作 ニコラ・ベイリー絵 今江祥智・遠藤育枝訳 BL出版

 ペットにするなら、あなたは犬派ですか、それとも、猫派ですか?

 わたし自身は、犬も猫も大好き。犬は、人間に忠実でみっしりと濃密な関係を築けるところが魅力ですし、猫は、マイペースながら甘えんぼうなところもあって、そこがたまらなくかわいく思えます。

 今回ご紹介する絵本『あそぼうよったら おやゆびさん』(ジャン・マーク作/ニコラ・ベイリー絵/今江祥智・遠藤育枝訳/BL出版)は、猫派のあなたに特におすすめです。ああ、わかる、猫ってそうよね、ときっと思っていただけるはずです。

 主人公(?)の猫は、「おやゆびさん」という名の小さな木の人形が大好き。毎日、彼女が住むドールハウスを訪ねては、いっしょに「楽しく」遊んでいます。この猫、自分の「ねこっぷり」にたいそう自信を持っていて、やたらと「うっとりするよなつめぞろい」や「すてきな歯ならび」を、おやゆびさんに見せたがります。おかげで、おやゆびさんはあちこちに放り投げられ、きれいなドールハウスの中も、たちまち散らかってしまいます。無口なおやゆびさんは、なにも言いませんが、おやおや、よく見ると、口がへの字に曲がっています。いよいよ危ない、というところでご主人の登場となるわけですが、猫がそれで素直に言うことをきく……わけがありませんね。さてさて、おやゆびさんに平和は訪れるのでしょうか。

「あそぼうよったら おやゆびさん」表紙

 このお話のおもしろさは、猫が「かわいいおやゆびさん」と言いながら、確信犯的にいたずらをしているところにあります。この「確信犯的」なところが、猫のにくらしさでもあり、かわいさでもあるのです。猫好きの方なら、この気持ち、きっとわかってくださると思います。しかられるとしゅんとする犬とちがって、あくまでもマイペースをくずさず、自分の欲求に素直な猫。この自由な生き方が、うらやましくもあったりして……。

 画家のニコラ・ベイリーは、イギリスでは「猫の絵を描かせたら右に出る者はいない」と言われています。さすが、毛の一本一本までリアルに描きこまれた細密画のような絵には、思わずため息がこぼれるほど。また、微妙に変わるおやゆびさんの表情や、美しいドールハウスのインテリアなど、すみずみまでじっくりと、そして何度でも楽しめます。 現在のわたしの住まいは、狭いマンションの一室。いつか広い家で猫と暮らせる日までは、この絵本をながめて、むふふと笑っていることにします。

※本の表紙は、出版社の許可を得て使用しています。


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