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やまねこ10周年記念「世界の児童文学賞ラリー」レビュー集> ドイツ児童文学賞(ヤングアダルト・ノンフィクション部門)
 

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 やまねこ10周年記念「世界の児童文学賞ラリー」レビュー集

ドイツ児童文学賞( ドイツ) レビュー集
Deutscher Jugendliteraturpreis 

(ヤングアダルト部門・ノンフィクション部門)
 

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最終更新日 2009/10/05 新規公開(1点)

絵本・児童書部門レビュー集 / ヤングアダルト ・ ノンフィクション部門レビュー集 / 青少年審査員賞特別賞

ドイツ児童文学賞リスト(やまねこ資料室)   ドイツ児童文学賞の概要

このレビュー集について
 10周年記念「世界の児童文学賞ラリー」においてやまねこ会員が個々に書いたレビューを、各児童文学賞ごとにまとめました。メ ールマガジン「月刊児童文学翻訳」「やまねこのおすすめ」などに掲載してきた〈やまねこ公式レビュー〉とは異なる、バラエティーあふれるレビューをお楽しみください。
 なお、レビューは注記のある場合を除き、邦訳の出ている作品については邦訳を参照して、邦訳の出ていない作品については原作を参照して書かれています。


"Liebeslinien" "Paradiesische Aussichten" "Rot, Blau und ein bisschen Gelb 〔Rot, Blau und ein bißchen Gelb〕"
"Ich war das Kind von Holocaustuberlebenden 〔Ich war das Kind von Holocaustüberlebenden 〕『私はホロコーストから生まれた』 追加


2007年ドイツ児童文学賞ヤングアダルト部門ノミネート作品

"Liebeslinien" (2006) by Marjaleena Lembcke (未訳読み物)

その他の受賞歴


『愛の軌跡』(仮題)

 アウリッキは、フィンランドに住む17歳の女の子。父親とその再婚相手が一緒に暮らす家を息苦しく感じている。そして、理由もなく学校をやめ、地方での平凡な生活から抜け出そうと、ヘルシンキ行きの列車に乗る。ヘルシンキでは、アウリッキはおばのところに居そうろうし、パン屋で短期の職を見つけて働き、イギリス大使の家でお手伝いをする。その一方で、学校に戻ろうと思い始め、大学入学のために夜間学校に通い始める。そんなある日、アウリッキはジャズファンでカメラマンのサウリと出会う。アウリッキにとっては初めての恋で、その苦悩を知ることになるが……。

 17歳の女の子が人生で体験する様々な出来事が、フィンランドを舞台に淡々と描かれている。かつての隣人の息子ペトリ、ダンスホールで知り合った女装趣味のヴェリ、アウリッキの英語をみてくれる謎のロシア出身の老人、大使の家で知り合ったインド人のコックなど、いろいろな人々とアウリッキとの出会いが興味深い。
 アウリッキは『ボヴァリー夫人』を繰り返し読むが、彼女はそこに登場するエンマのような破滅型の人間ではないし、不幸な運命を歩むことにはならないだろう。主人公は、悲しくなると港に足を運ぶ。また10歳のときに亡くなった母を想うとき、母と森へ散歩したことを思い出す場面は、情感あふれるシーンで印象的だ。
 作者は1945年フィンランド、コッコラ生まれ。1967年からドイツ、ヴェストファーレンに住み、現在まで多くの作品を書いている。

(大隈容子) 2008年5月公開

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2007年ドイツ児童文学賞ヤングアダルト部門ノミネート作品

ドイツ語タイトル:"Paradiesische Aussichten" (2006) by Faiza Guene 〔Faïza Guène〕 ファイーザ・ゲンヌ
フランス語 "Kiffe kiffe demain" (2004) からの翻訳
邦訳:『明日はきっとうまくいく』 河村真紀子訳 早川書房 2006

その他の受賞歴


 少女ドリアは、フランスの郊外にある団地でママと二人で暮らしている。パパはドリアたちを捨て、故郷のモロッコに帰り再婚した。どうしても子どもに息子がほしかったから。清掃員をしているママは、長くここに住んでいてもフランス語が上達しない。読み書きもできなくて、ばかにされたりして、夜になるとよく泣いている。パパが家を出て行ってからは、家にソーシャルワーカーが来るようになった。ドリアは学校で親しい友だちもいないし、おしゃれをするお金もない。年頃なのに。
 楽ではない生活。不安定な将来。でも、そんなドリアたちの状況に、次第に変化が訪れる。

 移民たちが、宗教や文化の異なる国で生きていくことは容易ではない。彼らは、どうしてもそこの国の人たちより立場が弱くなったり、不利な労働環境に甘んじてしまったり、差別の対象になったりする。さらに現在では、悪化する治安や失業問題のため、欧州各地でも移民政策に生き詰まりが見られたり、急進的な右派が勢力を伸ばす動きがある。
 作者はバンリュー(郊外)と呼ばれるセーヌ=サン=ドニ県に住む、アルジェリア移民のフランス人である。2004年に彼女が19歳のときに書いたこの本はデビュー作で、自伝的要素が強い。
 作品は、主人公のひとりごとに近い語りの形で書かれ、二世の目から見た移民たちの生活を、時には批判的に、時にはユーモラスに生き生きと語っている。恐れ、怒り、失望、悲しみ、いろいろあっても明日を生きようとする主人公の姿勢には希望が感じられ、またそこに親しみと共感を覚えた。

(大隈容子) 2008年5月公開

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1996年ドイツ児童文学賞ノンフィクション部門受賞作品

ドイツ語タイトル:"Rot, Blau und ein bisschen Gelb 〔Rot, Blau und ein bißchen Gelb〕" (1995)  by Bjorn Sortland 〔Bjørn Sortland〕
ノルウェー語 "Raudt, blatt og litt gult 〔Raudt, blått og litt gult〕"(1993) (未訳絵本) からの翻訳

その他の受賞歴


(このレビューは、ノルウェー語版 "Raudt, blatt og litt gult" を参照して書かれています)

『赤に青、そしてほんの少しの黄色』(仮題)

 おじのハラルドについて美術館にやってきたアンナは、レンブラントの肖像画にトイレの場所を尋ねた。すると、この美術館の中に芸術作品と称されるトイレがあるという答えが返ってきた。トイレが芸術作品? ふと床を見下ろすと赤いドレスが落ちていた。そでを通したアンナは、ムンクの絵画の中に迷い込んでしまう。その後ゴッホ、ピカソ、シャガール、セザンヌ、ポロックをはじめとする画家に次々と出会ったアンナは、芸術とは赤に青、そしてほんの少しの黄色を重ねるだけで生まれる、単純なものであること、また目にうつるものが何なのか、決めるのは自分自身であることを知る。

 ソフィーの世界のヨースタイン・ゴルデルに絶賛され、国内外計6つの賞を受賞し、9ヶ国語に翻訳された秀作絵本。作品に出てくる絵画は、多様な時代、国、主義の画家により描かれたバラエティーあふれるラインナップとなっている。ゴッホが登場する場面の会話は、少し内容が薄いように思え残念だったが、巻末の画家についての説明文を読むと、黄色という色がいかにゴッホにとって特別な色であるか、そしてまた彼の色彩に対する思いを知ることができる。

 参考ページ
 http://www.amazon.co.jp/gp/reader/1575053764/ref=sib_dp_pt#reader-page (絵本 英語主要6ページ画像)

(枇谷 玲子) 2008年5月公開

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2008年ドイツ児童文学賞ノンフィクション部門ノミネート作品

ドイツ語タイトル:"Ich war das Kind von Holocaustuberlebenden 〔Ich war das Kind von Holocaustüberlebenden 〕
           by バニース・アイゼンシュタイン作 Bernice Eisenstein
英語 "I Was a Child of Holocaust Survivors" からの翻訳 by Henriette Heise
邦訳:『わたしはホロコーストから生まれた』 山川純子訳 原書房 2009 (邦訳読み物) NEW

その他の受賞歴


 わたしは11歳。以前から、両親がホロコーストからの生還者であることをわたしは知っていた。1961年のある日、家の地下室で、両親とその友人たちが集まった。テレビ中継されるイスラエルでのアドルフ・アイヒマンの裁判をみんなそろって観るためだった。
 ポーランド生まれのユダヤ人である父は、アウシュビッツが解放される直前、同じくユダヤ人である母と出会い、一緒に人生を歩み始め、のちにカナダに移住する。イディッシュ語を聞き、ユダヤ人コミュニティの中で育ったわたしは、大きくなるにつれ、両親の過去を知りたいと願っていた……。

 題名からもわかるように、この本は強制収容所からの生還者であるユダヤ人の両親の下で生まれた作者が書いたノンフィクション。ハヌカ、ヨム・キプールなどユダヤ人の祭日や、耳慣れないイディッシュ語が出てきて、ユダヤ人の生活、習慣を垣間見ることができる。しかし一方で、身近な話題から展開されるお話は、どこにでもありそうな出来事で、どの家庭でもよく似たものだなと読者に感じさせる。たとえば、主人公と父との口論の種は、友人付き合い、スカート丈や服装、車の使用、世界情勢、ドラッグなど、今の若者が抱えるテーマであり、人種を超えて共通点が多い。
 この本にいっそう親しみがわくのは、作者自身による豊富なイラストのせいかもしれない。生活の魂であるイディッシュ文化を保ち続ける両親と、そこに生まれ育った2世。両者のアイデンティティに違いはあるが、作者は戦争の記憶をしっかりと受け継ぎ、次世代に語り継ごうと努力しているのがよくわかった。
 折りしも今年は、ナチスドイツ軍のポーランド侵攻で第2次世界大戦が始まって70年。先日その記念式典がテレビで中継されていたが、作者はこの日をどんな気持ちで迎えただろうか。

(大隈容子) 2008年5月公開


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