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やまねこ10周年記念「世界の児童文学賞ラリー」レビュー集> スペインの賞レビュー集



スペインの賞レビュー集 一覧

スペイン国民文学賞  スペイン イラスト賞児童文学部門

このレビュー集について 10周年記念「世界の児童文学賞ラリー」においてやまねこ会員が個々に書いたレビューを、各児童文学賞ごとにまとめました。メルマガ「月刊児童文学翻訳」「やまねこのおすすめ」などに掲載してきた〈やまねこ公式レビュー〉とは異なる、バラエティーあふれるレビューをお楽しみください。
 なお、レビューは注記のある場合を除き、邦訳の出ている作品については邦訳を参照して、邦訳の出ていな作品については原作を参照して書かれています。



 やまねこ10周年記念「世界の児童文学賞ラリー」レビュー集

スペイン国民文学賞(スペイン) レビュー集
Premios Nacionales de Literatura
 

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最終更新日 2008/08/01 新規公開

スペイン国民文学賞公式サイト

★スペイン国民文学賞の概要
 1978年にスペイン文部省により創設された。原作がスペインで公用とされている言語で書かれ、授賞の前年に出版されたすべての児童書が対象。毎年1作品が選ばれる。


"Cielo abajo"


2006年スペイン国民文学賞児童書部門受賞作品

"Cielo abajo" (2005) (未訳読み物)
 by Fernando Marias 〔Fernando Marías〕 

その他の受賞歴
2005年アナヤ児童文学賞(※児童書出版の Anaya社主催の賞。受賞作が出版される。)


『あの空に』(仮題)

 2004年の秋、小説家の「ぼく」は、親友の家で壁に彫りこまれた「コンスタンサ 7/11/36」の文字を見つけ、同時に「コンスタンサ」という呼びかけで始まる小説を誤って受け取った。好奇心にかられ、小説を読む。
 1936年、スペイン内戦下のマドリッド。パイロット志願の15歳の孤児ホアキンは、最初の使命で迷った孤児を装い、敵軍の将校の家庭に入り込む。そこで出会った、将校の妻で妊娠中のコンスタンサに思いを寄せる。しかし、同年11月7日、反乱軍によるマドリッド空爆が起こった。その日に家で女の子を出産したコンスタンサは、赤ん坊に自分と同じ名を付けるが、直後に爆撃で命を落とす。初めて愛した人を失ってしまった、しかも自分の軍の攻撃で――、ホアキンは絶望し、赤ん坊のコンスタンサを同じアパートの老人のもとに残してその場を逃げ去った。
 物語はまだ続く。読みふける「ぼく」の前に、ひとりの老人が現れる。彼がホアキン――?

 "Cielo abajo"、不思議なタイトルだと思った。Cielo は「空」で、abajo は「下の」。空に落ちていくようなイメージの表紙絵にも、どういうことだろうかと興味を引かれ、読んでみた。
 主人公の孤児ホアキンの、コンスタンサへの生涯変わらない思いが切ない。死別したあとも、不思議な縁に導かれるように、ホアキンは成長した娘のコンスタンサに偶然出会う。コンスタンサとの家庭を夢みるが、その願いが叶うことはなかった。しかし、コンスタンサに忍び寄る闇から、彼女を守ろうとするホアキン。それが彼の、コンスタンサ親子への愛情表現だったのかもしれない。
 内戦の理不尽さには胸が痛む。同じ国の国民同士が2つに分かれて争うなんて――、作中でも、弟を友人に殺されてしまったり、報復したり、さらにその憎しみの連鎖は、娘のコンスタンサの生活にも暗い影を落とすことになる。その一方で、女性たちは子どもを生み、未来に希望をはせている。罪もないのに、巻き込まれてしまった人たちの悲しい運命は、ただ悲しいばかりだ。舞台になったマドリッドの空爆は、歴史上、民間人を標的とした初めての航空爆撃とのことだ。巻き込まれ、つらい思いをした人たちも実際にいたに違いない。
 物語には、ホアキンの小説を通して戦争の経験や、そのときの思いを知ることになった「ぼく」たちがいる。さらに、本書の読者となった、戦争を知らない世代の私たちや若い人たちも、それを感じることになるのだろう。世界のどこででも、争いのない平和な時代になることを、心から祈りたい。

(井原美穂) 2008年8月公開

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スペインの賞レビュー集 一覧

スペイン国民文学賞  スペイン イラスト賞児童文学部門


 やまねこ10周年記念「世界の児童文学賞ラリー」レビュー集

スペイン イラスト賞児童文学部門( スペイン) レビュー集
Premio a las mejores ilustraciones infantiles juveniles)
 

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最終更新日 2008/08/01 新規公開

スペイン イラスト賞 児童文学部門 受賞作品リスト(やまねこ資料室)

★スペイン児童文学イラスト賞の概要
 本賞は、スペイン国民賞の公式部門ではないものの、1978年にスペイン文化省によって創設された、国内ではよく知られている賞である。選考の前年1年間にスペイン国内で出版された(または未発表の)児童向け・青年向けの作品のうち、最もすぐれたイラストに与えられる。


"Una casa para el abuelo"


2006年スペイン イラスト賞 児童文学部門

"Una casa para el abuelo" (2005) (未訳絵本)
 by Isidro Ferrer, text by Grassa Toro
フランス語"Une maison pour grand-pere"(2001)からの翻訳

その他の受賞歴


(このレビューは、スペイン語版を参照して書かれています)

『おじいちゃんのためのいえ』(仮題)

わたしときょうだい、それからおばあちゃんとで、山のたかいところへのぼった。
それから反対がわからおりてきた。
わたしたちがさがしていたのは、ひまわりでかこまれた村のちょうどはしの、ちっぽけな土地だった。
おばあちゃんとかあさんは、じめんにあなをほった。わたしたちも、手でほって、おてつだいをした。
そして、そこにいれたのは……。

 やさしい黄色が全体に使われた、あたたかい印象の絵本である。線画でかかえれたイラストに、写真を組み合わせてあるのがおもしろい。とぼけた表情の登場人物たちも楽しく、スペインで子どもの本のイラストを受賞したというのもじゅうぶんうなづける。
 ただし、内容はかなりシュール!?だ。日本での出版は、ひょっとするとむずかしいかもしれない。メキシコには、11月1日と2日に日本のお盆とよく似た「死者の日」というお祭りというものがあって、この時期には町中が、がいこつだらけになって、がいこつのかたちのパンとかお菓子とかも売られたりする。はたして、ヨーロッパでも死者と生者は、案外近しい関係にあるのだろうか。
 もうすぐ日本にもお盆がやってくる。みんな、この行事のことをどれくらい意識しているのだろうか。思わず、亡くなった祖父母に思いを馳せた。

(美馬しょうこ) 2008年8月公開

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