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※こちらは「書評編」です。「情報編」もお見逃しなく!!
児童文学翻訳学習者による、児童文学翻訳学習者のための、
M E N U
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賞情報1 |
―― 2000年ボストングローブ・ホーンブック賞発表 ――
ボストングローブ・ホーンブック賞は、前年6月から当年5月までの1年間に米国で出版された本を対象とし、フィクション、ノンフィクション、絵本の3部門に贈られる。本年の授賞式は10月2日。受賞作品は、例年『ホーンブック』9/10月号に掲載されるが、ホーンブック社のインターネット上ページでは一足早い発表があった。
2000年の ★Winner(受賞作)、☆Honor(次点、各部門2作品)は以下の通り。
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●新人の台頭
【フィクション】部門の Franny Billingsley は、"Well Wished"(1997)につぐデビュー2作目での受賞。ニューベリー賞作家の Susan Cooper や、同賞次点作家の Walter Dean Myers の作品をおさえての受賞だ。また、【絵本】部門の D. B. Johnson は、イラストレーターとして20年以上のキャリアをもつものの、絵本の創作は今回がはじめて。新しい作家たちの台頭を歓迎したい。
●【絵本】部門にまつわる、情報あれこれ
受賞作 "Henry Hikes to Fitchburg" は、今日も多くの人を魅了する19世紀の思想家ヘンリー・D・ソローの "Walden"(1854)から着想を得た絵本。作品の一部がインターネット上で公開されている。
次点の Brock Cole(ブロック・コール)は、絵本やイラストのほか、物語作品も高く評価されている。邦訳には、読み物の『森に消える道』(福武書店:現ベネッセ)、『がんばれ、セリーヌ!』(徳間書店)がある。
もうひとりの次点、Gabrielle Vincent(ガブリエル・バンサン)は、ベルギーの画家、絵本作家。"a day, a dog" は、1982年に発表された作品だが、米国では今年になって出版の運びとなった。日本では1986年に『アンジュール ある犬の物語』(ブックローン出版:現BL出版)として紹介されている。
(野木富夫)
◇参考:The Horn Book Inc.
(受賞作品のレビューもリンクされています)
◆ボストングローブ・ホーンブック賞について(やまねこ翻訳クラブ・データベース)
ボストングローブ・ホーンブック賞発表 オーストラリア児童文学賞発表 『エヴァ ―花の国―』 『妖精のキャラバン』 "Kit's Wilderness" Chicoco の親ばか絵本日誌 「ロバート・コーミア」 MENU |
賞情報2 |
―― オーストラリア児童文学賞発表 ――
オーストラリア児童図書評議会が選出する、本年度の児童文学賞(THE CHILDREN'S BOOK OF THE YEAR AWARDS)が発表された。
2000年の ★Winner(受賞作)、☆Honor(次点、各部門2作品)は以下の通り。
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●受賞歴など
【Older Readers】部門の3人はいずれも、この賞には今回初めて選ばれた。
【Younger Readers】受賞の Jackie French は、1995年に次点、今回念願の初受賞。
【Picture Book】で選ばれた画家・作家は、Ottley 以外、全員受賞歴(次点含む)がある。
【Eve Pownall Award】受賞の Nicholson は、この賞の常連。
●受賞作家の邦訳など
【Younger Readers】次点作 "Hannah and the Tomorrow Room" の挿絵を描いたアン・ジェイムズは、『ペニーの日記読んじゃだめ!』(ロビン・クライン作/安藤紀子訳/偕成社)などの「ペニー」シリーズでも、挿絵を担当。
【Picture Book】受賞作作家のマーガレット・ワイルドは、『ぶたばあちゃん』(今村葦子訳/ロン・ブルックス絵/あすなろ書房)などで日本でも人気が高い。
【Eve Pownall Award】次点作 "Crash! : The Search for the Stinson" のジェニファ・ベックは、絵本『なんでもできる日』(たかはしえいこ訳/ロビン・ベルトン絵/すぐ書房)が邦訳出版されている。
日本ではまだあまりなじみのない作家たちだが、今後紹介されていくのが楽しみだ。本誌でも追って取り上げてみたい。
(菊池由美/森久里子)
◇参考:オーストラリア児童図書評議会(The Children's Book Council of Australia)
◆オーストラリア児童文学賞について(やまねこ翻訳クラブ・データベース)
ボストングローブ・ホーンブック賞発表 オーストラリア児童文学賞発表 『エヴァ ―花の国―』 『妖精のキャラバン』 "Kit's Wilderness" Chicoco の親ばか絵本日誌 「ロバート・コーミア」 MENU |
注目の本(邦訳絵本) |
―― 生きることを考える、美しく潔い絵本 ――
『エヴァ ―花の国―』 "Eva ou le pays des fleurs" |
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エヴァは10歳の少女、仕事は夜の花売り。子ども達が寝静まる時間から仕事は始まり、ネオンの下、月の下を歩き花を売る。仕事の終わる時間になると、エヴァは「花の国」のことを考える。夜の世界しかない今の生活から、明るい「花の国」へと、旅立つ時を。
画集を思わせるような表紙に、エヴァは、にこりともせず、かといって悲しそうでもなく、そこにいる。
25ページの絵本を閉じた時、ずっしりと厚い本を読んだような感覚を持った。簡潔な文章と豊かな絵が、たっぷりと「エヴァ」を語る。絵本という表現手段を存分に活かした1冊。
子どもらしい遊びや楽しみとは無縁の、夜の生活をしている、そんなエヴァをみていると、生きることについて考えている私自身と出会う。子どもの労働という重いテーマを語っているのだが、不思議とかわいそうに感じることはなかった。それは、この絵本の作り手であるラスカルもジョスも、生きることを深く肯定しているからではないだろうか。
エヴァは、生きるために、普通の子ども達とは違う生活をしているとはいえ、どこにでも存在する子どもだ。労働という行為を何かにしばられているということに置き換えてみれば、案外どの子もエヴァでありえるはず。誰もが不自由なものを背負っている。だからこそ、生きることはしんどいことが多く、嘆きたくもなる。けれど、嘆くよりも仕事をし、生活しながら、自分の幸せの道を求め続けるエヴァ。その姿勢は美しく潔い。最後の絵は、その潔さを凝縮していて、1枚の完成されたタブローのようだ。
ラスカルは、この絵本の献辞を、息子に捧げている。ラスカルの息子は何歳だろう。ちなみに私の4歳の息子は一緒に読んだ後、「あー、おもしろかった」と簡単な一言。どこがおもしろかったのと、詳しく聞きたい気持ちは抑え、私は絵本の余韻にひたった。
(林さかな)
【作者】Rascal(ラスカル) 1959年ベルギー生まれ。いくつかの職を経た後、子どもの本を書き始め、文章だけでなく、絵も手がける。93年にルイ・ジョスとの共作、"Escales-carnet de cropuis"(未訳)でボローニャ児童図書展グラフィック賞・大賞を受賞。ルイ・ジョスとの共作には『オレゴンの旅』(セーラー出版)もある。 【画家】Louis Joos(ルイ・ジョス) 1940年ベルギー生まれ。ブリュッセル・アカデミーでグラフィック・アートを学び、現在は漫画家・イラストレーターとして活躍。ジャズをテーマにした漫画や探偵小説の挿絵もかいている。 【訳者】山田兼士(やまだ けんじ) 1953年岐阜県大垣市生まれ。現在、大阪芸術大学助教授。絵本の翻訳は上記『オレゴンの旅』がはじめて。フランスの詩人、日本の近代詩人・作家に関する研究のほか、宮沢賢治などの研究も行っている。 |
ボストングローブ・ホーンブック賞発表 オーストラリア児童文学賞発表 『エヴァ ―花の国―』 『妖精のキャラバン』 "Kit's Wilderness" Chicoco の親ばか絵本日誌 「ロバート・コーミア」 MENU |
注目の本(邦訳読み物) |
―― 時を越えて届けられた、ポターのファンタジーの世界 ――
『妖精のキャラバン』 "The Fairy Caravan" |
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タッペニーは、短い毛がまばらにしか生えていない、不恰好なてんじくねずみだ。毛を伸ばすという薬を仲間に塗ってもらった次の日、タッペニーの毛は、長くふさふさになり、まるで見違えるよう。ところが、伸びつづける毛を切るのは面倒になった奥さんが毛を抜き始めたので、タッペニーは痛さに我慢できず、逃げ出した。やがてタッペニーは小さな馬車に出会い、子馬のビリー、豚のパディ、やまねのシャリファたち、動物だけのサーカスの旅に加えてもらう。動物たちは、葉っぱのチラシを配り、羊牧場や農園で興行をしてまわるのだ。タッペニーは、美しく長い毛をターバンのように巻き上げてサルタンを演じ、興行の間には、シャリファや旅先で出会った動物たちが話してくれる物語を楽しむ満ち足りた日々を送る。しかしある日、パディがオークの森で迷子になってしまう……。
本を手に取った時、目に飛び込んできたのは、美しい色彩で描かれた動物たち。いきいきとしていて、毛並みのやわらかさまでが伝わってくる。ページをめくると、モノクロやカラーの挿絵がふんだんに添えられており、どの絵にも動物たちの愛らしさがあふれている。物語の中で動物たちは、それぞれがもつイメージに合う性格と役割をあたえられ、のびのびと活躍する。賢く働きものの子馬、がんこな豚、おっとりとしたやまね、など。読み進むうち、作者の動物に対する愛情と鋭い観察力に感心させられると同時に、人間じみた動物たちの姿に作者のユーモアを感じた。すっかり動物たちの世界に迷い込んだ気分になり、葉っぱのチラシを探しにいきたくなった。
作者は、アメリカの出版社からの強い勧めを断りきれず、イギリスでは絶対に出版しない条件で本作品の出版を許可した(1927年)。それは当時作者が、イギリスでの自分の作品に対する評価に不満だったため、あるいは、創作活動よりも農場経営と自然保護活動に力を注いでいたため、といわれている。イギリスでは作者の死後出版された。日本でも長く未訳であったが、ピーターラビットの絵本がすべて邦訳出版された今、ポターの世界をさらに広げるために紹介された。70年以上の年月を経て、私たちのもとへと届けられた、ポターのファンタジーの世界。出会えたことを心からうれしく思う。
(松田貴子)
【作者】Beatrix Potter(ビアトリクス・ポター) 1866年ロンドンの裕福な中産階級の家庭に生まれる。少女時代からの休暇中の田舎暮らしと、飼育していた多種の小動物を通して、鋭い自然観察力を身につけた。1902年小型絵本『ピーターラビットのおはなし』を出版。その後、イギリス湖水地方のソーリー村でヒルトップ農場を手に入れ、そこを舞台に数々の絵本を制作した。後半生は農場を経営し、自然保護に努めた。1943年没。 【訳者】久野暁子(くの さとこ) 1970年茨城県に生まれる。上智大学卒業。翻訳出版は本作品がはじめて。茨城県在住。 |
ボストングローブ・ホーンブック賞発表 オーストラリア児童文学賞発表 『エヴァ ―花の国―』 『妖精のキャラバン』 "Kit's Wilderness" Chicoco の親ばか絵本日誌 「ロバート・コーミア」 MENU |
注目の本(未訳読み物) |
―― 太古の闇から、輝く命の谷へ ――
『キットの荒野』(仮題) David Almond Hodder 1999, ISBN 0-340-72716-0(Paperback)
1999, ISBN 0-340-77885-7(Hardcover) |
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キットは13歳の少年。妻を亡くした祖父と同居するため、両親とともに、廃坑のある町に引っ越してきた。昔、多くの子どもたちが犠牲となった炭坑には、彼らの霊の伝説が残っている。荒れ地にある炭坑跡では、クラスメイトのアスキューを中心に、「死」と名づけられた神秘的なゲームが行われていた。キットもそのゲームに誘われ、「死」の疑似体験をする。ところが、このゲームのことが先生に発覚し、アスキューは退学処分に。家庭にも問題を抱えていたアスキューは、その後失踪してしまう。
キットは、氷河期の荒野を舞台とした物語を書き始める。やがてキットの目には、自分の物語に出てくる人物たちの姿、それに炭坑で死んだ子どもたちの姿が、実際に見えてくるのだった。そして彼は、迷宮にも似た坑道の闇に足を踏み入れることになる……。
暖かい家庭で育った繊細なキットと、アル中の父を持つ偏屈者のアスキュー。一見大きく違う二人が、お互いの中に共通点を見出し、心を触れ合わせていく過程が印象的だ。死期を悟った祖父がキットに託す、炭坑の思い出や歌も心に残る。
作者アーモンドは前作 "Skellig" と同様、超現実的なものをさらりと登場させ、簡潔でありながらリリカルな文章で物語を紡いでいく。死が重要なテーマという点も前作と同じだが、この作品はさらに多層的な構造をもっている。現在と過去、歴史と伝説の、さまざまなストーリーが語られ、それぞれがまじりあい、不安と緊迫感をひきおこす。キットの綴る物語が、キットを取り巻く現実の状況と共鳴し、融合していくあたりの描写は特に巧妙だ。読者はしだいに作品世界に引きこまれ、なにが真実でなにが幻なのか、生けるものと死せるものとはどこが違うのか、考えさせられる。
暗いストーリーのようだが、その芯にあるものは、世界に対する肯定的な視線だ。「死」に魅入られやすい年頃の少年に、物語や夢、思い出のもつ強い力を示し、現実とは今目の前にあるものだけではないと気づかせてくれる。キットは深い闇から、光を見出す。死は新しい命を生み、冬は豊饒な春をもたらすのだ。
この作品は今年、カーネギー賞の Highly Commended(次点)となった。
(菊池由美)
【作者】David Almond(デイヴィッド・アーモンド) 1951年、英国ニューキャッスル・アポン・タイン生まれ。廃坑のある小さな町で育つ。様々な職業を経て教職につき、そのかたわら文芸誌の編集や創作を続けた。大人向けの作品を発表した後、1998年に初めて書いた子ども向けの本 "Skellig"(『肩胛骨は翼のなごり』/山田順子訳/東京創元社)で、カーネギー賞、ホイットブレッド賞を受賞。 |
ボストングローブ・ホーンブック賞発表 オーストラリア児童文学賞発表 『エヴァ ―花の国―』 『妖精のキャラバン』 "Kit's Wilderness" Chicoco の親ばか絵本日誌 「ロバート・コーミア」 MENU |
Chicocoの親ばか絵本日誌 第3回 |
よしいちよこ |
―― 「息子の初恋の絵本」 ――
しゅんが初めて絵本に恋をしました。前回(7月号)、ちらっと紹介した『おやすみなさいおつきさま』(マーガレット・ワイズ・ブラウン文/クレメント・ハード絵/せたていじ訳/評論社)です。幼児絵本の定番とは知っていましたが、私は読んだことがありませんでした。
しゅんのおすわりが上手になると、いっしょに絵本を読む時間が増えました。8か月ごろには感情表現がゆたかになり、声をあげて笑ったり、体をふりふりしたり、「ああ、うれしいんだな」とわかるようになります。そのころから1歳にかけて、しゅんは『おやすみなさいおつきさま』が大のお気にいりでした。一晩に5回も繰り返し読まされたこともあります。しゅんはまだ「読んで」といえませんでしたが、わたしが「おしまい」と本を閉じたあとも動こうとせず、熱い目でこちらを見つめています。親ばかなわたしは声をからしながら「じゃ、もう1回だけね」と読んでしまうのでした。
何冊かの絵本を重ねて置いてあると、しゅんが引っぱりだすのはかならず『おやすみなさいおつきさま』でした。重ねる順番をかえて実験してみましたが、結果は同じ。11か月ごろ、よちよちひとりで歩けるようになりました。わたしが「絵本を読もうか」というと、しゅんはにこにこしながら、ソファの上に置いてある『おやすみなさいおつきさま』のところまで歩いていきました。息子がひとりで歩けたことと、本好きをアピールしたことに、とても興奮したのを覚えています。
そんなある日、いつものように『おやすみなさいおつきさま』を読んでいると、しゅんが赤い風船を指さすことに気づきました。ページをめくるたびに、赤い風船を指さします。偶然かもしれないと思い、上下さかさまにして実験してみましたが、たしかに風船を指さしています。最後のページの暗闇のなかに浮かぶ風船まで忘れず指さします。赤ちゃんは赤くて丸いものが好きだと聞いたことがあります。しゅんが風船を指す理由は定かではありませんが、たしかに進化してきたようです。
しかし熱した恋もいつかは冷めるもの。しゅん、ただいま1歳半。絵本はあいかわらず好きですが、『おやすみなさいおつきさま』には見向きもしなくなりました。
ボストングローブ・ホーンブック賞発表 オーストラリア児童文学賞発表 『エヴァ ―花の国―』 『妖精のキャラバン』 "Kit's Wilderness" Chicoco の親ばか絵本日誌 「ロバート・コーミア」 MENU |
作家紹介シリーズ 第2回 |
―― 「ロバート・コーミア」 ――
悲観主義の向こうにある希望
ロバート・コーミアは、アメリカYA(ヤングアダルト)文学を代表する作家のひとり。しかし、重いテーマと結末の苦さから「悲観主義」と評されることも多く、好き嫌いが分かれる作家でもある。ここでは、その悲観主義の奥にあるものを考えてみたい。 |
【経歴】
1925年、米国マサチューセッツ州のレミンスタに生まれ、現在まで同じ町に住み続けている。地元のラジオ局で台本作家の仕事をした後、新聞社に移り、28年にわたって記者、コラムニスト、編集者として勤めた。
デビュー作は、新聞社勤務中の1960年に発表した "Now and at the Hour"。その後、一般向けの作品を2冊出版したのち、73年、"Chocolate War"(『チョコレート戦争』/坂崎麻子訳/集英社/『チョコレート・ウォー』/北澤和彦訳/扶桑社)を発表。YA作家として自らの地位を確立しただけでなく、アメリカYA文学のひとつの流れを作ったと評価された。しかし、主人公が極限状況におかれ、結末にも救いが見えないことから、当時は開架の棚に置こうとしなかった図書館も少なくはなかった。その後も、寡作ながら、同様の作風による作品を発表し続けている。
【主な作品】
◇参考:やまねこ翻訳クラブ・データベース ロバート・コーミア作品リスト
【作品の世界】
〜身近な出来事に「ドラマ」を見る
コーミアの作品は、多くが「マサチューセッツ州モニュメント市」という架空の町を舞台にしている(隣町の「ウィックバーグ」や、モニュメント市内でフランス系カナダ移民が多く住む「フレンチタウン」などが主な舞台になるものもある)。モニュメントのモデルは、コーミアが生まれ育った町、レミンスタ。その「モニュメント」が常に作品世界の中心におかれるのは、作風と密接なつながりを持つためだ。
同じ町に住み続けていると、作家としてマイナスにならないかとの問いに、コーミアは「自分の身近にこそ“ドラマ”がある」と答える。一見凡庸な出来事でも、注意深く観察し本質を見極めると、作られた物語を超える「ドラマ」がある。生まれ育った町で新聞社に勤める中、コーミアはそのドラマの圧倒的な力を知ったのではないか。安易なハッピーエンドを許さない、徹底した姿勢がそこから生まれたとしても、不思議ではない。そして、物語の形に凝縮された「現実」が存在する場所は、作者自身の現実を象徴する「モニュメント」なのである。
〜現実を生きる人間の強さを信じて
コーミアは、自らを「現実主義者」であって「悲観主義者」ではないという。物語の世界とはいえ、そこに存在する「現実」と、その現実が導き出す必然的な結末を、決してねじ曲げない確固たる姿勢を保ち続けているという意味だ。そして、そのリアリズムには、「人間の強さ」という前提がある。極限状態にありながら、なお「自分自身でありたい」と願う人間、とりわけ若者への、深い愛情と強い信頼があって、はじめて書ける物語なのだ。その意味では、コーミアは究極の「楽観主義者」である。
たとえば、"After the First Death"(『ぼくが死んだ朝』/金原瑞人訳/扶桑社)では、強大な力を前に絶望する若者たちが描かれているが、自らの信念を貫き通そうとする彼らの姿には、悲劇や善悪を超えた鮮烈さがある。
また、"Chocolate War" で、体制にたったひとり立ち向かった主人公ジェリーは、最後まで勝つことなく、「現実」の厳しさを知る。だが続編の "Beyond the Chocolate War"(『果てしなき反抗』/北澤和彦訳/扶桑社)で、ジェリーはいう。
「負けたみたいに見えるのはかまわないけど、負け犬になる必要はないんだ」
ここには、一見救いのない世界に生きる少年の、まぶしいほどの強さがある。
コーミア作品の根底に描かれる、「希望」という人間の力。たとえ物語の中で、その希望がうち砕かれ粉々にされたとしても、破片は輝きを失っていない。
【レビュー】
『ヒーローズ』(仮題) "Heroes" by Robert Cormier |
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英国カーネギー賞、1998年度 Highly Commended(次点)作品。
第二次世界大戦終戦直後のアメリカ。18歳のフランシスは、爆発前の手榴弾に身を投げ出して味方部隊を救った功績により、<銀星章>を授与された。「ヒーロー」となったフランシスだったが、そのときのケガがもとで、顔の大半を失っていた。
故郷のフレンチタウンに戻ったフランシスには、ある目的があった。それは、かつて自分自身の「ヒーロー」だったラリー・ラサールを殺すこと。ラリーは、自分に自信を持てず、殻にこもっていたフランシスを解放してくれた人物だった。その敬愛が、深い憎しみに変わったのは、何故なのか。そして、ついにラリーとの再会を果たしたフランシスが目にしたものは、何だったのか。
短い章立てで、フラッシュバックが多用された、コーミアらしい緊張感漂う構成。フランシスの現在と過去が交錯し、彼が顔以外に失ったものが、徐々に浮き彫りにされていく。同時に、人間の悲しい性(さが)ともいえる、ラリーの内面も明らかになってくる。
「ヒーロー」であることは、自らの虚像との戦いでもある。ラリーも、フランシスも、本来の意志とはかかわりのないところで「ヒーロー」になる。一方で、戦時中にはどれほど自己犠牲をはらっても、決して「ヒーロー」になれない不特定多数がいる。皮肉な現実の中で、すべてを失ったフランシスが、絶望と虚像との戦いのすえに見つける「自分自身」の姿が感動的だ。ただし、「ハッピーエンド」ではない。
(森久里子)
ボストングローブ・ホーンブック賞発表 オーストラリア児童文学賞発表 『エヴァ ―花の国―』 『妖精のキャラバン』 "Kit's Wilderness" Chicoco の親ばか絵本日誌 「ロバート・コーミア」 MENU |
●編集後記●
「作家紹介シリーズ」、前回から1年近く間があいてしまいましたが、当クラブの面々が愛する作家を中心に、今後も続けていきたいと思います。(き)
発 行: | やまねこ翻訳クラブ |
発行人: | 赤間美和子(やまねこ翻訳クラブ 会長) |
編集人: | 菊池由美 (やまねこ翻訳クラブ スタッフ) |
企 画: | 河まこ キャトル きら くるり こべに さかな 小湖 SUGO Chicoco つー どんぐり NON BUN ベス みーこ みるか MOMO YUU りり Rinko ワラビ わんちゅく |
協 力: |
@nifty 文芸翻訳フォーラム 小野仙内 ながさわくにお 麦わら Mkwaju Gelsomina りな 月彦 |
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