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月刊児童文学翻訳

─2001年4月号(No.29 情報編)─

※こちらは「情報編」です。「書評編」もお見逃しなく!!

児童文学翻訳学習者による、児童文学翻訳学習者のための、
電子メール版情報誌<HP版>
http://www.yamaneko.org/mgzn/
編集部:mgzn@yamaneko.org
2001年4月15日発行 配信数 2,170


「どんぐりとやまねこ」

     M E N U

◎プロに訊く
第17回 小島希里さん(翻訳家)

◎シアトル発 子どもの読書事情
第1回「大切な贈り物」ブラウンあすか

◎コンテスト情報
小野仙内事務所「第1回英語絵本翻訳模擬コンテスト」

◎展示会情報
安雲野ちひろ美術館「ナンセンス絵本の王様 長新太の世界展」ほか

◎セミナー・講演会情報
イギリス児童文学会中部支部「現代のファンタジー」ほか

◎読者の広場
海外児童文学や翻訳にまつわるお話をどうぞ!



プロに訊く 第17回

―― 小島希里さん(翻訳家) ――

 

 今月は、ニューベリー賞作家、E・L・カニグズバーグの作品を数多く翻訳なさっている小島希里さんにお話をうかがいました。お忙しい中、快く取材に応じてくださった小島さんに心より感謝いたします。

 

【小島希里(こじま きり)さん】

 1959年、東京生まれ。『かみなりケーキ』(ポラッコ作/あかね書房)、『ねこのジンジャー』(ヴォーク作/偕成社)、『自分をまもる本』(ストーンズ作/晶文社)など、児童書の翻訳を中心に活躍している。中でもカニグズバーグの作品を多く手がけ、『なぞの娘キャロライン』(岩波書店)をはじめ、これまでに6冊を翻訳。2000年には、そのうちの3冊、『ティーパーティーの謎』『エリコの丘から』『800番への旅』が立て続けに出版され、創刊50周年を迎えた岩波少年文庫の新装版に加わった。

【小島希里さん作品リスト】

【小島希里さんインタビュー ホームページ版】

 

『クローディアの秘密』表紙

★まずは、カニグズバーグの作品との出会いからお聞きしたいのですが。

 出会いは小学生のときです。カニグズバーグのデビュー作、『クローディアの秘密』(松永ふみ子訳/岩波書店/1967年)を読んだのが最初でした。都会っ子のクローディアが弟と一緒に家出をして、ニューヨークのメトロポリタン美術館で暮らすという話ですが、都会育ちのわたしには共鳴する部分が多く、とても楽しみながら読んだことを覚えています。当時は、子どもながら、日本の児童文学に物足りなさを感じていたので、このカニグズバーグの作品には衝撃すら感じました。主張がきちんとしていて、しかもそれが押しつけがましくなく、ストーリーのおもしろさが際立っている。子どもの本だからといってごまかしていないということが伝わってきたんです。わたしがおもしろいと思える日本の児童書がたまたま周りになかっただけかもしれませんが……。とにかくそのときからカニグズバーグが大好きになりました。


★カニグズバーグの作品を翻訳できることになったときはうれしかったでしょうね。

 もちろんです。訳者の松永ふみ子さんがお亡くなりになったのは残念でしたが、わたしがそのあとを引き継ぐことになったときは素直にうれしかったですね。カニグズバーグはすばらしい作家なので、実力以上のことを引き受けてしまったのではないかとも思いましたが、作品と一緒に自分も成長できればという気持ちで翻訳に臨みました。


★実際に訳してみて、どんな感想をお持ちになりましたか?

 まず、英語の文章が完成されているということですね。シンプルで、まったく無駄がないんです。乾いたパキパキした感じ、といいましょうか……。そこが好きなんですが、日本語にしてしまうと、どうしてもそのパキパキ感が失われてしまうような気がして、ときどき日本の読者に申し訳ないなと思ってしまいます。みんな英語で読んでくれたらいいのに、って(苦笑)。

 それから、やはりテーマがはっきりしているということですね。カニグズバーグの作品は、プロットは複雑かもしれませんが、言いたいことはとてもわかりやすくて、「信頼」とか「友情」とか、そういったものを大事にしているように思います。主人公はいつも思春期頃の子どもたちで、ピアプレッシャー(仲間からの圧力)に悩みつつ、孤独を見つめ、旅をし、信頼に足る大人に出会い、他人との関係を築き上げていく。プレッシャーを受け入れるでもなく避けるでもなく、それとどうつきあっていくか、どう生きていくかを考える――。孤独というのはとても大事だとわたしは思います。それがなければ、他者とは出会えませんから。他者と出会って初めて自分を見つけることができる。カニグズバーグはそう教えてくれているような気がします。


★カニグズバーグの作品で一番好きなものは何でしょう?

『800番への旅』表紙

 『800番への旅』です。再婚する母親が新婚旅行に出かける1か月のあいだ、12歳の少年がラクダ引きの父親のもとへ行き、いろんな「規格はずれ」の人に出会うというストーリーですが、そのちょっとずれたところがわたし自身にも当てはまるような気がして、とても親しみを感じました。

 カニグズバーグの作品には気づかされることが多いのですが、『800番への旅』でも、「おまえは旅人なんだ。旅人が、習慣を決めることはないんだ」という父親の息子に対するセリフにはっとしました。ああ、そうだな、わたしもそんなふうに考えて暮らしていけばいいんだなって。そのほかの作品を読んでも、本当の知性とは何かとか、蚊帳の外に置かれた子どもの気持ちとはどんなものかとか、いろいろ考えさせられます。

 欧米人は自己主張が激しいように思われていますが、カニグズバーグの作品を読むと、日本人と同じように内面の問題に苦しんでいることがわかります。「自分らしく生きなさい」と言うのは簡単ですが、実際にそうするのは難しい。それができないからこそみんな悩んでいる。カニグズバーグは、そういった人たちにひとつの指針を与えているのではないでしょうか。同じ問題を抱える大人たちにも読んでほしいですね。


★今後のご予定を教えてください。

 カニグズバーグの作品では、既刊の全作品に、最新作の "Silent to the Bone" や過去の未訳作品をプラスした選集が、岩波書店からハードカバーで出る予定です。"Silent to the Bone" は、口のきけなくなった男の子が主人公のひとりで、まさに「言葉」を扱った物語。カニグズバーグらしい巧みなプロットとユーモアが光る、これまでの集大成とも言える作品です。

 また、絵本作家、アニタ・ローベルの自伝もポプラ社から出版されます。ポーランドのユダヤ人だった彼女が、収容所から収容所へ移り住み、悲惨な子ども時代を経て、空っぽの状態の中で絵の美しさに出会う。その過程が、匂いや色までも伝わってくるような文章で見事に描き出されています。児童書の作家が自伝を書くと、どうしてこんなに味わい深いのでしょうね。神沢利子さんの自伝も、石井桃子さんの自伝も読みましたが、本当にすばらしかったです。わたしが神沢さんからお話を聞いて文章をまとめた『おばあさんになるなんて』(晶文社)という本も出版されていますので、ご覧いただけるとうれしいです。


★最後に、翻訳家をめざすみなさんにアドバイスをお願いします。

 実はわたし、翻訳家になりたいと思ったことはないんです。自分が翻訳家だという自覚もあまりありません。訳したい本がなくても翻訳がしたいという方の気持ちもよくわかりませんし……。ですから、アドバイスになるようなことは何も言えないと思います。ただ、わたしは普段はのんびりしていますが、訳したい本が見つかったときだけは行動的になります。先ほどお話したローベルの自伝も持ち込みです。待っていても仕事は来ないということもありますが、やはり本当に自分が訳したいと思える作品を出したい。まだ日本で紹介されていない価値のあるものを手がけたい。そういう気持ちがないと、売れればそれでいいという商業主義に流されてしまうような気がします。

 いい作品に出会うためには、自分が普段どう暮らしているか、どう生きているかも関係してくると思います。自分がどんなものを必要としているかによって、出会うものは違ってくるはずだからです。翻訳だけでなく、いろいろなものに関心を向けて、自分で「これ!」と思えるような作品を見つけてほしいですね。わたしも、そのときによって求めるものは違って、ナンセンスなものを読みたくなることもあるのですが、とにかく芯のある作品、リアリティのある作品、大人も子どもも味わえるような作品を訳したいと思っています。歴史の問題もきちんと考えていきたいですね。

 

 「話をするのは苦手で」と、慎重に言葉を選びながら、ゆっくりと語ってくださった小島さん。その言葉のひとつひとつには重みがあり、カニグズバーグの作品を読んだあとのように、いろいろなことを考えさせられました。

(取材・文/宮坂宏美)

 

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シアトル発 子どもの読書事情 第1回 ブラウンあすか

―― 「大切な贈り物」 ――

 

 日本とは比べものにならないくらい教育現場で児童書が活用されているアメリカ。実際、学校の授業でどんなふうに児童書が使われているのか、アメリカの子どもたちと児童書はどんな関係にあるのか、ワシントン州シアトル在住のブラウンあすかさんがレポートします。隔月の新連載、スタート!

 

 "Enjoy parenting!(子育て、楽しんでね!)" 大きなスマイルといっしょに看護婦さんから手渡されたおみやげパックの中には、フリースの毛布や大きなマグカップに混じって市の図書館からの贈り物も入っていた。中身はちっちゃなTシャツと1冊の絵本。"Read to me!" のメッセージを掲げるテディベアのTシャツは、昨日生まれたばかりのわが子にぴったりの新生児サイズ。そして、絵本は赤ちゃん絵本の古典とも言えるマーガレット・ワイズ・ブラウンの "Goodnight Moon"(邦訳『おやすみなさい おつきさま』/評論社)。このTシャツを着たわが子から「本、読んで!」のメッセージを示されたら、どんな親だって読んであげずにはいられないだろう。まだ何も知らない親たちにさりげなく絵本の紹介ができてしまうこの賢い贈り方に、産後1泊の病院滞在を終えたわたしはただただ感心するばかりだった。

 渡米して8年。小学校で教員をする夫を通じ、アメリカの教育事情についていろいろと知る機会を得たけれど、とりわけ絵本好きのわたしがうらやましく感じたことは、こちらでは学校でも家庭でも、児童書が子どもたちにとってより身近な存在となっているということだった。自分の考えを自分の言葉で伝えることが重視されるアメリカ社会では、小さなころからあらゆる角度で豊かな英語に触れることが大切な意味を持つ。だから、大人たちは言葉の感性を磨いて欲しいと願い、本を通してさまざまな英語に触れる機会を子どもたちに与えようとするのだ。

 中でも親しまれている絵本の1冊が、この "Goodnight Moon"。アメリカでは同じ作者の "The Runaway Bunny"(邦訳『ぼくにげちゃうよ』/ほるぷ出版)と並んで世代を超えて読みつがれている名作だ。やさしく語りかける押韻詩のリズムと、独特な原色のイラストが印象的だが、最近では絵本の他に、「"Goodnight Moon" 赤ちゃんのはじめてのゲーム」と称して絵合わせゲームまで売られていて、これにはちょっと購買意欲をそそられてしまった。

 家族が増えたときに贈られたこの絵本を見るたびに、本のある環境って大切だなと思わずにはいられない。赤ちゃんのはじめての絵本は、わたしにそんな気持ちを抱かせてくれた大切な贈り物だった。

 

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コンテスト/展示会/セミナー・講演会情報

―― コンテスト情報 ――

 

◎小野仙内事務所「第1回英語絵本翻訳模擬コンテスト」
課 題: "Too Much Noise" by Ann McGovern
締 切: 平成13年4月30日(月)

(中野伊都子)

 

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―― 展示会情報 ――

 

◎大丸ミュージアム心斎橋「ターシャ・テューダーの世界展」
所在地: 大阪府大阪市中央区心斎橋筋1-7-1
電 話: 06-6271-1231
会 期: 平成13年4月26日から5月1日まで
休館日: なし
入場料: 一般700円 大学生・高校生500円 中学生以下無料
内 容: 今年86歳を迎えるアメリカの絵本作家、ターシャ・テューダーの世界を紹介する。絵本の原画のほか、スケッチや人形、写真なども展示。
 
◎安曇野ちひろ美術館「ナンセンス絵本の王様 長新太の世界展」
所在地: 長野県北安曇郡松川村西原
電 話: 0261-62-0772
会 期: 平成13年5月8日まで
休館日: 水曜日(祝日は開館)
入場料: 一般800円 高校生・中学生500円 小学生300円
内 容: 安雲ちひろ美術館の新館オープンを記念して開催される特別展。『ぼくのくれよん』『キャベツくん』ほか、長新太の原画約90点を紹介する。また、ヨーロッパ、アメリカ、アジアの絵本作家による「世界の絵本展」も同時開催中。
 
◎大島町絵本館「菊田まりこ絵本原画展/マイケル・グレイニエツ展」
所在地: 富山県射水郡大島町鳥取50
電 話: 0766-52-6780
会 期: 【 菊田まりこ 】平成13年4月26日まで
【グレイニエツ】平成13年4月28日から5月30日まで
休館日: 月曜日(祝日は開館)
入場料: 一般500円 高校生・中学生300円 小学生100円
内 容:
【 菊田まりこ 】 1999年、イタリア・ボローニャ児童賞特別賞を受賞した、菊田まりこの絵本原画展。『いつでも会える』、『きみのためにできること』の原画約50点を紹介。
【グレイニエツ】 『お月さまってどんなあじ?』、『クレリア』などで知られる絵本作家、マイケル・グレイニエツの原画展。4月29日・30日には本人を招いてワークショップも開催。
 
◎子どもの本とお茶の店モリス「中村悦子『ありがとうフクロウじいさん』原画展」
所在地: 東京都府中市四谷3-55-87
電 話: 042-334-0967
会 期: 平成13年4月25日まで
休館日: 木曜日、日曜日
入場料: 無料
内 容: 子どもの本の挿し絵や絵本で活躍中の画家、中村悦子の原画展。今回は『ありがとうフクロウじいさん』の原画を展示するほか、絵葉書の販売やサイン会(18日の14:00〜15:00)も行われる。

(瀬尾友子/宮坂宏美)

 

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―― セミナー・講演会情報 ――

 

◎イギリス児童文学会中部支部 講演会
   「現代のファンタジー――『トムは真夜中の庭で』から『ハリー・ポッター』まで」
講 師: ビクター・ワトソン(元ケンブリッジ大学教授)
場 所: 名古屋法経情報専門学校金山校(名古屋市熱田区金山町1-8-10)
日 時: 平成13年5月2日(水)18:30〜
参加費: 500円(事前申し込み不要)
問合せ: TEL/FAX 052-833-8919(川端)
 
◎絵本学会 2001年第4回絵本学会大会「絵本とおとな・絵本とこども」
場 所: フェリス女学院大学緑園校舎(横浜市泉区緑園4-5-3)
日 時: 平成13年5月4日(金)13:00〜20:30
平成13年5月5日(土)8:30〜17:00
参加費: 一般2,000円 会員1,000円(当日会場にて受付)
内 容: ビクター・ワトソン氏、絵本作家西牧茅子氏らの講演のほか、シンポジウム、研究発表、分科会など。
 
◎東京子ども図書館 講演会「イギリスの絵本――歴史と現在」
講 師: ビクター・ワトソン(元ケンブリッジ大学教授)
場 所: 東京子ども図書館(東京都中野区江原町1-19-10)
日 時: 平成13年5月8日(火)17:00〜19:00
参加費: 一般2,000円 会員1,500円
定 員: 50名(先着順)
申 込: 4月20日以降に東京子ども図書館まで。(TEL 03-3565-7711)

(中野伊都子)

 

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