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月刊児童文学翻訳

─2006年6月号(No. 80)─

児童文学翻訳学習者による、児童文学翻訳学習者のための、
電子メール版情報誌<HP版+書店街>
http://www.yamaneko.org/
編集部:mgzn@yamaneko.org
2006年6月15日発行 配信数 2360

もくじ

 ◎特別企画:やまねこ翻訳クラブ「活用事典」
 ◎特別企画連動レビュー:『ペリー・Dの日記』
                        L・J・アドリントン作/菊池由美訳
 ◎注目の本(邦訳読み物):『ベラスケスの十字の謎』
                        エリアセル・カンシーノ作/宇野和美訳
 ◎注目の本(未訳読み物):"Once" モーリス・グライツマン作
 ◎賞速報
 ◎イベント速報
 ◎世界のお祭り&やまねこカフェ特別編::ヴァルプルギスの夜(ドイツ)
 ◎読者の広場:海外児童文学や翻訳にまつわるお話をどうぞ!

●このページでは、書店名をクリックすると、各オンライン書店で詳しい情報を見たり、本を購入したりできます。

 

●特別企画●やまねこ翻訳クラブ「活用事典」

 本誌を発行しているやまねこ翻訳クラブは、1997年にパソコン通信の会議室から出発し、4年前にはインターネット上に活動場所を移して、徐々にコンテンツを増やしてきた。今回は、大きくなった当クラブサイトの活用方法をご紹介する。

■メールマガジン  〜活動の要、ふたつのメールマガジン〜

 1998年に創刊した本誌も、おかげさまで今月号が80号となった。最近は英語以外の言語を学習している会員が増え、とりあげる情報の幅も広がっている。

▽「月刊児童文学翻訳」バックナンバー&コーナー別インデックス
http://www.yamaneko.org/mgzn/bncorner.htm

「やまねこアクチベーター」は、クラブ内の最新情報を毎月お届け。注目の本や、勉強会開催のお知らせなど掲示板の話題がひと目でわかる。

▽「やまねこアクチベーター」登録ページ
(7月より配信スタンドが変わります。これから変更される方もこちらからどうぞ!)
http://www.yamaneko.org/mgzn/acti/index.htm

■資料室  〜情報の宝庫〜

 当クラブが誇る資料室では、会員たちがこつこつと集めた情報を整理して公開している。現在「作家・画家の作品リスト」にあるリストは197人分。もうすぐ200人目のリストが完成する。リスト作成勉強会も開催しており、リスト作成者を常時募集中だ。

▽「作家・画家別作品リスト」
http://www.yamaneko.org/bookdb/author/index.htm

「翻訳家訳書(作品)リスト」では、本誌インタビューにご協力いただいた方々のリストを公開してきたが、今年4月より範囲を広げて随時増やしていくことになった。それにともない五十音順のインデックスも公開され、利用しやすくなっている。

▽「翻訳家インデックス」
http://www.yamaneko.org/bookdb/int/index2.htm

■学習室  〜講師のいない自主勉強会〜

 当クラブの活動の中心でもある「読んで、書く」を実践する「読破マラソン」は、6回目となる「第2次ファンタジー・マラソン」を現在開催中。期間は来年の4月までなので、これからの参加も可能。また、参加者が同じ作品を読んでシノプシスを書く「初級シノプシス勉強会」も開催中。初級に参加すると、自分で作品を選ぶところからはじまる「中級シノプシス勉強会」にも参加できるようになる。コンテスト事後勉強会も盛んだ。今年開催された「いたばし国際絵本翻訳大賞事後勉強会」では、参加者のなかから受賞者がでて盛り上がった。

▽「勉強会の記録」(ピンクが参加可、黄色が受付終了で開催中、青が勉強会終了)
http://www.yamaneko.org/gakushu/rireki.htm

■読書室  〜新刊の話題が満載〜

 勉強会よりも気楽に本の感想を話したいという方は、読書室掲示板へ。会員以外の方も読み書きできるので、ときには翻訳家の方が遊びにいらして、濃い話が飛び交うこともある。今年は「カーネギー賞&ケイト・グリーナウェイ賞、候補作を読もう会」を読書室掲示板で開催中。来月の受賞作発表まで予想も交えておしゃべりしよう!

▽「読書室」
http://www.yamaneko.org/dokusho/index.htm

■やまねこ工房  〜会員の成果を発表〜

 このようにクラブ内の勉強会や活動で力をつけた会員が、翻訳家として活躍するようになった。そんな会員たちの実績を紹介するページを今年4月に公開。また、来月1日から8月末までの2か月間、東京新宿の書店、ジュンク堂にやまねこ会員の訳書を展示するコーナーが設けられる(詳細はイベント情報を参照のこと)。
 なお、今月号の連動レビューでは、会員による最新の訳書を紹介している。

▽「やまねこ会員実績紹介作品リスト」
http://www.yamaneko.org/honyaku/jisseki/kaiin.htm

▽「イベント情報」
http://www.yamaneko.org/cgi-bin/sc-board/c-board.cgi?cmd=one;no=38;id=event

■クラブの歩み  〜さらなる飛躍へ〜

 この9年間の歴史は「クラブの歩み」にまとめてある。クラブに興味を持った方、仲間を探している方、いっしょに勉強したい方はいつでも大歓迎だ。

▽「クラブの歩み」
http://www.yamaneko.org/info/ayumi.htm

▽「入会案内」
http://www.yamaneko.org/info/guide.htm

 クラブサイト内の更新状況は、RSS リーダーで読むことができるので、ご活用いただきたい。

▽更新履歴(RSS フィード)
http://www.yamaneko.org/cgi-bin/sc-board/c-board.cgi?cmd=rss;id=rireki

 奥にいくほど、中身が濃くなるやまねこ翻訳クラブ。これからもますます活動の幅は広がるだろう。やまねこ翻訳クラブの発展に、乞うご期待!

(竹内みどり)

 

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●特別企画連動レビュー●

――― 日記に書かれた少女の未来―― ―――

『ペリー・Dの日記』
L・J・アドリントン作/菊池由美訳

ポプラ社 定価1,470円(税込) 2006.05 287ページ ISBN 4591092534
"The Diary of Pelly-D" by L. J. Adlington
Hodder Children's Books, 2005

 トニ・V、14歳。まだ少年といえる年だが、日々厳しい肉体労働に従事している。戦争で壊滅状態の未来都市、そこで爆撃の残骸を片づけているのだ。ある日トニ・Vは掘削作業中、水容器を見つけた。捨てようとした時にふと容器に何か入っていることに気づき、好奇心から部屋に持ち帰る。入っていたものは日記帳だった。読み始め ると、しょっぱなから「これは、ペリー・Dの日記。絶対に秘密。これを読む者は、ただちにわたしの憎しみを受けることを覚悟せよ。」の一文が……。
 まだまだファンタジー全盛の現在、SFの形態で書かれたこの物語は私にはとても新鮮だった。SFの定義は一概にはいえないが、訳者あとがきの言葉でわかりやすく書かれているのでこれを引いてみる――現実とは異なる設定を用いることによって、人間社会の性質をくっきりと示している――なるほどと思う。
 ペリー・Dの日記は、冒頭こそおどろおどろしい文句で始まっているが、その後は日常の楽しさを生き生きと伝え、どこにでもいそうな少女を感じる。流行に敏感で買い物が大好き、すてきな男の子にも常に注目されたい、ペリー・Dの日々はそれらの欲望をきちんとかなえていた。トニ・Vは毎日のつらい作業を終えて読むこの日記にどんどん惹かれていく。自分とは違う生活を送っている少女、贅沢な暮らしをし、労働とは無縁の彼女を素直にいいなと思い、その生活を想像するのは楽しかった。いい気分転換になる読み物だったのに、遺伝子に関する記述が次第に多くなり、トニ・Vは疑問を抱き始める。そのうち、政府による遺伝子標識が強制されるくだりが出てきて、トニ・Vは、はっとする。なぜか。
 トニ・Vの視点、ペリー・Dの視点を交互に読んでいるうちに、彼らの状況が映像のように見えてくるように感じた。あぁ、私はこういう状態を知っている、と。これこそが先に引用した人間社会の性質の一面だと気づくのだ。日記は、書いている本人も気づいていない時代背景を記録することがある。よく知られている『アンネの日記』も、書いたアンネ以上に他者が読みとれるものは多い。すっかりネットに定着したブログも、未来社会ではひとつの読み物として何かに警鐘を鳴らすのだろうか。

(林さかな)


【作】L・J・アドリントン(L. J. Adlington)

ケンブリッジ大学卒業後、日本やスペインで暮らす。現在は英国ヨークシャー在住。博物館や学校などで、「ハンズ ・オン」とよばれる実際に物に触れて感じる体験学習を通して、歴史を教えている。本書は著者のデビュー作で、1950年代、ワルシャワのユダヤ人居住区で見つかった日記に着想を得たという。続編も執筆中で刊行が待たれる。

【訳】菊池由美(きくち ゆみ)

大阪生まれ。京都大学卒業後、旅行会社、教育関係の会社に勤務する。その後、やまねこ翻訳クラブに入会し、現在はスタッフとしても活躍している。訳書に『恋愛市場』(サラ・ダン作/ポプラ社)、『グラフィックデザイン・スクール グラフィックデザインの基礎と実践』(デビッド・ダブナー著/グラフィック社)などがある。

【参考】
▽菊池由美訳書リスト(やまねこ翻訳クラブ資料室)
http://www.yamaneko.org/bookdb/int/ls/ykikuchi.htm

▽「やまねこ会員実績紹介作品リスト」
http://www.yamaneko.org/honyaku/jisseki/kaiin.htm#kikuchi
 

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●注目の本(邦訳読み物)●

―― 少年の信念は、名画の中に生き続ける ――

『ベラスケスの十字の謎』
エリアセル・カンシーノ作/宇野和美訳

徳間書店 定価1,470円(税込) 2006.05 208ページ ISBN 4198621748
"El misterio Velazquez" by Eliacer Cansino
Editorial Bruno, 1998

 子どものころから私の心をとらえて離さない、一枚の名画がある。高貴な少女と、微笑みをたたえながら世話をする人々の絵。そのタイトルは「ラス・メニーナス(侍女たち)」といい、スペインの宮廷画家ベラスケスが王女と侍女を描いた作品だ。未解明の謎があるともいわれるこの名画の周辺では、一体どんなことが起こったのだろ うか。本書はフィクションだが、「ラス・メニーナス」に登場している実在の人物、ニコラス・ペルトゥサトの視点で、まるで史実のように絵の背景が語られる。
 生まれつき背が低い少年ニコラスは、7歳のときにイタリアからスペインの宮廷に連れて来られた。幼い王女の道化として雇われたことを知り、傷つくニコラスだが、同じように背の低い男アセドに、知恵を蓄え自分を信じて生きるようにと諭された。宮廷でのある事件をきっかけに、ニコラスは画家ベラスケスと出会う。そのとき、ベラスケスが薄気味悪い男ネルバルに進言され、ニコラスは製作中の絵に描き加えられることになる。
 ベラスケスに仕えはじめたニコラスは、ある日ベラスケスの指示でネルバルのもとへ使いに出された。そこで異様な体験をし、ありえないものを目にしてしまう。ニコラスはネルバルにおびえ、もう関わりを持たぬ方がいいとベラスケスに進言するが、聞き入れてもらえない。やがてニコラスは、ベラスケスがネルバルと恐ろしい取り引きをするつもりだということに気づく。
 人は誰でも心に弱さを持つと、悪い誘いに耳を貸しそうになる。それは偉大といわれる芸術家でも同じなのだろう。しかし、望みをかなえるためには、自身が努力し信念を持つべきなのだ。ニコラスは目には見えない成長を遂げ、過ちを悔いるベラスケスのために行動を起こす。ニコラスこそ闇を切り裂くひとすじの光、そんな思いが私の心に残った。
 私はいつかまた、「ラス・メニーナス」を見にプラド美術館を訪れたいと思っている。きっと絵に抱く印象が変わっているだろう。もしかしたら、絵の中のニコラスとベラスケスの表情に、希望の光を見出せるかもしれない。

(井原美穂)


【作】エリアセル・カンシーノ(Eliacer Cansino)

1954年スペイン、セビーリャ生まれ。高校で哲学を教えながら文学作品の執筆を始め、1987年に初めて子ども向けの本を刊行した。1992年に "Yo, Robinson Sanchez, habiendo naufragado"(未訳)でエレーナ王女文学賞を受賞。本作では、スペインで最も歴史の長い児童文学賞であるラサリーリョ賞を受賞した。

【訳】宇野和美(うの かずみ)

大阪府出身。出版社勤務を経てスペイン児童文学の翻訳家を志す。1999年から2002年までバルセロナ自治大学大学院へ留学。現在は通信講座でスペインの児童文学翻訳を指導しながら、スペイン語およびカタルーニャ語 の翻訳に携わる。訳書に、『ペドロの作文』(アントニオ・スカルメタ作/アルフォンソ・ルアーノ絵/アリス館)などがある。

【参考】
▼エリアセル・カンシーノの経歴、著作を紹介するページ(スペイン語)
http://www.amigosdelibro.com/autores/cansino.htm

▼絵画「ラス・メニーナス」の解説(プラド美術館公式ウェブサイト内、英語)
http://museoprado.mcu.es/imeni.html

▽宇野和美訳書リスト(やまねこ翻訳クラブ資料室)
http://www.yamaneko.org/bookdb/int/ls/kuno.htm

▽ラサリーリョ賞受賞作品リスト(やまねこ翻訳クラブ資料室)
http://www.yamaneko.org/bookdb/award/es/pl/index.htm
 

【特殊文字】
 「El misterio Velazquez」:「a」の上にアクセント記号(')がつく
 「Editorial Bruno」:「n」の上にティルデ(~)がつく
 「Robinson Sanchez」:"Robinson" の2つ目の「o」の上、"Sanchez" の「a」の上にアクセント記号(')がつく

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●注目の本(未訳読み物)●

―― 想像力とユーモアを心の盾に、苦境を生きた子どもたち ――

『ただ一度』(仮題)
 モーリス・グライツマン作
"Once" by Morris Gleitzman
Penguin Books Australia, 2005 ISBN 0143301950
150pp.
Puffin Books, 2006 ISBN 014132063X (UK)

★2006年度オーストラリア児童図書賞低学年向け部門候補作品
(このレビューは、オーストラリア版を参照して書かれています)

 1942年のポーランド。フェリックスが山の中の孤児院に預けられてから、もう3年8か月が過ぎた。書店を経営する両親の「仕事のトラブルが解決したら迎えに来る」という言葉を固く信じて待っていたが、その日やって来たのはナチスと呼ばれる男たちで、彼らはなんとユダヤの本を全部焼いてしまった。それを見たフェリックスは、父親の書店の本を隠さなければと思い立ち、孤児院を抜け出して以前暮らしていた町へ向かう。途中「ウサギ狩りをしている」ような銃声を聞き、「海水浴にでも行く」ような裸同然の人々が乗ったトラックを見かけ、たどり着いた町ではユダヤ人はすで に都市部へ移動させられていた。一体何がどうなっているのか、状況がのみ込めないまま、フェリックスはさらに両親の行方を追うが、ナチスのユダヤ人に対する残酷な扱いを目撃し、あまりのショックに気を失う。そこをバーニーという親切な男の人に助けられて、他のユダヤ人の子どもたちと地下室に隠れて暮らし始める。
 ホロコーストという悲痛な歴史の1ページが、9歳のユダヤ人の少年の目を通して、率直に語られている作品だ。一人称の現在形で進行するストーリーは、臨場感にあふれていて、ユダヤ人迫害を目の当たりにした子どもの驚き、混乱、自分の運命に対する不安が、ストレートに伝わってくる。読む側は、まるで友だちに直接話を聞かされ ているかのように感じるだろう。衝撃的な場面の描写もあるが、そこには若い読者にも過去の事実を正面から受け止めてほしいという、作者の強い思いが感じられる。
 地下室で暮らす子どもたちは、フェリックスに作り話をせがんで非現実の世界に心のよりどころを求め、フェリックスは、すでにこの世にはいないかもしれない両親に「もう一度会いたい」と願い続けながら、それぞれ辛い日々を乗り越えようとする。その苦境に耐え忍ぶ勇気は、強く、そして深く読者の心を動かすだろう。作品のテーマは重いが、苦しいときこそ笑いを大事にするユダヤ人らしさも、自らその血を受け継ぐ作者は忘れていない。深刻な事態に、子どもらしい素朴な視点を重ねて巧みにユーモアを引き出し、ストーリーの緊迫感を解きほぐしながら、ユダヤ人の悲運に胸を詰まらせる読者の気持ちを救ってくれる。全体に平易な英語で書かれていて、大変読みやすい。ぜひ、原書で読んでみることをお勧めしたい。

(鎌田裕子)


 

【作】Morris Gleitzman(モーリス・グライツマン)

1953年に英国で生まれ、1969年にオーストラリアへ移住する。大学卒業後、10年間シナリオ作家、テレビのコメデ ィ番組の脚本家として活躍。1985年に自分が書いた脚本を本として出版する機会に恵まれ("The Other Fact of Life")、その後、多くの児童文学を執筆する。邦訳に『はいけい女王様、弟を助けてください』(唐沢則幸訳/徳間書店)や『海のむこうのサッカーボール』(伊藤菜摘子訳/ポプラ社)などがある。

【参考】
▼モーリス・グライツマンの公式ウェブサイト
http://www.morrisgleitzman.com/

▼オーストラリア児童図書評議会公式ウェブサイト
http://www.cbc.org.au/

▽オーストラリア児童図書賞受賞作品リスト(やまねこ翻訳クラブ資料室)
http://www.yamaneko.org/bookdb/award/au/cbca/index.htm
 

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●賞速報●

★2006年ニュージーランド・ポスト児童書及びヤングアダルト(YA)小説賞発表
★2006年アンデルセン賞発表
★2005年度アメリカス児童・ヤングアダルト文学賞発表
★2005-2006年ビスト児童図書賞発表
★2006年ガーディアン賞ロングリスト発表(受賞作の発表は9月28日の予定)
★2006年チルドレンズ・ブック賞発表
★2006年ボストングローブ・ホーンブック賞発表

海外児童文学賞の書誌情報を随時掲載しています。「速報(海外児童文学賞)」をご覧ください。

 

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●イベント速報●

★展示会情報

木城えほんの郷「野間国際絵本原画コンクール入賞作品展」
安曇野ちひろ美術館「ファッションで楽しむ世界の絵本」など
 

★セミナー・講演会情報

大阪府立国際児童文学館「東欧の絵本―BIBの現場から―」
日本子どもの本研究会「全国子どもの本と児童文化講座 愛知・伊良湖大会」など
 

★イベント情報

国立国会図書館国際子ども図書館「北欧からのおくりもの 子どもの本のあゆみ」
ジュンク堂書店「金原瑞人プロデュース 金原書店」など
 
 
 詳細やその他の展示会・セミナー・講演会情報は、「速報(イベント情報)」をご覧ください。なお、空席状況については各自ご確認願います。

(笹山裕子/井原美穂)



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●世界のお祭り&やまねこカフェ特別編●
ヴァルプルギスの夜(ドイツ) 4月30日

 魔女伝説に彩られたドイツのハルツ山地。その最高峰であるブロッケン山には、毎年4月30日の夜になると、どこからともなく魔女たちが集うといいます。今回は魔女たちの秘密のお祭り、「ヴァルプルギスの夜」をご紹介します。
 その昔、古代ゲルマンの神々は、冬の悪霊を追い払って春を迎えるために、雪をかきわけブロッケン山の頂に集うと信じられていました。春を待ち望むハルツの人々は、神々に生け贄を捧げて感謝したそうです。ところが、このような生け贄を使った儀式は、キリスト教徒から見ると、異教の祭りどころか悪魔の所業に見えたのです。
 当時ハルツ山地に住んでいたのは、ゲルマン信仰が特に強いザクセン族でした。彼らがカール大帝に弾圧されたことで、ゲルマン信仰の最後の砦は崩壊し、いにしえの神はキリスト教によって魔的な存在に降格され、隠れ信者は魔女とみなされるようになります。しかし、それまで信仰してきた神々が人々の記憶から消えることはなく、「ヴァルプルギスの夜」は、ハルツ地方に魔女の祭りとして残りました。今日世界的に知られるようになったのは、19世紀の初頭に、ゲーテが戯曲『ファウスト』で取り上げたためです。
 この「ヴァルプルギス」という名前の由来は、聖女ヴァルプルガにあるといわれています。5月1日が、ヴァルプルガの列聖の日に当たり、その前夜に行われる祭りのため、関連づけられたという説があります。
「ヴァルプルギスの夜」は、ドイツ児童文学賞(前ドイツ児童図書賞)のノミネート作品にも選ばれた『小さい魔女』(オトフリート・プロイスラー作/大塚勇三訳/学習研究社)で、大々的に取り上げられています。どうやら小さい魔女は、ブロッケン山で繰り広げられる魔女のおどりに、「127歳では小さすぎるから!」という理由で参加させてもらえないようですよ。

*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*

「こん夜はワルプルギスの夜よ。そいつが、しゃくのたねだわ。こん夜はね、ありとあらゆる魔女たちが、ブロッケン山にあつまっておどるのよ。」
「ふ〜ん……それで?」
「それなのに、大きい魔女たちはね、わたしは魔女のおどりにでるには、まだまだ小さすぎるっていうのさ。わたしだって、ブロッケン山にとんでって、いっしょにおどりたいのに、そうさせてくれないのよ!」

*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*

 さて、この祭りは、魔女狩りが頻繁に行われた時代は中断されましたが、19世紀末になって再開され、現代でも引き続き開かれています。そして、この年に1度の魔女の集まりに、今年は、ドイツ在住のやまねこ会員が参加しました。現代版「ヴァルプルギスの夜」の現地リポートをお楽しみください。

  
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〜ヴァルプルギスの夜〜


 ドイツでは年間を通して全国各地でお祭りが行われていますが、なかでも「ヴァルプルギスの夜」は、ドイツを代表するお祭りのひとつです。現在、このお祭りはハルツ地方の数十の町で行われていますが、規模ではシールケとターレが最大。今回見に行くにあたって、どの町で見るか迷った末、結局ターレに決めました。
 さて、お祭り前日の4月29日、夫の運転で一路ハルツへ。行くからにはお祭りの伝説の地ブロッケン山も見たいと思い、山麓の町ヴェルニゲローデに宿を取りました(19世紀末から20世紀初めまでは、実際にお祭りはこの山頂で行われていましたが、山が荒れて中止になったのだそうです)。翌朝、この町が始発の蒸気機関車に乗りこみ、いよいよブロッケン山へ出発です。町をぬって走る列車から外を見ると、民家の玄関先や窓や屋根に魔女が! 等身大の魔女人形があちこちの家に飾られていたのです。魔女探しに興じているうちに、列車は山を登り始め、ハルツの森をぬけ、ついに山頂に着きました。なんて素晴らしい眺めでしょう。ハルツ一帯が360度見渡せます。でも山頂そのものは殺風景で、木もほとんどなく、あるのはテレビ塔や博物館などいくつかの建物だけ。けれどこの荒涼とした感じがかえって「魔女が集まってきた場所」という雰囲気を感じさせます。実は東西ドイツ統一前、ここには旧ソ連の軍事基地があり、民間人は足を踏み入れることができませんでした。山頂には高い壁が張り巡らされていたそうです。ブロッケン山はそんな重い歴史をもつ場所でもあります。

 山を降りたわたしたちは、お祭りの開催地ターレから十数キロ離れた2泊目の宿へと向かいました。近くの宿はどこも一杯で予約が取れなかったのです。宿で荷物をおろし、フロントで現地までの行き方を尋ねたところ、車は駐車できない恐れがあるとのことで、電車で行くしかないようです。
 さて、ターレで電車を降りると、駅構内も駅前も仮装した人たちであふれていて、もうびっくり。まずは観光案内所へ行き、「入場券+臨時バス往復」のチケットを買いました。乗ったバスはあっという間に魔女と悪魔で一杯になり、山の上の会場ヘクセンタンツプラッツ(「魔女の踊り場」の意)へと出発しました。バスは森の中をぐんぐん登り、雑木林の中で停車。えっ、こんな所で本当にお祭りが? と思いながらも、みんなの行く方向に歩いていくと、音楽が聞こえてきました。会場入り口で手に入場証明のスタンプを押してもらい、そこを抜けると突然視界が開けました。すごい人出です。顔を緑や赤に塗り、黒いマントやとんがり帽子を身にまとい、ほうきや三叉を手にした、大人や子どもがたくさん。なんでもターレには3万人もが集まるのだとか。会場で売っている鉤鼻や角で即席の仮装を楽しんでいる人もいますが、中には本物じゃないかと疑りたくなるほど気合の入っている人もいて、カメラを向けると「ヒーッ、ヒッヒッヒッ」と魔女笑いをしながらポーズをとってくれました。広場の前方と後方ではバンド演奏が行われていて、屋台がぎっしり並んでいます。焼きソーセージに、ワッフル、綿菓子、ビール、グリューワイン(香辛料入りのホットワイン) などなど。広場の左手奥には「魔女のリング」と呼ばれる、常設の巨石の輪があり、石にはブロンズの悪魔にしもべらしき動物、それに魔女が据えられています。輪の中ではすでに火が焚かれ、火を取り囲むように人垣ができていました。近くで賑やかな音楽が聞こえ、振り向くとカラフルな衣装を着た人たちが踊りながらパレードをしています。その様子をのんびり見ながら焼きソーセージを食べていると、向こうから巨大なドラゴンがやって来ました。そして何を思ったのか、首を大きく一振りすると、なんとわたしのソーセージにかぶりつこうとするではありませんか! 逃げ回るわた しをみんながゲラゲラ笑って見ています。そのあとドラゴンはテレビ局のカメラマン?の前でしっかりポーズをとっていました。にっくき相手ながら、正直、仮装大賞ものでした。9時を過ぎたころ、ようやく辺りが暗くなってきました。夕焼けが本当にきれいです。わたしたちは記念に魔女人形を買おうと、屋台や土産物店を見て歩きました。ほとんどの魔女がつぎはぎの服にスカーフという格好で、一般的にイメージされる全身黒ずくめの魔女とは少し様子が違います。でも鉤鼻で強面の顔はやはり魔女。結局、あちこち探して見つけた、いくらか優しげな顔の人形を買うことにしました。
 日が落ちたころから、だんだん焚き火が勢いを増してきました。真夜中のクライマックスまであと少しです。ところが――悲しいかな、わたしたちはここで時間切れ。最後までいると終電に間に合わないため、引き上げることに……。帰る途中、フィナーレを見にやって来る大勢の人たちとすれ違いました(ちなみに昨年のフィナーレは、魔女と悪魔のパフォーマンスのあと、騎士とドラゴンが戦い、ドラゴンの噴いた火で松明に火が点き、同時に花火が上がってお開きだったようです)。「次に来るときは、絶対に開催地で宿を取って、フィナーレまで見るぞ!」と誓ったわたしたちでした。

(村上利佳&蒲池由佳/笹山裕子)

★参考文献・ウェブサイト
『グリム童話』の魔女たち 西村佑子著 洋泉社
魔女街道へようこそ「ヴァルプルギスの夜伝説」
http://www.geocities.co.jp/SilkRoad-Desert/2213/sage.html#warupu

★現地リポート フォト・ページ
「ブロッケン山とヴァルプルギスの夜」
http://www.yamaneko.org/mgzn/dtp/2006/06_majo.htm

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●読者の広場●海外児童文学や翻訳にまつわるお話をどうぞ!

このコーナーでは、海外児童書にまつわるお話、ご質問、ご意見等を募集しています。mgzn@yamaneko.org までお気軽にお寄せください。
  • メールはなるべく400字以内で、ペンネームをつけてお送りください。
  • タイトルには必ず「読者の広場」とお入れください。
  • 掲載時には、趣旨を変えない範囲で文章を改変させていただく場合があります。
  • 回答も読者のみなさまから募集し、こちらに掲載させていただきます。編集部からメールでの回答はいたしませんので、ご了承ください。


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「FOSSILは化石って意味でしょ?レトロ調の時計なの?」。いえいえ、これは創業者の父親がFOSSIL(石頭、がんこ者)というあだ名だったことから誕生したブランド名。オーソドックスからユニークまで様々なテイストの時計がいずれもお手頃価格で揃います。レトロといえば、時計のパッケージにブリキの缶をお付けすることでしょうか。数十種類の絵柄からお好きなものをその場で選んでいただけます。選ぶ楽しさも2倍のフォッシルです。

TEL 03-5981-5620

http://www.fossil.co.jp/

(株)フォッシルジャパン:やまねこ賞協賛会社


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◆次号予告は毎月10日頃、やまねこ翻訳クラブHPメニューページに掲載します。◆

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●編集後記●

80号の区切りとしてやまねこの魅力をお伝えする記事を掲載しました。やまねことともに歩んで丸8年。月日の経つのは早いものです。(す)

発 行: やまねこ翻訳クラブ
発行人: 笹山裕子(やまねこ翻訳クラブ 会長)
編集人: 横山和江/大原慈省/竹内みどり(やまねこ翻訳クラブ スタッフ)
企 画: 赤間美和子 井原美穂 蒲池由佳 鎌田裕子 笹山裕子 林さかな 冬木恵子 村上利佳
協 力: 出版翻訳ネットワーク 管理人 小野仙内
Chicoco ながさわくにお ハイタカ
html版担当 蒼子

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