メニュー「月刊児童文学翻訳」バックナンバー>2007年12月号   オンライン書店
※1月は定期休刊です。次回は2008年2月号になります。どうぞお楽しみに!

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2007年12月号
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  =====★   月 刊  児 童 文 学 翻 訳   ★=====
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         Yamaneko Honyaku Club 10th Anniversary
                                 No.96
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児童文学翻訳学習者による、児童文学翻訳学習者のための、電子メール版情報誌
http://www.yamaneko.org                         
編集部:mgzn@yamaneko.org     2007年12月15日発行 配信数 2470 無料
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●2007年12月号もくじ●
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◎特集:第10回やまねこ賞――会員が選んだ、今年の児童書ベスト5は?
◎注目の本(未訳読み物):"Story of a Girl" サラ・ザール作
◎注目の本(未訳読み物):"Finding Violet Park" ジェニー・ヴァレンタイン作
◎世界の本棚(フィンランド語):"Taikuri Into Kiemura"
                 ユッカ・イトコネン文/クリステル・ロンス絵
◎賞速報
◎イベント速報
◎お菓子の旅:第41回 オーストリアの歴史が生んだクッキー 〜キプフェール〜
◎読者の広場:ドイツから届いたメッセージをご紹介します。

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☆☆ FOSSIL 〜 Made in USA のカジュアルウオッチ ☆☆
「FOSSIL は化石って意味でしょ?レトロ調の時計なの?」。これは創業者の父親が
FOSSIL(石頭、がんこ者)というあだ名だったことから誕生したブランド名。オーソ
ドックスからユニークまで様々なテイストの時計がいずれもお手頃価格で揃います。
2005年より新しいスローガン "What Vintage are you?" を掲げ、更にパワーアップ
した商品ラインナップ、様々なキャンペーンを展開しています。Vintage を表現する
重要なひとつのツールとして、FOSSIL の時計はすべて TIN CAN(ブリキの缶)にパ
ッケージされています。年間200種類以上の新しい TIN CAN が発表されており、時計
のデザイン同様に、常に世界中のコレクターから注目を集めています。
TEL 03-5981-5620
http://www.fossil.co.jp/      (株)フォッシルジャパン:やまねこ賞協賛会社

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●特集●第10回やまねこ賞            協賛:(株)フォッシルジャパン
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 やまねこ翻訳クラブ発足の翌年に第1回が開催されたやまねこ賞も、今年で第10回
を迎え、さる11月1日から15日の間、当クラブ特設掲示板にて投票が行われました。
やまねこ賞は、前年10月から本年9月までに出版された邦訳児童書、および、過去に
国内外で出版された児童書を対象に会員がベスト5を選び、大賞作品を決定します。
節目となる今回は、従来の〈未訳部門〉を、未訳・既訳を問わない〈原書部門〉に変
更、また新たな試みとして e-mail での投票も受け付けるなど、より多くの会員が参
加しやすい方法へと改められました。なお、大賞に輝いた邦訳作品の翻訳者には、賞
状と副賞が贈られます。今年も株式会社フォッシルジャパンより、副賞の時計をご提
供いただきました。

副賞の時計の写真1      副賞の時計の写真2

「読み物」「絵本」の分類については、原則として各出版社、書店などの種別を参考 に、当クラブの判断で決定しています。  記事中に記載した、本誌の過去のレビューについては、やまねこ翻訳クラブサイト に掲載のバックナンバーをご参照ください。 http://www.yamaneko.org/mgzn/  すべての投票と感想はこちらでご覧いただけます。 http://www.yamaneko.org/yn_award/index.htm  やまねこ翻訳クラブは、会員・非会員を問わず、海外児童書を主とした本の話題が 書き込める「読書室掲示板」を運営しております。 http://www.yamaneko.org/dokusho/index.htm      ★☆★☆【2007年 第10回やまねこ賞 読み物部門】☆★☆★ ★大賞 『アル・カポネによろしく』ジェニファ・チョールデンコウ作                         こだまともこ訳 あすなろ書房
Amazonで詳細を見る  bk1で詳細を見る  Amazonで原書の詳細を見る  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  アメリカ禁酒法の時代、島ひとつがまるまる刑務所というアルカトラズ島に、父の 仕事の都合で引っ越してきたムース少年。彼の姉ナタリーは、「自閉症」と思われる 障害を抱えていた。生活のすべてがナタリーを中心に回らざるをえない状況のなか、 家族は互いに愛しあいながらも、心が微妙に食い違う。家族が家族であることの難し さとすばらしさを描いた作品。 (本誌2005年2月号「注目の本」のレビューをご参照ください) ◎主人公、父、母、家族それぞれのつらい気持ちがよくわかる。でも、重苦しさを吹 きとばす子どもたちのパワーが素敵。(ちゃぴ) ◎ムースの友達パイパーには時々イラっとしたけど、ムースの心の動き、母の気持ち 父の気持ちに涙があふれました。そしてラストがよかった。(ゆずみ) ◎思いだしただけでも泣けてきます……。(りり) ◎ぶっきらぼうだけど心のあたたかいムース少年がとにかくいい。おかしくてじんと くる作品。(MOMO) ☆~~~~~~~~~【受賞のことば】 翻訳家 こだまともこさん ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~☆ |                                    | | ありがとうございます。優れた読み手のみなさまに認めていただき、光栄に存| |じます。『アル・カポネによろしく』(Al Capone Does My Shirt)は、アメリ | |カに滞在中、出たばかりの原書を単純にタイトルにひかれて発作的に買ったも | |の。じつは、祖父母が禁酒法時代のサンフランシスコでレストランを経営してお| |りましたので、子どものころのわたしは引退して暇になったおじいちゃん、おば| |あちゃんに「スロットマシーン」とか「シカゴのギャング」とか、当時の話をど| |っさり聞かされて育ちました。ですから、「アル・カポネ」というと、なにか遠| |い親戚の小父さんのような気がしてしまって……。というわけで、いまは亡きお| |じいちゃん、おばあちゃんにも、ここで「ありがとう!」と言わせてください。| ☆                                    ☆  ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~  なお、今回、受賞作品『アル・カポネによろしく』の原作者ジェニファ・チョール デンコウさんからも、コメントをいただくことができました。あわせてご紹介いたし ます。 ☆~~~~~~~~~【原作者のことば】 ジェニファ・チョールデンコウさん ~~~~~~~~~☆ |                                    | | It's always exciting when my characters travel to parts of the world, | |where I have never been. I was thrilled when I heard there would be a  | |Japanese translation of "Al Capone Does My Shirts" and it is a great  | |honor to have that translation recognized by the Yamaneko Honyaku Club. | |Though honestly, I think all the kudos for this particular award go to | |Ms. Kodama for her artful translation.                 | |                                    | |(わたしがまだ訪れたことのない世界中の国々を、わたしの本の主人公たちが旅| |していると知ると、いつもとても胸躍る思いがします。今回、"Al Capone Does | |My Shirts" が日本語に訳され、しかも、やまねこ翻訳クラブのみなさんにすば | |らしい作品だと認めていただけたことを伺い、非常に嬉しく思っております。も| |ちろん、この栄誉は、こだまさんのすばらしい翻訳があってのことでしょう。)| ☆                                    ☆  ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ ◆2位 『サフィーの天使』『インディゴの星』ヒラリー・マッカイ作 冨永星訳                                   小峰書店
『サフィーの天使』 Amazonで詳細を見る  bk1で詳細を見る  Amazonで原書の詳細を見る 『インディゴの星』 Amazonで詳細を見る  bk1で詳細を見る  Amazonで原書の詳細を見る  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  にぎやかで笑いあふれるカッソン家。でも、4人きょうだいのうち、実は2番目の サフィーだけ養女だった。『サフィーの天使』では、その事実を知ったサフィーが、 祖父の遺言をきっかけに、ある思い切った行動を取る様子を描く。『インディゴの星』 は、長男インディゴと、末っ子のローズをめぐって物語が展開する。4人の個性的な 子どもたちと、芸術家の両親が繰り広げるユーモアたっぷりのシリーズ物語。 (本誌2003年1月号号外「注目の本」のレビューをご参照ください) ◎一風変わった家族ですが、でてくるみんながいきいきしていて、いいなあと思えま す。(shoko) ◎飾らずありのままに描かれている人物たちが、とてもいとおしい。(ワラビ) ◎カッソン家、すごいです。続きが気になって原書を読んだけど、邦訳でも読みたい なあ。(SUGO) ◎どたばたとしんみりのバランスが絶妙。(anya) ◎ばらばらなようでいて、お互いを深く理解しているカッソン家の兄弟たちからは、 目が離せません。(ケンタ) ◆3位 『ビッグTと呼んでくれ』K・L・ゴーイング作 浅尾敦則訳 徳間書店 Amazonで詳細を見る  bk1で詳細を見る  Amazonで原書の詳細を見る  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  体はビッグ、でも自分にまったく自信の持てないトロイは、ある日、ニューヨーク の地下鉄のホームで、伝説的なパンクギタリストのカートと出会う。みんなの憧れの 存在でありながら、義父からの虐待を受け、実は心も身体も傷ついていたカート。そ んなカートとの運命的な出会いがトロイにもたらしたものは、音楽と友情、そして、 新たな自信だった。 (本誌2004年3月号「注目の本」のレビューをご参照ください) ◎みなぎる汗に圧倒されました。(SUGO) ◎徐々に変わっていく主人公の姿がとてもリアル。かっこいい!(ワラビ) ◎のっけから熱いパワーに圧倒されっぱなしでした。(くらら) ◆4位 『魂食らい』(クロニクル千古の闇3)ミシェル・ペイヴァー作                            さくまゆみこ訳 評論社
Amazonで詳細を見る  bk1で詳細を見る  Amazonで原書の詳細を見る  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  6千年前の原始世界を舞台にした「クロニクル千古の闇」シリーズの第3巻。悪の 魔道師〈魂食らい〉によって連れ去られた大切な弟分、オオカミのウルフを奪還する ために、トラクとレンは、北の果てへと冒険の旅に出る。極寒の大地での戦いの結末 やいかに。 ◎自分の宿命にしたがって、恐れながらも進んでいく主人公たちがいい。早く続刊が 読みたい。(ちゃぴ) ◎巻が進むにつれて、読み応えが増していく。(ワラビ) ◎1巻からずっと張りつめた感じが途切れないのがすごい。(ハイタカ) ◎去年も投票したような……年に1巻のペースはつらい。続きが気になる!(SUGO) ◆5位 『サクランボたちの幸せの丘』アストリッド・リンドグレーン作                            石井登志子訳 徳間書店
Amazonで詳細を見る  bk1で詳細を見る  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  陸軍少佐だった父親が退役したのを機に、田舎で農場を営むことになった家族の物 語。豊かな自然、労働することのすばらしさ、家族で協力するうちに生まれてくる連 帯感など、人間にとって大切なことがたくさん描かれている。もちろん、10代の少女 に欠かせない恋の悩みも。数多くの名作を世に送り出したリンドグレーンの第2作だ が、日本で紹介されるのは今回が初めてだ。 ◎大きい人のことを書いても、小さい人のことを書いても、リンドグレーンはリンド グレーンなんだな。(NON) ◎リンドグレーンのその後の作品と重なるところもあって、なつかしい気持ちにもな った。(anya) ◆6位以下の作品:6位『サンタの最後のおくりもの』、7位『ピーター・パン イ ン スカーレット』、8位『歩く』『時間のない国で』『涙のタトゥー』(3作同点)      ★☆★☆【2007年 第10回やまねこ賞 絵本部門】☆★☆★ ★大賞 『ウェン王子とトラ』チェン・ジャンホン文・絵 平岡敦訳 徳間書店
Amazonで詳細を見る  bk1で詳細を見る  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  猟師に子どもを殺された母トラは、人間を憎み、村を襲うようになる。トラ狩りの 成否を問う国王に占い師は、トラの怒りを鎮めるには王子をさしだすしかない、と助 言する。父王に森に連れていかれた幼い王子は、こわがらずにひとりで森の奥深くへ 入っていく。母性を宿すトラと、恐れを知らぬ無邪気な王子のあいだに通う情愛を、 感動的に描く。 (本誌2007年9月号「注目の本」のレビューをご参照ください) ◎迫力のある大型絵本。絵も文章もすばらしい。(ワラビ) ◎とても迫力がある絵本です。いろんな登場人物の気持ちがよく伝わってきました。 (shoko) ◎絵もさることながら、ラストに驚き、胸をうたれました。(つー) ◎予想をいい意味で裏切るラストがよかったです。最近の児童書ではあまり見かけら れないような水墨絵のイラストも、物語を盛り上げてくれました。(ゆま) ☆~~~~~~~~~~【受賞のことば】 翻訳家 平岡敦さん ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~☆ |                                    | | やまねこ賞、今年でもう第10回なんですね。ふり返れば過去9回、錚錚たる作| |品、翻訳者が大賞に名を連ねているではありませんか! その仲間に加わること| |のできた喜びを、あらためてかみしめています。不惑の歳をとうに越えながら、| |翻訳者としてまだまだ迷いの多い日々ですが、おかげさまですばらしい作品、優| |秀な編集者、読者の温かい支持に恵まれました。この受賞を励みに、これからも| |がんばっていきます。投票してくださった皆さん、ありがとうございました。 | ☆                                    ☆  ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ ★2位(2作同点) 『漂流物』デイヴィッド・ウィーズナー作 BL出版
Amazonで詳細を見る  bk1で詳細を見る  Amazonで原書の詳細を見る  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  砂浜に流れついていた古いカメラを、少年が拾う。なかにあったフィルムを現像し てみると……。深くて広い未知の海の世界。カメラに秘められている物語。文字のな い絵本から、想像の翼は自由に大きくはばたく。2007年コールデコット賞受賞作品。 (本誌2007年2月号「注目の本」のレビューをご参照ください) ◎時と場所をも超えたウィーズナーの世界を堪能できる作品。(SUGO) ◎さすがの空想力! 海ガメの背の町に行ってみたい。ヒトデの島はいいや、落ちそ うだから。(カコ) ◎アイデアの勝利。(つー) ★2位(2作同点) 『としょかんライオン』      ミシェル・ヌードセン文 ケビン・ホークス絵 福本友美子訳 岩崎書店
Amazonで詳細を見る  bk1で詳細を見る  Amazonで原書の詳細を見る  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  ある日、突然、図書館にライオンがやってきた。図書館員のマクビーさんは慌てる が、館長のメリウェザーさんは、きまりを守ればかまわないという。それから、ライ オンは毎日やってきて、子どもたちとおはなしを聞き、図書館の仕事をお手伝いし、 人気者になる。素直な子どものようなライオンと公正な館長さん、ライオンを快く思 わない図書館員、そしてライオンが大好きな子どもたちの心温まるドラマ。 ◎読みおえたとき、とても満ち足りて幸せな気持ちになりました。(ハイタカ) ◎ほのぼのとして、心温まる1冊。(anya) ◎館長のメリウェザーさんがいい。こんな図書館、近所にあったらなあ。(からくっ こ) ◎そういえば、ニューヨークの公共図書館の前には、ライオンがいるんですよね。ほ んとうにこんなライオンが来たら、と想像してしまいます。(くらら) ◆4位 『母からの伝言―刺しゅう画に込めた思い―』       エスター・ニセンタール・クリニッツ作 バニース・スタインハート作                          片岡しのぶ訳 光村教育図書
Amazonで詳細を見る  bk1で詳細を見る  Amazonで原書の詳細を見る  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  ポーランドのユダヤ人村で生まれたエスターは、妹とふたりきりでホロコーストを 生きぬいた。戦後アメリカにわたった彼女は、50歳になってから、少女時代の体験を 刺しゅう画で表しはじめた。彼女の死後、遺された刺しゅう画に、娘が説明を加えて 美しい絵本として出版した。母から娘へ、娘から次世代の子どもたちへ、引き継いで いきたい歴史の記録。 (本誌2007年4月号「注目の本」のレビューをご参照ください) ◎ホロコーストを美しい刺しゅうでつづることで、わたしたちに残されたものの重み を感じた。(蒼子) ◎重たい内容だけど、美しい刺しゅう画に目がくぎ付けになりました。(ゆま) ◎刺しゅうの美しさと、メッセージの重さが胸に響きました。(おとむとむ) ◆5位 『シャンプーなんて、だいきらい』   アンバー・スチュアート文 ローラ・ランキン絵 おおつかのりこ訳 徳間書店
Amazonで詳細を見る  bk1で詳細を見る  Amazonで原書の詳細を見る  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  ウサギの男の子ポップは、耳をシャンプーするのが大きらい。耳をかくしたり、手 でおさえたり、いろいろなことをして、ママに洗わせないようにする。ある日、いと このボンボンにいちゃんがおとまりにやってきた。ボンボンにいちゃんといっしょに お風呂にはいると――。無邪気な子どもの姿を、表情豊かに生き生きと映しだす。 ◎主人公のポップの表情に笑わせてもらいました。「横目でちらり」と「新発見びっ くり」の顔がとくに好きです。かわいい! 子どもと楽しんだ絵本。(Chicoco) ◎なんども繰り返し読んで楽しみました。ポップがほんとにかわいい!(MOMO) ◎やっぱり、あの顔でしょう。成長していく子どもの姿が愛らしい。(おとむとむ) ◆6位以下の作品:6位『リスとお月さま』『オークとなかまたち』(2作同点)、 8位『ゆうびんやさんおねがいね』、9位『365まいにちペンギン』、10位『いぬの おやくそく』      ★☆★☆【2007年 第10回やまねこ賞 原書部門】☆★☆★  邦訳の有無にかかわらず、この1年に読んだ原書から気に入ったものを挙げてもら おうと、今年から「未訳部門」が「原書部門」に変更になった。絵本16作品、読み物 33作品の計49作品が挙がり、思い入れのあるコメントも多数寄せられて、やまねこ会 員の充実した読書ぶりがうかがわれた。中でも複数の会員が投票した人気の作品は以 下の通り。 "The Arrival" by Shaun Tan(2006年、オーストラリア)Amazonで詳細を見る "Little Mouse's Big Book of Fears" by Emily Gravett(2007年、イギリス)                           Amazonで詳細を見る "Girl, Missing" by Sophie McKenzie(2006年、イギリス)Amazonで詳細を見る "A' Casson Family Story' series by Hilary Mckay(イギリス)  "Permanent Rose"(2005年)Amazonで詳細を見る  "Caddy Ever After"(2006年)Amazonで詳細を見る  "Forever Rose"(2007年)Amazonで詳細を見る  2007年オーストラリア児童図書賞絵本部門を受賞した "The Arrival" は、移民を テーマにした絵本。故郷に家族を残し、見知らぬ土地での再出発を目指して異郷へ渡 った人々が感じた違和感や戸惑いを、絵だけで表現した作品だ。「今年の原書マイベ ストです。すばらしいのひと言!」(さかな)、「作者のあふれる才能に目と心で感 動しました」(はるはな)、「とにかく絵が素晴らしい。力作です」(つー)などの 感想があった。(本誌2007年10月号「注目の本」のレビュー参照)  絵本では昨年 "Wolves" で未訳部門大賞に輝いたエミリー・グラヴェットの人気も 健在だった。"Little Mouse's Big Book of Fears" は、暗闇から迷子になることま で、小さなネズミにとって(おそらく小さな子どもにとっても)怖いものが、楽しい 仕掛けとともに次々に登場する作品。寄せられたコメントには、「今回の絵本は仕掛 けいっぱいで、子どもも大喜びです」(shoko)、「ネズミの世の中もいろいろコワ イことがあるものだ」(さかな)など、グラヴェット・ワールドを満喫した様子が見 てとれる。  一方読み物では、チルドレンズ・ブック賞の高学年向け部門を受賞した "Girl, Missing" が挙げられた。自分は誘拐されて今の両親の子どもになったのではないか と疑い始めた少女が、真実を探るためにアメリカへ渡る物語には、「実の親探しの物 語は数多いが、これは現代的というか、ちょっと目先の変わったパターンで面白かっ た」(anya)という感想があった。  また、読み物部門で人気のあったヒラリー・マッカイの「カッソン家」のシリーズ は、原書部門でも第3作の "Permanent Rose"、第4作の "Caddy Ever After"、第5 作の "Forever Rose" が挙がった。次第に明らかになる家族の秘密に、ますます目が 離せなくなったファンも多く、「すごい展開ですよ〜カッソン家ファンの方は必読」 (SUGO)、「カッソン家のみんなには、最後の最後まで驚かされ、笑わされ、しんみ りさせられた。これでお別れ(?)と思うと、とてもさびしい」(anya)などのコメ ントが寄せられた。  そのほかに挙げられた作品も、受賞作や話題作に限らず、非常にバラエティに富ん でいて、会員たちの読書量だけでなく、常にアンテナを広げて情報を集め、興味深い 作品を見つけ出そうとする努力と熱意が感じられた。来る年には、どんな作品が読書 室掲示板を賑わせてくれるのか、ますます楽しみになってきた。      ★☆★☆【番外編 第10回やまねこ賞 オールタイム部門】☆★☆★  出版年を問わず、過去1年間にやまねこ翻訳クラブ会員が読んだ邦訳児童書を対象 としているオールタイム部門。本年度より、順位による得点制を、投票者数による得 票制に変更した。対象が古典から昨年度出版された作品まで多岐にわたるため、票が 割れて、何人投票するかよりも何位に投票するかのほうが結果に大きく影響するのを 解消するための変更であった。その結果、2人が投票した4作品が抜き出た形となっ たので以下に紹介する。会員からは、順位をつけなくていいので投票しやすかったと の感想が聞かれた。 『ドラゴンキーパー 最後の宮廷龍』   キャロル・ウィルキンソン作 もきかずこ訳 金の星社 2006 Amazonで詳細を見る  bk1で詳細を見る  Amazonで原書の詳細を見る   (本誌2004年11月号「注目の本」のレビューをご参照ください) 『ベラスケスの十字の謎』   エリアセル・カンシーノ作 宇野和美訳 徳間書店 2006 Amazonで詳細を見る  bk1で詳細を見る  Amazonで原書の詳細を見る   (本誌2006年6月号「注目の本」のレビューをご参照ください) 『キーパー』   マル・ピート作 池央耿訳 評論社 2006 Amazonで詳細を見る  bk1で詳細を見る  Amazonで原書の詳細を見る 『ビースト』   アリー・ケネン作 羽地和世訳 早川書房 2006 Amazonで詳細を見る  bk1で詳細を見る  Amazonで原書の詳細を見る   (本誌2007年7月号「注目の本」のレビューをご参照ください) 『ドラゴンキーパー』は、古代中国を舞台に、龍守りに仕える少女と龍とが織り成す 冒険ファンタジー。「龍と少女の交流がすばらしかった」(蒼子)、「古代中国を舞 台にした作品を、オーストラリア人がここまで完璧に描いていることにびっくりした」 (ぐりぐら)という感想からも、物語世界の完成度の高さがうかがえる。2004年オー ストラリア児童図書賞低学年向け部門の受賞作品である。  一方、17世紀のスペイン宮廷を舞台にしているのが『ベラスケスの十字の謎』。宮 廷画家のベラスケスが描いた名画「ラス・メニーナス(侍女たち)」制作にまつわる 謎解きに、スペインの作者カンシーノが挑んでフィクションにしあげた。「実話だと 信じてしまいそうなくらい真にせまっていた」(ぐりぐら)と、作者の手腕が十分に 発揮されているようで、1997年のラサリーリョ賞を受賞し、スペインでも評価が高い。  そして、南米のジャングルの伐採地で育ちワールドカップでゴールキーパーとして 活躍した主人公がインタビューに応えてこれまでを振り返る、という設定で物語が進 んでいくのが『キーパー』だ。ジャングルで主人公を指導する〈キーパー〉は超自然 的な存在で、「サッカー、ゴーストストーリーというカテゴリーを超えて期待以上の 感動をもたらしてくれ、本当に久しぶりに文字通り《胸が震える》読書体験ができま した」(くるり)と、熱い感想が寄せられている。作者マル・ピートのYAデビュー 作で、2004年のブランフォード・ボウズ賞に輝いている。  最後に紹介する『ビースト』は、前3作とうって変わって現代のイギリスが舞台で ある。里親の元で暮らすスティーヴンには誰にも話せない悩みがあった。ビーストだ。 「悲惨な境遇にもめげず、けなげに前に進もうとするスティーヴンの姿に心をうたれ た」(蒼子、shoko)と、リアルに描かれた主人公にひきつけられた読者が多いよう だ。2006年度カーネギー賞ショートリスト作品で、やまねこ読書室掲示板でも話題と なった。  4作品を眺めてみると、いずれも昨年度のやまねこ賞の対象だった作品であり、去 年読まれていたら読み物部門に投票されていたであろうというものばかり。それぞれ が個性豊かで読み応えのある児童文学賞受賞作品ばかりなので、未読の方は是非手に 取って読んでほしい。決して後悔することはないだろう。  また、これらの他にオールタイム部門に投票された作品の中には、以前に出版され た作品が復刊や新装版として新たに出版されたものも目についた。 【参考】 ▽やまねこ賞受賞作品リスト(やまねこ翻訳クラブ資料室) http://www.yamaneko.org/bookdb/award/yn/index.htm                 (村上利佳/寺岡由紀/笹山裕子/植村わらび)

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●注目の本(未訳読み物)●消すことのできない過去をのりこえて
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『ある少女の物語』(仮題) サラ・ザール作
"Story of a Girl" by Sara Zarr
Little, Brown and Company, 2007 ISBN 978-0316014533
192pp.
Amazonで詳細を見る
★2007年全米図書賞児童書部門最終候補作品

 ディーナは13歳のときに、セックスしている現場を父に見つかった。逆上した相手
の少年がふれまわったため、中学がひとつしかない小さな町に噂は瞬く間に広まった。
一度貼られたレッテルは消えず、3年たっても、だれもがディーナを軽い女という目
で見る。当時失業中で荒れていた父は、娘の素行にショックを受けて心を閉ざした。
たいていはディーナを無視し、口を開けばなじる。さびしさから逃れるようにしてし
まった行為から、ディーナは学校でも家でもさらに孤独を味わうことになる。
 それでもディーナは、兄や幼なじみの少年と親友に支えられて、自暴自棄になるこ
となく、淡々と暮らしてきた。だが、兄が恋人を妊娠させて親子3人で実家に居候す
るようになり、幼なじみと親友がつきあうようになると、ひとり取り残されたような
思いにとらわれはじめる。家を、小さな町を出て、父や周囲の目を逃れれば、楽に生
きられるのではないか。その一念でアルバイトをはじめるが、いくつかの出来事を経
てつらい現実に気づく。場所を変えても、自分が自分であるという本質は変わらない。
ずっと抱えてきたさびしさも、居場所がないという思いも変わりはしないのだ、と。
 あのときのことがなければ……そんな過去への後悔は、だれの人生にもひとつやふ
たつはあるだろう。ディーナの悲劇は、13歳のときに貼られたレッテルから逃れられ
なくなったことだった。その後はまじめに生きてきたのに、だれも今の姿を見てはく
れない。やりきれない日々を、ディーナがつづる形で物語は進む。ディーナの目を通
して、周囲の閉塞感漂う現実も描きだされる。心を閉ざした父、予期せぬ妊娠で人生
設計が狂った兄夫婦、閉鎖的な町から出ることのない人々――やるせなくて、ため息
しか出ない場面がつづく。だが、透明感のある語り口のためか、さわやかな印象だ。
 ディーナは苦しんだ挙げ句、ただ切り捨てようとしてきた過去と向き合う。その過
程で、出口は自分で見つけなければならないけれど、けっしてひとりで生きているの
ではないことにも気づく。過去を消し去ることはできない。けれど、過去からつなが
る現実を受けとめて、今の自分を認めてやれば、胸を張ってこれからを生きていくこ
とはできる。そんな作者のメッセージが伝わってきて、胸が熱くなった。

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【作】Sara Zarr(サラ・ザール):サンフランシスコ生まれ、サンフランシスコ州
立大学でスピーチ・コミュニケーションを学ぶ。現在は夫とともにユタ州ソルトレイ
ク・シティに住む。小説を書きはじめて10年、デビュー作となった本作が全米図書賞
候補となる。2008年2月には2作目 "Sweethearts" の刊行が予定されている。

【参考】
▼サラ・ザール公式ウェブサイト
http://www.sarazarr.com.

▼サラ・ザールへのインタビュー(National Book Foundation 内)
http://www.nationalbook.org/nba2007_ypl_zarr_interv.html

                                (児玉敦子)

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●注目の本(未訳読み物)●骨つぼがとりもつ、少年から大人への脱皮
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『ヴァイオレットが教えてくれたこと』(仮題) ジェニー・ヴァレンタイン作
"Finding Violet Park" by Jenny Valentine
HarperCollins, 2007 ISBN 978-0007229628
208pp.
Amazonで詳細を見る
★2007年ガーディアン賞受賞作品

 ひょんなことから、ルーカスはタクシーの営業所でヴァイオレットという老婦人に
めぐり会った。ただし彼女は、生きている人間ではなく骨つぼの中の遺骨。5年前に
タクシーの後部座席に忘れられ、営業所の棚の上でずっと保管されていたのだ。骨つ
ぼのことが忘れられなくなったルーカスは、高齢者の暮らしぶりについてあれこれ考
えるうちに、まるでヴァイオレットが何かを語りかけてくるかのように感じる。そし
て、タバコの煙のうずまく営業所から骨つぼを救い出すことに首尾よく成功した。そ
れでもまだ、ヴァイオレットはこの世に思いを残しているような気がして、ルーカス
は彼女がどんな人物だったのかをさぐりはじめるのだった。
 もうすぐ16歳の主人公ルーカスはユニークな性格で、骨つぼに目を留めるような独
特の感性を持っている。「独り言が多いが、周りからどう見られていようと気にしな
い」というのは、数少ない友人のルーカス評である。そんなルーカスの視点から、登
場人物たちが皮肉やユーモアいっぱいに語られていく。テンポが良くわかりやすい語
り口には、誰もがひきつけられるだろう。祖父母やヴァイオレットなど高齢の人たち
や年の離れた弟に対するあたたかさ、癌で余命わずかな母親を持つ友人へのひたむき
さも印象的で、軽いタッチながらも芯の通った作品に仕上がっている。
 ヴァイオレットのことが徐々に明らかになっていく過程はミステリー風でわくわく
するが、それは同時に5年前から行方知れずになっているルーカスの父親へとつなが
っていく。「家族を捨てて出て行った」と言う母に不満を持ち、勝手に父親像を作り
あげて崇拝していたルーカスだったが、その像はやがて崩れてしまう。父は人気者で
はあったが女たらしだったこと、自分のことをどんな子だと思っていたのかを知る場
面では、読んでいて心が痛んだが、そういった現実に直面することこそがルーカスに
とっては必要だったのだ。本作品には、少年が悩んだり葛藤したりしながら、自分自
身や親を再認識して大人へと脱皮していく姿がきちんと描きだされている。
 どう終わらせるのかぎりぎりまで決まっていなかったという最終章で、読者はあっ
と驚かされる。そこから、ルーカスの新しい一歩が始まるのだ。

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【作】Jenny Valentine(ジェニー・ヴァレンタイン):ロンドン大学ゴールドスミ
ス・カレッジで英文学を学んだ。ロンドン、プリムローズヒルの無添加食品店で15年
間働き、最近ウェールズの無添加食品店のオーナーになったばかり。フルタイムで執
筆業をする予定はまだない。デビュー作となる本作は2007年ガーディアン賞に選ばれ、
2作目の "Broken Soup" が2008年1月に刊行予定。37歳。

【参考】
▼ガーディアン紙ウェブサイト上のレビュー
http://books.guardian.co.uk/review/story/0,,2184481,00.html

▼Hereford Times の紹介記事
http://archive.herefordtimes.com/2007/4/26/84723.html

                               (植村わらび)

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●世界の本棚(フィンランド語)●都会に生き、都会で働く、すべての人に捧ぐ
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『魔術師イント・キエムラ』(仮題)
ユッカ・イトコネン文/クリステル・ロンス絵
"Taikuri Into Kiemura"
text by Jukka Itkonen, illustrations by Christel Ronns
Otava, 2007 ISBN 978-9511221098(Finland)
32pp.
★2007年フィンランディア・ジュニア賞候補作品
★2007年アーヴィド・リーデッケン賞候補作品

 1人目は、路面電車の運転手さん。ばら色の朝焼けに照らされながら、路面電車は
街を走る。まっすぐな道、まがり道、乗ってくる人、降りる人。軌道を進む車両の奏
でる、小気味よいリズムに誘われて、ページをめくる私の手も軽やかになる。
 2人目は、煙突そうじやさん。屋根の上で、真っ黒なすすと格闘している。さらに
読み進む私の前に、この街で働く人が次々と現れる。ニュースキャスター、消防士、
写真家、ピアニスト、大統領閣下、体操のコーチ、携帯電話の販売員……どの人も、
自らの仕事がどんなものかを語ってくれ、それぞれが1篇の詩になっている。
 豊かな色彩が目に楽しく、声に出して読めば詩の抑揚が耳に心地よい絵本だ。勢い
のある絵と、歯切れのよい詩とのコンビネーションが、仕事にいそしむ人々の姿をい
きいきと描き出している。「仕事」は、職業とは限らない。だれにでも、その人だけ
に与えられた務めがあるものだ。たとえば年金生活の老婦人にも、機織りという日課
がある。織り上げる布の模様に、ほかのだれとも違う彼女の半生が浮かび上がる。
 学校の先生は、アパートの小さなベランダで花を育てている。大切に手をかけられ
て、ささやかな花壇に咲き誇る花々は、こんな場所が街に住むすべての人の心の中に
あるはずと、私にささやいているようだ。深夜の屋台では、アフリカ出身の移民がホ
ットドッグを売っている。この国でやっていけるのかな、茶色の瞳は不安げだ。うま
くいくといいね、私は本の中に向かってエールを送る。屋台の脇で、ホームレスがゴ
ミ箱から空き瓶を拾い集めている。瓶と引き換えに小銭がもらえるから。彼にとって
はこれが仕事だ。みんなが彼をじろじろ見るが、みんなも彼に見られている。読者の
私も。おまえは幸せかと問われているようだ。喜びも悲しみも包み込んだ夜、魔術師
がみんなにひとときの夢を見せてくれる。これは魔術師のすてきな仕事。
 この街の名は書かれていないが、作品の生まれた国フィンランドの首都ヘルシンキ
に、よく似ている。読んでいるとヘルシンキのにおいがする、音が聞こえる。この街
に、同じ人は一人もいない。この街は、それぞれの人生を精一杯に生きる人間が集ま
ってできあがっている。本の中のすべての人が、それを身をもって示してくれている。

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【文】Jukka Itkonen(ユッカ・イトコネン):1951年生まれの作家、詩人。児童書、
一般書、演劇やミュージカルの脚本など、多岐にわたる分野で精力的に作品を発表し
ており、また海外児童文学のフィンランド語への翻訳でも知られる。受賞歴も多く、
2007年にはこれまでの業績に対しフィンランド作家連盟主催の「ティルリッタン賞」
(児童書対象の賞、授賞は隔年)を贈られた。

【絵】Christel Ronns(クリステル・ロンス):1960年生まれ。ヘルシンキ芸術デザ
イン大学でグラフィックデザインを学ぶ。絵本、読み物の挿絵ともに数多く手がけて
いる。2007年には、読み物 "Kaveria ei jateta, pikku nalle" の挿絵が、児童書の
優れた挿絵に贈られる「ルドルフ・コイヴ賞」の子ども審査員団が選ぶ優秀作品とな
った。

【参考】(▼は、基本的にフィンランド語・一部英語表記あり)
▼本書の紹介ページ(Otava 内)
http://www.otava.fi/kirjat/lasten_ja_nuorten/?book_id=3788&subcategory_id=1

▼フィンランド図書財団(Suomen Kirjasaatio)公式ウェブサイト
(フィンランド書籍出版協会 Suomen Kustannusyhdistys ry と共同)
http://www.skyry.net/

▼フィンランディア・ジュニア賞受賞作一覧(フィンランド児童文学研究所 Suomen 
Nuorisokirjallisuuden Instituutti 内)
http://www.tampere.fi/kirjasto/sni/snpalk13.htm

▼アーヴィド・リーデッケン賞受賞作一覧(フィンランド児童文学研究所 Suomen 
Nuorisokirjallisuuden Instituutti 内)
http://www.tampere.fi/kirjasto/sni/snpalk12.htm

▽ルドルフ・コイヴ賞について(本誌2007年2月号「世界の児童文学賞」番外編)
http://www.yamaneko.org/mgzn/dtp/2007/02.htm#kikaku

                               (古市真由美)

【フィンランディア・ジュニア賞(Finlandia Junior -palkinto)について】
 1997年創設。過去1年間にフィンランドで出版された児童書(ヤングアダルトを含
む)で、特に優れた作品に贈られる。フィンランド最高の権威を持つ文学賞とされる
「フィンランディア賞」の児童書版といえる賞である。主催はフィンランド図書財団
(Suomen Kirjasaatio)。毎回3〜6作の候補が挙げられ、その中から1作が選ばれ
て受賞する。受賞作の発表は毎年11月末〜12月(2007年は11月29日)。
 2007年は6作の候補(絵本2、読み物4)から絵本 "Tatun ja Patun Suomi"(仮
題『タトゥとパトゥのフィンランド』)が受賞した。本作は、タトゥとパトゥの兄弟
を主人公とした人気シリーズの最新作で、シリーズのうち1作は邦訳出版されている
(『タトゥとパトゥのへんてこマシン』アイノ・ハブカイネン、サミ・トイボネン文
・絵/いながきみはる訳/偕成社)。
 本賞受賞作品の邦訳には、『ゴンドワナの子どもたち』(1997年受賞作、アレクシ
ス・クーロス作/大倉純一郎訳/岩崎書店)がある。

【アーヴィド・リーデッケン賞(Arvid Lydecken -palkinto)について】
 1969年創設。フィンランド語またはスウェーデン語(どちらもフィンランドの公用
語)で書かれた、優れた児童書に贈られる。主催はフィンランド児童文学作家協会
(Suomen nuorisokirjailijat ry)。1992〜96年は対象にヤングアダルト作品も含ま
れていたが現在は除外されており、本賞と同時に発表される同じ主催者の「トペリウ
ス賞(Topelius-palkinto)」が、ヤングアダルト作品のみを対象としている。受賞
作の発表は毎年12月(2007年は12月10日)。2007年は、5作の候補から、太っている
ために学校で仲間はずれにされている10歳の少女が主人公の読み物 "Marenkikeiju"
(仮題『メレンゲの妖精』)が受賞した。アーヴィド・リーデッケンは、20世紀前半
に活躍したフィンランドの作家。児童文学や詩などを数多く発表し、特にSFの分野
では同国の草分け的存在であった。

【特殊文字】
「Ronns」:「o」の上にウムラウト(¨)がつく
「jateta」:すべての「a」の上にウムラウト(¨)がつく
「Kirjasaatio」:saatio のすべての「a」と「o」の上にウムラウト(¨)がつく

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●賞速報━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

★2007年全米図書賞(児童書部門)発表
★2007年コスタ賞(旧ウィットブレッド賞)ショートリスト発表
                      (受賞作の発表は2008年1月3日)
★2007年カナダ総督文学賞(児童書部門)発表
★2007年フィンランディア・ジュニア賞発表
★2007年ネスレ子どもの本賞発表
★2007年アーヴィド・リーデッケン賞発表
★2007年トペリウス賞発表

 海外児童文学賞の書誌情報を随時掲載しています。「速報(海外児童文学賞)」を
ご覧ください。
http://www.yamaneko.org/cgi-bin/sc-board/c-board.cgi?id=award

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●イベント速報━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

★展示会情報
 教文館 子どもの本のみせ ナルニア国「ベリンダ・ドウンズ刺繍絵本原画展」
 岐阜県美術館「ぐりとぐらとなかまたち 山脇百合子絵本原画展」
 広島市現代美術館「イリヤ・カバコフ『世界図鑑』絵本と原画」など

★講座・講演会情報
 クレヨンハウス「荒井良二さん講演会『僕の絵本の窓から』」
        「さくまゆみこさん講演会『翻訳なんて、どこがおもしろいの?』」
 朝日カルチャーセンター新宿教室「金原瑞人の翻訳教室」など

 詳細やその他のイベント情報は、「速報(イベント情報)」をご覧ください。なお、
空席状況については各自ご確認願います。
http://www.yamaneko.org/cgi-bin/sc-board/c-board.cgi?id=event

                                (笹山裕子)

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●お菓子の旅●第41回 オーストリアの歴史が生んだクッキー 〜キプフェール〜
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This time there were biscuits.
But they were stale.
They were Kipferl left over from Christmas, and they'd been sitting on the 
desk for at least two weeks. Like miniature horseshoes with a layer of 
icing sugar, the ones on the bottom were bolted to the plate.
                               by Markus Zusak
              "The Book Thief", Pam Macmillan Australia(2005)
              Amazonで詳細を見る
*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*

 今回の引用は、最近出版された『本泥棒』(マークース・ズーサック作/入江真佐
子訳/早川書房)の原書 "The Book Thief" から。ナチス政権下のドイツで、読書を
心のよりどころに生きる主人公の少女が、町長の図書室に忍び込み本を盗もうとする
場面です。そこで見つけたのが、キプフェールというクッキーでした。
 引用文では "miniature horseshoes"、小さい馬蹄と形容されていますが、この形
はウィーンの歴史に関係があるオスマン帝国の旗印、三日月をかたどってできたとい
う興味深い説があります。1683年、当時ヨーロッパで勢力を拡大していたオスマン帝
国は、城壁で囲まれたウィーンを大軍で包囲した後、地下を掘って攻撃しようとしま
した。それを朝早く仕事をしていたパン屋が察知して味方に告げ、ウィーンは敵軍を
撃退することができたのです。この勝利を祝い、また「敵を喰う」という意味をこめ
てパン屋は三日月の形のパンを作り、キプフェール(ドイツ・バイエルン地方やオー
ストリアで「小さい角」という意味)と名づけました。キプフェールにはパンと焼き
菓子の2種類がありますが、今回はドイツやオーストリアでクリスマスの定番になっ
ているクッキータイプのバニラキプフェールのレシピをご紹介します。おしゃれな袋
に詰めれば、かわいいクリスマスプレゼントになりそうですね。

*-* バニラキプフェールの作り方 *-*

                  画像はこちら(やまねこ翻訳クラブ喫茶室)

材料:(約32個分)
小麦粉           150g   砂糖             70g
無塩バター         150g   アーモンド粉         150g
卵黄            2個   バニラエッセンス       小さじ1/2
バニラシュガー       適宜
(市販のものが手に入らなければ、バニラビーンズを割いて中のつぶつぶを取り出し、
 バニラビーンズ1本あたりグラニュー糖15〜20gを混ぜる)

1.ボウルにふるった小麦粉、室温で柔らかくしたバター、砂糖を入れて混ぜる。
2.そこにアーモンド粉、軽く溶いた卵黄、バニラエッセンスを加えて、全体がひと
  まとまりになるまで混ぜる。
3.軽く小麦粉をふった台の上で、生地がなめらかになるまで練る。
4.生地を4等分し、ラップに包んで約15分冷蔵庫に入れて、形を作りやすくするた
  めに固める。オーブンを160度にセットし、天板にオーブン用シートを敷く。
5.それぞれの生地を直径約2cmの棒状にし、5cmずつに切って三日月の形に整える。
6.天板に間隔をあけて生地を並べ、オーブンで約20分、または表面に薄く焼き色が
  つくまで焼く。
7.焼きあがったら、熱いうちにバニラシュガーをふってラックで冷ます。

★参考サイト
The food timeline  http://www.foodtimeline.org/index.html

★「やまねこ翻訳クラブお菓子掲示板」
        http://www.yamaneko.or.tv/open/c-board/c-board.cgi?id=okashi

                         (かまだゆうこ/冬木恵子)

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●読者の広場●海外児童文学や翻訳にまつわるお話をどうぞ!
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 本誌11月号「やまねこカフェ」で掲載した、クリスマス市のレポートをご覧になっ
た読者の岡めぐみさんから、ドイツのオルデンブルクで毎年開催されている児童文学
のメッセ "KIBUM" などのイベントのご紹介をいただきました。投稿された岡さんは
ベルリンにお住まいで、現地の幼稚園などで自作の紙芝居を発表する活動をされてい
るそうです。
 いただいたメールの一部を紹介いたします。どうもありがとうございました。

【岡めぐみさんより】
 子どものための絵本や本を通じた文化を、じかに味わうためのメッセが、オルデン
ブルクで11月10日から20日に開催されました。読み聞かせ、ワークショップ、イラス
トレーターのイラスト展示、講演会など、あちこちでの催事と平行して、ドイツ語圏
の出版社が今年出版した約2千冊の本が自由に閲覧できます。ある展示会では、子ど
もがじかに表現しにくい問題(家庭内暴力、貧困、性的問題など)が児童文学の中で
はどのように取り上げられているか、また子どもたちが本を通じてどのようにその問
題と向き合えるかなどの研究が発表されていました。どこにいってもとても和やかで
温かな雰囲気の中、本だけでなくドイツ語圏文化、子どもの世界の問題など、たくさ
んのものが吸収できるいいメッセだと思います。
http://www.oldenburg.de/kibum
 ベルリンでは図書館などさまざまな文化施設で、音楽や劇、読み聞かせを通して、
子どもや大人がメルヒェン・お話に親しめるメルヒェン・ターゲが催されます。テー
マは4つの言語を使うスイスのメルヒェンとお話「テルストーリー(TellStories)」。
来年の開催は11月6日から23日です。
http://www.maerchenland-ev.de

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 このコーナーでは、本誌に対するご感想・ご質問をはじめ、海外児童書にまつわる
お話、ご質問、ご意見等を募集しています。mgzn@yamaneko.org までお気軽にお寄せ
ください。

※メールはなるべく400字以内で、ペンネームをつけてお送りください。
※タイトルには必ず「読者の広場」とお入れください。
※掲載時には、趣旨を変えない範囲で文章を改変させていただく場合があります。
※質問に対するお返事は、こちらに掲載させていただくことがあります。原則的に編
集部からメールでの回答はいたしませんので、ご了承ください。

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品が多い中、低年齢向けの楽しい物語も増えたように思います。注目されたのはグラ
フィック・ノベル。児童書の新しいカテゴリーを確立しつつあるようです。来年も良
い一年でありますように。編集部一同、心よりお祈り申し上げます。天謝地謝(お)
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編集人 大原慈省/井原美穂(やまねこ翻訳クラブ スタッフ)
企 画 植村わらび かまだゆうこ 児玉敦子 笹山裕子 寺岡由紀 冬木恵子
    古市真由美 村上利佳
協 力 出版翻訳ネットワーク 管理人 小野仙内
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