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●特集●第10回やまねこ賞 協賛:(株)フォッシルジャパン
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やまねこ翻訳クラブ発足の翌年に第1回が開催されたやまねこ賞も、今年で第10回
を迎え、さる11月1日から15日の間、当クラブ特設掲示板にて投票が行われました。
やまねこ賞は、前年10月から本年9月までに出版された邦訳児童書、および、過去に
国内外で出版された児童書を対象に会員がベスト5を選び、大賞作品を決定します。
節目となる今回は、従来の〈未訳部門〉を、未訳・既訳を問わない〈原書部門〉に変
更、また新たな試みとして e-mail での投票も受け付けるなど、より多くの会員が参
加しやすい方法へと改められました。なお、大賞に輝いた邦訳作品の翻訳者には、賞
状と副賞が贈られます。今年も株式会社フォッシルジャパンより、副賞の時計をご提
供いただきました。
「読み物」「絵本」の分類については、原則として各出版社、書店などの種別を参考
に、当クラブの判断で決定しています。
記事中に記載した、本誌の過去のレビューについては、やまねこ翻訳クラブサイト
に掲載のバックナンバーをご参照ください。
http://www.yamaneko.org/mgzn/
すべての投票と感想はこちらでご覧いただけます。
http://www.yamaneko.org/yn_award/index.htm
やまねこ翻訳クラブは、会員・非会員を問わず、海外児童書を主とした本の話題が
書き込める「読書室掲示板」を運営しております。
http://www.yamaneko.org/dokusho/index.htm
★☆★☆【2007年 第10回やまねこ賞 読み物部門】☆★☆★
★大賞 『アル・カポネによろしく』ジェニファ・チョールデンコウ作
こだまともこ訳 あすなろ書房 Amazonで詳細を見る bk1で詳細を見る Amazonで原書の詳細を見る
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アメリカ禁酒法の時代、島ひとつがまるまる刑務所というアルカトラズ島に、父の
仕事の都合で引っ越してきたムース少年。彼の姉ナタリーは、「自閉症」と思われる
障害を抱えていた。生活のすべてがナタリーを中心に回らざるをえない状況のなか、
家族は互いに愛しあいながらも、心が微妙に食い違う。家族が家族であることの難し
さとすばらしさを描いた作品。
(本誌2005年2月号「注目の本」のレビューをご参照ください)
◎主人公、父、母、家族それぞれのつらい気持ちがよくわかる。でも、重苦しさを吹
きとばす子どもたちのパワーが素敵。(ちゃぴ)
◎ムースの友達パイパーには時々イラっとしたけど、ムースの心の動き、母の気持ち
父の気持ちに涙があふれました。そしてラストがよかった。(ゆずみ)
◎思いだしただけでも泣けてきます……。(りり)
◎ぶっきらぼうだけど心のあたたかいムース少年がとにかくいい。おかしくてじんと
くる作品。(MOMO)
☆~~~~~~~~~【受賞のことば】 翻訳家 こだまともこさん ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~☆
| |
| ありがとうございます。優れた読み手のみなさまに認めていただき、光栄に存|
|じます。『アル・カポネによろしく』(Al Capone Does My Shirt)は、アメリ |
|カに滞在中、出たばかりの原書を単純にタイトルにひかれて発作的に買ったも |
|の。じつは、祖父母が禁酒法時代のサンフランシスコでレストランを経営してお|
|りましたので、子どものころのわたしは引退して暇になったおじいちゃん、おば|
|あちゃんに「スロットマシーン」とか「シカゴのギャング」とか、当時の話をど|
|っさり聞かされて育ちました。ですから、「アル・カポネ」というと、なにか遠|
|い親戚の小父さんのような気がしてしまって……。というわけで、いまは亡きお|
|じいちゃん、おばあちゃんにも、ここで「ありがとう!」と言わせてください。|
☆ ☆
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なお、今回、受賞作品『アル・カポネによろしく』の原作者ジェニファ・チョール
デンコウさんからも、コメントをいただくことができました。あわせてご紹介いたし
ます。
☆~~~~~~~~~【原作者のことば】 ジェニファ・チョールデンコウさん ~~~~~~~~~☆
| |
| It's always exciting when my characters travel to parts of the world, |
|where I have never been. I was thrilled when I heard there would be a |
|Japanese translation of "Al Capone Does My Shirts" and it is a great |
|honor to have that translation recognized by the Yamaneko Honyaku Club. |
|Though honestly, I think all the kudos for this particular award go to |
|Ms. Kodama for her artful translation. |
| |
|(わたしがまだ訪れたことのない世界中の国々を、わたしの本の主人公たちが旅|
|していると知ると、いつもとても胸躍る思いがします。今回、"Al Capone Does |
|My Shirts" が日本語に訳され、しかも、やまねこ翻訳クラブのみなさんにすば |
|らしい作品だと認めていただけたことを伺い、非常に嬉しく思っております。も|
|ちろん、この栄誉は、こだまさんのすばらしい翻訳があってのことでしょう。)|
☆ ☆
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◆2位 『サフィーの天使』『インディゴの星』ヒラリー・マッカイ作 冨永星訳
小峰書店 『サフィーの天使』
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『インディゴの星』
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にぎやかで笑いあふれるカッソン家。でも、4人きょうだいのうち、実は2番目の
サフィーだけ養女だった。『サフィーの天使』では、その事実を知ったサフィーが、
祖父の遺言をきっかけに、ある思い切った行動を取る様子を描く。『インディゴの星』
は、長男インディゴと、末っ子のローズをめぐって物語が展開する。4人の個性的な
子どもたちと、芸術家の両親が繰り広げるユーモアたっぷりのシリーズ物語。
(本誌2003年1月号号外「注目の本」のレビューをご参照ください)
◎一風変わった家族ですが、でてくるみんながいきいきしていて、いいなあと思えま
す。(shoko)
◎飾らずありのままに描かれている人物たちが、とてもいとおしい。(ワラビ)
◎カッソン家、すごいです。続きが気になって原書を読んだけど、邦訳でも読みたい
なあ。(SUGO)
◎どたばたとしんみりのバランスが絶妙。(anya)
◎ばらばらなようでいて、お互いを深く理解しているカッソン家の兄弟たちからは、
目が離せません。(ケンタ)
◆3位 『ビッグTと呼んでくれ』K・L・ゴーイング作 浅尾敦則訳 徳間書店
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体はビッグ、でも自分にまったく自信の持てないトロイは、ある日、ニューヨーク
の地下鉄のホームで、伝説的なパンクギタリストのカートと出会う。みんなの憧れの
存在でありながら、義父からの虐待を受け、実は心も身体も傷ついていたカート。そ
んなカートとの運命的な出会いがトロイにもたらしたものは、音楽と友情、そして、
新たな自信だった。
(本誌2004年3月号「注目の本」のレビューをご参照ください)
◎みなぎる汗に圧倒されました。(SUGO)
◎徐々に変わっていく主人公の姿がとてもリアル。かっこいい!(ワラビ)
◎のっけから熱いパワーに圧倒されっぱなしでした。(くらら)
◆4位 『魂食らい』(クロニクル千古の闇3)ミシェル・ペイヴァー作
さくまゆみこ訳 評論社 Amazonで詳細を見る bk1で詳細を見る Amazonで原書の詳細を見る
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6千年前の原始世界を舞台にした「クロニクル千古の闇」シリーズの第3巻。悪の
魔道師〈魂食らい〉によって連れ去られた大切な弟分、オオカミのウルフを奪還する
ために、トラクとレンは、北の果てへと冒険の旅に出る。極寒の大地での戦いの結末
やいかに。
◎自分の宿命にしたがって、恐れながらも進んでいく主人公たちがいい。早く続刊が
読みたい。(ちゃぴ)
◎巻が進むにつれて、読み応えが増していく。(ワラビ)
◎1巻からずっと張りつめた感じが途切れないのがすごい。(ハイタカ)
◎去年も投票したような……年に1巻のペースはつらい。続きが気になる!(SUGO)
◆5位 『サクランボたちの幸せの丘』アストリッド・リンドグレーン作
石井登志子訳 徳間書店 Amazonで詳細を見る bk1で詳細を見る
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陸軍少佐だった父親が退役したのを機に、田舎で農場を営むことになった家族の物
語。豊かな自然、労働することのすばらしさ、家族で協力するうちに生まれてくる連
帯感など、人間にとって大切なことがたくさん描かれている。もちろん、10代の少女
に欠かせない恋の悩みも。数多くの名作を世に送り出したリンドグレーンの第2作だ
が、日本で紹介されるのは今回が初めてだ。
◎大きい人のことを書いても、小さい人のことを書いても、リンドグレーンはリンド
グレーンなんだな。(NON)
◎リンドグレーンのその後の作品と重なるところもあって、なつかしい気持ちにもな
った。(anya)
◆6位以下の作品:6位『サンタの最後のおくりもの』、7位『ピーター・パン イ
ン スカーレット』、8位『歩く』『時間のない国で』『涙のタトゥー』(3作同点)
★☆★☆【2007年 第10回やまねこ賞 絵本部門】☆★☆★
★大賞 『ウェン王子とトラ』チェン・ジャンホン文・絵 平岡敦訳 徳間書店
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猟師に子どもを殺された母トラは、人間を憎み、村を襲うようになる。トラ狩りの
成否を問う国王に占い師は、トラの怒りを鎮めるには王子をさしだすしかない、と助
言する。父王に森に連れていかれた幼い王子は、こわがらずにひとりで森の奥深くへ
入っていく。母性を宿すトラと、恐れを知らぬ無邪気な王子のあいだに通う情愛を、
感動的に描く。
(本誌2007年9月号「注目の本」のレビューをご参照ください)
◎迫力のある大型絵本。絵も文章もすばらしい。(ワラビ)
◎とても迫力がある絵本です。いろんな登場人物の気持ちがよく伝わってきました。
(shoko)
◎絵もさることながら、ラストに驚き、胸をうたれました。(つー)
◎予想をいい意味で裏切るラストがよかったです。最近の児童書ではあまり見かけら
れないような水墨絵のイラストも、物語を盛り上げてくれました。(ゆま)
☆~~~~~~~~~~【受賞のことば】 翻訳家 平岡敦さん ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~☆
| |
| やまねこ賞、今年でもう第10回なんですね。ふり返れば過去9回、錚錚たる作|
|品、翻訳者が大賞に名を連ねているではありませんか! その仲間に加わること|
|のできた喜びを、あらためてかみしめています。不惑の歳をとうに越えながら、|
|翻訳者としてまだまだ迷いの多い日々ですが、おかげさまですばらしい作品、優|
|秀な編集者、読者の温かい支持に恵まれました。この受賞を励みに、これからも|
|がんばっていきます。投票してくださった皆さん、ありがとうございました。 |
☆ ☆
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★2位(2作同点) 『漂流物』デイヴィッド・ウィーズナー作 BL出版
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砂浜に流れついていた古いカメラを、少年が拾う。なかにあったフィルムを現像し
てみると……。深くて広い未知の海の世界。カメラに秘められている物語。文字のな
い絵本から、想像の翼は自由に大きくはばたく。2007年コールデコット賞受賞作品。
(本誌2007年2月号「注目の本」のレビューをご参照ください)
◎時と場所をも超えたウィーズナーの世界を堪能できる作品。(SUGO)
◎さすがの空想力! 海ガメの背の町に行ってみたい。ヒトデの島はいいや、落ちそ
うだから。(カコ)
◎アイデアの勝利。(つー)
★2位(2作同点) 『としょかんライオン』
ミシェル・ヌードセン文 ケビン・ホークス絵 福本友美子訳 岩崎書店 Amazonで詳細を見る bk1で詳細を見る Amazonで原書の詳細を見る
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ある日、突然、図書館にライオンがやってきた。図書館員のマクビーさんは慌てる
が、館長のメリウェザーさんは、きまりを守ればかまわないという。それから、ライ
オンは毎日やってきて、子どもたちとおはなしを聞き、図書館の仕事をお手伝いし、
人気者になる。素直な子どものようなライオンと公正な館長さん、ライオンを快く思
わない図書館員、そしてライオンが大好きな子どもたちの心温まるドラマ。
◎読みおえたとき、とても満ち足りて幸せな気持ちになりました。(ハイタカ)
◎ほのぼのとして、心温まる1冊。(anya)
◎館長のメリウェザーさんがいい。こんな図書館、近所にあったらなあ。(からくっ
こ)
◎そういえば、ニューヨークの公共図書館の前には、ライオンがいるんですよね。ほ
んとうにこんなライオンが来たら、と想像してしまいます。(くらら)
◆4位 『母からの伝言―刺しゅう画に込めた思い―』
エスター・ニセンタール・クリニッツ作 バニース・スタインハート作
片岡しのぶ訳 光村教育図書 Amazonで詳細を見る bk1で詳細を見る Amazonで原書の詳細を見る
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ポーランドのユダヤ人村で生まれたエスターは、妹とふたりきりでホロコーストを
生きぬいた。戦後アメリカにわたった彼女は、50歳になってから、少女時代の体験を
刺しゅう画で表しはじめた。彼女の死後、遺された刺しゅう画に、娘が説明を加えて
美しい絵本として出版した。母から娘へ、娘から次世代の子どもたちへ、引き継いで
いきたい歴史の記録。
(本誌2007年4月号「注目の本」のレビューをご参照ください)
◎ホロコーストを美しい刺しゅうでつづることで、わたしたちに残されたものの重み
を感じた。(蒼子)
◎重たい内容だけど、美しい刺しゅう画に目がくぎ付けになりました。(ゆま)
◎刺しゅうの美しさと、メッセージの重さが胸に響きました。(おとむとむ)
◆5位 『シャンプーなんて、だいきらい』
アンバー・スチュアート文 ローラ・ランキン絵 おおつかのりこ訳 徳間書店 Amazonで詳細を見る bk1で詳細を見る Amazonで原書の詳細を見る
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ウサギの男の子ポップは、耳をシャンプーするのが大きらい。耳をかくしたり、手
でおさえたり、いろいろなことをして、ママに洗わせないようにする。ある日、いと
このボンボンにいちゃんがおとまりにやってきた。ボンボンにいちゃんといっしょに
お風呂にはいると――。無邪気な子どもの姿を、表情豊かに生き生きと映しだす。
◎主人公のポップの表情に笑わせてもらいました。「横目でちらり」と「新発見びっ
くり」の顔がとくに好きです。かわいい! 子どもと楽しんだ絵本。(Chicoco)
◎なんども繰り返し読んで楽しみました。ポップがほんとにかわいい!(MOMO)
◎やっぱり、あの顔でしょう。成長していく子どもの姿が愛らしい。(おとむとむ)
◆6位以下の作品:6位『リスとお月さま』『オークとなかまたち』(2作同点)、
8位『ゆうびんやさんおねがいね』、9位『365まいにちペンギン』、10位『いぬの
おやくそく』
★☆★☆【2007年 第10回やまねこ賞 原書部門】☆★☆★
邦訳の有無にかかわらず、この1年に読んだ原書から気に入ったものを挙げてもら
おうと、今年から「未訳部門」が「原書部門」に変更になった。絵本16作品、読み物
33作品の計49作品が挙がり、思い入れのあるコメントも多数寄せられて、やまねこ会
員の充実した読書ぶりがうかがわれた。中でも複数の会員が投票した人気の作品は以
下の通り。
"The Arrival" by Shaun Tan(2006年、オーストラリア)Amazonで詳細を見る
"Little Mouse's Big Book of Fears" by Emily Gravett(2007年、イギリス)
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"Girl, Missing" by Sophie McKenzie(2006年、イギリス)Amazonで詳細を見る
"A' Casson Family Story' series by Hilary Mckay(イギリス)
"Permanent Rose"(2005年)Amazonで詳細を見る
"Caddy Ever After"(2006年)Amazonで詳細を見る
"Forever Rose"(2007年)Amazonで詳細を見る
2007年オーストラリア児童図書賞絵本部門を受賞した "The Arrival" は、移民を
テーマにした絵本。故郷に家族を残し、見知らぬ土地での再出発を目指して異郷へ渡
った人々が感じた違和感や戸惑いを、絵だけで表現した作品だ。「今年の原書マイベ
ストです。すばらしいのひと言!」(さかな)、「作者のあふれる才能に目と心で感
動しました」(はるはな)、「とにかく絵が素晴らしい。力作です」(つー)などの
感想があった。(本誌2007年10月号「注目の本」のレビュー参照)
絵本では昨年 "Wolves" で未訳部門大賞に輝いたエミリー・グラヴェットの人気も
健在だった。"Little Mouse's Big Book of Fears" は、暗闇から迷子になることま
で、小さなネズミにとって(おそらく小さな子どもにとっても)怖いものが、楽しい
仕掛けとともに次々に登場する作品。寄せられたコメントには、「今回の絵本は仕掛
けいっぱいで、子どもも大喜びです」(shoko)、「ネズミの世の中もいろいろコワ
イことがあるものだ」(さかな)など、グラヴェット・ワールドを満喫した様子が見
てとれる。
一方読み物では、チルドレンズ・ブック賞の高学年向け部門を受賞した "Girl,
Missing" が挙げられた。自分は誘拐されて今の両親の子どもになったのではないか
と疑い始めた少女が、真実を探るためにアメリカへ渡る物語には、「実の親探しの物
語は数多いが、これは現代的というか、ちょっと目先の変わったパターンで面白かっ
た」(anya)という感想があった。
また、読み物部門で人気のあったヒラリー・マッカイの「カッソン家」のシリーズ
は、原書部門でも第3作の "Permanent Rose"、第4作の "Caddy Ever After"、第5
作の "Forever Rose" が挙がった。次第に明らかになる家族の秘密に、ますます目が
離せなくなったファンも多く、「すごい展開ですよ〜カッソン家ファンの方は必読」
(SUGO)、「カッソン家のみんなには、最後の最後まで驚かされ、笑わされ、しんみ
りさせられた。これでお別れ(?)と思うと、とてもさびしい」(anya)などのコメ
ントが寄せられた。
そのほかに挙げられた作品も、受賞作や話題作に限らず、非常にバラエティに富ん
でいて、会員たちの読書量だけでなく、常にアンテナを広げて情報を集め、興味深い
作品を見つけ出そうとする努力と熱意が感じられた。来る年には、どんな作品が読書
室掲示板を賑わせてくれるのか、ますます楽しみになってきた。
★☆★☆【番外編 第10回やまねこ賞 オールタイム部門】☆★☆★
出版年を問わず、過去1年間にやまねこ翻訳クラブ会員が読んだ邦訳児童書を対象
としているオールタイム部門。本年度より、順位による得点制を、投票者数による得
票制に変更した。対象が古典から昨年度出版された作品まで多岐にわたるため、票が
割れて、何人投票するかよりも何位に投票するかのほうが結果に大きく影響するのを
解消するための変更であった。その結果、2人が投票した4作品が抜き出た形となっ
たので以下に紹介する。会員からは、順位をつけなくていいので投票しやすかったと
の感想が聞かれた。
『ドラゴンキーパー 最後の宮廷龍』
キャロル・ウィルキンソン作 もきかずこ訳 金の星社 2006
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(本誌2004年11月号「注目の本」のレビューをご参照ください)
『ベラスケスの十字の謎』
エリアセル・カンシーノ作 宇野和美訳 徳間書店 2006
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(本誌2006年6月号「注目の本」のレビューをご参照ください)
『キーパー』
マル・ピート作 池央耿訳 評論社 2006
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『ビースト』
アリー・ケネン作 羽地和世訳 早川書房 2006
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(本誌2007年7月号「注目の本」のレビューをご参照ください)
『ドラゴンキーパー』は、古代中国を舞台に、龍守りに仕える少女と龍とが織り成す
冒険ファンタジー。「龍と少女の交流がすばらしかった」(蒼子)、「古代中国を舞
台にした作品を、オーストラリア人がここまで完璧に描いていることにびっくりした」
(ぐりぐら)という感想からも、物語世界の完成度の高さがうかがえる。2004年オー
ストラリア児童図書賞低学年向け部門の受賞作品である。
一方、17世紀のスペイン宮廷を舞台にしているのが『ベラスケスの十字の謎』。宮
廷画家のベラスケスが描いた名画「ラス・メニーナス(侍女たち)」制作にまつわる
謎解きに、スペインの作者カンシーノが挑んでフィクションにしあげた。「実話だと
信じてしまいそうなくらい真にせまっていた」(ぐりぐら)と、作者の手腕が十分に
発揮されているようで、1997年のラサリーリョ賞を受賞し、スペインでも評価が高い。
そして、南米のジャングルの伐採地で育ちワールドカップでゴールキーパーとして
活躍した主人公がインタビューに応えてこれまでを振り返る、という設定で物語が進
んでいくのが『キーパー』だ。ジャングルで主人公を指導する〈キーパー〉は超自然
的な存在で、「サッカー、ゴーストストーリーというカテゴリーを超えて期待以上の
感動をもたらしてくれ、本当に久しぶりに文字通り《胸が震える》読書体験ができま
した」(くるり)と、熱い感想が寄せられている。作者マル・ピートのYAデビュー
作で、2004年のブランフォード・ボウズ賞に輝いている。
最後に紹介する『ビースト』は、前3作とうって変わって現代のイギリスが舞台で
ある。里親の元で暮らすスティーヴンには誰にも話せない悩みがあった。ビーストだ。
「悲惨な境遇にもめげず、けなげに前に進もうとするスティーヴンの姿に心をうたれ
た」(蒼子、shoko)と、リアルに描かれた主人公にひきつけられた読者が多いよう
だ。2006年度カーネギー賞ショートリスト作品で、やまねこ読書室掲示板でも話題と
なった。
4作品を眺めてみると、いずれも昨年度のやまねこ賞の対象だった作品であり、去
年読まれていたら読み物部門に投票されていたであろうというものばかり。それぞれ
が個性豊かで読み応えのある児童文学賞受賞作品ばかりなので、未読の方は是非手に
取って読んでほしい。決して後悔することはないだろう。
また、これらの他にオールタイム部門に投票された作品の中には、以前に出版され
た作品が復刊や新装版として新たに出版されたものも目についた。
【参考】
▽やまねこ賞受賞作品リスト(やまねこ翻訳クラブ資料室)
http://www.yamaneko.org/bookdb/award/yn/index.htm
(村上利佳/寺岡由紀/笹山裕子/植村わらび) |