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2010年5月号
   =====☆                    ☆=====
  =====★   月 刊  児 童 文 学 翻 訳   ★=====
   =====☆   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  ☆=====
                                No.120
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児童文学翻訳学習者による、児童文学翻訳学習者のための、電子メール版情報誌
http://www.yamaneko.org                         
編集部:mgzn@yamaneko.org     2010年5月15日発行 配信数 2360 無料 
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●2010年5月号もくじ●
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◎賞情報:2010年カーネギー賞、ケイト・グリーナウェイ賞候補作発表
◎特集:2010年ニュージーランド・ポスト児童図書賞候補作読書会から
 "Old Hu-Hu" カイル・ミューバーン文/レイチェル・ドリスコル絵
 "The Loblolly Boy" ジェームズ・ノークリフ作
 "End of the Alphabet" フラー・ビール作
◎賞速報
◎イベント速報
◎お菓子の旅:第52回 ベンガル地方のさわやかな甘さ 〜ロショゴッラ〜
◎読者の広場:読者の方から届いたメールをご紹介します。

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●賞情報●2010年カーネギー賞、ケイト・グリーナウェイ賞候補作発表
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 4月23日、カーネギー賞およびケイト・グリーナウェイ賞のショートリスト(最終
候補作)が発表された。英国図書館協会が主催するこの賞は、イギリスでは最も権威
ある児童文学賞である。昨年11月にロングリストが発表され、カーネギー賞に54作品、
ケイト・グリーナウェイ賞に48作品が挙がっていた。受賞作の発表および、授賞式は
6月24日。ショートリストは以下の通り。ロングリストは、やまねこ翻訳クラブウェ
ブサイトの「速報(海外児童文学賞)」コーナーに掲載中。
 http://www.yamaneko.org/cgi-bin/sc-board/c-board.cgi?id=award

▼カーネギー賞、ケイト・グリーナウェイ賞公式ウェブサイト
http://www.carnegiegreenaway.org.uk/home/

▽カーネギー賞、ケイト・グリーナウェイ賞について
               (本誌1999年7月号情報編「世界の児童文学賞」)
http://www.yamaneko.org/mgzn/dtp/1999/07a.htm#a1bungaku

▽カーネギー賞、ケイト・グリーナウェイ賞受賞作品リスト
                        (やまねこ翻訳クラブ資料室)
http://www.yamaneko.org/bookdb/award/uk/carnegie/index.htm
http://www.yamaneko.org/bookdb/award/uk/greenawy/index.htm

【カーネギー賞候補作】〜 Carnegie Medal 〜(作家対象)

"Chains"               by Laurie Halse Anderson (Bloomsbury)
"The Graveyard Book"         by Neil Gaiman (Bloomsbury)
"The Vanishing of Katharina Linden" by Helen Grant (Puffin)
"Rowan the Strange"         by Julie Hearn (OUP)
"The Ask and the Answer"       by Patrick Ness (Walker)
"Nation"               by Terry Pratchett (Doubleday)
"Fever Crumb"            by Philip Reeve (Scholastic)
"Revolver"              by Marcus Sedgwick (Orion)

 ロングリスト54作品から、8作品がショートリストに残った。
 2009年スコット・オデール賞を受賞した Laurie Halse Anderson の "Chains" は、
奴隷の少女の視点から、アメリカ独立革命時代の出来事が語られる。無慈悲な一家に
買われた少女は、自由を手に入れるために、主人と敵対する側のスパイとして働きは
じめる。少女の葛藤とともに、大きな変革の時代の一側面を伝えてくれる作品だ。
 Neil Gaiman の "The Graveyard Book" はニューベリー賞、ローカス賞ヤングアダ
ルト部門などを受賞したほか、数々の賞にノミネートされた評価の高い作品だ。家族
を皆殺しにされ、家を逃げ出して墓場にたどり着いた男の子が、幽霊に育てられる。
死者と生者両方の世界の狭間で成長していく少年の物語は、さまざまな時代の幽霊や
鬼、魔女など、超自然的な登場人物に彩られ、独特な世界をつくりだしている。
 本賞をはじめ各賞常連の作家が名を連ねるなか、Helen Grant はロングリスト、シ
ョートリストともに初選出された。"The Vanishing of Katharina Linden" は、ドイ
ツの田舎町で育った主人公が、少女時代に起こった連続少女行方不明事件の顛末を語
るという物語。丹念な語りで描写される古い時代ののどかな町の雰囲気と、事件の恐
ろしさの対比が鮮やかだ。
 Julie Hearn は2003年度以降3度ロングリストに名を連ねていたが、今年初のショ
ートリスト入りとなった。第2次世界大戦直前、ローワンは衝動的に家族にけがを負
わせて精神病院に入れられ、電気ショック療法の実験台にされた。精神疾患の少年の
心の動き、患者たちの日々を中心に、戦時の社会背景も平行して描かれており、深く
考えさせられる作品にしあがっている。
 昨年 "The Knife of Never Letting Go" で初めて本賞にノミネートされた
Patrick Ness は、続編の "The Ask and the Answer" で2年連続ショートリストに
残った。男だけの不思議な町を出た少年と、道連れの少女は、目指していた町に着く
なり捕らえられて引き離され、意に反して、2つの派閥の抗争に巻き込まれていく。
前作以上にスリリングなストーリーが、少年と少女によって章ごとに交互に語られる。
 Terry Pratchett は、2001年度に "The Amazing Maurice and His Educated
Rodents"(『天才ネコモーリスとその仲間たち』冨永星訳/あすなろ書房)で本賞を
受賞して以来のショートリスト入りとなった。"Nation" は、津波によってすべてを
失った島の少年が、難破船の生き残りの少女とともに、日常の小さなことを積み重ね
て新たな国を築いていくさまを描いている。「ディスクワールド」シリーズとは一線
を画す、Pratchett の新境地である。
 2008年に "Here Lies Arthur"(『アーサー王ここに眠る』井辻朱美訳/東京創元
社)で本賞を受賞した Philip Reeve は、"Fever Crumb" でショートリストに名乗り
をあげた。「移動都市」シリーズ(安野玲訳/東京創元社)と同じ未来世界の数世紀
前を舞台に、孤児の工学士見習いフィーバーは、自らの出生の謎に迫っていく。シリ
ーズ前日譚という位置づけだが、単独作品として十分に楽しめる作品だ。
 Marcus Sedgwick は2002年度以降何度もロングリストに名を連ねており、ショート
リスト入りも今回で3度目になる。"Revolver" は、20世紀初頭の北極圏を舞台にし
た、ある親子と1丁の拳銃をめぐる物語だ。父の死の直後に訪ねてきた男のせいで、
少年はひとつの決断を迫られる。父の過去の物語と重なるようにして、少年の心理的
葛藤が描かれた、緊張感あふれるサイコロジカルスリラーである。

【参考】
▼Laurie Halse Anderson 公式ウェブサイト
http://www.writerlady.com/

▼Neil Gaiman 公式ウェブサイト
http://www.neilgaiman.com/

▼Julie Hearn 公式ウェブサイト
http://www.juliehearn.co.uk/

▼Patrick Ness 公式ウェブサイト
http://www.patrickness.com/

▼Terry Pratchett 公式ウェブサイト
http://www.terrypratchett.co.uk/

▼Marcus Sedgwick 公式ウェブサイト
http://www.marcussedgwick.com/

▽テリー・プラチェット作品リスト(やまねこ翻訳クラブ資料室)
http://www.yamaneko.org/bookdb/author/p/tpratc.htm

▽フィリップ・リーヴ作品リスト(やまねこ翻訳クラブ資料室)
http://www.yamaneko.org/bookdb/author/r/preeve.htm

                                (児玉敦子)

【ケイト・グリーナウェイ賞候補作】〜 Kate Greenaway Medal 〜(画家対象)

"Leon and the Place Between"   by Grahame Baker-Smith (Templar)
"Harry and Hopper"        by Freya Blackwood (Scholastic)
"The Great Paper Caper"      by Oliver Jeffers (HarperCollins)
"Millie's Marvellous Hat"     by Satoshi Kitamura (Andersen)
"Crazy Hair"           by Dave McKean (Bloomsbury)
"The Graveyard Book"       by Chris Riddel (Bloomsbury)
"The Dunderheads"         by David Roberts (Walker)
"There Are Cats in This Book"   by Viviane Schwarz (Walker)

 ロングリストにあげられた48作品の中から、8作品がショートリストに残った。
 最初の "Leon and the Place Between" は、水彩からレタッチ(画像加工)まで、
さまざまな画法・技法で意欲的に創作活動を続ける Grahame Baker-Smith の絵本。
レオンは弟たちとマジックショーに出かける。ただひとり本物の魔法を感じ取ったレ
オンは、魔術師の呼びかけに舞台の上へ……。写真やコラージュ、きらびやかな模様
や飾りを用い、文のフォントやレイアウトにも工夫を凝らし、ショーの雰囲気を盛り
上げながら読者を不思議な魔法の世界へといざなう。
 "Harry and Hopper" では、オーストラリアの画家 Freya Blackwood の動きのある
デリケートな絵と Margaret Wild の文章が、愛するものをなくした少年の心を見事
に表現している。ハリーと飼い犬のホッパーは、何をするのも一緒だった。でも、あ
る日突然ホッパーが死んでしまう。悲しみにくれるハリーのもとを夜な夜なおとずれ
たのは……。邦訳『さよならをいえるまで』が、2010年6月に岩崎書店より刊行予定。
 本賞のロングリスト、ショートリストでは常連の Oliver Jeffers。"The Great
Paper Caper" では、ある森でおきた事件を描いた。何者かによって木が次々と切り
倒され、森にすむ動物たちは犯人探しをはじめる。環境破壊というテーマが見え隠れ
するものの、話の流れや結末にはいかにも作者らしいユーモアとピリッとした隠し味
があり、小さな子どもでも楽しめる1冊になっている。
 東京に生まれ、ロンドンを拠点に活躍している Satoshi Kitamura は、"Millie's
Marvellous Hat"(『ミリーのすてきなぼうし』BL出版)でショートリストに進ん
だ。お金がなくてぼうしが買えなかったミリーに、店長さんが目には見えない特別な
ぼうしを手渡してくれた。想像次第でどんな風にも変わるぼうしをかぶったミリーが
気づいたことは? 色鮮やかな絵を楽しむうちに、作者の思いが心にひびいてくる。
 "Crazy Hair" の Dave McKean は昨年に続いて名前があがった。今回のパートナー
は、2005年度と同じ Neil Gaiman。少女ボニーは、ある男性の頭が気になってしかた
がない。「その髪をとかしてみたい」と話しかけると、その人の返事は――「2歳か
ら伸ばし続けているぼくの髪の中では、鳥が巣をかけ、ゴリラやトラが走りまわって
いるんだ!」コラージュによる髪の毛はリアルな質感で、うねり、さかまくような迫
力。そこに色鮮やかな動物たちが配され、目を奪われる仕上がりになった。
 Chris Riddel はこれまでに2度もケイト・グリーナウェイ賞に輝いているが、今
回は、Neil Gaiman の話題のファンタジー "The Graveyard Book" の挿絵で、ショー
トリストまで進んだ。幽霊、狼男、邪鬼などの墓場の住人たちを、恐ろしくも魅力的
に描いて、Riddel ならではの世界観を表現した。"The Graveyard Book" の作品公式
ウェブサイトで、いくつかの挿絵をじっくりと楽しむことができる。
 "The Dunderheads" は、子どものことが大嫌いなブレイクボーン先生と、クラスの
子どもたちとの対決をおもしろく描いた絵本。"Awful End"(『あわれなエディの大
災難』フィリップ・アーダー作/こだまともこ訳/あすなろ書房)など、ユーモアと
気味の悪さが漂う独特の挿絵で日本でもおなじみの David Roberts が、絵を描いて
いる。こちらの絵本は小さな子どもでも楽しめる画風。文は、Paul Fleischman の担
当だ。
 最後の "There Are Cats in This Book" は、Viviane Schwarz のしかけ絵本。シ
ンプルで動きのある絵が最大限に生かされ、毛糸や箱などのしかけで、作中の3匹の
ネコと遊ぶことができる。公式ウェブサイトで紹介されている、Schwarz による朗読、
Matthew Robins による音楽付きの動画は一見の価値あり。是非ごらんいただきたい。

【参考】
▼Grahame Baker-Smith 紹介ページ(Illustration Ltd 内)
http://www.illustrationweb.com/illustrators/home_large.asp?artist_id=3314

▼Freya Blackwood 公式ウェブサイト
http://www.freyablackwood.net/index.html

▼Oliver Jeffers 公式ウェブサイト
http://www.oliverjeffers.com/

▼Satoshi Kitamura 公式ウェブサイト
http://www.satoshiland.com/

▼Dave McKean 公式ウェブサイト
http://www.mckean-art.co.uk/

▼"Crazy Hair" 作品紹介ページ(HarperCollins 内)
http://browseinside.harpercollins.com/index.aspx?isbn13=9780060579081

▼Chris Riddell 紹介ページ(Pan Macmillan 内)
http://www.panmacmillan.com/chrisriddell/

▼"The Graveyard Book" 作品公式ウェブサイト
http://www.thegraveyardbook.co.uk/

▼David Roberts 紹介ページ(Walker Books 内)
http://www.walker.co.uk/contributors/David-Roberts-5053.aspx

▼Viviane Schwarz 公式ウェブサイト
http://www.vivianeschwarz.co.uk/

                               (植村わらび)

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●特集●2010年ニュージーランド・ポスト児童図書賞候補作読書会から
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 やまねこ翻訳クラブでは現在、2010年ニュージーランド・ポスト児童図書賞(以下、
NZポスト児童図書賞)候補作読書会が催されている。
 読書会の企画が予告されると、ニュージーランドの児童書の愛好者から、いろいろ
な国の原書を読んでみたいという人まで、多くの会員が参加の声を上げた。そして、
3月4日に候補作品が発表されて以来、読書会の掲示板にはさまざまな作品のレビュ
ーがアップされ、にぎわいを見せている。
 今月号では読書会のレビューから3作品を紹介する。さらに来月号では賞情報とレ
ビューをあわせて掲載する予定だ。

※やまねこ翻訳クラブでは賞の名称を「ニュージーランド・ポスト児童書及びヤング
アダルト(YA)小説賞」としていましたが、本年は賞の公式ウェブサイトでの表記
にあわせて「ニュージーランド・ポスト児童図書賞」(New Zealand Post
Children's Book Awards)としております。

▼ニュージーランド・ポスト児童図書賞公式ウェブサイト
http://www.booksellers.co.nz/awards/new-zealand-post-childrens-book-awards

▽ニュージーランド・ポスト児童書及びヤングアダルト(YA)小説賞について
               (本誌2004年5月号情報編「世界の児童文学賞」)
http://www.yamaneko.org/mgzn/dtp/2004/05a.htm#bungaku

▽ニュージーランド・ポスト児童書及びヤングアダルト(YA)小説賞受賞作リスト
                        (やまねこ翻訳クラブ資料室)
http://www.yamaneko.org/bookdb/award/nz/nzp/index.htm

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"Old Hu-Hu"『フフじいちゃんは どこ?』(仮題)
text by Kyle Mewburn, illustrations by Rachel Driscoll
カイル・ミューバーン文/レイチェル・ドリスコル絵
Scholastic New Zealand, 2009, 32pp.
ISBN 978-1869438975 (HB), 978-1869439217 (PB)
★2010年NZポスト児童図書賞絵本部門候補作

 ニュージーランド原産の甲虫フフビートルを主人公にしたお話。
 フフビートルのフフじいちゃんは、ある夜、月に向かって飛んでいき、帰る途中で
落下して死んだ。無鉄砲だった若いころを思い出させる、フフじいちゃんらしい死に
方だ。虫たちがおおぜい集まってお別れをいったけれど、幼いフフツぼうやは、なに
もいわなかった。そのなきがらがフフじいちゃんだとは思えなかったのだ。「フフじ
いちゃん、どこにいるの?」あちこち飛びまわってさがしてみたが、大好きなフフじ
いちゃんはどこにもいない。悲しみにおそわれ、泣きじゃくるフフツぼうや。と、そ
こへ、フフじいちゃんの声が聞こえてきた……。 
 小さいはずの虫がページいっぱいに大きく描かれ、そのインパクトはかなりのもの。
体は茶色い甲虫そのもので、触角もリアルだ。でもそれが擬人化された顔と合わさる
と、ちょっとユーモラスでほのぼのした絵になる。白いひげをたくわえたフフじいち
ゃんはまさに老人、ぱっちりした目のフフツぼうやは、あどけない男の子のイメージ
で、虫が大の苦手な私でも、すんなりなじむことができた。背景は写実的で美しく、
各ページのデザインやレイアウトも吟味されている。暗いページが続いたあとの、光
あふれる朝の森の絵は、特に印象的だった。また、まるで思い出のアルバムのような
セピア色のページには、若いころのフフじいちゃんの無鉄砲ぶりを物語る絵がならん
でいて、しみじみと味わえる。
 著者のカイル・ミューバーンは、長年かわいがっていたペットの猫が病気になった
ときにこの話を書き始め、亡くなったおじいさんのことも思いながら、愛する者を失
う悲しみをつづったという。幼いフフツぼうやが、大好きなフフじいちゃんの死を受
けとめるまでの一夜の旅は、心あたたまる物語に仕上がっている。悲しみの夜のあと、
朝の光がさす場面で、フフじいちゃんがフフツぼうやにかける言葉は生き生きしてお
り、まるで声が聞こえてくるようだ。胸にじんとくるクライマックスから、くすっと
笑える結びへのつながりもみごと。ペーパーバックのみの出版が多いニュージーラン
ドで、あえてハードカバーを作ったことに納得できる、完成度の高い絵本だ。

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【文】Kyle Mewburn(カイル・ミューバーン):1963年オーストラリアに生まれ、20
代でニュージーランドに移住。さまざまな仕事を経験したが、1997年以降、子どもの
頃から好きだった執筆活動に専念。代表作の "Kiss! Kiss! Yuck! Yuck!"(Ali Teo
and John O'Reilly 絵)は、2007年のNZポスト児童図書賞で、絵本部門ならびに
「子どもたちが選んだ本賞」受賞作となった。米国と韓国でも出版されている。

【絵】Rachel Driscoll(レイチェル・ドリスコル):1981年、ウェリントン近郊の
ロウアーハットに生まれる。2007年に、絵本 "The Mouse that Danced"(Margaret
Beames 文)で出版界にデビュー。2作目となった本作品には、パートナーの 
Michael Greenfield が、グラフィック・デザイナーとして参加している。

【参考】
▼カイル・ミューバーン公式ウェブサイト
http://www.kylemewburn.com/

▼カイル・ミューバーン紹介ページ(New Zealand Book Council 内)
http://www.bookcouncil.org.nz/writers/mewburnkyle.html

▼レイチェル・ドリスコル紹介ページ(New Zealand Book Council 内)
http://www.bookcouncil.org.nz/Writers/Profiles/Driscoll%2c%20Rachel

                                (大作道子)

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"The Loblolly Boy" 『ロブロリー・ボーイ 翼を得た少年』(仮題)
by James Norcliffe ジェームズ・ノークリフ作
Longacre Press, 2009, 224pp. ISBN 978-1877460258 (NZ)
Allen & Unwin, 2009, 215pp. ISBN 978-1742371160 (AU)
AmazonでUS版の詳細を見る
(このレビューは AU 版を参照して書かれています)
★2010年NZポスト児童図書賞児童読み物部門候補作

 物心ついたときから児童養護施設で暮らしているマイケルは、いつも周りの子ども
たちに「赤毛」とからかわれ、孤独な日々を送っていた。そんなある日、裏庭でロブ
ロリー・ボーイと名乗る少年に出くわし、飛び方を教えてやるともちかけられる。少
年は緑の服を身にまとい、ケープで隠れた背中には翼を持っていた。マイケルは半信
半疑のまま練習を始めたものの、すぐにやる気をなくしてしまう。そこで、ロブロリ
ー・ボーイは獰猛な番犬にマイケルを追いかけさせた。犬から必死で逃げながらロブ
ロリー・ボーイの手をつかむと、マイケルの体は宙に浮き、気がつくと空を飛んでい
た。下を見ると、不思議なことに監視員に腕をつかまれた自分が「君はロブロリー・
ボーイになったんだよ!」と笑顔で叫んでいる。この時、マイケルは自分とロブロリ
ー・ボーイが入れ替わったことを悟るのだった。監視員たちにはロブロリー・ボーイ
になったマイケルの姿が見えないし、声も聞こえない。窮屈な施設の生活から抜け出
せるチャンスだ。マイケルは閉ざされた塀の中から自由な空へと飛び立った。海へ出
て、やがて小さな入り江にたどりつくと、そこで謎めいた老人キャプテン・バスに出
会う。キャプテンは覗いた者の未来を映し出す望遠鏡を持っていた。マイケルはこの
まま一生ロブロリー・ボーイとして生きていくのかどうかを確かめるため、キャプテ
ンの目を盗んで望遠鏡を覗いてみた――。
 望遠鏡に映った一見不可解な光景の意味を、読者はこのあとゆっくりと知ることに
なる。ロブロリー・ボーイという謎めいた名前、背中の翼、特定の人にしか見えない
透明人間のような存在、未来を告げる望遠鏡。ファンタジーの要素がたっぷりそろっ
ているのに、この作品には人のぬくもりを求めるリアルさが共存している。素晴らし
い自由を手に入れたあと、以前よりもさらに孤独と向き合うことになる主人公。「人
間にもどるためには次のロブロリー・ボーイが必要だ。それは誰かの人生を奪うこと
になる」というキャプテンの言葉からは、深遠なテーマが伝わってくる。
 作家であると同時に詩人でもある著者の透明感ある言葉は、さりげないのに心に書
き留めておきたくなる。洗練された美しい文章と巧みに織りあげられた展開の面白さ。
それは乗り心地のよい船に揺られて、移りゆく風景を楽しんでいるような気分にさせ
てくれる。

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【作】James Norcliffe(ジェームズ・ノークリフ):1946年ニュージーランドに生
まれる。クライストチャーチ、中国、ブルネイで英語を教える。1986年に "The
Sportsman and Other Poems" で詩人としてデビュー、現在はフィクション作家、雑
誌 "Takahe" の詩歌編集者としても活躍。クライストチャーチ在住。YA作品には
"Under the Rotunda"、"The Assassin of Gleam" などがある。邦訳はまだない。本
作品は米国では "The Boy Who Could Fly" というタイトルで今年7月に刊行予定。

【参考】
▼ジェームズ・ノークリフ紹介ページ(New Zealand Book Council 内)
http://www.bookcouncil.org.nz/writers/norcliffe.html

                              (かまだゆうこ)

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"End of the Alphabet"『アルファベットの最後』(仮題)
by Fleur Beale フラー・ビール作
Random House New Zealand, 2009, 255pp. ISBN 978-1869790707
Amazonで詳細を見る
★2010年NZポスト児童図書賞YA小説部門候補作

 ルビーは、母さん、母さんの再婚相手のカルヴィン、弟3人の6人で暮らしている。
すぐ下の弟マックスとルビーは11か月違いで、学年は一緒。学年トップクラスの成績
を誇るマックスに対し、ルビーはディスレクシアのため読み書きがうまくできない。
勉強に集中したいというマックスに広い部屋を占領され、幼い弟たちと3人で狭い部
屋を使うことになっても文句を言わず、忙しい母さんを助けて家事を引き受け、弟た
ちの面倒も見ている。マックスが何ひとつ手伝わなくても、母さんはしかるどころか、
機嫌を損ねるのが怖くてびくびくしているだけ。どうしていつも自分が我慢しなけれ
ばならないのだろうと思いながらも、波風を立てるのがいやで、ついいい子になって
いたルビーだったが、「そんな生活をやめない限り、あんたとは口をきかない」と親
友ティアに言われ、目が覚める。
 家事のストライキを行って、広い部屋を手に入れたルビー。母さんを泣かせたり、
母さんとカルヴィンが言い争うのを見たり、いやな気持ちにもなったが、もう後戻り
はできない。学校ではブラジルの学校との交流プログラムに応募し、その費用を稼ぐ
ためにアルバイトを始めた。いろいろな人たちとの出会いで、ルビーは少しずつ自信
をつけていく。一方、相変わらずわがままなマックスは家庭内で孤立し、ある日突然、
オーストラリアに住む実の父親のもとへ行ってしまった。
 タイトルは、ルビーの名字が“Y”で始まるため、出席を取るときいつも最後に呼
ばれることを指し、また、家でいつも後回しになっていることを象徴している。交流
プログラムの面接で、「趣味は?」「暇なときは何をしていますか?」と聞かれて、
「趣味はありません」「暇な時間なんてありません」と答えるルビー。14歳でこの生
活は確かにつらい。けれど、王子様が現れて今の生活から救ってもらうわけでも、カ
リスマ教師が登場して洗脳されるわけでもない。ルビー自身が「気骨をもとう!」と
常に心がけ、変わっていこうとした結果、家族とのわだかまりや、ディスレクシアで
あるというコンプレックスを乗り越え、成長していく。ルビーに同情し応援していた
読者も、いつしかルビーにあこがれているはずだ。

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【作】Fleur Beale(フラー・ビール):1945年ニュージーランド北島、イングルウ
ッドに生まれ、高校教師を経て作家となる。ヤングアダルト向け小説を中心に30作以
上を執筆。様々な問題を抱えた少年少女が困難を乗り越えていく過程を綴った長編作
品が多い。"Juno of Taris" は2009年NZポスト児童図書賞YA小説部門候補作とな
り、エスター・グレン賞を受賞した。邦訳作品はまだない。ウェリントン在住。

【参考】
▼フラー・ビール紹介ページ(New Zealand Book Council 内)
http://www.bookcouncil.org.nz/writers/bealefleur.html

▼フラー・ビールのインタビュー(Christchurch City Libraries 内)
http://christchurchcitylibraries.com/kids/childrensauthors/fleurbeale.asp

                              (赤塚きょう子)

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●賞速報━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

★2010年MWA賞受賞作発表
★2010年フェニックス賞発表
★2010年ローカス賞ファイナリスト発表(受賞作の発表は6月25〜27日)
★第57回産経児童出版文化賞発表

 海外児童文学賞の書誌情報を随時掲載しています。「速報(海外児童文学賞)」を
ご覧ください。
http://www.yamaneko.org/cgi-bin/sc-board/c-board.cgi?id=award

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●イベント速報━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

★展示会情報
 東京オペラシティ「猪熊源一郎展」
 絵本美術館 森のおうち「アフリカの鼓動 絵本原画展」 など

★講座・講演会情報
 クレヨンハウス大阪店「岡田淳さん講演会」 など

★イベント情報
 いわむらかずお絵本の丘美術館「いわむらかずお おはなし会」 など

 詳細やその他のイベント情報は、「速報(イベント情報)」をご覧ください。なお、
空席状況については各自ご確認願います。
http://www.yamaneko.org/cgi-bin/sc-board/c-board.cgi?id=event

                           (冬木恵子/笹山裕子)

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●お菓子の旅●第52回 ベンガル地方のさわやかな甘さ 〜ロショゴッラ〜
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An imaginary Rashida giggled as she popped one roshogollah after another
into her mouth, devouring the whole pot that Naima had brought home from
the sweet shop.
           "Rickshaw Girl" by Mitali Perkins, Charlesbridge (2007)
          Amazonで詳細を見る
          『リキシャ★ガール』
            ミタリ・パーキンス作/永瀬比奈訳/鈴木出版(2009年)
          Amazonで詳細を見る  bk1で詳細を見る
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 貧困層の女性が自立して働くことが難しいバングラデシュでは、その支援に手をさ
しのべた「グラミン銀行」とその創設者が2006年にノーベル平和賞を受けました。引
用の『リキシャ★ガール』は、そんなバングラデシュが舞台の物語。貧しい家庭の少
女ナイマが自分も働いて家族を助けたいと考え、おとうさんのリキシャ(自転車タク
シー)をこっそり運転してみます。ナイマの頭には、自分が稼いだお金で買ったロシ
ョゴッラを、妹のラシダが次々にほおばっている光景が浮かんでくるのですが……。
 ロショゴッラは、カッテージチーズに似たパニールというチーズをまるめて甘いシ
ロップで煮たお菓子です。バングラデシュからインド東部にまたがるベンガル地方で
は、ミシュティ、ミターイなどと呼ばれる甘いお菓子類が有名で、ロショゴッラもそ
のうちのひとつです。一説によると、もともとはベンガル地方から少し南に下ったイ
ンドのオリッサ州プリーにある、ヒンドゥー教のジャガンナート寺院で生まれたとか。
19世紀後半、コルカタのお菓子職人がその味を広く紹介し、やがてロショゴッラはベ
ンガル地方の名物となっていきました。
 歯が溶けそうなほど甘いといわれるミシュティですが、カルダモンの香りをつけた
ロショゴッラはさわやかな甘さ。とはいえ、ラシダのように次々とほおばろうとする
と、「行動を起こす前に、立ち止まって考えなさい」というナイマのお母さんの声が、
聞こえてくるかもしれませんよ。

*-* ロショゴッラの作り方 *-*
                画像はこちら(やまねこ翻訳クラブ喫茶室)

材料(直径2〜3cmのもの8〜10個分)
 牛乳            800cc     砂糖          1カップ
 レモン汁        大さじ1     水           2カップ
 小麦粉         小さじ1/2     カルダモンパウダー   小さじ1/2

1.牛乳をステンレスかほうろうの鍋に入れ、沸騰するまでゆっくり加熱する。火を
  とめてレモン汁を加え、かきまぜて分離させる。
2.ボウルにのせたざるの上に清潔なふきんを敷き、分離した液を流し込んで漉す。
3.ふきんの上に残ったチーズを包んでよく絞り、おもしをのせて1時間ほど水切り
  をする。ボウルに残った乳清は別の料理に利用する(※)。
4.水切りしたチーズに小麦粉を加え、5分ほど手でこねる。ポリ手袋をはめると扱
  いやすい。
5.鍋に水と砂糖、カルダモンパウダーを入れて軽く煮立たせてシロップをつくる。
6.チーズを直径2〜3cmのボール状にまるめてシロップに入れ、弱火で15〜20分煮
  る。
7.火をとめ、あら熱を取って、シロップごと冷蔵庫で冷やす。

※ 3でできた乳清は、砂糖を加えて飲む、1/3量の砂糖と煮詰めてジャムにする、タ
  ンドーリ・チキンをつけ込むヨーグルトの代用にする、などの利用法がある。

★参考図書、ウェブサイト
『アジア食文化紀行 インド料理』
         ジャズイット・ビュアワル他著/チャールズ・イー・タトル出版
『インド家庭料理入門』
  ロイチョウドゥーリ・ジョイ、ロイチョウドゥーリ・邦子著/農山漁村文化協会
バングラデシュ政府観光局公式ウェブサイト
http://www.parjatan.gov.bd/food.php?category=38
"Indianetzone History of Indian Sweet"
http://www.indianetzone.com/18/history_indian_sweet.htm

★「やまねこ翻訳クラブお菓子掲示板」
        http://www.yamaneko.or.tv/open/c-board/c-board.cgi?id=okashi

★「お菓子の旅画像集」
        http://www.yamaneko.org/kissa/cake_pc/okashi_1.htm

                   (冬木恵子/かまだゆうこ/加賀田睦美)

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●読者の広場● 海外児童文学や翻訳にまつわるお話をどうぞ!
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 本誌4月号の賞情報「国際アンデルセン賞発表」の記事に関し、読者の前田君江さ
んからいただいたメールを抜粋して紹介いたします。
 前田さんはペルシア語の翻訳家で、作家賞ファイナリストのアフマド・レザー・ア
フマディー氏の詩の翻訳を発表されたことがあるとのことでした。
 情報をくださり、ありがとうございました。
 また記事中で、アフマディー氏の著作に「邦訳はない」と記述し、ご迷惑をおかけ
したことを、深くお詫び申し上げます。

「月刊児童文学翻訳」は、正確な記事を目指し努力しております。誤記のご指摘、追
加情報などのご連絡をお待ちしています。いただきました情報は、当該記事のウェブ
サイト版バックナンバーに反映し、今後に役立てていきます。

【前田君江さんより】
 イラン(ペルシア語)文学の翻訳をしております、前田と申します。
 2010年国際アンデルセン賞作家賞のファイナリストのひとりに選ばれました、アフ
マド・レザー・アフマディー(Ahmad Reza Ahmadi) についてです。彼は、メルマガ
にもありましたように、本国イランでは詩人として知られております。日本では昨年
刊行された『現代イラン詩集』(土曜美術社出版販売)に、詩5編(前田訳)と絵本
テキストの抜粋(愛甲恵子訳)が収められ、詳しいプロフィールも紹介されました。


 このコーナーでは、本誌に対するご感想・ご質問をはじめ、海外児童書にまつわる
お話、ご質問、ご意見等を募集しています。mgzn@yamaneko.org までお気軽にお寄せ
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※掲載時には、趣旨を変えない範囲で文章を改変させていただく場合があります。
※質問に対するお返事は、こちらに掲載させていただくことがあります。原則的に編
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