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●賞情報●2010年ニュージーランド・ポスト児童図書賞発表
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ニュージーランドでもっとも注目されている児童文学賞、ニュージーランド・ポス
ト児童図書賞(以下、NZポスト児童図書賞)の2010年の受賞作が、5月19日に発表
された。本賞は、絵本、ノンフィクション、児童読み物、YA小説の4部門から各1
作品を受賞作に選び、さらにその中から年間最優秀図書賞を選出するものだ。子ども
たちの投票で決まる「子どもたちが選んだ本賞」、新人作家対象の「もっとも優れた
デビュー作賞」もある。
以下、本年の受賞作を部門ごとにご紹介する。邦訳作品のある作家は Margaret
Mahy のみと少々寂しいが、裏を返せば、未訳作品の宝庫といえるニュージーランド。
その作家と作品にご注目を!
※やまねこ翻訳クラブでは賞の名称を「ニュージーランド・ポスト児童書及びヤング
アダルト(YA)小説賞」としていましたが、本年は賞の公式ウェブサイトでの表記
にあわせて「ニュージーランド・ポスト児童図書賞」(New Zealand Post
Children's Book Awards)としております。
【2010 New Zealand Post Children's Book Awards】
■年間最優秀図書賞(Book of the Year)
★Winner
"Old Hu-Hu" text by Kyle Mewburn, illustrations by Rachel Driscoll
マオリ語版 "Huhu Koroheke" translation by Katerina Te Heikoko Mataira
(Scholastic New Zealand)
Kyle Mewburn は、2007年に "Kiss! Kiss! Yuck! Yuck!"(Ali Teo and John
O'Reilly 絵)で絵本部門を受賞した実績のある中堅作家だ。"Old Hu-Hu" では、愛
する者の死という重いテーマを、ニュージーランド固有の甲虫を主人公に、ユーモア
を交えて語っている。Rachel Driscoll は、これが2作目という新人イラストレータ
ー。甲虫という見栄えのよくない生きものを、なんとも愛らしい姿に描きあげ、スト
ーリーの温かさとユーモアをみごとに演出している。デザインやレイアウトにもこだ
わりが感じられるこの絵本は、総合的に高く評価され、最高の賞を受賞した。本誌
2010年5月号のレビューを参照のこと。
《マオリ語特殊文字》
「Huhu Koroheke」:「Huhu」の2つの「u」の上にマクロン(-)がつく
「Katerina Te Heikoko Mataira」:「Katerina」の最初の「a」と「Heikoko」の2
つの「o」の上にマクロン(-)がつく
(マオリ語は先住民マオリの言語で、英語同様、ニュージーランドの公用語である)
■絵本部門(Picture Book)
★Winner
"Old Hu-Hu"
年間最優秀図書賞受賞。上記の通り。
☆Honour Award
"The Word Witch"
text by Margaret Mahy, illustrations by David Elliot, edit by Tessa Duder
(HarperCollins New Zealand)
40年以上にわたってニュージーランド児童文学界をリードしている Margaret Mahy。
代表作の多くは英米の出版社から発行されてきたが、"The Word Witch" は、
HarperCollins New Zealand による、ニュージーランドオリジナルの記念すべき作品
集である。66編の詩や物語に絵をつけたのは、ニュージーランド屈指のイラストレー
ター David Elliot、編集は、Mahy の伝記の執筆者でもある作家の Tessa Duder だ。
168ページオールカラーのハードカバーから、Mahy の存在感が伝わってくる。
■ノンフィクション部門(Non Fiction)
★Winner
"E3 Call Home" by Janet Hunt (Random House New Zealand)
Janet Hunt がノンフィクション部門を受賞するのは2度目のこと(初受賞は2004
年の "A Bird in the Hand: Keeping New Zealand Wildlife Safe")。"E3 Call
Home"は、何万キロも旅をする渡り鳥オオソリハシシギの実態調査を題材にした、写
真満載の科学絵本だ。調査のために発信器をつけられたオオソリハシシギのゆくえを
追う内容は、ノンフィクションながら、ドラマチック。世界でも注目された実話であ
る。本誌今月号のレビューを参照のこと。
■児童読み物部門(Junior Fiction)
★Winner
"The Loblolly Boy" by James Norcliffe (Longacre Press)
James Norcliffe は、本賞は初受賞だが、YA小説 "The Assassin of Gleam" が
2007年にエスター・グレン賞候補作に選ばれたほか、詩人としても高く評価されてい
る作家だ。"The Loblolly Boy" は、養護施設で暮らしていた孤独な少年 Michael が、
翼を得て自由に飛び立っていくというストーリー。ファンタジーとリアリズムの共存
が魅力的な、心に響く作品だ。本誌2010年5月号のレビューを参照のこと。
■YA小説部門(Young Adult Fiction)
★Winner
"The Crossing"(Blood of the Lamb Book One)
by Mandy Hager (Random House New Zealand)
Mandy Hager は、YA小説 "Smashed" で、2008年のエスター・グレン賞を受賞し
た実力派の作家である。"The Crossing" は、大異変が起きたあとの地球というダイ
ナミックな設定の中で、大人への過渡期にある15歳の少女 Maryam を主人公に展開す
る、緊迫感あふれるストーリー。3部作の1作目。2作目の "Into the Wilderness"
は、今年4月に出版された。本誌今月号のレビューを参照のこと。
■子どもたちが選んだ本賞(Children's Choice Award)
★Winner
"The Wonky Donkey"
text by Craig Smith, illustrations by Katz Cowley (Scholastic New Zealand)
原作は、ミュージシャンの Craig Smith が作詞作曲した子ども向けの歌。軽快な
メロディーと、脚韻の効いた愉快な歌詞が子どもたちの心をつかみ、CDつきの絵本
に発展した。にかっと笑うロバの表紙が印象的なこの絵本は、2009年10月に出版され
て以来売れ続け、現在も児童書のベストセラーである。
■もっとも優れたデビュー作賞(Best First Book Award)
★Winner
"The Bone Tiki" by David Hair (HarperCollins New Zealand)
ウェリントンのビジネスマンだった David Hair の作家デビュー作 "The Bone Tiki"
が選ばれた。マオリの神話や伝説をモチーフに、主人公の少年が、現在と過去
のニュージーランドをかけめぐるというYA向けの冒険ファンタジー。3部作の1作
目。2作目の "Taniwha's Tears" もすでに出版されている。
《参考》
▼NZポスト児童図書賞公式ウェブサイト
(賞を運営している Booksellers New Zealand ウェブサイト内)
http://www.booksellers.co.nz/awards/new-zealand-post-childrens-book-awards
▼Kyle Mewburn 公式ウェブサイト
http://www.kylemewburn.com/
▼Rachel Driscoll 紹介ページ(New Zealand Book Council 内)
http://www.bookcouncil.org.nz/Writers/Profiles/Driscoll%2C-Rachel.htm
▼Katerina Te Heikoko Mataira 紹介ページ(Storylines 内)
http://www.storylines.org.nz/Profiles/Profiles+I-M/Katerina+Te+Heikoko
+Mataira.html
▼Margaret Mahy 紹介ページ(New Zealand Book Council 内)
http://www.bookcouncil.org.nz/writers/mahym.html
▼David Elliot 公式ウェブサイト
http://www.davidelliot.org/
▼Tessa Duder 公式ウェブサイト
http://www.tessaduder.com/index.html
▼Janet Hunt 紹介ページ(New Zealand Book Council 内)
http://www.bookcouncil.org.nz/writers/huntj.html
▼James Norcliffe 紹介ページ(New Zealand Book Council 内)
http://www.bookcouncil.org.nz/writers/norcliffe.html
▼Mandy Hager 公式ウェブサイト
http://www.mandyhager.com/index.html
▼Craig Smith 公式ウェブサイト
http://www.craigsmith.co.nz/
▽NZポスト児童図書賞について(本誌2004年5月号「世界の児童文学賞」)
http://www.yamaneko.org/mgzn/dtp/2004/05a.htm#bungaku
▽NZポスト児童図書賞受賞作リスト(やまねこ翻訳クラブ資料室)
http://www.yamaneko.org/bookdb/award/nz/nzp/index.htm
▽マーガレット・マーヒー作品リスト(やまねこ翻訳クラブ資料室)
http://www.yamaneko.org/bookdb/author/m/mmahy.htm
(大作道子)
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◎特集1:2010年ニュージーランド・ポスト児童図書賞候補作読書会から その2
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5月号でお知らせした当クラブのNZポスト児童図書賞候補作読書会は、受賞作の
発表で最高の盛り上がりを見せた。なんと、本誌5月号の特集記事でレビューを紹介
した候補作の中から、受賞作が2作品飛び出したのだ。そのうち1作は、年間最優秀
図書賞に輝いた。今月号では、残り2部門の受賞作と、児童読み物部門の候補作から
1作品、計3作品のレビューを紹介する。賞情報の記事で本賞を概観しつつ、各作品
の魅力を存分に味わっていただきたい。
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"E3 Call Home"『E3、応答せよ』(仮題)
by Janet Hunt ジャネット・ハント作
Random House New Zealand, 2009, 40pp. ISBN 978-1869792763
★2010年NZポスト児童図書賞ノンフィクション部門受賞作
3月も終わりに近づくころ、ニュージーランド北部ミランダの浅瀬では、渡り鳥の
オオソリハシシギが旅立ちの季節を迎える。繁殖地のアラスカに向けて、およそ1万
7千キロにも及ぶ長い旅の始まりだ。2007年、その渡りの実態調査のため、あらかじ
め10数羽に小型の発信器が取り付けられた。発信器からの電波は、人工衛星を介して
研究者のコンピューターに届き、研究者たちは軌跡を追うことができる。E7と名付
けられたメスは順調に飛行を続け、中継地である中国黄海沿岸部での休息を経て、無
事アラスカに到着した。その復路、アラスカから直接ニュージーランドに向かう8月
末の飛行は、8日間ノンストップで1万1千キロ余りという、当時確認されたなかで
は最長の記録を打ち立てる。一方E3と名付けられたオスは、予想ルートから外れた
上、発信器もまったく反応しなくなってしまった。E3に一体何があったのか?
2007年に実施されたオオソリハシシギの渡りの調査について、観察中に実写された
写真、イラスト、地図などを用いながら、分かりやすく伝える科学絵本。鳥たちが浅
瀬に集う姿、大空を舞う姿など、見開きいっぱいに掲載された写真の美しさにもひき
つけられるが、何より印象的なのは、調査の対象となったE3とE7の劇的な物語だ。
世界各国で報道されたE7の記録。小さな鳥の体に秘められたとてつもないパワーと、
生まれ持つ渡りの本能に、心底驚かされた。また、調査が思い通りに進まなかったE
3の物語からは、携わった研究者たちの情熱や鳥への愛情が、ひしひしと伝わってく
る。発信器をつけた鳥が飛び立ったら最後、研究者は情報が届くのを待つしかない。
本書を読み進めながら、彼らと一緒に旅の行方を見守っているような気分になった。
文中で説明しきれない点について、各ページ下に詳しい解説を掲載する構成も巧み
だ。読者が筋を追ううちに興味を深め、知識を得られるように、工夫が凝らされてい
る。浅瀬の開発が渡り鳥の生態を脅かしている事実、鳥インフルエンザの発生により
渡り鳥のルート調査に力が入れられるようになった事実は、鳥と人間が互いに影響を
及ぼしあっていることを教えてくれる。地球を舞台に暮らす渡り鳥の驚異の物語は、
自然界の生き物との共存について、考えるきっかけを与えてくれるだろう。
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【作】Janet Hunt(ジャネット・ハント):1951年、ニュージーランド北島タラナキ
に生まれる。主に作家、デザイナーとして活躍中。"A Bird in the Hand: Keeping
New Zealand Wildlife Safe" は、2004年NZポスト児童図書賞で、ノンフィクショ
ン部門と年間最優秀図書賞を同時受賞。"From Weta to Kauri: A Guide to the New
Zealand Forest"(Rob Lucas 共著)は、2005年の同賞同部門候補作に選ばれている。
【参考】
▼ジャネット・ハント紹介ページ(New Zealand Book Council 内)
http://www.bookcouncil.org.nz/writers/huntj.html
▼ジャネット・ハントのインタビュー(Christchurch City Libraries 内)
http://christchurchcitylibraries.com/Kids/ChildrensAuthors/JanetHunt.asp
(平野麻紗)
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"The Crossing" (Blood of the Lamb Book One)
『子羊たちの血1 マリアムと大洋の星』(仮題)
by Mandy Hager マンディ・ヘイガー作
Random House New Zealand, 2009, 288pp. ISBN 978-1869791506
★2010年NZポスト児童図書賞YA小説部門受賞作
太平洋に浮かぶ小さな島オネウェーレ。昔、地球に起こった大異変によって世界中
に食糧難や病気が蔓延していた時、島の暗礁に1艘の腐朽したクルーズ船が乗り上げ
た。苦難の中で島民を助け島の危機を救った勇敢な船員たちは、やがてお告げによっ
て神の使徒となり、クルーズ船〈大洋の星〉は聖都として生まれ変わった。それ以来、
島民たちは使徒に仕え、信心深く暮らしてきたのだ。その中でも選ばれし者とみなさ
れた女子は、幼少から親元を離れて近隣の孤島で〈姉妹〉たちとともに暮らし、初潮
を迎えると〈大洋の星〉に渡って神に仕える誉れを与えられている。15歳の少女マリ
アムにも、とうとうその時がやってきた。「使徒たちに従い、規範には決して異議を
となえぬこと。神のためには喜んで命を捧げること──」神のしもべとして生きるた
めの教えを学んできたマリアムは、期待と不安に包まれながら〈大洋の星〉へ渡った。
しかし、そこで再会した姉妹たちは生気も覇気もなく、眼は黄色くにごっていた。想
像とあまりにもかけ離れた扱いにショックを受け混乱する中、姉妹のひとりが「使徒
たちは島民をコントロールしている。私たちは使徒たちの種族存続のための道具にす
ぎないのよ」という言葉を残して死んでいった。絶望と激しい怒りを感じたマリアム
は、〈大洋の星〉から脱出し生まれ故郷の村へ行こうと決意する。
3部作 "Blood of the Lamb" の1作目。テンポの速いスリリングな展開で、ぐい
ぐい読ませる。天変地異によって瀕死の危機に陥った地球のその後──設定はSF的
だが、まわりから完全に隔離された島の様子には神話のような雰囲気があり、ファン
タジーの世界を感じた。圧力に屈しないまっすぐな心と仲間を思いやる優しさを持つ
マリアムは、内なる強さを秘めた正義のヒロインだ。腐敗した組織の中でマリアムに
希望の光を見いだす大人たちと、これから彼女の人生に深く関わることになる若者た
ち。登場人物それぞれの個性がしっかりと描き分けられ、人間ドラマとしての魅力も
十分だ。組織の最高指導者の甥、ジョセフとのあいだにめばえた恋の行方も大いに気
になる。新たな道を探る主人公は、これから直面する試練をどうやって乗り越えてい
くのか。島民や姉妹たちの未来は? 先が見えない分、2作目への期待もさらに高ま
る。
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【作】Mandy Hager(マンディ・ヘイガー):1960年ニュージーランド北島のレビン
に生まれる。教職を経て、1995年 "Tom's Story" で作家デビュー。2008年に
"Smashed" でエスター・グレン賞を受賞。邦訳はまだない。本シリーズ2作目の
"Into the Wilderness" が今年4月に刊行された。
【参考】
▼マンディ・ヘイガー公式ウェブサイト
http://www.mandyhager.com/
(かまだゆうこ)
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"Sting"『はみだしミツバチ ジギーの大冒険』(仮題)
by Raymond Huber レイモンド・フーバー作
Walker Books, 2009, 160pp. ISBN 978-1921150890
★2010年NZポスト児童図書賞児童読み物部門候補作
主人公はミツバチのジギー。人間でいえば12歳ぐらいのやんちゃな男の子だ。同じ
巣箱の数万匹の家族の中で、なぜかジギーだけは変わり者呼ばわりされ、嫌われてい
る。誰もが守っている巣のルールに納得がいかず、従わないから? みんなと違って
好奇心旺盛すぎるから? 家族と自分はなぜこうも違うのか理由を知りたくて、ジギ
ーは巣の外へと飛び立つ。外の広い世界では、ミツバチを見れば殺すことしか考えな
いスズメバチや、爆弾や毒薬をしかける人間たちなど、恐ろしい危険に次々直面する
が、持ち前の機転や仲良くなった野生のハチたちの協力でなんとか切り抜ける。そし
て、ついに知り得たジギーの出生の秘密の中身は、何とも驚くべきものだった──。
ミツバチらしさという枠からどうしてもはみ出してしまうジギーが、自分は何者な
のかを探っていく冒険物語。ウィットに富んだはぎれのよい文章とスピーディーなス
トーリー展開で、読者をミツバチの世界にぐいぐい引き込んでいく。毎日パーティー
三昧のオスバチや、子どもたちの養育係から女王の侍女へと昇格するメスバチなどが
登場し、まるで人間の話のようだが、これら巣内の様子はミツバチの生態にのっとっ
て書かれている。読者は物語を楽しむうち、自然にミツバチ社会のしくみに詳しくな
れるというわけだ。
ジギーに対する家族の態度は容赦なく、心が痛むが、正義感の強いジギーがあくま
で自分に正直に、信念を貫こうとする姿は爽快だ。読者は、そんなジギーを変わり者
どころか魅力的に感じ、心から応援することだろう。それまで否定され続けてきたジ
ギーが、巣の外でわかり合える友を得て、自分らしさを生かして活躍する様子に、ま
るで自身が認めてもらえたかのような安堵と喜びを感じるのは、私だけではないはず
だ。
殺し屋スズメバチへの復讐の企てや、ミツバチを利用した軍事実験などのエピソー
ドからは、争いを繰り返すことの愚かさ、ミツバチと人間の共存の大切さを伝えたい
という作者の強い思いが感じられる。実際に自宅でミツバチを飼育しているという作
者が込めたそれらのメッセージも、冒険のおもしろさとともにぜひ感じてみてほしい。
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【作】Raymond Huber(レイモンド・フーバー):1958年ニュージーランド、クライ
ストチャーチ生まれ。園芸家、昆虫研究助手、小学校教師などさまざまな職業を経て、
現在は作家、編集者として活躍。小学生向けテキストの執筆を多く手掛けている。児
童書フィクションの執筆は本作品が初めて。邦訳はまだない。2011年には本作品の続
編を出版予定。ダニーデン在住。
【参考】
▼レイモンド・フーバー公式ウェブサイト
http://www.raymondhuber.co.nz/
(石田景子)
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◎特集2:読書会の感想──ニュージーランドが見えてきた?
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6月上旬、2010年NZポスト児童図書賞候補作読書会が約3か月の会期を終えた。
当クラブでは、ニューベリー賞やカーネギー賞など、名の知られた児童文学賞の読書
会は経験があるが、英米以外の国の児童文学賞1つに限定した読書会は、はじめての
試みだった。参加を決める段階で不安を持つ会員もいたが、実際のところはどうだっ
たのか。何が見えてきたのか。南半球の小さな国ニュージーランド(以下、NZ)の
今年の候補作を読み込んでの感想や、読書会の中で得た情報を、まとめてみた。
★本の購入にあたっては、英米の原書の際には大手オンライン書店 Amazon.co.jp を
利用するのが当たり前になってきているが、NZの本となるとめったに扱われていな
い。そこで、経験者からNZの書店をいくつか教えてもらっての注文となった。以下
に各書店の URL を紹介する。この中には、店舗を構えながら、オンラインやメール
での注文も受け付けている小規模書店もふくまれている。
候補作の発表直後で注文が殺到したせいか、今回は注文から出荷までに時間がかか
る場合が多かった。小さい店の場合は、大変な混乱だっただろうと想像する。しかし、
普段の出荷はもっと早いようで、3月4日の発表以前に新刊書を注文していた会員か
らは、翌日にすぐ出荷してくれたとの報告が届いている。どちらにしても、メールで
の連絡が細やかで、問い合わせにも丁寧に答えてくれるのが、ありがたかった。
発表後の注文では、在庫ありの場合、最速が3月8日に注文して3月17日に到着。
注文時在庫なしの場合では、4月になってから届いた例もある。また、NZの郵便局
を出てから日本の自宅に届くまでの期間は、最短で5日、イースターの休みが入ると
2週間くらいかかったケースもあった。(これらはあくまで、今回の実例から)
◎Wheeler's Books http://www.wheelers.co.nz/
割引セールがあったため、利用した会員が多かった。
注文の際に送料と荷造り手数料が表示される。
◎Arts Centre Bookshop http://www.booksnz.com/
クライストチャーチに店舗がある。
送料は注文画面に表示されず、確認メールで通知される。実費のみ。
◎Children's Bookshop http://www.childrensbookshop.co.nz/
クライストチャーチとオークランドに店舗を持つ児童書専門店。
送料は注文画面には表示されず、確認メールで通知される。実費のみ。
〈参加者の声より。以降の項目も同様〉
・送料も思ったほど高くなく、安心して買い物できた。
(PB3冊で、本代が63.97NZドル、送料・荷造り手数料が36.96NZドル。6月
14日現在1NZドル=64円程度。)
・本と一緒に絵葉書が1枚入っていて、その心遣いがうれしかった。
★14名が読書会に参加し、候補作20冊のうち18冊を注文。最終的に14作品、27レビュ
ーが、読書会専用の掲示板にアップされた。
・取り寄せた本が受賞して、うれしかった。
・読んでいない作品も他の人のレビューを通して知ることができ、全体を見渡せた。
・どの作品もすばらしく、NZの作品がもっと日本に紹介されるとよいと思った。
・日本に紹介されていない作家が多いことに驚いた。
★レビューを読み、それに対する感想をやりとりするなかで「NZらしさ」で盛り上
がり、「日本向けには?」という点にも話が発展した。実際に日本の出版社に持ち込
むことも考えてみると……?
・"Cowshed Christmas"、"Old Hu-Hu" などNZの動植物が出てくる作品では、NZ
の豊かな自然や動植物に対する人々の誇りと愛情の深さを感じた。
・NZの魅力は、イギリスやアイルランド的な文化と、マオリやサモアの文化がクロ
スオーバーしたところだと思う。
・NZが前面に出る作品ばかりでもなかった。「NZらしさ」は魅力にもなるが、日
本に紹介するにあたっては、なじみがなさ過ぎてハードルにもなるように思う。
・日本で邦訳が出ている作品をみると、「NZらしさ」の薄いものが目につく。
・マオリの作品もとても好きなのだが、上にあげたような理由で日本の出版社への持
ち込みはむずかしいかなと思う。
★本賞のこれまでの候補作の傾向や、NZ児童書全般への感想・印象にも話が及んだ。
・これまでは地味な作品が多く完成度が今ひとつと感じるものもあったが、今年の候
補作はよい作品が揃っていた。ただ、表紙がもっと魅力的になればと思う。
・同じく、これまで絵本の全体的な色合いに関しても不満の残る作品が多かったが、
今年は "Old Hu-Hu" 、"The Word Witch" など、完成度の高さがうれしかった。
・児童読み物部門の候補作をみると、ページ数が多く、内容の深い作品が多いようだ。
★NZの人口は日本のおよそ30分の1と少なく、出版業界の市場も狭い。そんなNZ
の出版業界や児童文学界をも垣間見ることができ、興味深かった。
・絵本であっても最初からペーパーバックでの出版が多いということに驚いた。英米
以外では同じ状況の国も少なくないようだ。
・マーガレット・マーヒーやジョイ・カウリーなどの世界的に名前の知られた大御所
の場合、初版がイギリスやアメリカの出版社から出ることもめずらしくない。
・英語圏の国であるがゆえに海外から優れた英語の作品が入ってくるため、国内の作
家が育ちにくい、という面もあるのかもしれない。
★参加者に印象的な作品を聞いてみると、"The Loblolly Boy" がいちばん多かった。
ほかには "Old Hu-Hu"、"E3 Call Home" などで、受賞作品と一致する結果となった。
(文責/植村わらび) |