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●速報●2011年 ニューベリー賞/コールデコット賞/プリンツ賞発表!!
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現地時間の1月10日、アメリカで最も権威ある児童文学賞、ニューベリー賞/コー
ルデコット賞の発表が行われた。これらの賞は、米国図書館協会(ALA: American
Library Association)が、前年にアメリカで出版された子どもの本の中で、最も優
れた作品に対して贈るものである。
同時に、ヤングアダルト(YA)作品を対象とするマイケル・L・プリンツ賞の発
表も行われた。この賞の主催は米国図書館協会(ALA)のヤングアダルト部門
(YALSA: Young Adult Library Services Association)である。
▼ALA 公式ウェブサイト
http://www.ala.org/
▼YALSA 公式ウェブサイト
http://www.ala.org/ala/yalsa/yalsa.htm
▼ALA Youth Media Awards ウェブキャスト
(オンタイムで流されたものが、視聴できる)
http://alawebcast.unikron.com/__view2011.php?
各賞の受賞作、およびオナー(次点)は以下の通り。
【ニューベリー賞】(作家対象)
★Winner
"Moon over Manifest" by Clare Vanderpool (Delacorte Press)
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☆Honor Books(4作)
"Turtle in Paradise" by Jennifer L. Holm (Random House Children's Books)
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"Heart of a Samurai" by Margi Preus (Amulet Books)
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"Dark Emperor and Other Poems of the Night"
written by Joyce Sidman, illustrated by Rick Allen
(Houghton Mifflin Books for Children)
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"One Crazy Summer" by Rita Williams-Garcia (Amistad)
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2011年のニューベリー賞に輝いたのは "Moon over Manifest" だ。作者 Clare
Vanderpool は、デビュー作で本賞受賞という快挙を成し遂げた。1936年の夏、11歳
の少女 Abilene はカンザス州の町 Manifest にやってきた。父が鉄道の仕事をする
間、父の友人に預けられることになったのだ。荒れ果てた町の様子にがっかりする
Abilene だったが、ある発見をきっかけに、町の過去、そして父の過去に関心を抱く
ようになる。自らもカンザス州に暮らす作者が物語の舞台にした架空の町 Manifest
は、祖父母の故郷がモデルになっている。第1次世界大戦と世界恐慌というふたつの
時代に光を当てながら、主人公の少女が成長していく姿を描く。
オナーには4作品が選ばれた。"Turtle in Paradise" は、過去に2作品でオナー
に選ばれた Jennifer L. Holm による、11歳の少女 Turtle の物語。1935年、子ども
嫌いの婦人の家で母が住み込みとして働くことになったため、Turtle はフロリダ州
キーウエストで親戚と暮らすことになった。はじめはなじめずにいるが、新しい土地
で今までにない経験をするうちに、少しずつ自分の世界が広がっていく。作者が曾祖
母から聞いた話に着想を得て書いた本作品では、少女の視点から見た1930年代当時の
世相も興味深い。
Margi Preus は、初の長編小説 "Heart of a Samurai" でオナーに選ばれた。主人
公はかの有名なジョン万次郎。その実話に感銘を受けた作者が、実際に来日して調査
し、本作品を書き上げた。1841年、遭難した日本の漁船の乗組員たちが、無人島に漂
着後、アメリカの船に救助された。そのなかのひとりだった14歳の万次郎は、船長に
気に入られて養子となり、アメリカへと渡る。勉学に励んだ後に帰国し、当時の日本
社会に大きな影響を与えることになった万次郎の数奇な運命が、フィクションもまじ
えて生き生きと語られている。
詩集 "Dark Emperor and Other Poems of the Night" は、夜の森で活動する生き
物たちを主役にした12編の詩から成る絵本。すでに詩人として高い評価を受けている
Joyce Sidman と、主に版画家として活躍中の Rick Allen によるコラボレーション
だ。心地よいリズムの詩と、色彩のコントラストが美しいイラストが、本当に夜の森
をのぞいているような気分にさせてくれる。闇に閉ざされているようで、実はさまざ
まな魅力にあふれる夜の世界へと、読者をいざなう1冊だ。
"One Crazy Summer" は、2010年全米図書賞児童書部門最終候補作に選ばれ、2011
年コレッタ・スコット・キング賞作家部門、スコット・オデール賞も受賞した作品。
1968年、父、祖母とニューヨークのブルックリンに暮らす黒人少女の3姉妹は、家を
出たきりになっていた母と夏を過ごすため、カリフォルニア州オークランドに向かう。
ところが久々の再会にもかかわらず、母にはほとんどかまってもらえない。不満に思
う姉妹たちだったが、やがて母の意外な一面を知ることになる。作者 Rita
Williams-Garcia は、黒人解放運動が高まりを見せた時代を背景に、少女たちが母と
過ごした日々を愛とユーモアをこめて描いている。
本年のニューベリー賞は、オナーも含め、選ばれた5冊のうち4冊が過去を題材に
した物語であることが目をひく。過去の時代、さまざまな困難を乗り越えて生きてき
た人々を描いた作品は、現代の読者に勇気と力を与えてくれそうだ。
《参考》
▼ニューベリー賞公式ウェブサイト
http://www.ala.org/ala/mgrps/divs/alsc/awardsgrants/bookmedia/newberymedal/
newberymedal.cfm
▼Clare Vanderpool 公式ウェブサイト
http://www.clarevanderpool.com/
▼Jennifer L. Holm 公式ウェブサイト
http://www.jenniferholm.com/
▼Margi Preus 公式ウェブサイト
http://www.margipreus.com/
▼Joyce Sidman 公式ウェブサイト
http://www.joycesidman.com/
▼Rita Williams-Garcia 公式ウェブサイト
http://www.ritawg.com/
▽ニューベリー賞受賞作リスト(やまねこ翻訳クラブ資料室)
http://www.yamaneko.org/bookdb/award/us/newbery/index.htm
▽ジェニファー・L・ホルム作品リスト(やまねこ翻訳クラブ資料室)
http://www.yamaneko.org/bookdb/author/h/jholm.htm
(平野麻紗)
【コールデコット賞】(画家対象)
★Winner
"A Sick Day for Amos McGee"
illustrated by Erin E. Stead, written by Philip C. Stead
(Roaring Brook Press)
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☆Honor Books(2作)
"Dave the Potter: Artist, Poet, Slave"
illustrated by Bryan Collier, written by Laban Carrick Hill
(Little, Brown and Company)
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"Interrupting Chicken" by David Ezra Stein (Candlewick Press)
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2011年コールデコット賞は、Erin E. Stead の "A Sick Day for Amos McGee" が
受賞した。動物園で働く Amos は、時間をやりくりしては動物たちのもとを訪れ、楽
しい時を過ごしていた。ある日、風邪をひいて仕事を休むことになり……。Amos と
動物たちの交流に、心があたたかくなる絵本。昨年8月に出た邦訳(『エイモスさん
がかぜをひくと』青山南訳/光村教育図書)は、2010年やまねこ賞絵本部門で第2位
に選ばれている。絵の手法は、木版画で色をつけた上に鉛筆で細かな線を描きこんで
いくというユニークなもの。落ち着いた雰囲気の中に、遊び心があちこちにちりばめ
られているのもうれしい。
オナー作品は2冊。Bryan Collier は "Dave the Potter: Artist, Poet, Slave"
で3度目のオナーに選ばれ、コレッタ・スコット・キング賞画家部門も同時に受賞し
た。キング牧師やローザ・パークスなど、歴史に名を刻むアフリカン・アメリカンを
テーマに絵本を描いてきた Collier が今回挑んだのは、"Dave the Potter" の名で
知られる200年前の陶工 Dave。彼は、優れた職人、詩人で、そして奴隷だった。シン
プルで流れるような Laban Carrick Hill の文章と、くすんだアースカラーを用いた
Collier の見事な絵で、Dave の才能と仕事ぶりがうまく表現されている。
David Ezra Stein の "Interrupting Chicken" は、ニワトリの親子が主人公の、
小さな子ども向けの絵本。父ニワトリがおやすみ前の絵本を読んであげていると、静
かに聞いていられない子ニワトリはお話の世界に入っていき、登場人物に危険を教え
てしまうなど、パワー全開。お話はすぐに終わり、父ニワトリは途方にくれる。何か
良策はないものか? 深みのある豊かな色合いに、楽しいキャラクター、奇想天外の
筋で、親も子もお気に入りの1冊になることだろう。
今年もバラエティーに富んだ絵本がそろった。オナー2冊も、邦訳が出版されそう
な予感がする。
《参考》
▼コールデコット賞公式ウェブサイト
http://www.ala.org/alsc/caldecott.html
▼Erin E. Stead 公式ブログ
http://blog.erinstead.com/
▼Philip C. Stead 公式ブログ
http://philipstead.blogspot.com/
▼Bryan Collier 公式ウェブサイト
http://www.bryancollier.com/
▼Laban Carrick Hill 公式ウェブサイト
http://www.labanhill.com/
▼David Ezra Stein 公式ウェブサイト
http://www.davidezra.com/
▼David Ezra Stein 紹介ページ(Finding Dulcinea 内)
http://www.findingdulcinea.com/features/feature-articles/2009/nov/
Children-s-Book-Author-Profile--David-Ezra-Stein.html
▽コールデコット賞受賞作リスト(やまねこ翻訳クラブ資料室)
http://www.yamaneko.org/bookdb/award/us/caldecot/index.htm
▽ブライアン・コリアー作品リスト(やまねこ翻訳クラブ資料室)
http://www.yamaneko.org/bookdb/author/c/bcollier.htm
(植村わらび)
【プリンツ賞】(YA作品対象)
★Winner
"Ship Breaker" by Paolo Bacigalupi (Little, Brown and Company)
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☆Honor Books(4作)
"Stolen" by Lucy Christopher (Chicken House)
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"Please Ignore Vera Dietz" by A. S. King (Alfred A. Knopf)
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"Revolver" by Marcus Sedgwick (Roaring Brook Press)
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"Nothing" by Janne Teller (Atheneum Books for Young Readers)
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プリンツ賞は、前年にアメリカで出版されたYA作品であれば、作品の分野にも作
家の居住地にも制限はなく、過去に他国で出版された作品も対象となる。そのため、
例年受賞作家の顔ぶれも国際的なのが特徴だ。
受賞の栄誉に輝いたのは、これまでSF作品を手がけてきた Paolo Bacigalupi の
初YA作品 "Ship Breaker" だ。舞台は近未来のアメリカ。死と隣り合わせの危険な
船舶解体業で日銭を稼ぐ少年 Nailer は、社会の底辺であえぐように生きている。あ
る日 Nailer は、難破した高級ヨットの中に、富豪の娘らしき少女を発見し……。危
険な仕事に従事する仲間との絶対的な信頼関係、暴力をふるう父親との愛憎関係をベ
ースに、生き残るための、運命との壮絶な戦いが描かれていく。地球温暖化の影響や
船舶解体の様子など、現実社会にも通じるリアルさとともに、遺伝子操作された半人
半獣といった、SF作家ならではの要素も盛り込まれている。
オナーには、今年も4作品が選ばれた。"Stolen" は、Lucy Christopher のデビュ
ー作で、2010年ブランフォード・ボウズ賞も受賞している。16歳のイギリス人少女
Gemma は、空港で誘拐され、オーストラリアの砂漠へと連れて行かれる。誘拐犯の
Ty は、以前から Gemma に狙いを定め、用意周到に計画を立てていた。生き抜くため、
彼と行動を共にせざるをえない Gemma が Ty に抱くようになった感情は、果たして
真の愛情か、それとも「ストックホルム症候群」に過ぎないのか。本作品で数々の文
学賞を受賞した Christopher は、2作目 "Flyaway" も2011年カーネギー賞ロングリ
ストに選ばれており、これからが非常に楽しみな作家である。
"Please Ignore Vera Dietz" は、18歳の少女 Vera の物語。ある日、Vera の親友
で、密かに恋心を抱いていた相手でもある Charlie が死ぬ。Vera は、彼が秘密を抱
えて汚名を着せられたまま死んだことを知っていたが、彼が生前自分を裏切っていた
ことが頭から離れず、警察や彼の家族にその秘密を伝えることをためらう。思い悩む
Vera の頭の中で、いつしか Charlie の声がするようになる……。作者 A. S. King
にとっては、2作目のYA作品だ。
今や文学賞の常連ともいえる Marcus Sedgwick。今まで本賞には選ばれていなかっ
たが、今年は "Revolver" でオナー入りを果たした。すでに2010年カーネギー賞やブ
ックトラスト・ティーンエイジ賞でもショートリストに残っており、高い評価を受け
た作品である。20世紀初頭の北極圏を舞台に、ある親子と1丁の拳銃をめぐってスト
ーリーが展開するサイコロジカルスリラーだ。父の死の直後に現れた大男が、少年
Sig に迫った決断とは?
最後は、デンマークの作家 Janne Teller の初YA作品 "Nothing" だ。ある13歳
の少年が、突然、生きることに意味などなく、すべては「死」を迎えるための無駄な
ステップに過ぎない、と言い出して学校を去る。残されたクラスメートたちは、彼の
考えが間違っていることを証明しようと、それぞれ、生きることの意味を表すものを
集め始める。だが、いつの間にかそれはエスカレートし、コントロールが効かなくな
っていく……。本作品はデンマーク語からの翻訳であるが、すでに本国を含め12か国
で出版されており、今春にはさらにスペインとイギリスでも出版が予定されている注
目作だ。
今年は、受賞作、オナーともに、YA作家としてはフレッシュな顔ぶれが並んだ。
《参考》
▼プリンツ賞公式ウェブサイト
http://www.ala.org/yalsa/printz/
▼Paolo Bacigalupi 公式ウェブサイト
http://windupstories.com
▼Lucy Christopher 公式ウェブサイト
http://www.lucychristopher.com/
▼A. S. King 公式ウェブサイト
http://www.as-king.com/
▼Marcus Sedgwick 公式ウェブサイト
http://www.marcussedgwick.com/Marcus_Sedgwick/Home.html
▼Janne Teller 公式ウェブサイト
http://www.janneteller.dk/?English
▽マイケル・L・プリンツ賞受賞作リスト(やまねこ翻訳クラブ資料室)
http://yamaneko.org/bookdb/award/us/printz/
(村上利佳) |