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●賞情報●2020年カーネギー賞、ケイト・グリーナウェイ賞ショートリスト発表
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3月19日、カーネギー賞およびケイト・グリーナウェイ賞のショートリスト(最終
候補作品)が発表された。英国図書館・情報専門家協会(CILIP: The Chartered
Institute of Library and Information Professionals)が主催するこの賞は、イギ
リスで最も権威ある児童文学賞である。昨年11月4日にノミネート作品(カーネギー
賞91作品、ケイト・グリーナウェイ賞71作品)が、続いて今年2月20日にそれぞれ20
作品のロングリストが発表されている。受賞作品の発表は6月17日の予定。なお、本
賞の授賞式、ならびに子どもたちが図書館や学校などの読書グループを通じて投票す
るシャドワーズ・チョイス賞の発表は、新型コロナウイルス感染拡大の影響により延
期が決まり、10月に開催予定の「Libraries Week 2020」期間中に行われることにな
った。
本号では、ショートリストに選ばれた作品をご紹介する。ロングリストは、やまね
こ翻訳クラブウェブサイトの「速報(海外児童文学賞)」コーナーに掲載中。
http://www.yamaneko.org/cgi-bin/sc-board/c-board.cgi?cmd=tre;id=award#atop
▼カーネギー賞、ケイト・グリーナウェイ賞公式ウェブサイト
https://www.carnegiegreenaway.org.uk/
▼同ウェブサイト内、2020年ショートリスト発表ページ
https://carnegiegreenaway.org.uk/shortlists-for-2020-cilip-carnegie
-and-kate-greenaway-medals-announced/
▽カーネギー賞、ケイト・グリーナウェイ賞について
(本誌1999年7月号情報編「世界の児童文学賞」)
http://www.yamaneko.org/mgzn/dtp/1999/07a.htm#a1bungaku
▽カーネギー賞、ケイト・グリーナウェイ賞受賞作品リスト
(やまねこ翻訳クラブ資料室)
http://www.yamaneko.org/bookdb/award/uk/carnegie/index.htm
http://www.yamaneko.org/bookdb/award/uk/greenawy/index.htm
(※邦訳がある作家、画家については初出の際に片仮名表記を併記しています)
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【カーネギー賞ショートリスト】
〜 2020 CILIP Carnegie Medal Shortlist 〜(作家対象)
"The Black Flamingo" by Dean Atta (Hachette Children's Group)
"Nowhere on Earth" by Nick Lake (Hachette Children's Group)
"Lark" by Anthony McGowan (Barrington Stoke)
"Patron Saints of Nothing" by Randy Ribay (Little Tiger)
"Lampie" by Annet Schaap, translated by Laura Watkinson
(Pushkin Children's Books)
"Voyages in the Underworld of Orpheus Black"
by Marcus Sedgwick and Julian Sedgwick
(Walker Books)
"On the Come Up" by Angie Thomas (Walker Books)
"Girl. Boy. Sea." by Chris Vick (Head of Zeus)
"The Black Flamingo" は、イギリスで最も影響力のあるLGBT活動家のひとり
とされる詩人 Dean Atta が詩の形式を用いて著した初のYA小説だ。ロンドンの大
学生 Michael は、ギリシャとジャマイカに家族のルーツを持ち、自分のアイデンテ
ィティーに悩み続けていた。だが、ゲイをカミングアウトしたことからドラァグクイ
ーンの世界を知り、個性を輝きに変えていく。2020年、優れたLGBT文学に贈られ
る Stonewall Book Award(Children's & Young Adult 部門)を受賞。
"Nowhere on Earth" は、"In Darkness" で2013年プリンツ賞を受賞した Nick
Lake によるスリリングなSF冒険小説。16歳の少女 Emily と“弟”Aidan の乗る小
型飛行機が、雪のアラスカ山地に墜落。操縦士 Bob とともに命を取り留めた2人は、
銃を持った男たちに追われる。実は、Aidan は異星人だったのだ。Aidan を守りなが
らのサバイバルジャーニーとともに、両親との関係を見直す Emily の精神的成長も
読みどころ。作者 Lake は、本賞3度目のショートリスト入りである。
Anthony McGowan(アンソニー・マゴーワン)の "Lark" は、"Brock"、"Pike"、
"Rook" に続く、兄弟の物語。幼いころに別れた母親の来訪を控え、落ち着かない気
持ちの Nicky と Kenny は、ヒバリを探しに荒地に出る。だが楽しい時間は束の間、
天候が急転し、吹雪で道に迷ってしまう。ヨークシャーの美しくも厳しい自然を舞台
に、人生の苦難や家族の絆が描かれ、読者の大きな感動を呼んできた "The Truth of
Things" シリーズの完結作。なお、前作 "Rook" も2018年本賞ショートリストに選ば
れている。
2019年全米図書賞児童書部門ファイナリスト作品にもなった "Patron Saints of
Nothing" は、ドゥテルテ大統領による強硬な対麻薬戦争を背景としたYAフィクシ
ョン。17歳の男子高校生 Jay は、フィリピン人の従兄 Jun が警察に殺害されたと聞
き、真相を探るためにアメリカからフィリピンの親戚の元に向かう。そこで知った真
実とは――? 自らも2つの文化のはざまに生きるフィリピン系米国人作家 Randy
Ribay が正義、贖罪、家族を問う、渾身の1作。
イラストレーターとして活躍中の Annet Schaap が初めて執筆に取り組んだ
"Lampie" は、オランダ発のファンタジー。灯台守の娘 Lampie は、足の不自由な父
親に代わって明かりをともし、船を誘導していた。ところが、ある嵐の夜にマッチを
切らしてしまい、船が難破する。その責任をとるため、モンスターがいると噂される
お屋敷にメイドに出された Lampie。そこから、思いがけない冒険がはじまった――。
「人魚姫」を下敷きに、友情や家族の問題などを盛り込んだ少しダークなおとぎ話。
作者の手による挿絵も美しい。本作はオランダ語からの英訳で、英語以外の言語で書
かれた本が本賞ショートリストに選ばれるのは初めてのことだ。原作は2018年金の石
筆賞を受賞。
"Voyages in the Underworld of Orpheus Black" は、ショートリスト入りが8度
目となる Marcus Sedgwick(マーカス・セジウィック)とその兄 Julian Sedgwick
が文章を手がけ、 Alexis Deacon(アレクシス・ディーコン)がイラストを描いた作
品。第2次世界大戦下のロンドンで、爆撃を受けて病院で目覚めた Harry は、兄の
Ellis は死んだと聞かされる。熱でもうろうとしたまま、Harry は Ellis を助ける
ために地下世界へと旅立つ。そこにギリシャ神話のオルフェウスの世界、Harry と
Ellis が構想する近未来小説の世界が重なって……。詩やイラストを織り交ぜて作り
あげられた幻想的な物語。2020年ケイト・グリーナウェイ賞ロングリスト作品でもあ
る。
"On the Come Up" はデビュー作 "The Hate U Give"(『ザ・ヘイト・ユー・ギヴ
あなたがくれた憎しみ』服部理佳訳/岩崎書店)でブレイクした作家 Angie Thomas
(アンジー・トーマス)の2作目の著作で、2019年ボストングローブ・ホーンブック
賞フィクションと詩部門オナー作品。16歳の少女 Bri の夢は、ラッパーになること。
父親の Lawless は地元で人気のラッパーだったが、Bri が幼い頃にギャングの抗争
に巻き込まれて殺されていた。Bri は、稼ぎ手を失い、貧困に苦しむ家族を救うため、
ラッパーを目指すが、不公平な世間への怒りを込めて作った曲が批判の的になってし
まう。
"Girl. Boy. Sea." は Chris Vick の作品。英国人の少年 Bill はヨットで航海中、
モロッコ沖で嵐に見舞われた。小さな手漕ぎボートでひとり大海を漂っていたところ、
ベルベル人の難民の少女 Aya を見つける。Aya もまた、同じ嵐で船が難破し、樽に
つかまり生きながらえていたのだった。飢えや喉の渇き、暑さに耐えながら救助を待
つあいだ、Aya は Bill に「千夜一夜物語」を語りはじめる。やがて救助が来るかも
しれないという希望は消えかけるが……。ふたりのティーンエージャーのサバイバル
ストーリー。作者の Vick はクジラやイルカの保護慈善団体でも活動をしている作家
で、本作が3作目の小説となる。
《参考》
▼Dean Atta 公式ウェブサイト
https://sites.google.com/site/deanatta/
▼Nick Lake 紹介ページ(Hachette Children's Group ウェブサイト内)
https://www.hachettechildrens.co.uk/contributor/nick-lake/
▼Anthony McGowan 公式ウェブサイト
http://anthonymcgowan.com/anewsite/
▼Randy Ribay 公式ウェブサイト
http://www.randyribay.com/
▼Annet Schaap 公式ウェブサイト(オランダ語)
https://www.annetschaap.com/
▼Laura Watkinson 公式ウェブサイト
http://www.laurawatkinson.com/
▼Marcus Sedgwick 公式ウェブサイト
https://marcussedgwick.com/
▼Julian Sedgwick 公式ウェブサイト
http://www.juliansedgwick.co.uk/
▼Angie Thomas 公式ウェブサイト
http://angiethomas.com/
▼Chris Vick 公式ウェブサイト
https://christophervick12.wixsite.com/website
(小島明子/佐藤淑子/服部理佳)
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【ケイト・グリーナウェイ賞ショートリスト】
〜 2020 CILIP Kate Greenaway Medal Shortlist 〜(画家対象)
"You're Snug with Me" by Poonam Mistry, text by Chitra Soundar
(Lantana Publishing)
"The Iron Man" by Chris Mould, text by Ted Hughes
(Faber & Faber)
"The Suitcase" by Chris Naylor-Ballesteros (Nosy Crow)
"The Undefeated" by Kadir Nelson, text by Kwame Alexander
(Andersen Press)
"The Dam" by Levi Pinfold, text by David Almond
(Walker Books)
"Mary and Frankenstein" by Julia Sarda, text by Linda Bailey
(Andersen Press)
"Tales from the Inner City" by Shaun Tan (Walker Books)
"Child of St Kilda" by Beth Waters (Child's Play)
【特殊文字】
「Julia Sarda」:「Julia」の「u」の上に(´)、
「Sarda」の2つ目の「a」の上に(`)がつく
"You're Snug with Me" は、共にインドにルーツを持つ、作家 Chitra Soundar
(チトラ・サウンダー)とイラストレーター Poonam Mistry が手がけた、シリーズ
2作目。昨年のシリーズ1作目 "You're Safe with Me" に続き、今年も同賞ショー
トリストに選ばれた。インドの伝統芸術からインスピレーションを得た、幾何学模様
を組み合わせた絵で、初めての冬をむかえた2頭のシロクマの子と母グマを描いてい
る。親子の愛情と、自然と共存するために大切なことを平易な言葉で語る作品。
"The Iron Man" は、英国の桂冠詩人で児童文学作家 Ted Hughes(テッド・ヒュー
ズ)が遺した不朽の名作を、2013年にも同賞ショートリストに選ばれた実力派イラス
トレーターの Chris Mould(クリス・モルド)が、力強くスタイリッシュに描いた作
品だ。どこからともなく現れた巨大な鉄製のロボット Iron Man は、鉄でできたもの
を何でも食べてしまう。人々は困り果てたが、少年 Hogarth の機知により、今では
共生の道を歩んでいた。そんなある日、宇宙から地球の破壊を目論んだ怪物が現れて
……。遠近法を駆使し、大胆な構図で描かれる壮大な物語。
"The Suitcase" は、英国出身でフランス在住の Chris Naylor-Ballesteros が難
民をテーマに描いた作品。柔らかな線と淡い水彩画が印象的だ。見たことのない奇妙
な動物が、スーツケースを引きずりながらやってきた。中身は何だろう? 集まって
きた動物たちは興味津々。でも、奇妙な動物はとても疲れていて眠ってしまった。我
慢できなかった動物たちがスーツケースを開けてみたところ……。やっとたどり着い
た場所が、安心できる場所になるようにという願いが込められている。
ニューベリー賞作家でもある現代詩人 Kwame Alexander の黒人讃歌に、力強く写
実的な人物画で評価が高い画家 Kadir Nelson(カディール・ネルソン)が新たな命
を吹き込んだ絵本 "The Undefeated"。作品の詳細は、本誌2020年1月号外「コール
デコット賞受賞作品レビュー」(以下のリンク)をご覧いただきたい。
▽本誌バックナンバー(2020年1月号外)
http://www.yamaneko.org/mgzn/dtp/2020/01g.htm#myomi
2013年に "Black Dog"(『ブラック・ドッグ』片岡しのぶ訳/光村教育図書)で本
賞を受賞した Levi Pinfold(レーヴィ・ピンフォールド)が、"The Dam"(『ダム
この美しいすべてのものたちへ』デイヴィッド・アーモンド文/久山太市訳/評論社)
で今年もショートリスト入り。ダムに沈んでしまう村をまわって歌を歌い、ヴァイオ
リンを奏で、無人となった家々を音楽で満たす父娘の姿を描いた作品。抑えた色調の
絵は、それ自体が静かな音楽の調べのように、抒情的で美しい。
スペイン出身のイラストレーター Julia Sarda はカナダ出身の作家 Linda Bailey
とタッグを組み、"Mary and Frankenstein" で初のショートリスト入りとなった。物
語と空想を愛してやまない少女が、さまざまな怪談から刺激を受け、とある悪夢を見
たのをきっかけに、かの有名な怪奇小説『フランケンシュタイン』を生み出すまでを
描く。Sarda によるどこか不気味で幻想的な絵は、メアリー・シェリーの作品が持つ
世界観を見事に表現している。
日本でも人気が高く、数多くの作品が邦訳出版されている Shaun Tan(ショーン・
タン)の "Tales from the Inner City" は、彼らしい不思議な味わいが魅力の作品。
ワニやチョウ、犬などさまざまな生き物をテーマに書かれた物語や詩はどれも謎めい
てユーモアに満ち、合間に登場する絵は圧倒的な美しさで、まるで画集を眺めている
かのようだ。本作で2度目のショートリスト入りを果たした。
Beth Waters のデビュー作 "Child of St Kilda" は、スコットランドの北西にあ
るセント・キルダ諸島を舞台にした絵本。島では絶えず厳しい自然にさらされながら、
数千年にわたって独自の暮らしが営まれていたが、1930年、ついに全島民がイギリス
本土に移住した。当時5歳だった Norman の目を通して、互いに支えあい、信頼と思
いやりに満ちていた島での日々を綴った作品。落ち着いたピンク色が印象的な版画は、
島の日常を詩情豊かに描き、読み手の想像力をかき立てる。
《参考》
▼Poonam Mistry 公式ウェブサイト
https://www.poonam-mistry.com/
▼Chris Mould 公式ブログ
http://chrismould.blogspot.com/
▼Chris Naylor-Ballesteros 公式ウェブサイト
http://www.chrisnaylorballesteros.com/
▼Kadir Nelson 公式ウェブサイト
https://www.kadirnelson.com/
▼Levi Pinfold 公式ウェブサイト
https://www.levipinfold.com/
▼Julia Sarda 公式ウェブサイト
http://www.juliasarda.com/
▼Shaun Tan 公式ウェブサイト
http://www.shauntan.net/
▼Beth Waters 公式ウェブサイト
http://www.bethwaters.co.uk/
(三好美香/小島明子/山本みき) |