メニュー「月刊児童文学翻訳」バックナンバー>2020年1月号外   オンライン書店
※2月の通常号は休刊いたします。次回は2020年3月号です。どうぞお楽しみに!
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
号外
   =====☆                    ☆=====
  =====◆   月 刊  児 童 文 学 翻 訳   ◆=====
   =====☆   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  ☆=====
                                     #28
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
児童文学翻訳学習者による、児童文学翻訳学習者のための、電子メール版情報誌
http://www.yamaneko.org/                        
編集部:mgzn@yamaneko.org     2020年1月31日発行 配信数 2500 無料
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
●号外 もくじ●
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

◎速報:2020年 ニューベリー賞コールデコット賞プリンツ賞発表!!
 コールデコット賞受賞作品レビュー:"The Undefeated"
              クワミ・アレグザンダー文/カディール・ネルソン絵
◎賞速報
◎イベント速報

▲ページのトップへ


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
●速報●2020年 ニューベリー賞/コールデコット賞/プリンツ賞発表!!
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 現地時間の1月27日朝8時よりフィラデルフィアにて、アメリカで最も権威ある児
童文学賞、ニューベリー賞/コールデコット賞の発表が行われた。これらの賞は、米
国図書館協会(ALA: American Library Association)が、前年にアメリカで出版さ
れた子どもの本の中で、最も優れた作品に対して贈るものである。
 同時に、ヤングアダルト(YA)作品を対象とするマイケル・L・プリンツ賞の発
表も行われた。この賞の主催は米国図書館協会(ALA)のヤングアダルト部門
(YALSA: Young Adult Library Services Association)である。
 本号では、各賞の受賞作品を紹介するとともに、コールデコット賞受賞作品のレビ
ューをお届けする。

▼ALA公式ウェブサイト
http://www.ala.org/home/

▼YALSA公式ページ(ALA内)
http://www.ala.org/yalsa/

▼各賞の受賞作品・オナー(次点)一覧ページ(ALA内)
http://www.ala.org/news/press-releases/2020/01/american-library-association-
announces-2020-youth-media-award-winners
▼ALA Youth Media Awards ウェブキャスト     (発表の様子がオンタイムで流された。2020年1月31日現在も視聴できる) http://ala.unikron.com/about2020.php  各賞の受賞作品、およびオナー作品は以下の通り。 (※邦訳がある作家、画家については初出の際に片仮名表記を併記しています) ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 【ニューベリー賞】(作家対象)  ★Winner  "New Kid" by Jerry Craft (HarperCollins Children's Books)  ☆Honor Books(4作)  "The Undefeated" written by Kwame Alexander, illustrated by Kadir Nelson                                   (Versify)  "Scary Stories for Young Foxes" written by Christian McKay Heidicker,               illustrated by Junyi Wu (Henry Holt and Company)  "Other Words for Home" by Jasmine Warga (Balzer + Bray)  "Genesis Begins Again" by Alicia D. Williams                      (Atheneum Books for Young Readers)  今年のニューベリー賞は、史上初となるグラフィックノベル作品 "New Kid" が輝 いた。作者は、アフリカ系アメリカ人の漫画家でイラストレーターとしても活躍する Jerry Craft。本作でコレッタ・スコット・キング賞作家部門も受賞している。  12歳の少年 Jordan Banks は、肌身離さずノートを持ち歩いては漫画を描いている。 本当は絵の勉強がしたいのに、両親は Jordan を有名私立中学に通わせることにした。 だが、その学校に通う白人以外の生徒は、Jordan を含め数人しかいない。新しい学 校に違和感をおぼえ、地元の友だちとのあいだにも距離を感じるようになった Jordan は、自宅と学校というふたつの世界を行き来する生活を冒険譚になぞらえ、 漫画を描き続ける。作中には Jordan の漫画が随所に登場し、大人たちの言い分の滑 稽さや日々味わう理不尽さを少年の目を通して描きながらも、思わず笑ってしまうユ ーモアに満ちている。グラフィックノベルという手法とあいまって、重くなりがちな テーマを明るく軽やかに描いた作品だ。  オナーには4作品が選ばれた。"The Undefeated" は、2015年に "The Crossover" で本賞を受賞した Kwame Alexander が手がけた作品。苦難の歴史を乗り越え、栄光 を勝ち取ってきたアフリカ系アメリカ人たちの道のりを力強い詩とともに振り返る。 2019年全米図書賞児童書部門ロングリストに選出されたほか、本年のゴールデン・カ イト賞絵本部門(文)オナーにも選ばれている。Kadir Nelson(カディール・ネルソ ン)によるイラストも高く評価され、本年のコールデコット賞も受賞した。詳しくは 本号のレビューでご紹介する。  "Scary Stories for Young Foxes" は、登場するのはキツネばかりという設定や幻 想的な挿絵と裏腹に、不気味な雰囲気が全編を覆う。母親の聞かせるお話に退屈した 7匹の子ギツネたちが、森の奥深くの洞窟に暮らす謎の「ストーリーテラー」のもと を訪れ、怖い話をねだる場面から物語は幕を開ける。ただし、最後まで話を聞かなけ れば必ず悪いことが起こるらしい。いざ始まったお話は予想をはるかに上回る怖さで ……。エドガー・アラン・ポーらの影響を受けた Christian McKay Heidicker によ る、子ども向けの本格的な怪奇小説だ。  "Other Words for Home" は、シリア難民の少女を語り手に、自由詩の形式で書か れた作品だ。国が政情不安に揺れる中、12歳の Jude が暮らす海辺の街も安全とはい えなくなり、Jude は父や兄と別れて母とともにアメリカに向かう。シンシナティに 住む親戚一家のもとで始まった新生活は戸惑いの連続だったが、新たな友だちややり がいを得て、Jude は自分の居場所を見いだしていく。教職を経て、2015年にYA小 説 "My Heart and Other Black Holes" でデビューした作家 Jasmine Warga による 初の中学年向け読み物。知人のシリア人一家を訪れたときの経験が、本書に取り組む きっかけのひとつになったという。  Alicia D. Williams は、デビュー作となる "Genesis Begins Again" でオナーに 選ばれた。13歳のアフリカ系アメリカ人の少女 Genesis は自分のことが大嫌いだ。 ギャンブルとアルコールに依存する父のせいで不安定な家庭環境も、父そっくりの濃 い肌の色も、嫌でたまらない。昔友だちから渡された「Genesis が嫌いな100の理由」 というリストは、元々60ほどしか埋まっていなかったが、自分でどんどん追加して、 もうすぐ100に届く。ところが、父と離れて母とともに祖母の家に身を寄せ、新しい 学校に通うようになった Genesis に転機が訪れる──。教師でもある作者 Williams は、多感な少女の胸の内とその成長を生き生きと描き、本年のコレッタ・スコット・ キング賞 John Steptoe New Talent Author Award(新人作家賞)も受賞した。  今年のニューベリー賞は、新進気鋭の作家が顔を揃え、アフリカ系アメリカ人の作 家が3名選ばれた。グラフィックノベル、詩、怪奇小説など、多彩な表現方法も目を 引く結果となった。いずれの作家もまだ邦訳がなく、日本で紹介されるのが楽しみだ。 《参考》 ▼ニューベリー賞公式ウェブサイト http://www.ala.org/alsc/awardsgrants/bookmedia/newberymedal/newberymedal ▼Jerry Craft 公式ウェブサイト https://jerrycraft.com/ ▼Kwame Alexander 公式ウェブサイト https://kwamealexander.com/ ▼Christian McKay Heidicker 公式ウェブサイト http://www.cmheidicker.com/ ▼Jasmine Warga 公式ウェブサイト http://jasminewarga.com/ ▼Alicia D. Williams 公式ウェブサイト https://www.aliciadwilliams.com/ ▽ニューベリー賞受賞作品リスト(やまねこ翻訳クラブ資料室) http://www.yamaneko.org/bookdb/award/us/newbery/index.htm                            (山本みき/平野麻紗) + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + 【コールデコット賞】(画家対象)  ★Winner  "The Undefeated" illustrated by Kadir Nelson, written by Kwame Alexander                                   (Versify)  ☆Honor Books(3作)  "Bear Came Along" illustrated by LeUyen Pham, written by Richard T. Morris                          (Little, Brown and Company)  "Double Bass Blues" illustrated by Rudy Gutierrez,                 written by Andrea J. Loney (Alfred A. Knopf)  "Going Down Home with Daddy" illustrated by Daniel Minter,            written by Kelly Starling Lyons (Peachtree Publishers)  2020年の栄えあるコールデコット賞は、Kadir Nelson(カディール・ネルソン)が 絵を手がけた詩の絵本 "The Undefeated" に贈られた。アメリカ社会で生きてきた黒 人の人々にフォーカスした本書は、本年のニューベリー賞オナーにも選ばれ、コレッ タ・スコット・キング賞画家部門も受賞するなど、数々の賞に輝いた。油彩で描かれ た写実的な人物画は、迫力にあふれ、見る者の目を引き付けて離さない。ネルソンは、 アフリカ系アメリカ人の歴史や文化を題材にした作品ですでに高く評価されており、 2007年に "Moses: When Harriet Tubman Led Her People to Freedom"(『ハリエッ トの道』キャロル・ボストン・ウェザフォード文/さくまゆみこ訳/日本キリスト教 団出版局)で、2008年に "Henry's Freedom Box"(『ヘンリー・ブラウンの誕生日』 エレン・レヴァイン文/千葉茂樹訳/鈴木出版)で、それぞれコールデコット賞オナ ーに選出されている。本賞受賞作の詳細は、本号のレビューをご覧いただきたい。  オナーには3作品が選ばれた。川のそばで暮らす動物たちのスリリングな冒険を描 いた "Bear Came Along" は、ベトナム出身のイラストレーター LeUyen Pham(レウ ィン・ファム)による作品。『かわにくまがおっこちた』(リチャード・T・モリス 文/木坂涼訳/岩崎書店)のタイトルで、すでに邦訳が刊行されている。昔話風の語 り口でゆったりと始まるこの物語は、川にくまがおっこちてから徐々に速度を増し、 まるでジェットコースターのような様相になっていく。それと共に、モノトーンだっ た画面に色が差し始め、鮮やかな世界へと変わっていく。皆が互いを信頼し、力を合 わせれば、世界は今よりもっと広がり楽しくなると教えてくれる。ファムは100冊以 上の児童書で絵を手がけており、邦訳には本書のほか、「ヴァンピリーナはバレリー ナ」シリーズ(アン・マリー・ペイス文/ 神戸万知訳/講談社)などがある。  "Double Bass Blues" は、今にも音が聞こえてきそうな表紙が目を引く。本作で絵 筆をふるうのは、絵本だけでなく、CDジャケットやミュージックビデオなどでも音 楽関係の作品を手がけているイラストレーター Rudy Gutierrez だ。作家 Andrea J. Loney(アンドレア・J・ローニー)がオノマトペや短いセリフなど文字を厳選して 表現した物語と、音符が効果的に配置された色鮮やかなイラストが響き合い、生き生 きとしたハーモニーを奏で出す。Nic は、コントラバスが大好きな男の子だ。オーケ ストラでの演奏を終えて、学校を出るときも、その背中には大切なコントラバス。自 分より大きな楽器と歩む道のりは大変だが、向かう先には楽しいことが待っている─ ─。音楽が生み出す喜びや人のつながりのあたたかさが、困難を乗り越える力になる ことを感じさせてくれる作品だ。  "Going Down Home with Daddy" は、家族のルーツに思いをはせる物語。黒人の少 年 Lil Alan の家族にとって、ひいおばあさんの家は特別な場所だ。例年、親戚一同 が集う場所であり、苦難のすえ手にしたその土地で、ひとつひとつ刻んできた一族の 歴史に触れる場所でもある。その日、子どもたちは皆、詩や歌などで自分たちが受け 継いでいるものを披露するはずだったのだが、何も準備していなかった Lil Alan は ……。Kelly Starling Lyons の詩的で力強い文章を Daniel Minter の美しいアクリ ル画が彩る。大胆な筆使いで背景に描かれたアフリカの伝統的なシンボルが、家族の 中に息づく文化を浮かび上がらせ、対比するように緻密なタッチで描き込まれた模様 は、新しい土地に根をはり生活を築いてきた家族の物語を象徴しているようだ。  今年のコールデコット賞は、仲間や家族、そして人と人のつながりを意識させる作 品が並んだ。今ここに生きる私たちは、これまで懸命に人生を切り開いてきた人々の 大きなつながりの中にいる。困難な時代にあっても、そのつながりを糧に、前を向い てまた一歩踏み出そうと思える、力強いラインアップだ。 《参考》 ▼コールデコット賞公式ウェブサイト http://www.ala.org/alsc/awardsgrants/bookmedia/caldecottmedal/caldecottmedal ▼Kadir Nelson 公式ウェブサイト https://www.kadirnelson.com/ ▼LeUyen Pham 公式ウェブサイト http://www.leuyenpham.com/ ▼Rudy Gutierrez 紹介ページ(Altpick.com ウェブサイト内) https://altpick.com/rudygutierrez ▼Daniel Minter 公式ウェブサイト http://danielminter.net/ ▽コールデコット賞受賞作品リスト(やまねこ翻訳クラブ資料室) http://www.yamaneko.org/bookdb/award/us/caldecot/index.htm                            (蒲池由佳/増山麻美) + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + 【プリンツ賞】(YA作品対象)  ★Winner  "Dig" by A. S. King (Dutton Books for Young Readers)  ☆Honor Books(4作)  "The Beast Player" written by Nahoko Uehashi, translated by Cathy Hirano                           (Godwin Books/Henry Holt)  "Laura Dean Keeps Breaking Up with Me"      written by Mariko Tamaki, illustrated by Rosemary Valero-O'Connell             (First Second/Macmillan Children's Publishing Group)  "Ordinary Hazards: A Memoir" by Nikki Grimes (Wordsong)  "Where the World Ends" by Geraldine McCaughrean (Flatiron Books)  シュールレアリスム的なYA作品が高い評価を得ている A. S. King。「腹を殴ら れたようなインパクトのある作品だった」と審査員が語る "Dig" が本年の受賞作に 選ばれた。ペンシルベニア州を舞台とする、ある一族の物語だ。じゃがいも畑の土地 を売って億万長者になった夫妻。妻 Marla は善良に振る舞うが、白人至上主義の考 え方に固執していた。物語は離れて暮らす5人の孫の視点から語られる。母の身勝手 で転校を繰り返し、お守りとして雪かき用スコップを持ち歩く少年 The Shoveler、 差別主義者の両親に反発し、ドラッグを売る少女 CanIHelpYou?、貧しい家庭で義父 から虐待を受け、空想で心を癒す少女 Loretta the Flea-Circus Ring Mistress、母 を亡くし、父も末期がんに侵されている少年 First-Class Malcolm、4人の前に現れ、 予言のような言葉を残すミステリアスな少女 The Freak。個性的なあだ名で登場する 孫たちはみな不幸だ。しかしマイノリティーを自然と受け入れる柔軟な心を持ち、負 の連鎖から抜け出そうとあがいている。現代でも人種差別や偏見が根強く残っている ことを危惧する作者は、若者には差別社会を変えていく力があると訴えかけている。  オナーには4作品が選ばれた。"The Beast Player" は、2014年に国際アンデルセ ン賞作家賞に輝いた上橋菜穂子氏のファンタジー小説「獣の奏者」(講談社)の英語 翻訳版だ。シリーズ全5巻のうち、『獣の奏者 1闘蛇編』『獣の奏者 2王獣編』 の英訳が1冊に収められている。決して人に馴れないといわれる、大いなる力を持つ 王獣。少女エリンは王獣の医術師を志すうちに、王獣を操る術を見つけてしまい、王 国の勢力争いに巻きこまれていく──。日本人作家がプリンツ賞のオナーになるのは 初の快挙。また、平野キャシー氏の訳によって、優れた翻訳出版物に贈られるバチェ ルダー賞オナーにも選ばれている。  "Laura Dean Keeps Breaking Up with Me" は、日系カナダ人作家 Mariko Tamaki (マリコ・タマキ)が文章を、Rosemary Valero-O'Connell がイラストを手がけたグ ラフィックノベル。マリコ・タマキは思春期の性や葛藤を赤裸々に描く作風が若者か ら支持され、2015年にはいとこの Jillian Tamaki(ジュリアン・タマキ)がイラス トを手がけた "This One Summer" でもプリンツ賞オナーに選ばれている。本作では、 女子高校生カップルの不安定な恋愛関係を通して、恋や友情、自分探しに悩む青春の 日々を描いている。  "Ordinary Hazards: A Memoir" は、今では作家として様々な賞を受賞している Nikki Grimes(ニッキ・グリムズ)が、つらい幼少期の体験を韻文形式でつづった回 想録。3歳のころ、ベビーシッターにクローゼットに閉じこめられた記憶から本書は 始まる。家族を顧みない父、アルコール依存症で精神科への入退院を繰り返す母、里 親から里親へとたらい回しにされた日々。6歳で初めて心の痛みを紙に書き出すこと を覚えると、書くことが心の支えになってその後を耐え抜くことができたという。作 者自身が朗読したオーディオブックもある。  "Where the World Ends" は、スコットランドの史実を元にした冒険物語。ベテラ ン児童文学作家 Geraldine McCaughrean(ジェラルディン・マコックラン)の作品で、 2018年にカーネギー賞も受賞している。1727年、9人の少年と3人の男が海鳥を獲り に無人島へ渡ったが、予定の3週間を過ぎても迎えの船が来ない。過酷な環境下で精 神的、肉体的に追いつめられるなか、少年たちは生きて故郷に帰ろうと奮闘する。 『世界のはての少年』(杉田七重訳/東京創元社)というタイトルで、2019年に邦訳 出版されている。詳しくは、本誌2018年7月号「カーネギー賞受賞作品レビュー」 (原書レビュー、以下のリンク)を参照していただきたい。 ▽本誌バックナンバー(2018年7月号) http://yamaneko.org/mgzn/dtp/2018/07.htm#myomi  今年のプリンツ賞には、ベテラン作家の作品が並んだ。シュールレアリスム、異世 界ファンタジー、グラフィックノベル、回想録に歴史ものとジャンルは様々だが、若 者の内面を繊細に描いた読みごたえのあるラインアップとなった。 《参考》 ▼プリンツ賞公式ウェブサイト http://www.ala.org/yalsa/printz/ ▼A. S. King 公式ウェブサイト https://www.as-king.com/ ▼上橋菜穂子公式ウェブサイト http://uehashi.com ▼Mariko Tamaki 公式ブログ http://marikotamaki.blogspot.jp/ ▼Nikki Grimes 公式ウェブサイト https://www.nikkigrimes.com/ ▼Geraldine McCaughrean 公式ウェブサイト https://www.geraldinemccaughrean.co.uk/ ▽マイケル・L・プリンツ賞受賞作品リスト(やまねこ翻訳クラブ資料室) http://www.yamaneko.org/bookdb/award/us/printz/ ▽「賞情報:2014年国際アンデルセン賞発表」※上橋菜穂子氏、作家賞受賞                             (本誌2014年4月号) http://www.yamaneko.org/mgzn/dtp/2014/04.htm#sokuho1                                (山本真奈美) ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ★2020年コールデコット賞受賞作品 ★2020年ニューベリー賞オナー作品 ★2020年コレッタ・スコット・キング賞画家部門受賞作品 ★2020年ゴールデン・カイト賞絵本部門(文)オナー作品 ★2019年全米図書賞児童書部門ロングリスト作品 "The Undefeated" 『屈せざる者』(仮題) text by Kwame Alexander, illustrations by Kadir Nelson クワミ・アレグザンダー文/カディール・ネルソン絵 Houghton Mifflin Harcourt, 2019, 40pp. ISBN 978-1328780966 (US) (HB) Andersen Press Ltd, 2019, 40pp. ISBN 978-1783449286 (UK) (HB) (このレビューは UK 版を参照して書かれています)  振り上げる拳と、語りかけるような目。黒人男女の人物像を配した表紙が、「屈せ ざる者」のタイトルとともに、そのメッセージを主張する。アメリカの現代詩人クワ ミ・アレグザンダーの詩を元に、画家カディール・ネルソンが絵筆をふるった作品だ。  歌われるのは、忘れがたい者、動じない者、恐れない者、並外れた者。詩に対応す る人物画は写実的で、キング牧師やモハメド・アリ、ルイ・アームストロングのイラ ストはすぐにそれと分かる。巻末には、それぞれのページに描かれた人物や出来事の 説明が掲載されており、アメリカの歴史を知るための資料としても意義深い。ゾラ・ ニール・ハーストン、ビリー・ホリデイ、そしてセリーナ・ウィリアムズ。アメリカ を力強く生き、名を残した人々の系譜がそこにある。  だが、過酷な運命に打ち負かされた人々もいる。生き延びられなかった者に捧げら れる、白いページが胸を突く。「声なき者へ」のリフレインは数ページに及び、奴隷 船に詰め込まれた裸の人々、人種差別テロや警官の銃で命を奪われた若者たちの顔が、 静かな怒りとともに描かれる。先の見えない者、語られない者──歴史のなかで踏み にじられてきた無数の者たちに、思いを馳せずにはいられない。  2016年、"This one is for us" のタイトルで発表された本詩は、娘の誕生とオバ マ氏の大統領就任を機に創作されたものという。ラングストン・ヒューズなどの黒人 詩人、キング牧師やマルコムXの言葉を散りばめ、今を生きる人々を勇気づける一編 である。詩人本人による朗読パフォーマンスは、ウェブサイト "The Undefeated" で 現在も視聴が可能だ。切迫感ある朗読とさまざまな人物の映像が動画編集され、畳み かけるようなスピードに、息を止めて見入ってしまう。  動画の発表から3年後、その詩は絵本の形で、新たな姿を見せてくれた。読む者は、 人々の絵と向き合い、ゆっくりとページをめくるため、端的な詩の言葉に余韻が生じ る。最後のページで前を向く少年少女の表情は明るい。希望に満ちたその微笑みは、 アメリカ社会を生き延びた「屈せざる者」たちが数世代を経て獲得した自信であり、 画家ネルソンから若い読者への贈り物にちがいない。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 【文】Kwame Alexander(クワミ・アレグザンダー):米国の詩人、作家。本書を含 む著書の30作以上がニューヨークタイムズベストセラーに輝いている。数多くの賞を 受賞し、詩の形式で綴ったYA小説 "The Crossover" で2015年ニューベリー賞を受 賞。子どもたちに幅広い本を届ける #AllBooksForAllKids 運動に参画、海外との交 流も積極的におこなっている。邦訳はまだない。バージニア州在住。 【絵】Kadir Nelson(カディール・ネルソン):米国の画家。油絵による写実的な人 物画を得意とし、コレッタ・スコット・キング賞、コールデコット賞オナー、ニュー ヨークタイムズ・ベストイラスト賞ほか、受賞歴多数。邦訳に『ネルソン・マンデラ』 (さくまゆみこ訳/鈴木出版)、『ワンガリ・マータイさんとケニアの木々』(ドナ ・ジョー・ナポリ文/千葉茂樹訳/鈴木出版)などがある。 【参考】 ▼クワミ・アレグザンダー公式ウェブサイト https://kwamealexander.com/ ▼カディール・ネルソン公式ウェブサイト https://www.kadirnelson.com/ ▼作者による朗読パフォーマンス(The Undefeated ウェブサイト内) https://theundefeated.com/videos/this-one-is-for-us/ ※2020年1月31日現在、アクセスしづらい状況になっています。                                 (小島明子)

▲ページのトップへ


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
●賞速報━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

★2019年カナダ総督文学賞児童書部門発表
★2019年ニルス・ホルゲション賞発表
★2019年エルサ・ベスコフ賞発表
★2019年オランダ金・銀の絵筆賞発表
★2019年オランダ金・銀の石筆賞発表
★2019年度コスタ賞児童書部門発表
★2020年国際アンデルセン賞ショートリスト発表(受賞者の発表は3月30日の予定)
★2020年スコット・オデール賞発表
★2020年ゴールデン・カイト賞、シド・フライシュマン賞発表
★2020年MWA賞(児童図書部門/YA小説部門)候補作発表
                     (受賞作品の発表は4月30日の予定)
★2020年児童文学遺産賞(旧ローラ・インガルス・ワイルダー賞)発表
★2020年シュナイダー・ファミリーブック賞発表
★2020年ロバート・F・サイバート知識の本賞発表
★2020年コレッタ・スコット・キング賞発表
★2020年セオドア・スース・ガイゼル賞発表
★2019年度アガサ賞児童書およびヤングアダルト部門候補作品発表
                     (受賞作品の発表は5月2日の予定)
★2020年プーラ・ベルプレ賞発表

 海外児童文学賞の書誌情報を随時掲載しています。「速報(海外児童文学賞)」を
ご覧ください。
http://www.yamaneko.org/cgi-bin/sc-board/c-board.cgi?id=award

▲ページのトップへ


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
●イベント速報━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

★展示会情報
 静岡市美術館「不思議の国のアリス展」
 高知県立美術館「ぼくとわたしとみんなの tupera tupera 絵本の世界展」 など

★講演会情報
 豊洲文化センター「〜児童書からミステリーまで〜
            特別公開講座『今知りたい!フィンランド文学の魅力』」
 京都女子大学「絵本フォーラム2019 『ぼくのたび』ができるまで
            絵本作家みやこしあきこ・絵本編集者沖本敦子」 など

 詳細やその他のイベント情報は、「児童書関連イベント情報掲示板」をご覧くださ
い。なお、空席状況については各自ご確認願います。
http://www.yamaneko.org/cgi-bin/sc-board/c-board.cgi?id=event

                          (山本真奈美/冬木恵子)

▲ページのトップへ


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
●お知らせ●

 本誌でご紹介した本を、各種のインターネット書店で簡単に参照していただけます。
こちらの「やまねこ翻訳クラブ オンライン書店」よりお入りください。
http://www.yamaneko.org/info/order.htm
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 2017年2月28日発行の増刊号No.9でご紹介した "Are You an Echo?" が1月下旬
に邦訳刊行されました。

 『こだまでしょうか? いちどは失われたみすゞの詩』
(金子みすゞ詩/羽尻利門絵/デイヴィッド・ジェイコブソン物語/
       サリー・イトウ&坪井美智子 詩の英訳と編集協力/フレーベル館)

JULA出版局作品紹介ページ
http://www.jula.co.jp/2020/01/d_/745.php

本誌増刊号No.9「絵本 "Are You an Echo?" 金子みすゞを英語圏の子どもたちへ」
http://www.yamaneko.org/mgzn/plus/html/z09/index.htm

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
▽▲▽▲▽   海外児童書のシノプシス作成・書評執筆を承ります   ▽▲▽▲▽

  やまねこ翻訳クラブ(yagisan@yamaneko.org)までお気軽にご相談ください。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
発 行 やまねこ翻訳クラブ
編集人 三好美香/森井理沙/平野麻紗(やまねこ翻訳クラブ スタッフ)
企 画 赤塚きょう子 大作道子 尾被ほっぽ かまだゆうこ 蒲池由佳 小島明子
    手嶋由美子 冬木恵子 増山麻美 山本真奈美 山本みき
協 力 出版翻訳ネットワーク 管理人 小野仙内
    shoko ながさわくにお みーこ ゆま レイラ ワラビ
    html版担当 ayo
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
・このメールマガジンは、「まぐまぐ」( http://www.mag2.com/ )を利用して配信
しています。購読のお申し込み、解除は下記のページからお手続きください。
http://www.mag2.com/m/0000013198.html
・バックナンバーは、http://www.yamaneko.org/mgzn/ でご覧いただけます。
・ご意見・ご感想は mgzn@yamaneko.org までお気軽にお寄せください。
・無断転載を禁じます。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
 

メニュー「月刊児童文学翻訳」バックナンバー>2020年1月号外   オンライン書店

Copyright (c) 2020 yamaneko honyaku club. All rights reserved.

やまねこ翻訳クラブロゴ