━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
●賞情報●速報! 2024年全米図書賞児童書部門 ファイナリスト発表!
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
10月1日、2024年全米図書賞(National Book Awards)のファイナリスト(最終候
補作品)が発表された。
アメリカ人作家による優れた文学作品の普及と読書人口の増加を目的として1950年
に創設された本賞は、1989年から全米図書財団(The National Book Foundation)が
主催している。対象部門は時とともに変遷し、2018年から、フィクション、ノンフィ
クション、詩、児童書、翻訳作品の5部門となった。前年12月1日から当年11月末日
までにアメリカで出版された(または出版される)作品を対象に、文学的価値を重視
して選考される。児童書部門は1969年に設けられ、1984年にいったん廃止されたが、
1996年に復活した。以来、ジャンルを問わずもっとも優れた児童書に贈られている。
今年は9月10日から13日にかけて各部門のロングリスト10作品が発表され、その中
から各5作品がファイナリストに選ばれた。受賞作品の発表は、11月20日の予定。
本号では、児童書部門(Young People's Literature)のファイナリストおよびロ
ングリストに選ばれた作品をご紹介する。
▼2024年全米図書賞ファイナリスト発表ページ
(National Book Foundation ウェブサイト内)
https://www.nationalbook.org/2024-national-book-awards-finalists-announced/
▼上記ウェブサイト内、児童書部門ロングリスト発表ページ
https://www.nationalbook.org/2024-national-book-awards-longlist-for-young
-peoples-literature/
▽全米図書賞(児童書部門)受賞作品リスト(やまねこ翻訳クラブ資料室)
http://www.yamaneko.org/bookdb/award/us/nba/index.htm
(※邦訳がある作家、画家については初出の際に片仮名表記を併記しています)
★Finalists(5作)
"Buffalo Dreamer"
by Violet Duncan (Nancy Paulsen Books)
"The Great Cool Ranch Dorito in the Sky"
by Josh Galarza (Henry Holt and Company (BYR))
"The First State of Being"
by Erin Entrada Kelly (Greenwillow Books)
"Kareem Between"
by Shifa Saltagi Safadi (G.P. Putnam's Sons Books for Young Readers)
"The Unboxing of a Black Girl"
by Angela Shante (Page Street Publishing)
【特殊文字】
「Angela Shante」:「Shante」の「e」の上に(´)がつく
Violet Duncan の "Buffalo Dreamer" は、北米先住民の歴史の伝承を主題にした
物語。少女 Summer は12歳の夏、寄宿学校から逃げる夢を見る。同じころ、祖父が幼
少期を過ごした学校で、無名の子どもたちの墓が発見される。Summer は、先住民の
子どもたちが家族から引き離され、伝統的な文化を奪われた痛ましい歴史を語り継ぐ
ために声を上げる。作者 Duncan は、カナダの先住民族出身で、父親や親類の実体験
から本作を着想したという。これまでに、先住民の文化を伝える絵本を3冊制作。国
内外のイベントでダンサー、ストーリーテラーとしても活動している。
Josh Galarza は、デビュー作 "The Great Cool Ranch Dorito in the Sky" で、
自身の摂食障害の経験や、メキシコ先住民を先祖に持つ文化的背景を、主人公に投影
した。15歳の少年 Brett は、養母の病気や友人関係の悩みから、自作の漫画の世界
に逃避し、肥満恐怖症と過食症にも苦しんでいる。そんななか、Brett の日記がオン
ラインに流出してしまう。深刻なテーマを扱いつつも、ユーモアのある一人称の語り
で、思春期の若者の声をリアルに伝えるYA小説だ。作者 Galarza はバージニア州
在住。大学で英語を教えつつ、大学院の芸術修士課程で創作を学んでいる。
"The First State of Being" は、多数の児童書の著作や受賞歴がある人気作家
Erin Entrada Kelly(エリン・エントラーダ・ケリー)によるSF作品だ。1999年の
アメリカで暮らす12歳の少年 Michael は、2000年問題がもたらすとされる世界の崩
壊を恐れていた。そんなとき、はるか未来の2199年からやってきたタイムトラベラー
Ridge と知り合う。Ridge が持っている本を読めば、これから起きることがわかるの
だが──。少年の成長を描く心温まる物語。作者は、"Hello, Universe"(『ハロー、
ここにいるよ』武富博子訳/評論社)で2018年にニューベリー賞を受賞している。
Shifa Saltagi Safadi による "Kareem Between" は、一人称の散文詩で語られる
作品だ。2016年の夏、7年生の少年 Kareem は、シリアにルーツを持つという理由で、
シリア難民の転校生のサポート役に任命される。あまり気が進まないうえに、フット
ボールの部活や家庭でも難しい選択を迫られる。Kareem は国や文化のあいだで揺れ
ながら、進むべき道を見つけようとする。作者はシリアで生まれ、両親とともにアメ
リカに移住。出産をきっかけに、イスラムの文化を伝える児童書を紹介するブログを
始め、自分でも作品を執筆するようになった。
"The Unboxing of a Black Girl" は、詩人の Angela Shante による作品集。黒人
の女性としてニューヨークで生まれ育った経験をもとに書いた、散文詩や俳句などの
さまざまな形式の詩、そして短いエッセイが収められている。作品全体を通して、箱
に入れられ、そして箱から出ていくイメージが効果的に使われ、統一感を生みだして
いる。Shante は教師として小学生を教える傍ら創作活動を始め、低学年向けの読み
物で作家デビュー。本作は、初のYA作品である。
★Longlist(5作)
"Ariel Crashes a Train"
by Olivia A. Cole (Labyrinth Road)
"Wild Dreamers"
by Margarita Engle (Atheneum Books for Young Readers)
"Everything We Never Had"
by Randy Ribay (Kokila)
"Free Period"
by Ali Terese (Scholastic Press)
"Mid-Air"
by Alicia D. Williams (Atheneum/Caitlyn Dlouhy Books)
Olivia A. Cole による "Ariel Crashes a Train" は、強迫性障害とたたかう若者
の現実を、真に迫る描写で表現した詩形式のYA作品だ。標準から外れた体型を持つ
クィアの少女 Ariel は、親や社会が求める女性になれないという不安と、その不安
から同じ行動をくりかえしてしまう癖に悩まされていた。だが、姉の助言や、新たな
友人たちとの出会いを通して、悩みの正体に気づき、自分自身を受けいれていく。作
者 Cole はケンタッキー州出身・在住の作家で、これまでに多数のYA作品を発表し
ているほか、"Teen Vogue" などの雑誌にも寄稿している。
Margarita Engle(マーガリータ・エングル)の "Wild Dreamers" は、17歳の少女
と少年の視点から交互に語られる詩形式のYA小説だ。母親と車で生活するキューバ
系アメリカ人の Ana。キューバからの難民で、パニック障害に苦しむ Leandro。そこ
に、Leandro の介助犬の歌うような語りも差し挟まれる。出会ってすぐに惹かれ合っ
た Ana と Leandro は、ピューマの保護活動を通じて仲を深めながら、それぞれの抱
える傷を癒やしていく。作者エングルはキューバ系アメリカ人の作家で、詩形式の作
品を数多く手がけ、2009年には "The Surrender Tree: Poems of Cuba's Struggle
for Freedom" でニューベリー賞オナーに選ばれた。
Randy Ribay による "Everything We Never Had" は、1930年にフィリピンからカ
リフォルニア州に移住して懸命に働いた Francisco から、2020年のパンデミックを
生きる Enzo まで、4世代にわたる家族の歴史をたどる物語だ。移民の父と息子たち
は、異なる価値観のためにときに反発しながらも、困難を乗り越え、アメリカに根を
下ろしていく。作者 Ribay は、フィリピンで生まれ、アメリカ中西部で育った。単
独の著作のほか、アンソロジーにも多数参加。2019年、"Patron Saints of Nothing"
が本賞ファイナリストに選出された。
Ali Terese の "Free Period" は、生理の平等化をテーマに、信頼を重ねる大切さ
を描く青春小説だ。いたずら好きの中学生コンビ Helen と Gracie が騒動を起こし、
罰として校内改善委員会に参加する。その活動は、校内すべてのトイレに生理用品を
常備するというものだ。ふたりは Helen の初潮をきっかけに委員会の活動に共感し、
チャリティバザーに出す手芸品やお菓子をつくる。主人公たちのユーモアのある等身
大の会話を通して、読者がからだの変化や SDGs を意識できる本作は、小学校高学年
から挑戦しやすい。作者のデビュー作にして、本賞ロングリストに選ばれた。
Alicia D. Williams(アリシア・D・ウィリアムズ)による "Mid-Air" は、黒人
の中学生 Isaiah が、心の内側に抑えこんだ悲嘆を力強い詩形式で物語る小説だ。ス
ケートボードの練習中に親友が事故死した。泣くなと教えられて育った Isaiah は、
悲痛な思いを外に出していけるのか。アフリカにルーツを持つ作者は、民話の語り手
でもある。少女の成長物語 "Genesis Begins Again" で2020年のニューベリー賞オナ
ーに輝くなど、多数の賞を受賞している。
《参考》
▼Violet Duncan 公式ウェブサイト
https://www.violetduncan.com/home
▼Josh Galarza 公式ウェブサイト
https://www.joshgalarza.com/
▼Erin Entrada Kelly 公式ウェブサイト
https://www.erinentradakelly.com/
▼Shifa Saltagi Safadi 公式ウェブサイト
https://shifasafadi.com/
▼Angela Shante 公式ウェブサイト
https://www.angelashante.com/
▼Olivia A. Cole 公式ウェブサイト
https://www.oliviaacole.com/
▼Margarita Engle 公式ウェブサイト
http://margaritaengle.com/
▼Randy Ribay 公式ウェブサイト
https://www.randyribay.com/
▼Ali Terese 公式ウェブサイト
https://aliterese.com/
▼Alicia D. Williams 公式ウェブサイト
https://www.aliciadwilliams.com/
(綿谷志穂/井上歌織) |