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Japanese Children's Books 日本語版
冬号
編集部:einfo@yamaneko.org
2004年元旦発行

  



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 特別企画: 安野光雅さんインタビュー
 創作絵本
   新刊絵本 『猫吉一家物語 秋冬』
 お正月絵本
   愛されている絵本
『十二支のおせち料理』
 英訳絵本

   新刊紹介
Miki's First Errand
『はじめてのおつかい』 
Amy and Ken Visit Grandma
『こんとあき』
   出版社紹介アールアイシー出版
 お正月企画: おせち料理






  特別企画:  安野光雅インタビュー


安野光雅さん

(c) Anno Mitsumasa

安野光雅さん インタビュー

秋号で取り上げた『旅の絵本』の作者、安野光雅さんのインタビューをお届けします。



【安野光雅(あんの みつまさ)さん】
1926年3月20日、島根県津和野町に生まれる。山口師範学校研究科修了。子どもの頃より画家への夢を抱き、小学校教師を退職後、装丁など本に関わる仕事をはじめる。福音館書店の松居直氏のすすめで、絵本『ふしぎなえ』(福音館書店)を出版。以来、多数の画集・絵本・装丁を手がけている。数学・文学にも造詣が深く、独創性に富んだ作品を多数生み出している。主な絵本としては『魔法使いのABC』(童話屋)、『きつねがひろったグリム童話』(岩波書店)などがあり、著作・対談集としては『絵のある人生』(岩波書店)、『ねがいは普通』(文化出版局)などがある。




安野光雅さんは、国際アンデルセン賞を初めとした世界中の賞を多数受賞され、世界の人々からANNO(アノー)という愛称で親しまれていらっしゃいます。教員時代には型破りな教え方で生徒の心をつかみ、漫談を披露するのが得意だったとか、お人柄を垣間見せるエピソードも数知れません。今回は限られた時間の中で、絵本関係のお話を中心にうかがってみました。

――世界を舞台にご活躍されていますが、審査員が日本人の作品だとわからずに、『ABCの本――へそまがりのアルファベット』を1974年のケイト・グリーナウェイ賞に選んだというお話は本当でしょうか?


 そう、本当です。ANNO という名前は海外にもあるんですね。当時は最初の出版地が英国内でなければいけないという規定があって、受賞は逃したようですが、担当の編集者(注)が頑張ってくれて、特例で Commended に選ばれ、賞状もいただきました。

(注)現在はビアトリクス・ポターの研究者として著名なジュディ・テーラー氏のこと。
『ABCの本――へそまがりのアルファベット』表紙
(c) Anno Mitsumasa

Anno's Alphabet 表紙
(c) Anno Mitsumasa
――この『ABCの本――へそまがりのアルファベット』は国内のみならず海外でも数々の賞を受賞するという高い評価を得ましたが、最初から海外での出版は決まっていたのでしょうか?


「ABC」だからといって、最初から海外に出そうと思っていたわけではありませんが、日本以外の人にも読んでもらえるものにしようという考えはありましたね。たとえばアルファベットのAをローマ字で「Amedama」と書いて飴の絵をつけるというわけにいかないでしょう。どの単語を選ぶかについては、調布のアメリカン・スクールの先生たちや米英の編集者に相談しました。たとえば、私が単語選びに凝って、Hのところに "Hag" を使おうとお婆さんの魔女を描いた時の話。彼らからは「"Hag" は、醜いお婆さんというイメージが強く、魔女という意味で使われることはあまりない。それに魔女を意味する "Witch" にしても、この絵のように醜い魔女だけとは限らない。若い美人の魔女もいる」とアドバイスをもらいました。このように、英語圏の人のイメージと違っていたので、別の候補を選んで描いたというようなことがたくさんありましたね。絵を仕上げる苦労話だけで1冊の本が書けるほどでした。
 これだけ苦心した甲斐があり、「ローマ時代以来歴史あるABCの文字を、このように立体的に描いた人は、今までいなかった」と認知してくれた海外の方がいて、どんな褒め言葉よりもうれしかったです。つまり、アルファベットをだまし絵の立体で表したことが評価されたんです。オリジナリティーという意味で「今までにない」と言われて感無量でしたね。


――ところで、最初の海外出版は、『ABCの本――へそまがりのアルファベット』ではなく、『ふしぎなえ』でしたね。これはどのようにして決まったお話なのでしょうか?


『ふしぎなえ』は、私が、1968年に日本で最初に出した絵本です。これが出版社のリスト(注)に載ってアメリカやフランスの編集者の目に留まり、1970年に両国から出版されました。非常に反響が大きくて、おかげで先に出ていた日本でも評判になりました。1度海外で出版されると、これからどんな本を出すのかなど、続けて問合せが来るようになるんです。とくにアメリカで出版すると影響力が大きいですね。

(注)『ふしぎなえ』の出版社である福音館書店が出している、海外向け出版物リスト


――これまでにさまざまな国を訪れていらっしゃる安野さんですが、海外の文化に接して戸惑われた経験はございますか?


 初めて海外に出るまでは、文化の差というのはずいぶん大きいだろうなと思っていました。ところが実際に訪ねてみると、違うことより同じことのほうが圧倒的に多いと感じたんです。しまいには、違いというものはほとんどないんだとまで思うようになりました。たとえば世界のどこに行っても、基本的に、家には外を見るために窓がついているし、雨が流れるように屋根が尖っている。食べるものも、われわれが絶対に食べられないものを彼らが食べているわけではない。そういうふうに考えると、言葉や肌の色などの違いは確かにありますが、頭の中で考えていたほど、文化の差はないのだと思っています。
 ただ『旅の絵本』という作品について言えば、現地での生活を描いているわけですから、些細なことであっても間違えてはいけないという思いはあります。そういえばその絵本を読んだフランス人から、「あなたはフランスに暮らしたことがないのに、フランスのことをよく知っていると感心した。でもひとつだけ実際と違うところがある。フランス人は川で洗濯はしない」と言われたことがありましたね。あとになって思い出したのが川で洗濯する人が描かれているゴッホの「アルルの跳ね橋」。


――スケッチ旅行に行かれる時には、先に日程などを決めてから行かれるのでしょうか?


 行き先については全く調べないということはありませんが、ほとんどの場合出たとこ勝負ですね。絵を描くのも同じ。ここが描きたいと思ったら、スケッチブックを広げてすわりこんで描くんです。記録のために写真は撮っていますが、あまり役にたちません。そこでのデッサンが大事なんですよ。
 実は今、『旅の絵本』の6巻目として、デンマークを描いています。アンデルセン生誕200年が2005年なので、それに合わせて準備を進めているところです。アンデルセンの物語を旅するような絵本になる予定です。

――次に、世界の著名な絵本作家が8人も参加されている『まるいちきゅうのまるいちにち』についてのエピソードをおうかがいしたいです。どうやって8人の方々が選ばれたのでしょう? また、どんなきっかけで出版されたのでしょうか? 


 この絵本は、私が童話屋の田中さんと話しているうちに出版が決まったものです。8人の作家は、米英の編集者に相談して紹介してもらったり、自分の知り合いにお願いしたりしました。もともとイスタンブールのウスクダラで、世界最高の夕日を見た時の感動から生まれた本です。本当に素晴らしい最高の夕日だったけれど、今沈んだ夕日は他の国から見れば朝日なのだと思ったら、愕然としてしまってね。つまり、戦場になっている国に沈みつつある太陽が、同時に平和な国に昇っているというのが、私にはとてもショッキングだった。
『まるいちきゅうのまるいちにち』表紙
(c) Anno Mitsumasa


――まど・みちおさんの詩に美智子様の英訳がついた『どうぶつたち』『ふしぎなポケット』では、挿絵を描かれていますね。まどさんと、安野さんの奥様がいとこ同士だったと聞いたことがあるのですが……。
  

 いとこ同士だったことは偶然ですが、お互いに同じ世界にいるのだから、いつか一緒にやりたいねと話していたんです。確かに思えば、不思議な縁です。詩に挿絵を描くのは難しいですね。たとえば「ぞうさん ぞうさん おはなが ながいのね」に対して、単に鼻の長い象を描けばいいというものでもないですからね。詩の挿絵が説明的では、センスがないことになると思うのです。


――絵本を作られる時に、子どもという存在を意識していらっしゃるのでしょうか?
 

 私は、子ども向けも大人向けも区別していません。子どもの気に入るように描くというより、自分の気に入るように描いています。横道にそれますが、私にとって、絵を描くというのは仕事です。あるシンポジウムで「なぜ描くか」ときかれた時、「将来を担う日本の子どもたちのために描く」と答えた方が聞き手にうけたかもしれませんが、私は「絵を描くのが仕事ですから。仕事にしたのは好きだから」と答えたんです。ミヒャエル・エンデさんも、「私も安野さんと同じだ」と答えていたし、ターシャ・テューダーさんは、「仕事をして、たくさん球根を買いたい」と言っていました。


――ところで、日本には、まだ海外に紹介されていない素晴らしい絵本や児童文学作品がたくさんあります。これから海外向けに出版を考えている日本の作家や出版社に対して、何かアドバイスをいただけないでしょうか?


 日本人は、あらゆる国の文学を翻訳で読むことができて恵まれていますよね。それは、明治以来急速に西欧化していった所からくる、ある種のコンプレックスからきていて、まず外国のものをというかんがえもあるからなのでしょうが、日本の作品も決して世界に引けをとることはありません。むしろ日本には、世界に冠たる素晴らしい文学があると思っています。翻訳さえちゃんとすれば、決して世界に劣らないはずです。本当に日本の文学が翻訳されて欲しいと思います。

――安野さんは、絵本だけでなくたくさんの著書を出されていらっしゃいますが、最近出版された本について教えていただけますか?


 去年12月に『青春の文語体』を出版しました。明治、大正時代の文語体による作品には、文章の気負うところや、志の高さなどの点で、現代の私たちに訴えるものがあるのです。文語体を忘れてはいけないという願いを込めて書きました。本の中では、とくに森鴎外の『即興詩人』や樋口一葉の『たけくらべ』、島崎藤村の『初恋』などを薦めています。これを機会に文語体の作品を読んでみてください。
『青春の文語体』表紙
(c) Anno Mitsumasa


――絵本の話からちょっと外れますが、画家として独立されたころ、非常に苦労されたお仕事があったそうですね。そのご経験について、以後のお仕事にどのように影響したかも含めてお聞かせいただけますか。


 ある本の装丁の仕事で、何パターンか案を出さなければいけなかった時のことです。なんとか15種類ひねり出したところで、編集者に「あともう1種類ほしい」と言われ、この16種類目のデザインを考えるのに非常に苦しみました。もう1つといっても、15種類考えたあとですから、これが相当大変なんです。数学の問題だって、2通りの解き方を考えるのは難しいと数学者が言っているくらいですからね。どうしてもアイディアが浮かばなくて悩んでいた時、電車の中で乗客の顔を見ているうちに、はっと気がついた。つまり人間の顔は、目と鼻と口と限られた要素で構成されているけど、全部違う。人の顔は幾万通りもあるんだ、人の数だけある。装丁案だって何種類でもだせると思うに至ったのです。これは私にとって大きな転機でした。大げさに聞こえるかもしれないけれど、天啓を得たんです。こういうことは、自分で気がつかないとおそらくだめでしょう。第三者が「人間の顔を見ろよ、あれだけたくさんあるんだから、君だっていくらでも描けるんだよ」と教えたとしても意味はないんです。自分で痛いほど思わなければ身に沁みない。それ以来、装丁の仕事で1度も困ったことはありません。

――本日は、貴重なお話をありがとうございました。



○今回のインタビューにあたり、福音館書店の田村実編集長、筑摩書房の松田哲夫編集部長、同第一編集室の中川美智子様にご協力をいただきました。ありがとうございました。

(高橋 めい)


本文に登場する作品の書誌情報、各国出版状況、受賞歴は下記の通りです。

1968年 『ふしぎなえ』 福音館書店
 Jeux de consruction, France, 1970
 Topsy Turvies, USA, 1970
 Zwergenspuk, Switzerland, 1972
 Den Tossede Bog, Denmark, 1974
 Topsy Turvies, USA, 1989(再販)
 奇妙國, 台湾, 1990

 1970年シカゴ・トリビューン・オナー賞

1974年 『ABCの本――へそまがりのアルファベット』 福音館書店
 Anno's Alphabet, UK, 1974
 Anno's Alphabet, USA, 1975

 1974年度芸術選奨・文部大臣新人賞
 1974年ケイト・グリナーウェイ賞 Commended
 1975年ブルックリン美術館賞
 1975年ボストングローブ=ホーンブック賞(絵本部門)

1977年 『旅の絵本』 福音館書店
 En rejse, Denmark, 1978
 Ce jour-la', France, 1978
 De reis van Anno, Netherlands, 1978
 Wo ist der Reiter?, Switzerland, 1978
 Anno's Journey, UK, 1978
 Anno's Journey, USA, 1978
 II viaggio incantat, Italy, 1979
 El Viaje de Anno, Spain, 1979
 En Resa, Sweden, 1979
 旅之繪本, 台湾, 2003

 1984年国際アンデルセン賞特別優良作品

1978年 『旅の絵本II』 福音館書店
 Italien rejsen-Enordlos billedbog, Denmark, 1979
 Le jour suivant..., France, 1979
 Anno resist verder, Netherlands, 1979
 Anno's Italy, UK, 1979
 Anno's Italy, USA, 1979
 El viaje de Anno(II), Spain, 1981
 旅之繪本II, 台湾, 2003

 1979年 BIB 金のりんご賞
 1980年ボローニャ国際児童図書展グラフィック賞

1981年 『旅の絵本III』 福音館書店
 Englandsrejsen, Denmark, 1982
 Se'jour en Grande-Bretagne, France, 1982
 Anno resist door Engelad, Netherlands, 1982
 El Viaje de Anno(III), Spain, 1982
 Anno's Britain, UK, 1982
 Anno's Britain, USA, 1982
 旅之繪本III, 台湾, 2003

1983年 『旅の絵本IV』 福音館書店
 USA-rejsen, Denmark, 1983
 USA, France, 1983
 Anno Reist door Amerika, Netherlands, 1983
 El Viaje de Anno(IV), Spain, 1983
 Anno's USA, UK, 1983
 Anno's USA, USA, 1983
 旅之繪本IV, 台湾, 2003

1986年 『まるいちきゅうのまるいちにち』 童話屋
 All in a Day, UK, 1986
 All in a Day, USA, 1986
 世界的一天, 台湾, 1992

1992年 『The Animals どうぶつたち』 すえもりブックス
 The Animals, USA, 1992

1998年 『The Magic Pocket ふしぎなポケット』 すえもりブックス
 The Magic Pocket, USA, 1998

2003年 『旅の絵本V』 福音館書店
 Anno's Spain, USA, 2004
 Sur les traces de Don Quichotte, France, 2004

2003年 『青春の文語体』 筑摩書房

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おかめ


    新刊絵本  


『猫吉一家物語・春夏』表紙 『猫吉一家物語・秋冬』表紙
(c) Taeko Ohsima



『猫吉一家物語 秋冬』 

大島妙子 作 2003年9月 金の星社 ISBN: 432303542X  1200円

 猫の猫吉(ねこきち)一家の一年が季節情緒たっぷりに描かれている絵本。「春夏」、「秋冬」と2冊に分かれており、今回ご紹介するのは、9月の新刊「秋冬」版。まずは、この出だしをお楽しみあれ。威勢のいいことこのうえなし、猫吉一家の朝は季節を問わず、この言葉からはじまるのだ。


  朝です。
  パンパンパンと
  手をたたき、
  猫吉一家の一日が
  はじまります。
  「おてんとさんよ、
  おはよーさん」


 見開きいっぱいに、大きなおてんとさんがのぼってくる。そのおてんとさんに、パンパンパンと手をたたいて拝んでいるのが、父さんの猫吉だ。まわりの木々は紅葉し、秋の草花があちこちに咲いている。母さんのお茶目は、朝ご飯の準備、ひとつぶだねの昆布介もなにやらお手伝いで動き回り、朝が動き出す。あ、おねしょした布団も干してあるぞ。
 猫吉一家の仕事は反物のきれを売ること。朝ご飯を食べたら、家族3匹は、大八車にきれをつんで仕事に出かける。ガタガタゴットン、ガタガタゴットン、猫吉がひき、お茶目が後ろから押す、昆布介は大八車の中で時々いねむり。適当なところで、猫吉が、「よっ、ここらでいいかい?」とその日の商売場所を決めて、〈商い中〉の看板を立てる。最初のお客さんは、通りすがりのリス。「あら、きれい」「ハイカラよねー」とおしゃべりしながら「お代は木の実で」と商談成立。次のお客さんは、子グマが2匹。なにやらため息をついている。「おっかさんが、さむいさむいってふるえてるんだ」「そいつは、しんぱいだ……」ポロンと涙をこぼした猫吉は、「もってけドロボー!」
 こんな風に、のどかに商売しているうちに、昼ご飯の時間になり、昆布介はちょろちょろ遊びに出かける。そこで小さな出来事が……。

 物語は、「春夏」版、「秋冬」版ともに、それぞれの季節風景をバックに、猫吉一家の仕事ぶりを描いている。商売をして、お客さんとの出会いがあり、昆布介がクライマックスの鍵となる。時代設定は説明されていないが、日本の江戸時代の頃を想定しているのだろうか。一昔前の日本の風情をみるようだ。
 人情味ならぬ猫情味、そして季節情緒という、「情」を、絵たっぷり、言葉少なめで描いている。ちなみに、画面はコマ割りで、言葉が少ない分、展開を細かく読みとることができる。読んでいると、どこかなつかしく、安心した気持ちにひたる。このあたたかさが、この絵本の何よりの魅力だろう。
 
 寒い冬の昼休みには、山の上のお茶どころで休憩。そこには、まんじゅう、甘酒、だんごの暖簾がかかっている。「甘酒みっつねー」「あいよー」出てきた熱々の甘酒を「アッチチー」「こんちきしょー」なんていいながらすする猫吉一家。「これがほんとの猫舌だねぇー」

「ほんとだねー」とお茶どころの主、ヤギさんのいう言葉に、私も思わず相づちをうつ。「ほんと、ほんと」
 冬の空気が伝わってくる。熱々の甘酒がおいしい季節には、ふぅふぅ飲みながらこの絵本を開いてみよう。


大島妙子(おおしま たえこ)
東京都生まれ。出版社勤務を経て、絵本の仕事をはじめる。読み物の挿し絵も多く手がけ、温かくユーモアのある絵に多くのファンがついている。家族と愛犬ピッピとともに暮らしている。
(林 さかな)

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 愛されている絵本 


『十二支のお節料理』表紙
(c) Makoto Kawabata





川端誠 作 BL出版 1999年 ISBN:4-89238-741-X

 年越しが近づくと、家いえではお正月の準備にはいる。お正月の守り神「年神」さまも、正月料理の「お節」をつくるため、12の動物を選んで仕事を割りふった。ねずみにはお正月の飾りつけ、うしにはお節の材料選び、とらには珍しい食べ物集め……。動物たちがめいめい仕事をこなしていくと、最後にお節のできあがり。大晦日の夜がふけていく。明日はいよいよお正月。

『十二支のお節料理』は、日本の伝統的な食文化を伝えてくれる絵本だ。「お節とはどんなものか」が、12の動物「十二支」の仕事を通して、さりげなく楽しく紹介されている。お節は年越しの慌しいときに、せっせとつくるもの。しかし、器や盛りつけには手を抜くどころか、趣向を凝らす。そこには、食べる人を楽しませたい、たくさん食べて1年の活力の源にしてほしいという気持ちが込められている。そしてこの料理には、年の初めにみんなで囲んで食べるという幸せのおまけもついてくる。そう、お節は本当の意味でめでたい料理なのだ。
 めでたいといえば、絵にも、その気分がよく出ている。まず、表紙がお節の重箱のふたを開けたときのように、色とりどりでにぎやか。動物たちの表情も、とぼけた感じで楽しい。版画の太く黒い線に、はっきりした色の着彩は、和風の落ち着いた華やかさがある。なお、作者は絵本によって絵の技法を変えており、版画に着彩の技法は、本書を含む5冊の「十二支」のシリーズ、「お化け」のシリーズ(いずれもリブロポート、現在は絶版)などで使われている。
 ところで、十二支とは、方角や時を表す呼び名に使われる12の動物のこと(※1)。絵本に出てくるねずみ(子)、うし(丑)、とら(寅)、うさぎ(卯)、たつ(辰)、へび(巳)、うま(午)、ひつじ(未)、さる(申)、とり(酉)、いぬ(戌)、いのしし(亥)がそれだ。たとえば、十二支を使った言い方で方角や時刻を表すと、北は「子の方角」、午前2時ごろは「丑の刻」になる。近ごろ日本で方角や時刻を十二支で表すことはあまりないが、年を表すのにはよく使われる。たとえば、新年に送る年賀状の図柄にその年の十二支を使うのは定番。「あなたは何年生まれですか?」「未年です」などと、十二支で生まれ年を表すことも珍しくない。子ども同士で自分の動物が何かを言い合うのは楽しいし、大人同士でも、はっきりした年齢を言いたくないときに使えて便利だ。
 この絵本では、十二支を選んだのは年神さまとなっている。「なるほど、そういう言い伝えがあったのか」と納得した人も多いだろう。なにしろ、絵本の中で、動物の選ばれた順番とその役割があまりにもはまっているから。まず、ねずみがわらわら集まって大掃除をし、もちをつき(※2)、正月の飾りつけをする。つぎは田畑に詳しいうしがお節の材料を選んで運び、とらが千里を走って(※3)珍しい食べ物を調達し……。動物たちが自分の特徴に合った仕事をこなし、見事な連携プレーで正月の仕度をしていくのだ。しかし、作者の川端誠さんもカバーの袖でおっしゃっているとおり、十二支の動物がなぜ選ばれ、どのように順番がきめられたかは、わかっていない。このエピソードはあくまでも創作らしい。川端さん、お見事!

 さて、絵本のつづき。『十二支のお節料理』では、お節ができあがると、今度はお正月を迎えてからの様子が、絵だけのページになってつづく。白い雪のつもった屋根に、張り替えられた白い障子、正月飾りのついた玄関。明けたばかりの正月の朝の絵は、絵本の冒頭に出てきた掃除前の絵と構図が同じで対になっており、すがすがしさがなおさら引き立っている。冷たく澄んだ空気まで感じられるようだ。つづいて場面は変わり、暖かい家の中。そこにはやがて、晴れ着に身を包んだ十二支たちが、正月の宴に集まって……最後のページは、壮観! お節とはどんなものかが、そこからも伝わってくる。うーん、めでたい!!

川端 誠(かわばた まこと)
1952年新潟県上越市生まれ。絵本作家。第5回絵本にっぽん賞を受賞した『鳥の島』(BL出版)をはじめ、人気の「落語絵本シリーズ」(クレヨンハウス)など創作絵本多数。『アルバートの感謝祭』(レスリー・トライオン作/BL出版)では翻訳を手掛けている。絵本の原画展や講演会等などの活動も精力的に行っている。
(たなかあきこ)
※1 十二支の参考サイト。
http://japaneseculture.about.com/library/weekly/aa100498.htm
http://www.onmarkproductions.com/html/12-zodiac.shtml
http://www.logoi.com/notes/chinese_zodiac.html

※2 ねずみともちは、昔話などでよく出てくる組み合わせ。
※3 「虎は千里往って千里還る」ということわざがあり、とらと千里はワンセットのイメージがある。

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    英訳絵本
新刊紹介


Miki's First Errand表紙

Miki's First Errand見開き
(c) Akiko Hayashi, Yoriko Tsutsui, R.I.C.

Amy and Ken Visit Grandma表紙

Amy and Ken Visit Grandma見開き
(c) Akiko Hayashi, R.I.C.



Miki's First Errand 『はじめてのおつかい』
Written by Yoriko Tsutsi  Illustrated by Akiko Hayashi
ISBN: 4902216027  2003年9月

Amy and Ken Visit Grandma 『こんとあき』
by Akiko Hayashi
ISBN: 4902216019  2003年10月

Translated by Peter Howlett and Richard McNamara


 日本のロングセラー絵本の英訳版が出版されました。

  "Miki's First Errand"(『はじめてのおつかい』筒井頼子作/林明子絵)は、主人公のミキがひとりでおつかいに出るようすを描いたもの。はじめてお母さんからおつかいを頼まれたミキは、嬉しくて元気よく家を飛び出します。ところが道中、猛スピードで走り去る自転車に驚いたり、坂道でころんでうっかり預かったお金を落としたりと、何度もハプニングに遭遇します。誰もが小さい頃に必ず経験する「おつかい」が、作者の温かな目線でていねいに描かれている絵本です。

 もう1冊は、"Amy and Ken Visit Grandma"(『こんとあき』林明子作/絵)。おばあちゃんが生まれてくる赤ちゃんのために作ったぬいぐるみのケンが、赤ちゃんエイミーを迎えるところからお話がはじまります。時が経ってエイミーは成長し、ケンは古くなります。そしてとうとう、ケンに大きなほころびができました。おばあちゃんを訪ねてなおしてもらうというケンに、エイミーは「わたしもつれていって」とたのみます。こうしてふたりは、小さな旅に出ることになりました。この旅に、エイミーが頭の中で繰り広げるケンとの冒険が重なり、子どもの豊かな想像力を描いた作品に仕上がっています。ケンとエイミーの幸せなやりとりに、子どもの頃に愛したぬいぐるみを思い出す人も多いでしょう。

(注:原書では、主人公の名前はミキが「みいちゃん」、エイミーが「あき」、ケンが「こん」となっている。)


筒井 頼子(つつい よりこ)
1945年東京生まれ。埼玉県浦和西高校卒業。『とんことり』『あさえとちいさいいもうと』『おでかけのまえに』など作品多数。

林 明子 (はやし あきこ)
1945年生まれ。横浜国立大学教育学部美術科卒業。1973年の『かみひこうき』を皮切りに、『きょうはなんのひ?』『おふろだいすき』『はじめてのキャンプ』など多数作品を発表している。海外での評価も高く、フランスの LEGRAND PRIX DES TREIZE を受賞している。

ピーター・ハウレット (Peter Howlett)
北海道生まれ。日英のバイリンガルとして育ち、カナダの大学と国際基督教大学で学ぶ。現在、函館ラ・サール中学校・高等学校で教鞭をとっている。

リチャード・マクナマラ (Richard McNamara)
1958年、イギリス生まれ。合気道をやっていた父親の影響で子どもの頃から武道に親しむ。ブリストル大学卒業後、熊本大学で教育学の修士号を取得。現在は、九州ルーテル学院大学で教鞭をとっている。

(高橋めい)
出版社紹介:アールアイシー出版

 "Miki's First Errand""Amy and Ken Visit Grandma" の出版元であるアールアイシー出版は、オーストラリアに本社をおく R.I.C. Publishing Group の日本支社(*)。日本の創作絵本を英訳出版するという貴重な事業を展開している。同社社長のジョン・ムーア氏に今後の展望などについてお話をうかがった。

 アールアイシー出版では、英訳絵本を「ストーリー・チェスト」と名付けてシリーズ化している。これまで同シリーズで出版された作品には、本号で紹介した2冊以外に、なかのひろたか作の『ぞうくんのさんぽ』("Elephee's Walk")、西内ミナミ作の『ぐるんぱのようちえん』("Groompa's Kindergarten")などがある。今後も福音館書店の名作絵本を中心に、毎月1、2冊のペースで刊行していく予定。
 日本国内およびアジア諸国で出版する作品は、英語教材としての利用も想定して CD をつけるなどの工夫がされている。一方、米英をはじめとする欧米諸国での出版は2004年以降。一般の翻訳絵本として販売するため、表紙や装丁などがアジア版と若干異なり、CD はオプションとなる。

 日本の創作絵本に触れた海外の研究者や作家の多くは、これらの作品を広く世界に紹介しないのは惜しいことだと口をそろえる。ムーア氏もまた、日本の絵本に魅せられたひとりだ。アールアイシー出版の事業を展開するにあたっては、英国の Oxford University Press、日本のタトル出版での長年の経験を生かして、海外でも受け入れられやすい作品を厳選している。
 さらにムーア氏は、翻訳の重要性についての意識も高い。より良い翻訳のためには、原作者、翻訳者、編集者および原作出版社が綿密に連絡をとりあって原稿を検討できる体制が必要と考える。同社の翻訳作業は、日本に拠点をもつメリットを最大限に生かし、こうした体制をじゅうぶんに整えたうえで行っている。翻訳者の選定も、従来のように学歴や経歴を基準にするのではなく、文学的なセンスと実力を重視。また複数の作品をつづけて依頼することで、翻訳者自身のキャリアとなるよう心がけているという。作家にとって、出版社にとって、作品はわが子も同様だ。翻訳を大事にするのも、そうした作り手たちの気持ちを理解しているからこそである。自らも心から絵本を愛し、大切に思っているムーア氏ならではの姿勢といえるだろう。

 日本の創作絵本は、これまでも一部が海外の大手出版社から出版されているが、現在はほとんどが絶版となっている。そんな中日本で産声をあげたばかりの小さな出版社に、今後もエールをおくりつづけたい。

(*) 日本以外では、アイルランド、シンガポール、イギリス、アメリカなどに関連会社を持つ。

出版翻訳フォーラム「メープルストリート」
 アールアイシー出版 新刊紹介ページ

(池上小湖)

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  おせち料理     

「おせち」は新年を華やかに祝う日本の「食」の伝統だ。漆塗りの重箱に美しく詰められた色とりどりの料理の数々には、まさしく〈目で食べる〉と言われる日本食の美意識が余すところなく発揮されている。生活環境や食習慣が大きく様変わりした現代、簡略化されたり、以前ほどありがたがられなくはなったものの、「おせち」は、やはり多くの家庭で正月三が日の食卓の主役を務めている。
 おせち料理の起源は平安時代の朝廷の行事食に遡る。「節句」と呼ばれる1年の節目節目に、神に供えられ、また宴のもてなしにされたご馳走を「御節供」(おせちく)と言ったのが始まりだとか。やがて特に正月料理を指して「おせち」と呼ばれるようになったのだが、今のような重詰めの形になったのは、意外にも新しく、第二次世界大戦後のことだそうだ。重箱は三段のものがもっとも一般的だ。一の重にきんとんやかまぼこなどの祝い肴、二の重に酢の物や焼きもの、そして三の重には煮物を中心に盛り付けるのが基本らしい。私はそんなことはちっとも知らなかったが、思い返してみると、自分でもやはりそのように盛っている。なるほど、これが伝統というものかもしれない。
 子どもの頃、私は年末のおせち作りが楽しみでならなかった。年の瀬が近づくと、今年は何を作るだろうと気が気ではなく(毎年作るものはほぼ同じだというのに!)、「あれは絶対入れてネ」と母や祖母に念押ししたりした。買い物にもいそいそとついていく。商店街はどこも賑わって、正月用の品々のずらりと並ぶさまはいかにも心浮き立つものだ。忙しげな人波にもまれながら、あれもこれもと買いこんでいくのは実に楽しかった。
 29日頃から料理を始めて、30、31日の台所は大忙しだ。日持ちのする料理を作り置きする「おせち」は「普段は忙しい主婦も正月の3日間ぐらいは休めるように」という生活の知恵でもある。しかし、そのために年末はてんてこ舞いだ。猫の手も借りたい状況では、不器用な私でもお手伝いをさせてもらえるチャンスがあった。こんにゃくを手綱にしたりするのはもちろん楽しかったが、鍋の番だけでも充分うれしい。私が何より楽しみにしていたのは、錦玉子が蒸し上がり、ほのかに甘い匂いをさせて美しい姿を見せる瞬間だった。
 大晦日の夜、料理が一通り出来上がると、いよいよ重箱が出される。何をどこにどんなふうに盛るかは、毎年工夫のしがいのあるところだ。調べてみると、この盛り付けの仕方にも名前があるのだそうだ。重箱を9つの正方形に区切るのが「市松」あるいは「石畳」、横一線に同じ料理を並べていくのが「段取り」、斜めに並べるのが「手綱」、4つの角を三角形に仕切り、真ん中にひし形を作るのが「隅切り」。うちではそんな呼び方などやはり誰も知らなかったが、ひとつひとつの重はそれぞれ美しく盛られていなくてはならなかったし、重ごとに盛り付けの形は違っていなければならなかった。彩りのにぎやかな一の重は盛り付けも殊に楽しい。黄金色のきんとんやつややかな黒豆にはわくわくしたし、紅白のかまぼこを交互に並べていくのは何度やっても面白かった。
 こうしてできあがった「おせち」は、三が日の食卓に晴れがましく載せられる。元日の朝、「おせち」を前に銘々にお雑煮が配られると、いかにも「特別な日」という感じがする。核家族化の進んだ現代ではあっても、この時ばかりは、多くの家庭で普段は離れて暮らす家族が一所に集い、大家族の温かさを味わうのだ。
 おせち料理は、海の幸山の幸を集めた祝いの料理であるばかりでなく、その一品一品には五穀豊穣・子孫繁栄の祈りがこめられている。財宝を表す「金団(きんとん)」、多産を意味する「数の子」、どれもこれも、「おせち」の中身は縁起物づくしだ。夫の実家では、大人も子どももにょっきり芽の出た「芽くわい」を1つずつ食べることになっている。もちろん、「芽が出る(出世する)」という縁起をかついでのことだ。味のほうはどうも子どもたちには不人気だが、人数分が用意されているので食べずにごまかすことはできない。実はわたしも苦手なのだが、「出世」のためにいただいている。こうしたいわれは、昔から「おせち」を囲んで、年寄りから孫へ、親から子へと口伝えに伝えられてきた。穴の開いた蓮根は「先の見通しがよくなるように」という意味だとか、ブリは成長につれて名前の変わる「出世魚」なのだとか言うと、子どもたちも「へえ」と感心するが、黒豆は「まめに働く」だとか昆布巻きは「よろこぶ」だからとか言うと、「そんなの駄洒落じゃん」と笑われてしまう。「そうだね」とこちらも笑いながら、毎年同じような会話を繰り返す。それもまたよき伝統かと思いながら。

(杉本 詠美)
▽参考サイト
やすこさんの味」より
 http://www.nsknet.or.jp/~chrkaji/yasuko/osechi.html
  (ぽこぽこ本舗さまより許可をいただき、リンクしております)

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(編集後記)

思いがけず実現した安野光雅さんのインタビューで、新年最初の号の冒頭を飾ることができました。そのご才能とお人柄同様の、深みと広がりがあるお話をまとめるのは、大変な作業ながらとても楽しく良い経験でした。取材に奔走、執筆に奮闘してくれたライターに感謝。「お節」2題の編集作業をしながら、今年は自分でお節を作るゾ!と決意しました。さて、どんなものができあがりますか……。(も)


    




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