やまねこ翻訳クラブ 資料室
小島明子さんインタビュー
ロングバージョン
『月刊児童文学翻訳』2015年6月号より一部転載
旧「新人応援!」コーナーをリニューアルして2014年9月に始まった当コーナー。やまねこ翻訳クラブでの活動がどのように生かされてきたのかという点にも注目しながら、頑張っている会員に話を聞いていきます。 第2回は、広島で出版社を立ち上げ、第19回いたばし国際絵本翻訳大賞(英語部門)最優秀翻訳大賞受賞作品『世界のまんなかの島 わたしのオラーニ』(クレア・A・ニヴォラ文・絵/伊東晶子訳)と、自らが訳した第20回同賞受賞作品『きょうは、おおかみ』(キョウ・マクレア文/イザベル・アーセノー絵 ※本誌今月号「この人に聞きたい! 連動レビュー」を参照)の2冊を刊行した小島明子さんにお話を聞きました。 |
【小島明子(こじま あきこ)さん】 広島県生まれ。国際基督教大学教養学部卒業、広島大学大学院社会科学研究科博士課程前期修了。やまねこ翻訳クラブスタッフ。大人を対象とした英語読書会を主宰し、児童書を原書で読む楽しみを伝えている。第20回いたばし国際絵本翻訳大賞(英語部門)最優秀翻訳大賞受賞を機に、2014年、株式会社きじとら出版を設立。 |
『きょうは、おおかみ』 |
▼きじとら出版公式ウェブサイト http://kijitora.co.jp/ ▼「いたばし国際絵本翻訳大賞」を主催する東京都板橋区の公式ウェブサイト http://www.city.itabashi.tokyo.jp ▼同サイト内「いたばしボローニャ子ども絵本館」のページ http://www.city.itabashi.tokyo.jp/c_kurashi/002/002177.html ▽ここが聞きたい! やまねこ会員インタビュー目次 http://www.yamaneko.org/mgzn/corner/newface.htm ▽やまねこ翻訳クラブ 学習室目次 http://www.yamaneko.org/gakushu/index.htm ▽やまねこ賞について(やまねこ翻訳クラブ資料室) http://www.yamaneko.org/bookdb/award/yn/index.htm |
Q★
やまねこ翻訳クラブ(以下、やまねこ)に入会されたきっかけを教えてください。 |
A☆
地元で主宰している英語読書会で児童書をテキストにしていたことから、情報収集のためにやまねこの資料室などをのぞくようになり、やまねこってすごいなあ、自分も本気で児童書の翻訳家をめざそう!と、2011年に入会しました。 |
Q★
これまでどんな活動に参加されましたか? その中で、特に印象に残っていることは? |
A☆
参加できるものには何でも参加しています。いたばし国際絵本翻訳大賞事後勉強会、シノプシス勉強会、原書読破マラソン、オフライン読書会、毎年11月に行われるやまねこ賞の投票など、どれも印象深いです。中でも鮮やかに気持ちがよみがえるのは、初めて読書室掲示板に投稿したミニレビューに、先輩会員さんからすぐにコメントをいただいたときのうれしさでしょうか。しかも、その年のやまねこ賞でその作品に投票してくださって、やったー!と思いました。 |
Q★
小島さんにとって、やまねこはどのような存在ですか? また、翻訳をしていて、やまねこでの活動が役に立っていると感じられることはありますか? |
A☆
やまねこは児童書や翻訳のことを好きなだけ語り合える貴重な場で、自分の居場所を見つけたという思いです。勉強会やメールマガジンへのレビュー執筆では、掲示板上で積極的にコメントのやりとりをしながら文章を推敲します。それが、自分の文章を客観的に見る訓練になっていると感じます。 |
Q★
主宰されている英語読書会について、始められた経緯をお聞かせください。 |
A☆ 慣れない子育てで苦しんでいたころ、大人の会話がしたい! 自分の好きなようにやりたい!と思い立ち、「英語読書会の講師をしたいのですが」と市の女性教育施設に相談しました。まずメンバーを集めてくださいと言われたので、各所に掲示を出し、めでたく5人集まって、2009年夏、「英語読書の会」が発足しました。現在、生徒さんは8人で、英語は苦手とおっしゃる方から、海外経験のある方まで、みんなで同じテキストを楽しみながら読んでいます。『エルマーのぼうけん』のように、読みやすくておもしろい内容の児童書を選ぶようにしています。 |
Q★
以前にも英語を教えられていたことがあるのですか? |
A☆
いえ、英語を教えた経験はありません。帰国子女の多い大学に通っていたため、自分は英語が得意という意識は薄いのですが、海外経験がない自分でも英語の本を読むことはできるので、英語読書会を通してその方法を伝えよう!と思いました。 |
Q★
「英語読書の会」での活動で翻訳に役立っていることはありますか? |
A☆
自分だけで英語の本を読むときは流し読みになるのですが、読書会で取り上げるときは1文1文ていねいに構文や単語の意味を確認しながら読んでいきます。原文をきちんと理解するという意味で、とても勉強になっています。 |
Q★
翻訳はどのように勉強されましたか? おすすめの勉強法があったら教えてください。 |
A☆地方在住、しかも育児中だったので、インターネットが強い味方でした。やまねこの勉強会のほかにも、オンラインで翻訳学習ができるサイトを見つけては訳文を投稿していました。個別の講評をいただけるものもあり、勉強になりました。 やまねこの原書読破マラソンに参加中、英語の作品をたくさん読むのと同時に、日本語の本も読んでいました。日本の作家さんのもの、翻訳もの、ジャンルは問わず。そうしているうちに、二つの言語が自分のなかであまり区別されないような感覚になってきて、作品それぞれの個性やリズム感をつかめた気がしました。 |
Q★
いたばし国際絵本翻訳大賞には何回くらい応募されましたか? |
A☆
第18回〜第20回の計3回です。最初は、せっかくやまねこに入会したのだから事後勉強会に参加したいと思って、応募しました。 |
Q★
大賞を受賞された第20回では、訳すうえで特に意識されたことはありましたか? |
A☆
語り手であるバネッサの言葉と、おおかみのようになった妹バージニアのせりふがうそっぽくならないようにと心がけました。お姉さんはやさしく包容力がある感じ、妹バージニアはぶっきらぼうだけれど繊細なイメージで。 |
Q★
きじとら出版を立ち上げた経緯についてお聞かせください。社名の由来は? |
A☆
2014年2月、いたばし国際絵本翻訳大賞受賞の通知をいただき、もしや出版していただけるのではとひそかに期待していたのですが、その気配がないので、厚かましくもコンテストを主催する板橋区に電話で尋ねてみました。出版の見込みは薄いと聞いて、「それでは、わたしが出してもいいですか?」と。それが昨年5月のことです。すぐにやまねこの先輩に相談して、東京でお手伝いをしてくださるコーディネーターさんを紹介していただき、出版社立ち上げに向けて動き出しました。 初めは漢字で落ち着いた社名を考えていたのですが、当時幼稚園の年長だった息子に「ひらがながいいよ」と言われ、いろいろ考えましたが、結局、一番好きな猫の種類「きじとら」に落ち着きました。 |
Q★
決心されたときの心境や、ご家族の反応は? |
A☆
出版社をつくりたいという気持ちは以前から漠然とあったので、いたばし国際絵本翻訳大賞の受賞は自分にとって一生に一度しかないチャンスだと思いました。なので、悩むことはありませんでした。家族もまったく反対することなく、「応援するよ」と言ってくれました。今も、家族に支えてもらっています。 |
Q★
出版社設立のノウハウはどうやって学ばれましたか? |
A☆
日本書籍出版協会が刊行している各種手引書で勉強しながら、具体的な動きについてはコーディネーターさんを頼りにしました。会社設立には創業を支援する公的機関のサポートを受けています。 |
Q★
特に苦労されたことはありますか? |
A☆
幼稚園の休みで息子が家にいるときなど、かまってやれずに爆発されたりしました。家事が滞って家の中が大変なことになったり、世の中のワーキングマザーの苦労を知りました。出版社を始めたことの苦労は、きっとこれからわかってくるのだと思います(笑)。 |
Q★
編集作業はどのようにされましたか? 版権の交渉は? |
A☆
編集に関して、わたしはまったくの素人なので、プロの編集者さんに作業を依頼しました。編集作業の進捗状況については情報を共有し、必要に応じて版元としての要望を伝えました。版権については、版権エージェントに依頼して、海外の権利者と交渉してもらいました。 |
Q★
営業活動について、苦労はありますか? |
A☆
東京での営業をプロの方にお願いしていることもあり、苦労といえるような苦労はありません。自分で地元の書店さんを訪問しても、いつも気持ちよく対応してくださるので、お話しさせていただくのが楽しいです。 雑誌や新聞等の媒体には意識して働きかけています。おかげさまで、紹介される機会が増えてきて、きじとら出版の絵本のことを少しずつ知っていただけるようになってきたかなと感じています。 |
Q★
『きょうは、おおかみ』を出版するにあたって、翻訳に気をつかわれた部分はありますか? 翻訳に関してどなたかに相談されましたか? |
A☆
違和感のない日本語になるよう、家族を相手に音読したり、代わりに読んでもらったりして、音の響きを何度も確かめました。編集・校正の方から、わかりにくい表現などを指摘していただき、訳文の推敲を重ねました。監修の金原瑞人先生には、語尾や言葉の選び方に細やかなアドバイスをいただきました。初めての訳書なので、悩むこともありましたが、「小島さんが訳者なんだから、好きなように自由に!」と言っていただき、最後は自分の言葉としてかたちにできたと思っています。 |
Q★
完成した絵本をご覧になったとき、どんなお気持ちでしたか? |
A☆
装丁が仕上がり、かわいい帯が巻かれて、まさに感無量でした。書店に並んでいるのを見て、息子も「ママの絵本だ!」と喜んでくれました。 |
Q★
バージニアのせりふの手書き文字は、どなたが書かれたものですか? |
A☆
ブックデザインをお願いしたデザイン事務所の方が書いてくださいました。「小島さんが書いたの? それとも、お子さん?」とよく聞かれるのですが(笑)。 |
Q★
評判や売れ行きは? 読者からどんな感想が届いていますか? |
A☆
おかげさまで、大変ご好評をいただいております。お客さまが店頭で注文された分を書店さんが取り寄せられることも多く、読者の方とのつながりを実感できてうれしくなります。自分の住む地域から遠い、北海道や東北の書店さんからお電話をいただいたときなど、喜びもひとしおです! 小さなお子さんをもつ親御さんからは、「おおかみの言葉が楽しくて、喜んでいます」、高学年の男の子は最後の場面に「そうきたか!」。女の子がおおかみになるという設定が面白いようで、「どうしておおかみになったの?」という素朴な疑問も。大人の読者からは、「うちの子もおんなじ! わかる、わかる!」「大人にも、おおかみ気分の日はあるのよね」といった共感の声、「お姉ちゃん、素晴らしい!」と姉バネッサへの称賛の声が寄せられています。心の苦しみを抱く家族を持つ方には、いっそう特別な絵本になったようです。感動してプレゼント用にもう1冊購入したという方もいらっしゃいます。 |
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Q★
思い切って出版社を設立されてみて、率直な感想をお聞かせください。やってよかった、うれしかったというエピソードはありますか? |
A☆
これまで知らなかった世界に飛び込んで、毎日わくわくの連続です。この1年、たくさんの方にお会いしました。板橋区の方々、監修の先生方、やまねこ翻訳クラブの先輩、出版・マスコミ関係の方々、取次・書店のみなさま……。みなさんに助けていただき、感謝の気持ちでいっぱいです。良い絵本を読者に届けようという同じ目標があるため、惜しみないご助力をいただけているのだと思います。 特にうれしかったのは、『きょうは、おおかみ』の帯に推薦の言葉をいただけないか、金原瑞人先生におずおずとお願いしてみたところ、ご多忙にも関わらず二つ返事で引き受けてくださったこと。そして、まったく面識のなかった柳田邦男さんにまさにダメもとでお手紙をお送りし、『世界のまんなかの島 わたしのオラーニ』の推薦文を書いていただけたこと。快諾のお返事が速達で届いたときは本当に感動しました。 |
Q★
最後に、読者へのメッセージと、きじとら出版の今後の予定を。また、翻訳者として読者に届けたい作品への思いもお聞かせください。 |
A☆
子どもも大人も楽しめる素敵な絵本をこれからもご紹介できるよう、息の長い出版社をめざします。「いたばし国際絵本翻訳大賞」は、きじとら出版の生みの親ともいえるコンテストなので、これからも受賞作品を出版できるよう力を尽くしていきたいと思っています。 出版社が軌道に乗りましたら、また翻訳に挑戦したいです! 読んでいると思わずにっこり、読み終わると温かい気持ちになれる、そんな作品を届けることができれば素敵ですね。 |
取材・構成:赤塚きょう子 2015-6-18作成 |
※本の表紙は、出版社の許可を得て使用しています Subtle Patterns FREE LINE DESIGN ←素材を使わせていただきました copyright © 2017 yamaneko honyaku club |