やまねこ翻訳クラブ 資料室
アレックス・シアラーさんインタビュー
(作家)
ロングバージョン
『月刊児童文学翻訳』2009年2月号の 「プロに訊く」の記事に |
|
|
Q★ お会いできて光栄です。まずは、『チョコレート・アンダーグラウンド』のアニメーション映画のご感想はいかがでしょうか。シナリオライターとしてのご感想もうかがいたいです。翻訳された金原さんのご感想もお願いします。 |
A☆(シアラー) 原作
とはずいぶん変わっていますね。かなり未来的で、マンガ的な解釈です。大きなチョコレートマシンなどは、異質な感じがして驚きました。もちろん、表現する形式が変われば、作品が変わるのは承知しています。(映画の前に出された)マンガ(※)も見ました。マンガのほうが映画よりも想像の余地がありますね。日本の脚本家にはエージェントがいなくて、直接映画会社と交渉していることに驚きました。日本人は正直なのかも。英国でそれをやったら権利を失ってしまうかもしれません(笑)。小説の執筆はお金がかからず、投資するものは「時間」だけですが、映画の製作はお金がかかり、たくさんの人が関わる大変な作業ですので、脚本家はプレッシャーを受けますね。 (※山川あいじ作、集英社) A☆(金原) 書籍 のほうは小学生から大学生まで楽しめるようにできていますが、映画は低年齢層にしぼっていますね。それが強みとも言えるかもしれませんが。 |
Q★ ダイアナ・ウィン=ジョーンズの『ハウルの動く城』(2004年)、アーシュラ・K・ル=グウィンの『ゲド戦記』(2006年)など、ほかにも外国の児童文学作品が日本でアニメ化されているのはご存知でしょうか。 |
A☆ 『ハウル
の動く城』の映画化は、もちろん知っています。ウィン=ジョーンズさんの家は、うちからそんなに遠くないんですよ。ゲドの映画は知りませんが、ハウルと同じ監督の『(Spirited
Away)千と千尋の神隠し』は知っています。 |
Q★ 『チョコレート・アンダーグラウンド』は、イギリスでテレビドラマ化もされていますが、今回の映画で新しい発見があったでしょうか。 |
A☆ 映画の冒頭に 、チョコレート捜査官たちが「チョコレートを食べてはいけない」と宣言する、インパクトのあるシーンを置き、本編につないでいくのがうまいと思いました。イギリスのドラマは、わたし自身が脚本を書いているので、わりあい原作に近いですね。 |
Q★(金原) 自分の原作にない部分を作ることもありますか? |
A☆ ドラマは
小説とは違い、視覚的な要素が必要なので、新しくつけたさなければならないこともありますね。逆に、ときには好きな部分をカットする必要もあります。つらくて大変な作業です。 |
映画のシーンより (求龍堂さんの許可を得て掲載しています) 左:ハントリー 右:スマッジャー |
|
A☆ 個人的には、 わたしの子どもたちが小さかったころ、妻が「野菜を食べないとチョコレートを禁止しますよ」と注意したことからヒントを得ました。それから、アメリカの禁酒法のことを考え、チョコレートが禁じられたらどうなるかを書きたいと思いました。 |
Q★ 10年ほど前のフランスのベストセラー小説『茶色の朝』(フランク・パブロフ作)が数年前、日本でも翻訳されて話題になりました。『チョコレート・アンダーグラウンド』は、人々が何もしなかったために、チョコレート禁止の世界になってしまう物語。『茶色の朝』は、人々が何もしなかったために、世界が茶色に染まっていく物語。シアラーさんはもしかして『茶色の朝』を読まれてヒントを得られたのでしょうか。 |
A☆ いいえ、 読んでいません。似ているのでしょうか? (説明を聞いて)読んでみたいと思います。 |
Q★ ご自身もチョコレートはお好きなのでしょうか。ほかの作品にも食べ物の登場シーンが多いようですが、食べることはお好きでしょうか。 |
A☆ チョコレートは
好きですが、歯に悪いのであまり食べないようにしています。他の人が作ってくれた食事を食べるのは好きですが、自分の料理はあまり食べたくありません(笑)。 |
Q★ 『チョコレート・アンダーグラウンド』ではチョコレート製造場面もありますが、実際に作られたことがおありでしょうか。 |
A☆ 子どものころ、 兄といっしょに作ってみたことがありますが、大失敗に終わりました。ココアパウダーとバターを混ぜて、小麦粉を入れただけですからね(笑)。とても食べられたものじゃありませんでした。 |
Q★ この作品で特別お気に入りの登場人物はいますか? |
A☆ スマッジャー
が一番好きです。権威に抵抗し、立ち上がって戦うキャラクターですから、だれもがこんな風になりたいと思うのではないでしょうか。 |
Q★ 登場人物を、具体的な人と重ね合わせて設定することはありますか? |
A☆ どうでしょうね。
(考えて)(『チョコレート・アンダーグラウンド』の)古書店主、ブレイズさんは、近所の古書店の主人がモデルです。独立心があって、頑固な感じ。といっても、その人を実際に知っているわけではなく、外見で想像しただけですけどね。『海のはてまで連れてって』の双子は、わたしと兄をモデルにしている面があります。わたしたちは双子ではありませんが、年が近くて、双子とまちがわれるのがいやでした。『スノードーム』は、バースに実際にあったギャラリーで、小さなオブジェを見たことがきっかけとなりました。 |
Q★ 金原瑞人さんへの質問です。翻訳家の目からごらんになった、シアラー作品の魅力や翻訳の難しさなどについてお聞かせいただけますか。 |
A☆(金原) さきほどシアラーさんに、
「(あなたが訳している)デイヴィッド・アーモンドの文体は難しいでしょう?」と言われました。確かにアーモンド作品の文体は難しいけれど、シアラー作品にも、英国文学らしい難しさはありますね。 シアラーさんの作品はテンポがよく、発想、着想が面白く、それを物語として構築していく力がすばらしい。思いもかけないような状況を語っていくストーリー・テリングのうまさは、ロアルド・ダールを思わせます。シアラーさんもダールはお好きだとおっしゃってましたが、ぜひダールをこえる作家になっていただきたいですね。 |
Q★ やまねこ翻訳クラブ会員のお子さんからの質問です。「シアラーさんは娘さんや息子さんも大きくなったベテランのお父さんですよね。そのくらいの年齢になっても、空想豊かな物語を書けるのはどうしてですか? 家族の人たちと一緒に考えることはありますか? ぜひ、そのこつを教えてください。」 |
A☆ 現在と 過去の自分の経験を組み合わせることはありますね。たとえば『魔法があるなら』の例ですが、ロンドンのハロッズに初めて行ったとき、店内のぜいたくなアイスクリームパーラーで娘が「ここに住めるわね」と言ったのです。ハロッズにはどんなものでもそろっていますからね。それから、わたし自身が子ども時代を送ったスコットランドで聞いた「大家が来る前に夜逃げしろ」という言い回しを思い出したことから、(貧しい母子がこっそりデパートに住むという)この本のアイデアが生まれました。 |
Q★ ユーモラスな作品から、死や老いなどシリアスなものまで、幅広い主題、多くのアイデアはどこから得られるのでしょうか。 |
A☆ 新聞などを 読んだり、何かのできごとをきっかけにしたり、ですね。よく聞かれる質問ですが、はっきりとはわかりません。いろんなことが混ざり合って、出てくるようです。ひとつの作品を書いていて、ほかの作品のアイデアが浮かぶこともあります。アイデアを得てから数週間ほどで作品にしますね。 |
Q★ ご自分の作品の中で、どれがいちばんお好きですか? |
A☆(シアラー) いつも、そのとき執筆している作品がいちばん面白くて好きですね。 A☆(金原) 翻訳も同じです。今訳している作品がいちばん面白い。 |
Q★ 最後に、新作について、日本の読者に教えていただけますか。 |
A☆ 少年と母親を扱ったコメディ、"Acting up"
を書き上げたばかりです。少年は落ち着いた暮らしをしたいのですが、母親のほうは、バレエとか役者とか目立つことを子どもにさせたがる。やがて少年は、有名になりたいのは母自身だということに気づき……という話です。まだ出版は決まっていません。 |
『13カ月と13週と13日と満月の夜』 |
『海のはてまで連れてって』 |
『透明人間のくつ下』 |
他のシアラー作品についての質問 |
Q★ 『スノードーム』は他の作品よりも対象年齢が上のような気がしますが、何歳くらいの読者を想定されて書かれたのでしょうか。 |
||
A☆ どの作品の場合も、対象読者の年齢層を考えて執筆することはありません。『スノードーム』の場合は、出版社の人が、子どもが登場する話なので子どもが読むだろうと言って、(子どもの本として)出したのです。でも『スノードーム』は子ども向けというよりもSFですね。 | ||
|
Q★ 『スノードーム』の日本版前書きで、芸術家の孤独について書かれていますが、どういった人を想定されているのでしょうか。 A☆ 特定の人物を想定しているわけではありません。『スノードーム』では、身体的な違いのため他人や社会とつながりを持てないと感じる人物が出てきます。そして現実には、身体的には問題がないのに心理的な面でつながりを持てず、疎外感を抱いている人が多いと思います。この作品では、人と関わりたいと思いながらいろいろな理由でそれができないという、人間の疎外感を表現したかったのです。
『スノードーム』 アレックス・シアラー作/石田文子訳/求龍堂 /2005 (レビュー) |
|
Q★ ご自身も同じような孤独を感じられることはありますか。 |
||
A☆ たくさんの 本を出版し、長く書いてきたからといって、ずっと同じ作品を書くわけじゃないから、次の作品がうまく書けるという保証はない。その点で怖さは感じますね。孤独というのは、創作に携わる者には避けられない問題ではないでしょうか。 |
||
Q★ 男の子向けの話が多いようですが、イギリスの男の子はよく本を読むのでしょうか。日本の男の子はあまり本を読まない傾向があるようです。 |
||
A☆ イギリスでも 同じです。男の子には軽いコミカルな本や、「アレックス・ライダー」シリーズ(アンソニー・ホロヴィッツ作/集英社)などの、少年版ジェームズ・ボンド風の本が人気です。 |
||
Q★ (『スノードーム』の献辞にある)ケイトとはどなたですか? |
||
A☆ 娘の
名前です。これまでの本には息子ニックの名前を挙げていたので、娘に「わたしの本は?」とせがまれていたんですよ。 |
インタビューを終えて |
Q★ 金原さんへの質問です。シアラーさんにお会いになって、印象はいかがでしょうか。 |
A☆(金原) シアラーさん、とても気さくなかたで、自分の作品に関してはとても誠実に語ってくれるし、数年前に来日した、デイヴィッド・アーモンドさんに似た感じもあって、お話をしていて楽しかったですね。 |
取材/相山夏奏・月沢李歌子・菊池由美 文/菊池由美 2009-02-18作成 |
※本の表紙は、出版社の許可を得て使用しています ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ copyright © 2009 yamaneko honyaku club |