『月刊児童文学翻訳』2004年11月号より
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Q★翻訳コンテストは、やまねこ翻訳クラブでも挑戦しているメンバーが多いです。結果はいかがでしたか。A☆なかなか入賞するところまでいきませんでした。それでも2年ほど応募は続けていたんです。そんな時、友人が偕成社を紹介してくれました。編集者の方に、何か訳したものを見せてほしいと言われ、絵本の翻訳をお見せしました。「いい作品を見つけたら見せてください」と声をかけてくださったので、"The Left-Outs" と出会った時に「ええいっ!」と全訳したものをお送りしました。決定のお返事までに数か月かかりましたが、決まった時は本当に天にものぼる心地でした! |
Q★一般書も児童書でデビューされてから2年後に刊行されています。この作品も持ち込みがきっかけですか。A☆純粋な持ち込みではないのですが、持ち込みがきっかけでお話をいただけました。ビギナーズ・ラックに気を良くした私は、よしっとばかり、これはと思う本を探し出しては、カラーの合いそうな出版社に送りはじめました。児童書だけではなく、一般書もです。音沙汰もないのがほとんどなので、たまに編集者から手書きの断り状が届くと、それだけで嬉しくなったほどです。ドロシー・アリスンは惚れ込んだ作家のひとりですが、彼女の作品を送った時に、励ますような一言をくださったひとりが晶文社の編集者でした。その方から後に連絡をいただいたのが、『なにもかも話してあげる』。なんと作家はドロシー・アリスンではありませんか! 思いがけない偶然(編集者の方は気づかれてなかった)に小躍りしました。 |
Q★とても順調なペースで翻訳者としてのキャリアをつまれているのですね。A☆そんなことはありません。最初に持ち込んだ企画が通ってからは、次がなかなか決まらず、幸運の神様の髪の毛(端っこ!)をにぎれただけに、シノプシスを送っても送っても、何の反応もないのは苦しかったです。また、まだ邦訳が出ていないことを確かめて、シノプシスと部分訳を仕上げ、送る出版社も決めていた時に、たまたま入った書店でその本が新刊書コーナーにあるのを見た時は、へなへなと座り込みそうになったこともあります。でも、目のつけどころは間違っていなかったぞと、自分を慰めました。 |
Q★どのようなペースで翻訳をされていますか。また、よろしければお使いの辞書など環境を教えてください。A☆だいたい自分で予定をたてて翻訳をしています。たとえば、ウィルソン作品だと、1日10ページは進みます。一般書だと5ページくらいでしょうか。おおざっぱに予定をたて、できなかった日は翌日に取り戻すようにしています。予定よりは早めに仕上げて練り上げに時間をかけるようにしているんです。インターネットが常時接続になり、調べ物に費やす時間がずいぶん減りました。シノプシス作成だと、そうですね、他の予定が何も入っていなければYA作品なら朝から読んで1日で仕上げることはできます。英和辞書はパソコンにリーダーズとリーダーズ・プラス、英英辞書はコウビルドですね。それに平凡社の百科事典をいれています。常時立ち上げているのはリーダーズと、あとネット上のアルクの英辞郎(これは文例が豊富で便利!)。最近教えていただいたオンラインスラング辞書、http://www.urbandictionary.com/ も優れものです。英英は http://www.onelook.com/ をよく使っていまね。それから何といっても必要不可欠なのは検索エンジンの Google です。調べ物だけじゃなく、私はよく辞書代わりに使っています。あと、翻訳原稿はワープロソフト Word で仕上げています。 |
Q★さくさくと翻訳をされているのですね。読むのも早いとお見受けしますが、子どものころから本はよく読まれていたのですか。A☆いまは普通より丈夫ですが(笑)、子どものころは小児喘息ということもあり、体が弱く、本ばかり読んでいたんです。親が転勤族でしたので、あちこちに住みましたが、近所に図書館もないところでは、小学校の図書室の本をすべて読み、先生から特別にPTA文庫の本を借りたこともあります。父も本好きでしたので、小学生のころから大人の本も読んでいました。芥川龍之介の短編などは、父の本棚から全集をひっぱりだして読みました。ですから、むずかしい漢字も、旧かな遣いもよく知っていたんですよ。ドリトル先生シリーズ、『小公女』、『小公子』なども好きでしたね。小学校高学年になると、O・ヘンリーの短編、ジャック・ロンドンの小説も好きでよく読みました。 |
Q★たくさん読まれてきたのですね!A☆読むことは、いまも大好きです。私は、翻訳を究極の「読む」だと思っています。一語一語、どうしてここでこの単語を使ったんだろうかと考えながら訳すわけですから、普通に読むのとは比べものにならないくらい深く「読めて」しまいます。それがすごく楽しいんです! 翻訳の醍醐味ですね。 |
Q★本当ですね! ウィルソン作品を多く訳されていますが、苦労されることはどんなところでしょう。A☆ウィルソン作品に限らず、悩むのは、言葉遊びや罵り言葉です。他の方が上手に訳されているのを見ると脱帽してしまいます。これらは、翻訳ではどうしてもすくいきれないものもありますが、なんとか工夫をこらします。英語でよく感じるのですが、罵り言葉にセクシュアルな意味合いがこめられている場合がとても多いんです。それに返す言葉もけっこう性的なものを使った言葉になったりするので、悩みますね。ウィルソン作品にでてきた罵り言葉ですが、意味的には「ほんとに」というと、相手は「ほんとにほんとに」と言い返す。「ほんとに」という言葉では、軽い強調の感じは出ますが、もともとの英語の意味(オッパイやオチンチン)までニュアンスを出すことはできません。原文では、そういう性的なニュアンスも響いていると思うのですが、これを子ども向けの本に、もりこむのはとても難しいです。 |
■■これから刊行される小竹由美子さんの翻訳書■■『シークレッツ(仮題)』(ジャクリーン・ウィルソン作/偕成社)『プロジェクトX(仮題)』(ジム・シェパード作/白水社) 『ナターシャ(仮題)』(デイヴィッド・ベズモーズギス作/新潮社) |
取材・構成:林 さかな 2004-11-15作成 |
※本の表紙は、出版社の許可を得て使用しています。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ copyright © 2004 yamaneko honyaku club |