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洋書でブレイク

8つの目で見た公園のさんぽ

 犬をつれて公園にさんぽにきた親子(母・息子)が、同じように犬のさんぽに きた親子(父・娘)と出会う。犬同士、子ども同士は仲良くなるけれど、すぐに また親につれられて帰ってゆく――。

『ボールのまじゅつしウィリー』(久山太市訳/評論社)などで知られる英国の絵本作家アンソニー・ブラウンの新作は、かいつまんで言えばたったこれだけのお話。ところがこの同じ話が4人の登場人物それぞれの口から語られると、4つの違った物語になる。

 上流階級の奥様風の母親と、ちょっぴり気弱な息子。失業中でふさぎこんでいる父親と、快活で好奇心いっぱいの娘。奥様が、愛犬のラブラドールを追いかけ回す「うすぎたない雑種犬」にぴりぴりしているかたわらで、失業中のお父さんは、ひたすら新聞の求人広告に読みふける。ちなみにこのお父さんの物語には、もうひと組の親子なんてまるっきり登場しない。う、子どもを公園に連れていっても、頭の中は、やりかけの仕事や課題のことでいっぱいの自分にそっくりじゃないか、と思わずドキッとしてしまう。

 一方、子どもたちはお互いのことを「なあんだ、女の子か」「なんだか弱虫みたい」と思いながらもしだいに心をかよわせ、遊び始める。ふたりが犬と一緒になって飛んだりはねたりするクライマックスの場面は、子どもの世界の豊かさと躍動感があふれていて圧巻だ。いつも母親に押さえつけられている男の子も、この時ばかりは何もかも忘れて幸せそうにはしゃぎ回る。なぜだか「がんばって」と声をかけたくなってしまう。

 ところで言い忘れたが、このお話の主人公たちは、前述のウィリーの登場するシリーズと同様、みんなお猿さんだ。でも表情もしぐさもとことん人間的で、それがなんとも言えぬおかしみをかもし出している。シュールレアリスムを取り入れた画風で人気のブラウンらしく、隠し絵やこまごまとした遊びも満載。ストーリーとのからみも抜群だ。数あるブラウン作品の中でも傑作と言える本書は、目下イギリス絵本に与えられる最高の栄誉、ケイト・グリーナウェイ賞にノミネートされている。果たして3度目の受賞なるか――。

(内藤文子)

VOICES IN THE PARK
by Antony Browne, 1998
(Doubleday £9.99 32pages)

「キッズBOOKカフェ」(月刊『翻訳の世界』1999年8月号掲載)のホームページ版です。

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