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「よくできた物語」という言い方には、いささか皮肉めいた響きがこめられる場合がある。「よくできた物語なんだけど……」というふうに。しかし、ほんとうによくできた物語には、そんな不満や疑問をはねかえすだけの力があるものだ。 ガヤガヤの都は、世界でいちばんやかましい町。なかでも王子のギャオギャオは大のやかまし好きだった。その王子が誕生日の贈り物として望んだのは、世界中の人が同時にどなったらどんな音がするだろう、という思いつき。そして、全世界の人がそのアイデアをおもしろがり、協力することになったが――。この『世界でいちばんやかましい音』、ここからの意外な展開が小気味よい。このストーリーを騒々しい現代社会に対する風刺として読み解くこともできるが、それ以前に物語の原初的な楽しさを感じずにはいられない。 本書は古い物語を新たに絵本にしたものだが、一方『スニッピーとスナッピー』は、古典絵本を新訳で甦らせたもの。「危ないところに行ってはいけないよ」という教訓が気になる向きもあるだろうが、好奇心に端を発する2匹の子ねずみの活躍は、純粋な冒険譚としての読みごたえがある。 バーニンガムの『はたらくうまのハンバートとロンドン市長さんのはなし』は、65年の作品。毎回多種多様な手法とアイデアを駆使するバーニンガムだが、初期の作品には、本書のような「さえない主人公が一躍脚光を浴びる」パターンが意外と多い。溜飲が下がる展開、というのもよくできた物語のひとつの条件かもしれない。 今回は原著の古い作品ばかり取り上げてしまったが、もちろん現代にだって、よくできた物語はそこここに転がっている。しかし、その根っこを見ていくと、不思議と昔話・民話の構造に近づいていくようだ。長く語り継がれる物語の秘密が、ここにある。 (ながさわくにお) |
「キッズBOOKカフェ」(月刊『翻訳の世界』1999年8月号掲載)のホームページ版です。
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