「オトナって自分勝手だよ」自分の思い通りにことが進まないとき、子どもはよくこんなことを口にする。親にしてみれば、陰でどれだけあなたのことを考えているか、と口惜しくなるセリフだ。だけど、本当に「自分勝手」な親がいたとしたら……。
10歳の主人公、ドルフィンのママはそんなママ。もっともドルフィンと異父姉のスターは、彼女を「ママ」とは呼ばず「マリーゴールド」と名前で呼ぶ。マリーゴールドは娘ふたりを育てる未婚の母だが、子どものために自分の生活を犠牲にしたりしない。ミニスカートでキメて夜遊びに出かけてしまう「自分勝手な」親だ。もちろん娘を愛しているが、他にも好きなことがたくさんあって、どれをあきらめる気もない。
そんなマリーゴールドの生き方を象徴するのが、体中に彫られた12の刺青。といってもチンピラ兄ちゃんたちが腕にちんまりと入れている、ありきたりのアレではない。好きなこと、信じることだけに従って生きているマリーゴールドが、自分にとって大切なものを自分でデザインした、カラフルな刺青だ。
ドルフィンはこの刺青が好き。型破りで、きれいな母親を自慢に思っているから。けれども、精神の起伏が激しく自分勝手なマリーゴールドに振り回され、心はいつも不安定だ。一方、中学生のスターは自立を始める年頃。ここにきて無責任で母親らしくないマリーゴールドが許せなくなる。離れていくスターの心をつなぎとめたいが、普通の母親になりきれないマリーゴールド。対立するふたりの間でドルフィンの心はますます不安になっていく。
親にだって自分の人生があるという母親の気持ち。親の手に守られた穏やかな生活がしたいという子どもの潜在的な願望。どちらもわかるだけになんとも切ない気持ちにさせられる。
だが、こんな物語もこの作家の手にかかると湿っぽくならないから不思議だ。きっと他の作品同様、主人公が逆境をありのままに受け止め、前向きに解決していくからなのだろう。そして毎回コンビを組んでいるニック・シャラットの絵も物語を楽しく盛り上げる。今回はポップに美しく描かれた、12の刺青がみものだ。
(大塚典子)
The Illustrated Mum
Written by Jacqueline Wilson,
Illustrated by Nick Sharratt, 1999
(Yearling Books £4.99 222 pages)
未訳
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