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●オルレブの最近の邦訳作品 |
1996年に国際アンデルセン賞を受賞したイスラエルの作家、ウーリー・オルレブの作品が、相次いで邦訳刊行されている。訳者はヘブライ語翻訳の第一人者母袋夏生(もたいなつう)さん。オルレブ作品を深く理解し、作者とも親交を持つ母袋さんにお話をうかがった。 最新刊『砂のゲーム』は、第二次大戦中、ユダヤ人であるオルレブと弟がゲットーや強制収容所で過ごした6年間を、子どもの視点で綴った回想記だ。「ホロコースト」と聞くと、どうしても暗く悲惨なイメージを思い浮かべるが、オルレブの筆致は意外なほど淡々としていて、むしろさりげないユーモアを感じさせる。 「オルレブがとても嫌うのは『ホロコースト』という枠をはめられることです。戦争の6年間、しかも追われる身だったから当然恐怖づくめだったでしょうが、恐怖ばかりだと生きていけない。子どもは無意識におもしろいことを見つけ、想像力を働かせて遊び、生きようとし、普通の生活を続けようとする。それが、この本で『遊び』の比重が大きい所以かもしれません」(母袋さん) オルレブ兄弟は、あかりをつけることも外出することもままならぬ暮らしの中で、様々な遊びを考え出す。とりわけ熱中したのが「戦争ごっこ」だった。実際の戦争の中に身を置きながら、自分たちでも「戦争ごっこ」をして遊んでいたのだ。ゲームに勝つために兄がずるをすると、弟は「もう、いっしょに遊ばないよ、ばーか」とやり返す。平凡ともいえる兄弟げんかの中に、子どもの持つしたたかさ、生命力、根源的な明るさがにじみ、胸を打つ。 物事を理屈や善悪で分けたりせず、子どもの目で見たままをとらえる……これはすべてのオルレブ作品に共通する特徴だと母袋さんは言う。シャンプーが大きらいで、毎週火曜日にお風呂場で泣き叫んでしまう男の子を描いた絵本『かようびはシャンプー』や、何気ない日常の印象的なひとこまを綴った短編集『羽がはえたら』にも、オルレブの鋭くやさしいまなざしと、人生をありのままに受け止めようとする姿勢が存分に発揮されている。 そしてそれは作者の人となりでもあると、93年以来何度かオルレブに会った母袋さんは考えている。「ごく自然で無理をせず、決して自分の考えを押しつけようとしない人です。作品に流れている無垢な魂を失っていませんね」。母袋さんの紹介で、これからも無垢で奥深いオルレブの世界と出会えるのが楽しみだ。 (内藤文子) |
「キッズBOOKカフェ」(月刊『eとらんす』2000年11月号掲載)のホームページ版です。
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