インターネット書店で知らない絵本を買うのは、一種の賭けのようなものだ。書評を読んでだいたいの雰囲気をつかみ、ネット上の表紙の絵を見て注文するのだが、実際に手にとって中身を確認することができないので、「当たりはずれ」がある。だから、届いた絵本が期待していた以上の作品だと、喜びもひとしおだ。今回ご紹介する
Come On, Rain! は、私にとってはまさに「大当たり」の絵本だった。
日照り続きの暑い夏の日。もう3週間、ひとつぶの雨も降っていない。"Come
on, Rain!"――主人公の少女はつぶやく。やがて空のかなたに雨雲が姿を現し、どんどんこちらに近づいてくる。少女は近所の友だちを誘い、水着に着がえて路上で雨を待ちうける。このシーンで描かれているのは、灰色の空に向かって伸びる8本の手。少女たちの顔は見えない。ページをめくると、今度は足だけだ。ポツ、ポツ……と降り出す大粒の雨。そして次のページでとうとう4人の全身が現れる。肌の色も髪の毛の色も違う少女たちが、雨の中、楽しそうにはしゃぎまわっている。さらにそれぞれの母親も、子どもたちの歓声に誘われるように、靴やストッキングを脱ぎ捨て、一緒になって踊り始める。久しぶりの雨を心から喜び、思い思いのダンスを楽しむ4組の親子。その幸せそうなようすを眺めていると、こちらまで幸せな気分になってくる。
この絵本の一番の魅力は、水彩で描かれた絵の美しさだ。とくに最後の雨あがりの街の情景は、しっとりと美しく、幻想的でさえある。また、水彩画独特のぼかしやにじみの効果によって、うだるような夏の暑さや、雨が降る前の空気の湿り気なども、絵の中から伝わってくる。窓辺のカーテンが風にそよぐ絵からは、薄手のカーテンのふんわりした手触りや、風に含まれる熱気までもが感じられる。親子で踊るシーンでは、子どもの水着と母親の洋服の色が合っているのがわかって楽しい。
絵に魅せられて何度となくページをめくっているうちに、ふと子どもの頃の夏休みを思い出した。抑えた色調がノスタルジックな雰囲気を醸し出し、どこかなつかしい香りのする絵本。私の大切な1冊となった。
(生方頼子)
Come On, Rain!
by Karen Hesse, Pictures by Jon J. Muth,
1999
(Scholastic $15.95 32 pages)
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