Bear Hunt(クマ狩り)という遊びがある。
――さあ、みんなでクマ狩りにしゅっぱーつ。あっ、川だ。しかたがない、泳いで渡ろう! ばしゃばしゃばしゃ……。――
行く手には川や畑、大木、沼、森、嵐などが立ちはだかり(適当にアレンジされる)、ついにはほら穴でクマと遭遇。一転、大あわての動作で、今来た道を逃げもどる愉快な遊戯だ。
We're Going on a Bear Hunt(1989)は、この伝承遊びをもとに創作された絵本。まずは、つくりが興味深いので、3つの特徴をあげてみる。あとで実物と照らしてほしい。
1.彩色……モノクロとカラーの見開きが交互に現われる。モノクロ頁は〈静的な絵+反復フレーズ〉、カラー頁は〈動的な絵+オノマトペ〉。前者は想像力をかきたて、後者は鮮やかに迫る。彩色・動静・テキストが一体となってリズムを生む。
2.構図……各カラー頁(草原、川、……、吹雪)は、直前のモノクロ頁と「人物の向きを逆」にとり、歩みの困難さを表現している。また、人物の向きは、右前向き(草原)から、本の進行に逆らう左向き(吹雪)へと、順次抵抗を強めている。
3.見返し(表紙の内側)……物語の前・後に同じ海辺が時刻を変えて描かれ、時の経過をさりげなく演出している。
とまあ、絵本作りのいくつかの手法が端的に学べる作品なのだ。
さて、理屈っぽい話はこのくらいにして絵本を楽しもう。登場する5人と1ぴき(犬)はじつに微笑ましい。「あかちゃんのえほん」や「はじめてのえほん」シリーズ(童話館出版ほか)を手がけてきたオクセンバリーらしい愛情が、絵のそこかしこにあふれている。だれが赤ん坊の面倒を見ているかなど、ひとりひとりの様子を追ってみるとなおのこと心があったかくなる。
邦訳もおすすめで、行き・帰りで変化するオノマトペがおもしろい。子どもたちを前にしての読み聞かせにもぴったりだ。ただ、"We're
going on a bear hunt." と繰り返されるセンテンスが、最後のページでどうなるか。オチの部分は原文の音感に軍配をあげたい。それから、絵にもちゃーんとオチがある。ひとりだけ、ちがうんだよな〜、お見逃しなく。
さあ、読んだあとは、クマ狩り遊びで盛り上がろう!
(野木富夫)
We're Going on a Bear Hunt
Retold by Michael Rosen,
Illustrated by Helen Oxenbury, 1989
(Margaret McElderry $17.00 33pages)
邦訳
『きょうはみんなでクマがりだ』
マイケル・ローゼン再話
ヘレン・オクセンバリー絵 山口文生訳
(評論社 本体1300円)
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