メニュー読書室レビュー集キッズBOOKカフェ>やまねこ調査隊 オンライン書店


やまねこ調査隊

第15回 名作を「今」に届ける新訳――唐沢則幸さんに聞く

「アウトサイダーズ」表紙
アウトサイダーズ
S・E・ヒントン著 唐沢則幸訳
(あすなろ書房 本体1500円)
※貧しい少年グループ“グリーサーズ”と、中流階級の少年グループ“ソッシュ”の対立の中で、少年たちの友情と青春の光と影をリアルに描き出す。作者ヒントンが16歳の時に執筆した作品。

 S・E・ヒントンの『アウトサイダーズ』といえば、米国では発表から30年以上たった今も読み継がれる、青春小説の代表作。日本では、83年の映画公開にあわせて大和書房、集英社よりそれぞれ清水真砂子訳、中田耕治訳が出版されて話題となった。

 その名作が、今年5月、あすなろ書房より唐沢則幸訳で甦った。名作の新訳は、読者にとっては期待と不安が半々。訳者にとっても、新作とは違った苦労があるのではないだろうか。さっそく訳者の唐沢さんにお話をうかがった。

 唐沢さんは、月刊「翻訳の世界」96年1月号で「2つのアウトサイダーズ」という記事を書いている。清水訳と中田訳を比べ、それぞれの味わいの違いを考えるという内容。しかも今回の翻訳は、その記事を読んだあすなろ書房の編集長からの依頼だという。さぞかし「新訳」には力が入ったかと思いきや、「旧訳は特に意識しませんでした」と唐沢さん。「清水さんや中田さんがどう訳した、ということよりも、いかに自分の言葉で訳せるかに集中しました」たとえば、旧訳では主人公ポニーボーイの一人称はいずれも「おれ」だが、唐沢訳では「ぼく」。不良っぽさよりも、繊細さを感じさせたいという思いがこめられている。

 また、10代の少年たちが主人公のため、訳語には俗語に近い表現も多く使われている。登場人物たちの息遣いが聞こえそうな「今」を感じさせる訳だが、くだけ過ぎの印象は全くない。意識して文体を崩すのではなく、「情景を思い浮かべて」最も自然に思える表現をあてはめていったという。また、地の文が一人称ということで、語りの雰囲気を出すために、語尾を『〜していた』ではなく、『〜してた』にするなどの工夫をした。他にも「鬼みたいに飲む」「そういうことするかなぁ」「脳みそ筋肉」など、印象的な言葉が数々登場する。

「日本で集団といえば、個を殺して埋没するイメージ。でも、この物語に描かれる集団は、あくまでも独立した個と個の強い絆によって成立しています。そのつながりや集団のあり方を、今の日本の子どもたちがどう考えるのか、興味があります」と唐沢さん。唐沢さんの訳は、名作の普遍的な感動を、「今」という時代に届ける大きな力となるはずだ。

(森久里子)



「キッズBOOKカフェ」(月刊『翻訳の世界』2000年9月号掲載)のホームページ版です。

表紙の画像は、出版社の許可を得て掲載しています(無断転載不可)。

「やまねこ調査隊」もくじ

9月号「洋書でブレイク」

メニュー読書室レビュー集キッズBOOKカフェ>やまねこ調査隊

copyright © 1998-2002 yamaneko honyaku club