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S・E・ヒントンの『アウトサイダーズ』といえば、米国では発表から30年以上たった今も読み継がれる、青春小説の代表作。日本では、83年の映画公開にあわせて大和書房、集英社よりそれぞれ清水真砂子訳、中田耕治訳が出版されて話題となった。 その名作が、今年5月、あすなろ書房より唐沢則幸訳で甦った。名作の新訳は、読者にとっては期待と不安が半々。訳者にとっても、新作とは違った苦労があるのではないだろうか。さっそく訳者の唐沢さんにお話をうかがった。 唐沢さんは、月刊「翻訳の世界」96年1月号で「2つのアウトサイダーズ」という記事を書いている。清水訳と中田訳を比べ、それぞれの味わいの違いを考えるという内容。しかも今回の翻訳は、その記事を読んだあすなろ書房の編集長からの依頼だという。さぞかし「新訳」には力が入ったかと思いきや、「旧訳は特に意識しませんでした」と唐沢さん。「清水さんや中田さんがどう訳した、ということよりも、いかに自分の言葉で訳せるかに集中しました」たとえば、旧訳では主人公ポニーボーイの一人称はいずれも「おれ」だが、唐沢訳では「ぼく」。不良っぽさよりも、繊細さを感じさせたいという思いがこめられている。 また、10代の少年たちが主人公のため、訳語には俗語に近い表現も多く使われている。登場人物たちの息遣いが聞こえそうな「今」を感じさせる訳だが、くだけ過ぎの印象は全くない。意識して文体を崩すのではなく、「情景を思い浮かべて」最も自然に思える表現をあてはめていったという。また、地の文が一人称ということで、語りの雰囲気を出すために、語尾を『〜していた』ではなく、『〜してた』にするなどの工夫をした。他にも「鬼みたいに飲む」「そういうことするかなぁ」「脳みそ筋肉」など、印象的な言葉が数々登場する。 「日本で集団といえば、個を殺して埋没するイメージ。でも、この物語に描かれる集団は、あくまでも独立した個と個の強い絆によって成立しています。そのつながりや集団のあり方を、今の日本の子どもたちがどう考えるのか、興味があります」と唐沢さん。唐沢さんの訳は、名作の普遍的な感動を、「今」という時代に届ける大きな力となるはずだ。 (森久里子) |
「キッズBOOKカフェ」(月刊『翻訳の世界』2000年9月号掲載)のホームページ版です。
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