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●詩人が贈る絵本 |
9月に『白バラはどこに』と『……の反対は?』という絵本が出た。前者は戦時中ナチスによる強制収容所の存在を知ったドイツ人少女の物語。後者はピュリッツァー賞を2度受賞した詩人ウィルバーによる39のなぞなぞ話。この2冊、だいぶ趣のちがう内容ながら、いずれも「詩人が贈る絵本」というシリーズ名がついている。しかも出版社は、児童書ではなく、哲学・思想書でおなじみの「みすず書房」。うーむ、これは興味深い! 我々はみすず書房編集部長、守田省吾さんのもとへ急行した。 今回の「詩人が贈る絵本」シリーズは、絵本コレクターであり、自ら絵本の翻訳も手掛ける詩人の長田弘さんが持ち込んだ企画だった。「みすず書房さんが絵本を出すからおもしろいんです」そんな長田さんの言葉に、守田さんも、児童書出版界ではいわば「外部」の出版社が「絵本」を出すことで、出版界の活性化に一役買いたいと考えた。また、作り手が判型を工夫できたり、読み手が自分なりの読み方で楽しめたりといった、絵本の持つさまざまな可能性、自由さにも大いに魅力を感じたという。次の読者層となる子どもたちが本を手にとるきっかけになれば。そういう思いもあって出版に踏み切った。 本シリーズは全7冊、いずれも長田さんが選び、訳している。原書に複数の版がある場合は、もっとも思い入れのある版にした。10月刊行の『十月はハロウィーンの月』も、最新版ではなく、作者アップダイクの育ったペンシルヴァニア州の町の清冽な印象を刻す初版本をあえて使っている。また、どの作品も、シルヴィア・プラス、モーリス・センダック、アンソニー・バージェスといった錚々たる面々が本気で取り組んだものばかりだ。 この7冊だが、原書ではばらばらだった判型を、共通の大きさにして統一感を出した。というのも、本シリーズの絵本づくりは、本のあり方のひとつである「贈り物」というコンセプトを基本に掲げたからだ。そこには「本が人と人を結びつける媒体になってほしい」という願いが込められている。 本シリーズは12月まで毎月刊行予定。みなさんも家族や友人や恋人への贈り物にしてみてはいかがだろう。 (田中亜希子) |
「キッズBOOKカフェ」(月刊『eとらんす』2000年12月号掲載)のホームページ版です。
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