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西村書店は、ワンス・アポンナ・タイムシリーズ、バーナデット・コレクションなど芸術性の高い絵本で知られる。またヤングアダルト向けにも、エンデと並ぶ人気の作家、ラフィク・シャミの小説を数多く出版するなど、児童書ファンには気になる存在だ。その西村書店が『ファージョン自伝』を出した。イギリスのアンデルセンと称されるエリナー・ファージョンである。これはぜひお話をうかがいたいと、調査隊は飯田橋にある編集部におじゃました。 西村書店は今年、出版事業20周年を迎えた。折よく子ども読書年と重なったこともあり、記念企画として児童書の刊行予定が目白押しだ。その皮切りとなったのが『ファージョン自伝』である。ファージョンは『ムギと王さま』、『リンゴ畑のマーティン・ピピン』(岩波書店)など、石井桃子さんの名訳で日本でも親しまれ人気は根強い。その一方、没後35年がたち、店頭での作品の入手も困難になっているのが現状である。刊行にあたっては、編集部でもどれだけの人に読んでもらえるかという懸念の声があったが、出版後の評判は上々だという。 ファージョンらしい語り口が特徴の本書は、作家の父と演劇一族の血をひく母に愛された、ファージョン家の4人の子どもたちの物語だ。本、演劇、音楽を惜しみなく与えられた子どもたち。たっぷり浴びた芸術のシャワーを素材に4人は想像の羽を広げ、子ども部屋での遊びを膨らませていく。とりわけ兄ハリーとの特異なごっこ遊びはファージョンが長年にわたって最も気に入っていた遊びだった。本書を読むと、彼女のファンタジーの原点は少女時代の膨大な量の読書や観劇にあったことがよくわかる。まさに子ども読書年にふさわしい1冊といえる。 ところで、多くの登場人物が複雑に絡み合うこの長い物語は、監訳者と2人の訳者によって実に8年をかけて訳しあげられた。担当箇所の訳を持ち寄っては3人で検討し合い、問題点を持ち帰って調べるという地道な作業の繰り返しだったという。こうして念入りに読み込まれ、訳されただけあって、ファージョンの息づかいが聞こえてきそうな力作となった。 さて、今後続々と控えている出版予定を教えていただいた。4月には当時12歳の少年が書いてドイツでベストセラーとなった『緑の石くい虫(仮題)』、5月には新訳版『秘密の花園』、その後、シャミの新刊『夜から朝への旅(仮題)』などが刊行される。おとなにとっても楽しみなラインナップだ。 (大塚典子) |
「キッズBOOKカフェ」(月刊『翻訳の世界』2000年5月号掲載)のホームページ版です。
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