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翻訳絵本界に古典ブーム、といっては大げさだが、ここのところ、1950年代前後の名作絵本が次々に復活している。 2000年7月号の本欄でも紹介した『エロイーズ』、日本ではしばらく絶版状態だったこの絵本が、今年4月に新訳で再登場した。正確には、今回の原書となっているのは、1955年の初版ではなく、1999年5月に新しく出た、The Absolutely Essenntial Eloise のほう。こちらは55年版に、「Eloise Scrap Book」なるページが追加、制作の裏話などが収められた特別版だ。さらに、続編『エロイーズ、パリへいく』が同時発売であるほか、続く2作品も刊行が決まっている。続編に関しては、本邦初訳となる。 本邦初訳といえば、映画「グリンチ」の影響か、原作者であるドクター・スースの絵本も、『キャット イン ザ ハット』を皮切りに、河出書房新社から次々に刊行される予定だ。スースは、アメリカでは誰もが知っている古典的絵本作家であるにもかかわらず、日本ではまだ一部しか翻訳されていない。スースの作品は独特のリズム感に特徴があり、日本語に移植しづらいという理由もあったのだろう。このシリーズは、詩人、伊藤比呂美さんの翻訳ということで、期待も大きい。 また、光村教育図書では、昨年と今年、クレア・ターレー・ニューベリーの『サリーとライオン』、フョードル・ロジャンコフスキーの『おおきなのはら』『かえるだんなのけっこんしき』を刊行した。点数は少ないながらも、着実に良い絵本を出していこうという姿勢だ。訳者のさくまゆみこさんも、50年代の絵本に魅せられた翻訳家のひとり。 これらの翻訳絵本は、既訳の再刊ではなく新訳であるということ、そして、児童書専門ではない出版社が出しているということが注目すべき点だ。良質ながらもこれまで「日本向きではない」などの理由から埋もれていた作品に、光を当てることができるのは、児童書出版社ではないからこそなのかもしれない。 次回の調査隊では、やはり児童書専門ではない筑摩書房から刊行中の「ムーミン・コミックス」シリーズ(これまた、本邦初訳)を取り上げ、「なぜ、いまムーミンなのか?」に迫ってみたい。 (ながさわくにお) |
「キッズBOOKカフェ」(月刊『eとらんす』2001年7月号掲載)のホームページ版です。
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