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ムーミン・コミックス 第11巻『魔法のカエルとおとぎの国』 トーベ・ヤンソン+ラルス・ヤンソン著 冨原眞弓訳(筑摩書房 本体1200円) |
昔から児童書やアニメーションとして多くの人々に親しまれてきたムーミンシリーズが、筑摩書房よりコミックスとして発売され、人気を呼んでいる。今なぜムーミンが受けているのか? 筑摩書房の清水檀(まゆみ)さんに話を伺った。 「ムーミン・コミックス」は、トーベ・ヤンソン、ラルス・ヤンソン姉弟が、1954年からイギリスの新聞社に書き下ろしていた連載コマ割り漫画を、単行本としてまとめたものだ。当時はトーベがスウェーデン語で書いたセリフを、ラルスが中心となって英訳し、紙面へ掲載していた。 トーベとラルスの作風は若干異なる。姉、トーベの絵柄は繊細かつ丁寧であり、話の内容は思索的で考えさせられるものが多い。加えて登場人物に語らせるせりふとその場に描かれた絵が、全く逆の状況を示していたりと、ひねりを利かせた作品が多いのだ。 一方、弟ラルスの描くムーミンシリーズは、エンタテインメントに徹している。絵柄の描線は力強く、話の展開は単純明快。そこには、日本のギャグ漫画に通じる笑いも存在する。 これだけ作風の異なる2人であったが、彼らの描くムーミンシリーズには、共通する最大の魅力がある。それは、登場人物たちを通して語られる「思いつめない気楽さ、いさぎよさ」である。ムーミン一家は、何をするにしても場当たり的ですぐ諦める。それにもかかわらず、毎回上手い具合に事態が収まるのだ。そんな彼らの姿を見ているうちに、いつの間にか張りつめていた気持ちが緩んでいる。個性や自分らしさを求められ、個人の能力が問われる現代において、ガチガチに入った肩の力を抜き、ふっとひと息つかせてくれる作品。それが「ムーミン・コミックス」なのである。 さて、話題の「ムーミン・コミックス」シリーズ日本語版は、7月には全14巻が出揃うほか、来年春をめどにシリーズ解説本も出版される予定だ。翻訳を手がけるのは、「トーベ・ヤンソン・コレクション」も担当した冨原眞弓氏。すべてスウェーデン語からの翻訳となっている。ぜひトーベ、ラルス、両者の作品を堪能してほしい。いつしか「心の凝り」も治ること請け合いだ。 (瀬尾友子) |
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