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「いぬがてんごくにいくときには つばさはいらない」という泣かせる1文から始まる『いぬはてんごくで…』。『人魚の島で』(竹下文子訳)『ヴァン・ゴッホ・カフェ』(中村妙子訳/ともに偕成社)などで知られる児童文学作家シンシア・ライラントが、はじめて自分で絵まで描いたという絵本だ。 天国で犬たちを待っているのは、無条件の幸福。なんの悩みもない、苦しみもない、よろこびだけの毎日。生前その犬たちがどういう生活を送っていたかは特に触れられない。天国での楽しい毎日が描かれるだけ。現実ではない世界に遊ぶのがフィクションなら、これはフィクションのひとつの理想郷だ。動物を飼ったことのある人なら誰しも味わったことのあるだろう別れの悲しみ。その代償としてだけでも、現実にはありえない、このよろこびの世界にひととき酔う権利がある。 子どもにとっての幸福とは、親とのふれあいなのだろうか。雨が降ってご機嫌ななめのピートをかかえあげ、父親がピッツァを作りはじめるというのが『ピッツァぼうや』のあらすじ、というか、すべてだ。物語の起伏はなく、たわいなくも楽しい、理想的ともいえる親子のふれあいが描かれていく。毎回コレをやらされては、親にとってはたまったものではないだろうけど。ピッツァの箱をイメージしているという本の体裁も、なかなかしゃれている。 文字なし絵本の多いピーター・シスの新作『とおいとおい北の国のちいさなほら話』は、ちょっとした伝記風の物語絵本。チェコの伝説の英雄ヤン・ヴェルズルの極北の地での冒険を、虚実ないまぜに描いた作品だ。そこに広がっているのは、彩りもなく、寒々とした、きびしい世界。しかし、ヤンが目指し、守ろうとしたエスキモーの人たちが住む世界は、ヤンにとってのしあわせの国だったのかもしれない。 (ながさわくにお) |
「キッズBOOKカフェ」(月刊『翻訳の世界』2000年6月号掲載)のホームページ版です。
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