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やまねこ翻訳クラブ レビュー集

オランダ作品レビュー集(4/5)


▲レビュー集5▲

「おひさま」by Hiroyuki Inagaki

▼レビュー集3▼

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『みんなちきゅうのなかまたち』 イングリットとディーター・シューベルトよこやまがずこ訳 光村教育図書 1998年 32頁
VAN MUG TOT OLIFANT by Ingrid & Dieter Schubert
Copyright 1994 Lemniscaat b.v., Rotterdam
                                       
 我が家の息子は、幼稚園のころ、動物図鑑にはまっていた。寝ても覚めても図鑑ひ
とすじ。寝る前の読み聞かせタイムにも、図鑑を引きずってくる始末だった。そんな
とき、図書館の新刊コーナーで出会ったのがこの大型絵本。インドゾウにシロクマ、
オウム、サル、ペンギン、キリン、ヘビ……。表紙を見ただけでも、数え切れないほ
どの動物が描かれている。もちろん、息子は飛びついた。
 この本のいいところは、図鑑のような本でありながら、ストーリーのある文章がつ
いていることだ。まず、多種多様な動物について、その暮らしぶりの違いを紹介する。
卵から生まれるもの、水中で暮らすものなどなど。危険が迫ったときの身の隠し方も
さまざまだ。そして、どんなに違った姿をし、似ても似つかぬ生活をしていても、み
んな食事をし、満腹になると昼寝をし、食べたらウンチをするのは同じと続く。子ど
もを生み育て、やがて死んでいくという、図鑑を見るだけでは、なかなか語れない生
命の尊さを、気負わずに自然に、幼い子にわかりやすく説いている。
 新刊で借りたときはピッカピカの本だったが、先日、図書館で偶然再会した本は、
ちょっとくたびれていた。子どもたちが繰り返し読んだと思うと、汚れも勲章のよう
に誇らしく見えてくる。

 シューベルト夫妻は、ドイツ生まれ。現在は、アムステルダムで年1冊のペースで
作品を発表している。

(河原まこ)

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『なんてかいてあるの?』 リンデルト・クロムハウトアンネマリー・ファン・ハーリンゲン絵 野坂悦子訳 PHP研究所 1999年
Wat staat daar? by Rindert Kromhout
Illustrated by Annemarie van Haeringen
1999, Uitgeverij Leopold, Amsterdam
                                       
 さるくんに手紙が届きました。でも、さるくんはまだ字が読めません。そこで、や
ぎくんに聞きにいくのですが、わかったのは、<つき>は書いていなくて、<やぎ>
は書いてあるということ。実はやぎくん、<つき>と<やぎ>しか読めないのでした。
そこで、さるくんとやぎくんは、もるもっとさんに聞きにいくのですが、もるもっと
さんが読める言葉は、<つき>と<はな>と<もるもっと>だけ。そんな調子でさる
くんは、あなぐまさんに、ろばさんにと、聞いてまわるのですが、どうもよくわかり
ません。最後に、どんな字でも読めるぶたさんの家にみんなそろって行くと……。
 字を覚え始めた子どもたちは、字を読むのが嬉しくてたまらないように、知ってい
る文字をみつけては元気な声で読みあげます。今までわけわからない記号でしかなか
った文字が言葉に変わっていくことに、胸を躍らせているのでしょうか。この絵本か
らはそんな子どもたちの喜びが、温かいユーモアに包まれて微笑ましく伝わってきま
す。また、きれいな色の絵は瑞々しく、文章を遊び心いっぱいに演出しています。
 ページの下のほうでは、がちょうが、うさぎに文字読みクイズをしています。もう
字が読めるようになったと言いながら、間違ってばかりいるうさぎのかわいらしいこ
と。よく見てやってください。

(三緒由紀)

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『リサのあかいくつ』 ハリー・ゲーレン絵 インメ・ドロス文 いずみちほこ訳
セーラー出版 1993.8.21
IK WIL DIE
Imme Dros and Harrie Geelen
1991, Unieboek b.v/The Netherlands
                                       
 リサのくつが古くなったので新しいのを買ってもらうことになりました。欲しいく
つは素敵なきれいな赤いくつ。残念ながら少しサイズが小さいけれど、リサは気にし
ません。だって、欲しいものは欲しいんだもの。
 欲しいものが手に入ったら誰でも心うきうきするもの。リサはいつでも自分のそば
にくつを置いています。でも、小さいくつはやっぱり痛い。好きなくつなのに、痛み
はどんどん強くなり、とうとう足を冷やさなくてはいけないほどです。(ちなみに、
冷やす方法はなるほど!と感心しました。)
 赤いくつに対するリサの強い気持――。子ども時代に似たような気持をもったこと
はないでしょうか。我が家の4歳児も、愛着のあるくつは小さくなっても無理に履き
ます。今日のお出かけも、こっそりお気に入りの小さいくつを履き、リサのように
「あるけなーい」とベソをかいてました。困ったものです。

 少女の気持ちを浮かび上がらせたような水彩のタッチが優しい絵本。『クルトがど
うぶつえんへいったとき』の感想とあわせて楽しんでいただければと思います。

 作家の二人はご夫婦。妻のインメ・ドロスはデビュー以来、銀の石筆賞を多数受賞
しています。

(林 さかな)

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『青い目のネコと魔女をおえ』M=ディヤング作 黒沢浩訳 木村良雄絵
文研出版 1980年2月 175頁
The Tower by the Sea  by Meindert Dejong(1950)
                                       
 むかし、人々がまだ迷信を信じていた頃、カトベルローレンという村にひとりのお
ばあさんが住んでいました。おばあさんはとても賢かったので、迷信に惑わされたり
はしませんでした。でもあるとき、この賢さが「あだ」となり、悲劇を招くことに。
発端は、敵同士のはずのカササギとネコが、おばあさんの家で仲良く暮らしているの
を村の少女が目撃したこと。しかもネコの目は不吉な青い目! これを知った村人た
ちは恐怖におののき、おばあさんを魔女だと思うようになります。そんなとき、村の
子どもたちが次々に病気になり、加えて、赤ん坊がいなくなる事件が起こって……。

 迷信・噂・嘘。これらが重なって、村人が魔女狩りへと駆り立てられて行く様子が、
巧みに描かれています。この時代、迷信を迷信と言いきって恐れないおばあさんに、
村人が恐怖を感じたのは無理からぬことだったかもしれません。古い考えで凝り固ま
った彼らには、おばあさんの考え方は受け入れがたく、奇異でしかなかったのでしょ
う。とはいえ、考えの違う人を排除しようとする力に、脅威を感じずにはいられませ
ん。考えてみれば、魔女狩りの時代から数百年たった今も、異質なものを排除しよう
とする風潮は、少しも変わっていない気がします。おばあさんや村人の行動を通して、
あらためて人間のあり方を考えさせられました。

 作者のディヤングは、オランダで生まれ、8歳のときにアメリカへ移住。オランダ・
フリースランド州やアメリカ中西部を舞台とした児童書作品を数多く発表している。
1962年にアンデルセン大賞を受賞。

(蒲池由佳)

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『アニーとペペのまよなかの大ぼうけん』リーバ・バータ作 ほしの かおる訳 
宝島社 1993年 26頁
                                       
NIEUWSGIERIGE LOTJE
by Lieve Bata
1992, Uitgeverij Clavis, Hasselt
                                       
 まよなか、魔女のアニーはねこのペペを乗せてほうきで8の字に飛ぶ練習中です。
明かりのついた家を見つけて飛んでいき、屋根裏部屋をそっとのぞくと、あっ、ねず
み! ペペが勢いよく飛びこんだおかげでほうきがこわれちゃった。階段をおりてい
くとそこは、魔女の家。各階にそれぞれユニークな魔女が住んでいるよ。アニーのほ
うきを直してくれる魔女もいるかしら?
 描きこみすぎるほど描きこんでいるのが、とにかく楽しい絵本だ。毎回眺めるごと
に新しい発見がある。あちこちに隠れている動物はもとより、ソファやカーテンの柄、
壁にかかっている絵。スリッパ、鍋つかみ、トイレットペーパーまで見れば見るほど
にっこりしてしまう。小物の配置を見ているだけで魔女ひとりひとりの性格までうか
がえる。しかけ絵本というほどではないが、見開き頁の間に幅の狭い頁がはさまれて
おり、前後の頁の絵柄とつながってみえる。ちょっとしゃれたつくりだ。
 子供と一緒に読んでその発見を共有するのもいいけれど、ひとり暮らしの大人の女
性の贈りものにもいいかもしれない。ここに住んでいる魔女たちは、頑固に自分の生
活を守っていて、しかもとても楽しそうなのだ。私は、こんな暮らしにちょっと憧れ
てしまった。
 作者のリーバ・バータはベルギー人。この作品はボローニャ国際絵本展でエルバ賞
特別賞を受賞している。
  

(沢崎杏子)

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『ぼくのおじさんは世界一』
ヤン・テルラウ作 横山和子訳 シューベルト絵 佑学社 1986年 176頁
OOM WILLIBRORD by Jan Terlouw
Copyright 1981 Lemniscaat b.v., Rotterdam
                                       
 ぼくの家には、ウィリブロードおじさんがよく遊びにくる。おじさんは、あご髭を
生やした大男で、いつも毛皮のコートを着込んでいる。誕生日プレゼントなんかくれ
ないのに、何でもない日にトラの赤ちゃんを連れてきたり……。かなりヘンだし、付
き合いづらいって思う人は多いけど、ぼくはおじさんが大好きだ。

 物語は17の愉快なお話から構成されている。トラの首に腕をまわしたり、ゾウと力
くらべをしたりするおじさん。その突拍子もない行動に、何度も吹き出してしまった。
けれども、いつも最後には、思いやりのあるおじさんにジーンとさせられる。読者を
笑わせておきながら、いつの間にか良心を揺さぶる展開になっているのだ。

 また、一話ごとに短いお話は完結しているが、伏線が敷かれていて、途中からおじ
さんの知られざる過去が気になってくる。少しずつ少しずつ明らかになっていく過去。
読者の心をしっかり掴んで放さない筋立てだ。

 無作法で髭もじゃの大男は“紳士”とはいいがたい。だが、中身はどうだろう。物
事の上辺を飾ったところで、真の姿を変えることはできない。本当に強い者、正義を
知っている者とはどういう人なのか。本物を見分ける人になってほしいという作者の
願いが感じられる。

 表紙と挿絵は、『みんなちきゅうのなかまたち』などのシューベルト夫妻がてがけ
ている。動物たちに囲まれたウィリブロートおじさんは、どうみてもクマにしかみえ
ないが、とても優しい目だ。

(河原まこ)

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Updated: 2001/03/30

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