メニュー読書室レビュー集特設掲示板レビュー集
やまねこ10周年記念「世界の児童文学賞ラリー」レビュー集> カナダの賞レビュー集



カナダの賞レビュー集 一覧

ルース・シュワッツ児童図書賞  カナダ総督文学賞児童書部門  カナダ図書館協会賞 

このレビュー集について 10周年記念「世界の児童文学賞ラリー」においてやまねこ会員が個々に書いたレビューを、各児童文学賞ごとにまとめました。メルマガ「月刊児童文学翻訳」「やまねこのおすすめ」などに掲載してきた〈やまねこ公式レビュー〉とは異なる、バラエティーあふれるレビューをお楽しみください。
 なお、レビューは注記のある場合を除き、邦訳の出ている作品については邦訳を参照して、邦訳の出ていな作品については原作を参照して書かれています。



 やまねこ10周年記念「世界の児童文学賞ラリー」レビュー集

ルース・シュワッツ児童図書賞( カナダ) レビュー集
Ruth and Sylvia Schwartz Children's Book Awards
 

★ Yamaneko Honyaku Club 10th Anniversary ★ Yamaneko Honyaku Club 10th Anniversary ★

最終更新日 2009/04/01 レビューを1点追加

ルース・シュワッツ児童図書賞:参考ページ

★ルース・シュワッツ児童図書賞の概要
 トロントの書籍販売業ルース・シュワッツを記念して1976年に設立された、ルース・シュワッツ基金主宰の賞。1994年からは、絵本、YA読み物それぞれ1作品が選ばれている。カナダ書籍販売業協会 (the Canadian Booksellers Association)がショートリストを作成し、その中から、オンタリオ芸術委員会(the Ontario Arts Council)が選出した学校の児童生徒の投票によって受賞作が決定する。発表はカナダ・ブック・デイである4月23日。


"The Hunter's Moon"『妖精王の月』 * "The Summer King"『夏の王』←追加 * "The Light Bearer's Daughter"『光をはこぶ娘』←追加 * "The Book of Dreams"『夢の書』 * "Breadwinner"『生きのびるために』←追加 * 


1994年ルース・シュワッツ児童図書賞読み物部門受賞作

"The Hunter's Moon"(1993)→(改版 2005) by O.R. Melling O. R. メリング
『妖精王の月』 井辻朱美訳 講談社 1995

その他の受賞歴


 アイルランドに住むフィンダファーと、夏休みにカナダからやってきたグウェンは従姉妹どうし。親友ともいえるほど仲良しのふたりは、かねてから計画していた旅行に出かける。妖精伝説を信じるふたりにとっての聖地をめぐる旅だ。最後に訪ねるはずだったタラが、不思議な糸にひかれるように最初の訪問地となり、その丘で一夜を明かしたふたりは不思議な夢を見る。目覚めてみると、グウェンはひとり丘に残され、フィンダファーは消えていた……。

 妖精の存在を信じ、その世界にあこがれるティーンエイジャーふたり。ところがフィンダファーが消え、不思議な夢が夢ではなかったことに気がついたグウェンは、途中で出会う人々からの助けを得てなんとかフィンダファーと再会する。しかし、彼女は「さらわれた」わけではなく、自ら望んで妖精界の王の元に行ったのだった。
 プロローグから妖しく登場する妖精界の王は、いったい何の目的でフィンダファーを連れて行ったのか。フィンダファーはなぜ「自分の意志で」ついていってしまったのか。そして、原題「狩猟月」に隠された意味とは……。
 アイルランドにいまも息づく妖精伝説、そしてそれを信じる人々が不思議な縁で出会い、やがてその出会いが必然であったことがわかる。現実に起こっていることのような錯覚を覚えながら読んだ。
 原書は改版で大幅に筆が加えられているので、ぜひこちらにトライしていただきたい。

(冬木 恵子) 2008年8月公開

▲TOPへ  ★ Yamaneko Honyaku Club 10th Anniversary ★ このレビュー集について
 

シリーズ第1作『妖精王の月』が1994年ルース・シュワッツ児童図書賞読み物部門を受賞

"The Summer King" (1999)  by O. R. Melling O. R. メリング NEW
『夏の王』 井辻朱美訳 講談社 2001

その他の受賞歴


 ローレルはアイルランドの祖父母のもとを訪れた。1年前、ローレルのふたごの妹オナーがハンググライダーでこの地の海に落下して亡くなって以来、家族は皆沈みこんでいた。オナーの遺した日記を読んだローレルは、信じたくはないがどうやらオナーの死は妖精伝説に関係があるらしいと考え、ふたたびアイルランドの地に降り立つ決心をしたのだった。そして、オナーが死の直前に飛び立った場所に向かうが、そこでローレルを待っていたのは、オナーが「おきあがりこぼしくん」と呼んでいた妖精クラリコーンだった……。

 ケルトの伝説をもとにしたメリングの妖精国シリーズ第2作(*注)。
 自らは妖精を信じていなかったのに、妖精を信じる者、妖精にかかわりのある者、そして妖精そのものに助けられ、ヒントをもらいながら探求を進めていくローレル。その姿には、妹を理解しようとしなかった自分を責める気持ちから、新たな生き方を見いだそうとする気持ちへの変化がみてとれる。幼い頃から知っていながら心を通わせたことのなかった牧師の息子イアンが時折みせる不可解な行動は、大どんでん返しを暗示しながらも好ましい結末を読者に切望させ、いやが上にもページをめくる手が早くなる。
 前作の登場人物も直接、間接的に登場する。前作のラストを読み、そんなことをしてこのあとどうなるのか、と思った読者にきちんと答えている。

*注 日本では講談社から『歌う石』『ドルイドの歌』も一連のシリーズとして出版されているが、内容としてはその2作は独立したものなので、ここではシリーズからはずした。
 

(冬木 恵子) 2009年4月公開

▲TOPへ  ★ Yamaneko Honyaku Club 10th Anniversary ★ このレビュー集について
 

シリーズ第1作『妖精王の月』が1994年ルース・シュワッツ児童図書賞読み物部門を受賞

"The Light Bearer's Daughter" (2001)  by O. R. Melling O. R. メリング NEW
『光をはこぶ娘』 井辻朱美訳 講談社 2002

その他の受賞歴 2008年グリーン・アース・ブック賞YAフィクション部門


 アイルランドで父のゲイブリエルとふたりで暮らす、11歳の少女ダーナ。母は7年前、こつ然と姿を消した。アイルランド系カナダ人のゲイブリエルは喪失感に耐えながらダーナを育ててきたが、カナダでの就職話が浮上する。引越話に意気消沈したダーナは、父と出かけた森で妖精だという貴婦人に出会い、妖精国の上王からルーフ王へのことづてを頼まれる。ダーナにしかできないというそのことづての意味とはいったい……。

 メリングの妖精国シリーズ第3作(*注)。現代アイルランドのあちこちで森林の伐採が進むことへの警鐘的な作品。森の木を倒すことは、すなわち妖精界にも影響を及ぼす。その妖精界を救えるのは人間しかいない。だが、なぜ11歳のダーラが妖精同士の話し合いの使者に選ばれたのか……すべては、突然父娘の元を去った母の秘密とともに解き明かされる。傷心の父の心を癒すインド人女性アラダーナの存在の大きさも見逃せず、この先の物語がグローバルに展開することを予感させる一作。

*注 日本では講談社から『歌う石』『ドルイドの歌』も一連のシリーズとして出版されているが、内容としてはその2作は独立したものなので、ここではシリーズからはずした。
 

(冬木 恵子) 2009年4月公開

▲TOPへ  ★ Yamaneko Honyaku Club 10th Anniversary ★ このレビュー集について
 

シリーズ第1作『妖精王の月』が1994年ルース・シュワッツ児童図書賞読み物部門を受賞

"The Book of Dreams" (2003)  by O. R. Melling O. R. メリング
『夢の書』(上・下) 井辻朱美訳 講談社 2007

その他の受賞歴


 カナダ、トロント。22歳のグウェンは、大学院生のローレルを訪ねる。ふたりはそれぞれに、アイルランドの妖精国とのかかわりを持っていた。いま、妖精国を大きな災いが襲おうとしている。それを救えるのは、もうひとり、妖精国と特に深いかかわりを持つ少女、ダーナだけだということを、ふたりは知っていた。しかし、ダーナはまだ13歳。アイルランドで暮らしていたが、父の故郷カナダに移り住み、中等学校に通い始めたところだ。
 グウェン、ローレル、ダーナの3人はある日、別々の場所にいながら、同じ時間にそれぞれの大切な人、大切な場所についての不吉なヴィジョンを見る。それは、妖精国からのSOSだった……。

 『妖精王の月』にはじまった、メリングのケルトファンタジーシリーズ最終章。ここまで3作の登場人物たちがついに一堂に会する時が来た。アイルランドに残った者たちは、妖精界と人間界との交流を絶とうと暗躍する者の力によって、大きなダメージを受ける。これに対し、北米大陸に移ったものたちは、その大陸の守護者たちによって守られ、事無きを得て、妖精界と仲間たちを救うために奔走する。妖精といえばケルト、ケルトといえばアイルランドと、主人公からしてそういう観念を持っていたのに、それがみごとに打ち砕かれる。異界の者はどこの世界にも(どこの大陸にも、どこの島にも)いる。そして、だれがどこに属するかなど関係なく、守るべき者を守ってくれる。国境も出自も関係ない。そのことを、作者はみごとに表現した。
 人間は見たいものしか見ず、自分が信じたいものしか信じていないから、どこになにがいても気がつかない、あるいは気がつかないふりをしている。作者が登場人物たちに言わせたこのことばは、妖精や精霊のみならず、すべてについて言い得た言葉のように思えた。

(冬木 恵子) 2008年8月公開

▲TOPへ  ★ Yamaneko Honyaku Club 10th Anniversary ★ このレビュー集について
 

シリーズ第2作『さすらいの旅』が、2003年ルース・シュワッツ児童図書賞読み物部門受賞、
シリーズ第3作『泥かべの町』が、2004年ルース・シュワッツ児童図書賞読み物部門候補

"The Breadwinner" (2000)  by Deborah Ellis デボラ・エリス NEW
『生きのびるために』 もりうちすみこ訳 さ・え・ら書房 2002年

その他の受賞歴


 タリバン政権下、アフガニスタンの首都カブール(2000年と思われる)。内戦が続き、爆弾で破壊された瓦礫の街で、人々は厳しい規制をおしつけるタリバンの支配に怯えて暮らしていた。
 主人公パヴァーナの一家も、爆弾で半分壊れたアパートの小さな1部屋で家族6人が生活している。父親は市場で手紙の代読・代筆をしたり、家の物を売ったりして、なんとか生計をたてていた。タリバンの命令により女性は家にいなければいけないのだが、11歳のパヴァーナは、爆撃で片足のひざ下を失った父親を助けて市場へ行き、父の後ろにすわって過ごす毎日だ。以前のように学校に通いたい、せめて市場を走り回ってお金をかせぎたい、そう思いながら。
 そんなある日、タリバン兵が家にやってきて、父親を牢屋に入れてしまった。昔イギリスの大学に留学していたというのが理由だ。家族のために、パヴァーナは髪を切って男の子のふりをし、市場で働くようになった。学校の友達ショーツィアも一緒だ。

 パヴァーナは、にぎやかで活気のあった頃の首都カブールを知らない。彼女が生まれた1989年にソ連軍が撤退し、その後内戦がはじまったから。1996年にはタリバンがカブールを制圧し、暮らしは更に厳しくなった。パヴァーナは男の子の姿で町をかけまわり、いろいろなことを経験する。競技場で執り行なわれる盗みを働いた者への公開処刑を見てしまったり、お金を稼ぐために墓場でとんでもない仕事をしたり、タリバンが制圧した町マザリシャフから逃げてきた女性を助けたりもする。身の毛のよだつような話も出てくる。「普通の人たちが生きていくために、普通じゃないことをしなくちゃならない」のが、アフガニスタン及び戦争が行われている国・地域の状況であり、それは今この瞬間も変わらない。
 女性の権利や平和のために活動してきた作者は、アフガン難民のためのNGOでも中心になって働き、1997年には難民キャンプを訪れた。その際、ある母親から聞いた話をもとに書き上げたこの作品は、アフガニスタンの現状を正確に伝え、読む者の心を強く揺さぶる。続編『さすらいの旅――続・生きのびるために』ではパヴァーナのその後が、『泥かべの町』では友だちショーツィアのその後が描かれていて、この2冊は、作者の想像が加わっているそうだ。3冊は、さ・え・ら書房から、「アフガンを生きぬく少女」シリーズとして出版されている。

(植村わらび) 2009年4月公開

▲TOPへ  ★ Yamaneko Honyaku Club 10th Anniversary ★ このレビュー集について
 

カナダの賞レビュー集 一覧   ルース・シュワッツ児童図書賞  カナダ総督文学賞児童書部門  カナダ図書館協会賞 


 やまねこ10周年記念「世界の児童文学賞ラリー」レビュー集

カナダ総督文学賞児童書部門(カナダ) レビュー集
Governor General's Literary Awards
 

★ Yamaneko Honyaku Club 10th Anniversary ★ Yamaneko Honyaku Club 10th Anniversary ★

最終更新日 2008/08/01 新規公開

カナダ総督文学賞受賞作品リストり(やまねこ資料室)  カナダ総督文学賞概要


"Looking for X" 『Xをさがして』


2000年度カナダ総督文学賞児童書部門受賞作

"Looking for X"(1999) by Deborah Ellis デボラ・エリス
『Xをさがして』 もりうちすみこ訳 さ・え・ら書房 2001

その他の受賞歴


 わたしはカイバー。そう、アフガニスタンにあるという荒々しい峠の名前だ。親から貰った名は吐き気がするほど嫌い。今ではだれもがこの名で呼んでくれる。家族は元ストリッパーの母親と、双子の弟たち。双子は今のところしゃべりたいことがないから、しゃべらない。自分たちの頭の中に閉じこもっている。母さんは弟たちをひっぱり出す方法をさがしてる。とても貧しいけど四人でいれば楽しい。学校から帰ったら、毎日弟のどちらかを連れ、公園に遊びにいくし、夕食ではご機嫌なスープの歌をみんなで歌うのだ。 
 家族を精一杯愛し、周囲には思いっきり剣突を食らわすカイバー。弟たちを巡ってある事件が起きた次の日に、学校でも事件が持ち上がる。まずいことにその犯人の疑いがカイバーに向けられた。表題のXはカイバーが友人と呼ぶ住所不定の女性だ。カイバーは自身に向けられた疑いを晴らすために、Xに証人になってもらおうと彼女を探す。


 ハリネズミのように、いや、もっと高い盾を周囲にかまえて生きるカイバー。ハリネズミだって、いつも針山状態じゃないのに。学校で起きた事件の犯人の疑いが彼女に向けられたとき、日々の生活に疲れきった母親の心の隙間で、カイバーへの疑いが頭をもたげる。母親にも裏切られたと感じたカイバーは、夜の町へ飛び出していく。持ち前の才覚と図太さで、必死に生きるカイバーが、心のより所をどこにも見出せなくなり、行き場所に迷うのが切ない。自分の弱さと向き合い、終盤、カイバーが見せる涙は、とても温かくて、若干11歳の素顔をやっと見たような気がしてほっとする。

(尾被ほっぽ) 2008年8月公開

▲TOPへ  ★ Yamaneko Honyaku Club 10th Anniversary ★ このレビュー集について

カナダの賞レビュー集 一覧   ルース・シュワッツ児童図書賞  カナダ総督文学賞児童書部門  カナダ図書館協会賞 


 やまねこ10周年記念「世界の児童文学賞ラリー」レビュー集

カナダ図書館協会賞(カナダ) レビュー集
Canadian Library Association Book of the Year for Children Award
 

★ Yamaneko Honyaku Club 10th Anniversary ★ Yamaneko Honyaku Club 10th Anniversary ★

最終更新日 2009/04/01 新規公開(レビュー1点公開)

http:カナダ図書館協会賞参考ページ1  カナダ図書館協会賞参考ページ2

★カナダ図書館協会賞概要

1947年に設立。カナダ図書館協会が毎年、カナダで出版されたもっとも優れた児童書の作者に対して授与する。作者はカナダ国民またはカナダ在住であることが条件。
 


"A Handful of Time"『床下の古い時計』


1988年カナダ図書館協会賞児童書部門受賞作品

"A Handful of Time"(1987) by Kit Pearson キット・ピアソン NEW
『床下の古い時計』 足沢良子訳 葛西利行絵 金の星社 1990年

その他の受賞歴


 両親に離婚話が持ち上がった夏、パトリシアは叔母さん一家の湖畔の別荘で休暇を過ごすことになった。しかし従妹たちに仲間はずれにされ、ひとり寂しい時間を過ごす。そんなある日、パトリシアは床下で古い金時計を見つけた。その時計のねじを巻くと、時は35年前にスリップし、そこには少女時代のお母さんがいた。パトリシアは、だれにも姿を見られずに、12歳の頃のお母さんの孤独や家族との葛藤を知ることになる。

 海外の児童書リストで、新しい「時を超える」ファンタジーを発見!と思ったら、20年近くも前に邦訳が出ていた。訳者は、ピアスの『ハヤ号セイ川をいく』(講談社)などでも知られる足沢良子。
 今はテレビ・キャスターとして自信にあふれている母は子どもの頃、「女の子らしく」という古い価値観を押し付けられ、いつも反発していた。そして自分の娘には、「選択する自由」を与えようとしたのだが、外向的でないパトリシアにはそれが重荷になってしまう。 カナダの自然豊かな湖でのカヌーや水泳など、すがすがしい夏休みの空気に満ち た、古典児童文学の雰囲気をたたえる作品。ファンタジーの形をとりながら、二代に渡る母と娘の葛藤や家族の姿を描いているところが、興味深かった。

(大塚道子) 2009年4月公開

▲TOPへ  ★ Yamaneko Honyaku Club 10th Anniversary ★ このレビュー集について


カナダの賞レビュー集一覧 ルース・シュワッツ児童図書賞  カナダ総督文学賞児童書部門  カナダ図書館協会賞 

メニュー読書室レビュー集特設掲示板レビュー集
やまねこ10周年記念「世界の児童文学賞ラリー」レビュー集> カナダの賞レビュー集

copyright © 2008-2009  yamaneko honyaku club