ハリー・ポターは、一見ごく普通の少年。みなしごで、意地悪な伯母夫妻といとこに虐げられる毎日を送っていた。ところが11歳の誕生日を境に、彼の世界は一変する。魔法と魔術の名門校ホグウォーツの学長から直々に入学案内が届き、それとともに彼の身の上が明らかにされたからだ。
伯母夫妻は普通人だが、ハリーは実は魔法使いの卵だった。ハリーが1歳のとき死んだ両親が、強力な魔術師だったのだ。両親は、世界最強の魔術師ヴォルデモート(Voldemort)との戦いで殺されたという。邪悪なヴォルデモートは、さらに幼いハリーをも手にかけようとしたが、なぜか魔力をすべて失い、姿さえも消えてしまった。その際、稲妻型の傷を額に負ったハリーは、魔術の世界ではヒーロー的存在となっていた。
ホグウォーツに入学したハリーは、親友もでき、勉学や、キディッチと呼ばれる魔術師たちのスポーツの練習などで忙しくも楽しい日々を送るが、ひとつ生活に影を落とすのが意地悪い先生のスネイプだった。 そしてあるとき、悪者の手に渡れば世界を混乱に陥れかねない「あるもの」が学校の中に隠される。ハリーと仲間たちは、それを悪に走った魔術師たちから守らねばならない。命がけで……。
ローリングの処女作である本書は、笑いと涙、愛と憎しみ、叡智と愚かさ、善と悪など、ありとあらゆる相反する要素を絶妙なさじ加減で盛り込んだファンタジー。まさに表題の"Philosopher's stone":「賢者の石」(すべてのものを金に変え、永遠の命を与える錬金術の最終目標)を思わせるような一作となっている。老若男女を問わず必ず楽しめる作品だ。
今年6月にはシリーズ第2弾、"Harry Potter and the Chamber of Secrets"が出版され、英国で一般書のNo.1ベストセラーになった。これから先5年は毎年1冊ずつ出版され、計7冊のシリーズとなる予定だという。米国ではScholastic社が10万ポンドという児童書としては異例の高額で出版権を買い、題を"Harry Potter and the Sorcerer's Stone"に変更して、今月発売した。(池上小湖:1998年9月)
J.K. Rowling(ジョアンナ・ローリング):32歳。3年で離婚したのち、生活保護を受けながら赤ん坊を乳母車にのせ、寒さしのぎにカフェに通ってこの作品を執筆。本書が処女作。97年スマーティーズ賞受賞。カーネギー賞でも次点。
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