ハリー・ポッターシリーズ第2巻、"Harry Potter and the Chamber of Secrets"は第1巻と同じく、意地悪いダースリー家の様子から始まる。ハリーは夏休みで魔法学校から帰省していたが、ある日、突然現れたドビーという妖精に警告をうける。ハリーの身に危険が起こるから、新学期になってもホグワーツ魔法学校には戻るなというのだ。でもハリーにとってはダースリー家にいること自体、災い以外のなにものでもない。ハリーは早く夏休みが終わり、学校が始まるのを心待ちにする。 魔法学校での2年目が始まった。ところがまもなく、学校で奇怪な事件が起こる。ハロウィーンの夜、「秘密の部屋は開けられた。」という文字が壁に現れたのだ。これを皮切りに、猫をはじめ生徒達や幽霊までもが次々と何者かに襲われ、石になってしまう。そしてハリーはいつもその事件現場に居合わせてしまうのだ。生徒達は、秘密の部屋を開け、怪物を解き放ったのは、ハリーではないかと疑いはじめる。そのうえハリーは悪の魔法使いの後継者ではないかという風評がたつ。ハリーには、悪の魔法使いだけが持つという特殊な能力、蛇の言葉をあやつる力があるからだ。ハリーは友人のロンとハーマイオニーと共に、秘密の部屋の謎と、生徒を襲う怪物の正体を解明しようとするのだった。 謎の解明と悪との対決を主軸にホグワーツ学校での1年間が描かれるという展開は前作と同様だが、作者ローリングの創造力、描写力はますます冴え渡り、読者を引き込んでくれる。最後まで、そして隅から隅まで、楽しくて読み応えのある作品になっている。今回もまた新たな魔法の小道具や秘薬が登場し、そして魔法の授業でも愉快な大騒動が巻き起こる。登場する幽霊達もグロテスクな姿なのに、ちっとも恐くなく、幽霊なりの悩みを抱えていてとてもユニークだ。古臭く、灰色がかり、立ち入ってはいけないイメージのある魔法の世界を、ローリングはカラフルで愉快で親しみの持てる場所に描いている。この本を読んで、ハリー達の真似をしたい、魔法の学校に行きたいと思う子供達は大勢いるのではないだろうか。 魔法使いとして優れた才能を持ってはいるが、学校では決して優等生とはいえない普通の少年ハリーの憂いを通し、哲学的なものを感じさせられる作品でもある。我らのヒーロー、ハリーは自分が悪の魔法使いの後継者ではないかと思い悩む。自分は悪の魔法使いになるよう運命づけられているのか、それとも、自ら道を選択することは可能なのか? そしてハリーが悪と対決し、悪を破った力の源は魔法使いとしての才能ではないことを、読者は知る。私達の誰もが持ち得る愛情、信頼、信念なのだ。ハリーに親近感を抱かずにはいられない。 前作同様、年齢を問わず、大人にも読んでもらいたい作品だ。一旦ページをめくりだすと、魔法がかかったように、止められなくなること間違いない。(鎌田千代子) ★シリーズ第1作"Harry Potter and
the Philosopher's
Stone(ハリー・ポッターと賢者の石)"のレビューへ |
J.K. Rowling(ジョアンナ・ローリング):32歳。3年で離婚したのち、生活保護を受けながら赤ん坊を乳母車にのせ、寒さしのぎにカフェに通ってこの作品を執筆。本書が処女作。97年スマーティーズ賞受賞。カーネギー賞でも次点。 |
1999年9月作成
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