ハリーの夏休みは、いつものように最悪だ。おまけに、田舎からたずねてきたマージおばさんが、ハリーの両親のことをネチネチと批判するものだから、ハリーの怒りは爆発。“未成年による魔法使用制限令”を破り、魔法を使ってしまった。「ホグワーツ校を退学させられてしまう!」と家を飛び出したハリーは、ナイトバス(魔法界の緊急用バス)に拾われ、魔法の店が集まるロンドンの一角“ダイアゴン・アレー”に到着した。待ち構えていた魔術省長官ファッジに叱られると思いきや、ハリーは手厚く迎えられる。実は、アズカバン刑務所から脱獄した極悪人シリウス・ブラックが、ハリーの命を狙っているとの情報があり、関係者らはハリーの身を案じていたのだ。ブラックはその昔ヴォルデモートの手下として働いており、その復活を狙っているという噂だった。 新学期、ブラックを捕らえようと、アズカバンの看守デメンターたちがホグワーツ校の警護についた。見る人をわけもなく恐怖に陥れる彼らに、生徒たちは震え上がる。たびたびハリーの前に現れる大きな黒い犬は、一体何物なのか? ハリーが偶然聞いてしまった、ブラックの驚くべき秘密とは? はたして、ハリーはブラックの手から逃れることができるのか。 ハリー・ポッター第3巻は、1・2巻よりもさらに奥が深く、読み応えのある仕上がりだ。これまでと同様に読む人の心を虜にしてしまうストーリーを楽しみながらも、悪意はどうやって生まれるのか、教師スネイプの憎しみの原動力となっているのは何か、人の心の弱さは悪への近道となり得るのか――心の奥でそんなことを考えずにはいられなかった。楽しい気持ちや思い出を人から吸い取ってしまうという恐怖のデメンターの存在も、印象的だ。生きる力を奪い取るこの魔物に打ち勝つ方法が、ハリーに伝授される。それが単に話の中の魔法というだけにとどまらず、現実の世界でも子どもたちが生きていく上での力になればと願わずにいられない。 また、孤児であるハリーの胸の内が折にふれて綴られていく――マージおばさんに両親のことを悪く言われて怒ったり、友人ロンの母親に抱きしめられて赤面しつつも喜んだり、デメンターが近づくと聞こえてくる母親の最期の叫びに胸をかきむしられたり……。そして、いろいろな人の口から両親の話が語られるなか、ハリーは両親をより身近に感じ、12年間ぽっかりと空いたままだった穴を少しずつ埋めていく。自己の確立には欠かせないこの作業は、宿敵ヴォルデモートとの対決と共に、シリーズ後半の核となっていくのではないだろうか。確実に成長をとげていくハリーの姿を、是非この目で確かめていきたい。 (植村わらび)
★シリーズ第1作"Harry Potter and
the Philosopher's
Stone(ハリー・ポッターと賢者の石)"のレビューへ |
J. K. Rowling(J・K・ローリング):大学卒業後ポルトガルで教師を勤め、現在はスコットランド・エディンバラに在住。全7巻を予定しているハリー・ポッターシリーズは、毎年1冊のペースで現在第3巻まで出版されている。各巻共ベストセラーとなり、大ブームを巻き起こした。現在28か国語に翻訳されている。日本でも、静山社より12月に第1巻の邦訳が出版された。 |
1999年11月作成
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