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特集 |
―― 日本初?「ハリー・ポッター」シリーズ最新作(第4巻)レビュー!! ――
7月8日、いよいよ「ハリー・ポッター」シリーズ第4巻が発売となった。英米では、各書店で長蛇の列がつらなり、徹夜して待つ子どもたちまであったという。日本でも同日、早くも原書が書店に並び、話題を呼んだ。最新作は果たして前評判を裏切らないだろうか?
この注目の本のレビューと最新の周辺情報を、増刊号としてお届けする。
『ハリー・ポッターと炎の盃』(仮題) J.K. Rowling "Harry Potter and the Goblet of Fire" |
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《レビュー》
ある夜、幽霊屋敷と化した家の窓に明かりが灯り、二人の男の声が響きわたった。あの、世にも恐ろしいヴォルデモートと手下が、悪しきことを企み、血も凍るような計画を練っているのだ。もちろん、ハリー・ポッターの殺害もその計画の一部……。
一方、当のハリーは例年通りダーズリー家で退屈な夏休みを過ごしている。この嫌なマグル一家の扱いもかなり巧みになったハリー。うまく家を抜け出し、親友ロンやハーマイオニーたちとクィディッチ・ワールドカップの決勝戦を見にいく。そこでハリーたちは、今年はもっと大きなイベントが待っていると聞かされる。
9月1日、ホグワーツ魔法魔術学校に戻った生徒たちを待ち受けていたのは、トライアスロンならぬ、トライウィザード・トーナメントという魔法界きっての一大イベントが、ホグワーツ主催で行われるというニュースだった。トライウィザードは、負傷者・死者が絶えないことから、ここ何百年も中止されていたという競技だ。
このトーナメントは他の魔法学校との対抗試合であるため、各校の選手団がホグワーツにやってくる。各選手団から一人ずつ選抜された代表選手が、おとぎ話に出てくるような3つの課題に、1年かけて挑戦するのだ。今回は生徒の安全を考慮して、ある程度の魔法術を身につけたと思われる、17歳以上の学生しか出場は認められないことになった。
我らが3人組は14歳、この試合の出場資格はないのだが、十分活躍してくれそうだ。また、彼らもそろそろ異性が気になる年ごろ。トーナメントや他校選手との交流が刺激となって、恋や友情の悲喜劇も多々生まれる。
ハリーは、多難なホグワーツの1年を、また何とか無事に乗り切ることができるのだろうか? それとも、ヴォルデモートの計画がついに実るのか? 読者を最後まではらはらさせることは間違いない。
★今回、気になった点
ローリングは、ほぼ完成していたはずの原稿を読み直したときに、筋書きに大きな穴を見つけて、大幅に物語を書き加えたとインタビューで話している。確かに今回は、本来のローリングらしい緻密な部分のほかに、練りが足りなかったり、妙に軽薄だったりする部分があって、前作に比べると全体的に完成度が低いように思えた。毎年1冊の新作を約束する出版スケジュールが産んだ弊害とも考えられる。
また、アメリカ的な要素がローリングの文章に入り込んできていることも気になる。米製の青春コメディの1シーンかと思われるような描写や台詞が登場し、少し違和感を覚えた。ローリングは、今回から英米同時発売ということで、アメリカの読者を意識したのか。それとも、昨年、宣伝広報のためにアメリカを訪れた経験を反映させているのだろうか。
★やはり面白いストーリーと小道具
いろいろ批判点はあるが、ストーリーには魅了された。ハリーの成長ぶりもしっかり描かれているし、今回新たに登場するキャラクターも個性豊かで、ハリーの世界にさらなる彩りが加わった。有名クィディッチ選手だったというだけで政治家としてのさばっている無能な男、まさに「仕事の鬼」として生きる男、ハリーたちを追い回して、とんでもない記事をでっち上げる悪質芸能レポーターなど、社会風刺も絶妙に加えられているのがおもしろい。
また、ローリングならではの小道具が素晴らしい。手元で試合のリプレイが好みのスピードで何度でも見られる、Omniocularという名の双眼鏡や、たまり過ぎた記憶や思いを流し込んでおいて、後からゆっくり見つめ直すことができるPensieveという石の器など、たっぷりと楽しませてくれる。
★シリーズとしての楽しみ
そして今までの3作で張られた伏線もいくつかが明かされ、また読者を唸らせる。今回の物語には特に第2巻の登場人物や内容が深く関わってくるため、9月に出版予定の第2巻の邦訳を読んでから本書に挑戦するのもよいと思われる。
シリーズはこれでようやく折り返し地点を過ぎ、後半にはいる。今後はどんどん闇の勢力が増し、その犠牲となる者がまた出るだろう。4巻最終章の題名は"The Beginning"、すなわち、「はじまり」である。5巻以降には、ハリーたちも結束力を強めていかなければ乗り切れない、本番が待っている。
このシリーズの各巻はそれぞれに完結しているため、独立した物語として読むことはもちろん可能だが、作者の本当の意図は、7巻目を読み終えるまでは解らない構成になっている。今まで本を手にしたことがない人でも読めるくらいとっつきやすい反面、実は背後に深いものを秘めているのだ。
★一大ブームに対する、様々な反応
Pottermaniaと名付けられる程のブームになったこのシリーズを、万人が好ましく見ている訳ではない。
ハリー・ポッター第3巻が本年、ホイットブレッド児童文学賞を受賞し、ホイットブレッドBook of the Year賞(同賞の詩、自伝、小説、新人の各部門受賞作および児童文学賞受賞作の中から選ばれる)の候補にあがったとき、審査員のひとりAnthony Holden氏は、「ハリー・ポッターを選ぶなら、自分は審査員を降りる」と言って、受賞の阻止にかかった。さらにHolden氏は、英国ガーディアン紙に強烈な批判記事(レベルが低い、文学的価値がない、宣伝方法がばかげているなど)を載せ、物議をかもした。
またアメリカでは「魔法や黒魔術を推奨する本」として一部のキリスト教団体などから禁止令を要請する声もある。更に、女性蔑視である、ステレオタイプな記述が多い、奴隷制度の扱い方が無神経である、などの批判もでている。
また、ニューヨーク・タイムズ紙は、ベストセラーのランキング4位までをハリーに独占されることを懸念し、児童書のランキングを新たに設けた。児童書を一般書と同格に扱わないという点で、この措置には不満の声も寄せられている。現在のところ、この児童書ランキングの1位から4位までを同シリーズが独占中。
★子どもたちの反響
英米では、600ページ(U.S.版は700ページ)以上もあるこの本を、小学生も含む子どもたちが、競って購入し、喜んで読んでいるという。また、ニューヨークのスラム街にある公立小学校では、極限まで低迷していた子どもたちの国語の成績が『ハリー・ポッター』のお陰でどんどん伸びているらしい。いずれも大変嬉しいニュースだ。数々の批判に対する答えは、子どもたちが出してくれているのではないだろうか。
(池上小湖)
【作者】J.K.(Joanna Kathleen) Rowling(J・K・ローリング) |
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《用語集とワンポイント講座》
★「ハリー・ポッター」用語集
マグル(ズ) | : | 魔法の血が流れておらず、魔法界のことに疎い人々。 |
クィディッチ | : | 空飛ぶ帚に乗って行う球技。ボールは4つ、ゴールは2つ。選手7人からなるチームで行われる。 |
ホグワーツ | : | 名門魔法魔術学校。イギリスの北のどこかに位置する。千年以上の伝統を誇る。 |
なお、詳細な用語集はハリー・ポッター友の会ウェブサイトに掲載されている。
★「ハリー・ポッター」シリーズのワンポイント講座
主 人 公 | : | ハリー・ポッター(1986年生まれ)。第1巻で11歳の誕生日を迎え、各巻ごとに1歳ずつ成長していく。 |
身 分 | : | 未成年魔術師、ホグワーツ魔法魔術学校に在学中。 |
両 親 | : | ハリーが1歳のときに、世界最強の闇の魔術師、ヴォルデモートによって殺害される。 |
育ての親 | : | 魔術が大嫌いなマグルで性悪な叔母夫妻、ダーズリー一家。 |
特 徴 | : | ボサボサの黒髪、丸眼鏡の奥に鮮やかな緑色の瞳、額にはヴォルデモートとの戦いの名残りである、稲妻形の傷跡。 |
親 友 | : | ロン(貧しいが名門の魔法一家、ウィーズリー家の六男)とハーマイオニー(マグル生まれだが、ホグワーツきっての秀才娘)。 |
得意科目 | : | 特にないが、魔法界の人気スポーツ、クィディッチでは、たぐいまれな帚乗りの才能を発揮する。 |
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《シリーズ関連情報》
★既刊と邦訳状況 第1巻 "Harry Potter and the Philosopher's Stone" Bloomsbury 1997 第2巻 "Harry Potter and the Chamber of Secrets" Bloomsbury 1998 第3巻 "Harry Potter and the Prisoner of Azkaban" Bloomsbury 1999 |
今後も第5、6、7巻がそれぞれ毎年1冊ずつ発表されることになっている。
★映画情報
クリス・コロンバス監督で、ワーナー社より2001年末にアメリカで封切り、日本では2002年のお正月映画となる予定。配役には、ハグリッド役:ロビー・コルトレン、マクゴナガル役:マギー・スミスが噂される。
★国際的普及
35言語に翻訳、3500万部発行
★邦訳版発行部数
第1巻発売後6ヶ月で50万部
★今回の第4巻について
初版発行部数 :UK版 150万部、US版 380万部
UK初日の販売数:37.2万部 売り切れ書店続出
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コンテスト/展示会/セミナー・講演会情報 |
―― コンテスト情報 ――
◎第7回いたばし国際絵本翻訳大賞 | |
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課 題: |
英語部門 "When Woman Became the Sea" 伊語部門 "Abuk. Il ragazzo che liberava i pesci" |
申 込: | 平成12年8月5日(土)〜9月30日(土) |
問合せ: |
板橋区立中央図書館(TEL 03-3967-5261) 詳細は7月29日発行の『広報いたばし』に掲載。ホームページでも公開される。 |
(中野伊都子)
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―― 展示会情報 ――
◎「ちひろと世界の絵本画家たち」 | |
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会 場: |
東京/伊勢丹美術館(伊勢丹新宿店新館8階) 大阪/大丸ミュージアム(大丸梅田店15階) |
問合せ: |
東京/03-3352-1111 大阪/06-6343-1231 |
会 期: |
東京/平成12年7月1日から7月30日まで 大阪/平成12年8月3日から8月20日まで |
休館日: | 会期中無休 |
入場料: |
東京/一般800円、大学生・高校生500円、小・中学生300円 大阪/一般800円、大学生・高校生600円、小・中学生300円 |
内 容: | ちひろ美術館のコレクション18,000点の中から、選りすぐりの作品180点を紹介。 |
(池上小湖)
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―― セミナー・講演会情報 ――
◎こどものとも社 子どもの本の教室 | |
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講 師: |
あべ弘士(絵本作家)「けもの道・絵本街道」 松居直(編集者)「編集者としての半世紀」 今江祥智(童話作家)「青い大きな海―のように」 江國香織(小説家)「道が一本ありました…」 山田太一(作家・シナリオライター)「家族を生きる・自分を生きる」 |
日 時: |
平成12年8月23日(水)13:45〜18:30 24日(木) 9:00〜12:00 |
場 所: | ホテルニュー京都(京都市上京区堀川丸太町角) |
定 員: | 宿泊300名 日帰り100名 (定員になり次第締め切り) |
参加費: |
受講料 7,500円 会場費 宿泊者13,000円(1泊2食込み) 日帰り1,000円 |
申 込: |
奈良こどものとも社(TEL 0743-52-0831) 京都こどものとも社(TEL 075-841-4265) |
その他: | 23日夜、あべ、松居、今江、江國の各氏を囲む分科会あり(20:00〜21:30) |
(中野伊都子)
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発 行: | やまねこ翻訳クラブ |
発行人: | 林さかな(やまねこ翻訳クラブ 会長) |
編集人: | 菊池由美(やまねこ翻訳クラブ スタッフ) |
企 画: | 河まこ キャトル くるり 小湖 Chicoco どんぐり BUN ベス YUU りり ワラビ MOMO つー さかな こべに みーこ きら Rinko SUGO わんちゅく みるか NON |
協 力: |
@nifty 文芸翻訳フォーラム 小野仙内 ながさわくにお |
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