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※こちらは「書評編」です。「情報編」もお見逃しなく!!
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2004年4月15日発行 配信数 2400
キム・ドンス文・絵 ◎注目の本(邦訳読み物):〈名画で見る世界のくらしとできごと〉シリーズ全4巻 アントニー・メイソン作 ◎注目の本(未訳絵本):"The Day Babies Crawled Away" ペギー・ラスマン文・絵 ◎注目の本(未訳読み物):"Aleutian Sparrow" カレン・ヘス文/エヴォン・ゼーベツ絵 ●このページでは、書店名をクリックすると、各オンライン書店で詳しい情報を見たり、本を購入したりできます。 |
『かぜひいちゃった日』 〈名画で見る世界のくらしとできごと〉 "The Day Babies Crawled Away" "Aleutian Sparrow" MENU |
注目の本(邦訳読み物)
―― 美術をとおして世界の歴史をみてみよう ――
歴史をどの切り口でみていくか、この本ではそのキーワードが「美術」だ。それぞれ独立した1冊としても楽しめるが、4冊を順に読んでいくことで、人々の生活や出来事の流れが美術を介してよくみえてくる。楽しみがより深まる流れになっているのだ。また、イヌイットの彫刻や日本の漆など、世界各地で生まれたさまざまな美術の形にもふれている。 1巻目では、ルネサンスの時代を紹介していく。ミケランジェロやレオナルド・ダ・ヴィンチが活躍した時代だ。よく知られている芸術家の名前がでてくると、その時代への興味がわいてくる。肖像画が流行しているのもこの時だ。肖像画も見方を教わると実におもしろい。ルネサンス期のイタリアでは肖像画が多く描かれ、当時の人ならばすぐにわかる象徴(犬は愛への忠誠をしめすなど)があちこちにみられる。信仰心を強調するために、自分の肖像とともに聖母子を描いてほしいという注文もあった。なるほど、絵を解説してもらうと、当時の生活がいかに信仰に密着しているかがみえてくる。漠然とみていた絵から生活が浮かびあがるので、次はどんな絵を紹介してくれるのだろうとページを繰るのが楽しくなる。 2巻目になると、日本でも人気の高い画家が続々と登場する。印象派の画家、モネ、ルノワール、ドガたちだ。画家たちがどのように絵を描くことに打ち込んだかも紹介し、一言コラムでは、絵にまつわるおもしろいエピソードが書かれている。たとえば、セザンヌは静物画を描くのに何度も手をくわえ時間をかけるので、絵が完成するころには、果物はしなびてくさっていたそうだ。 3巻目を読むと、美術界の大きな変革がみえてくる。時代は1900年代に入った。風景や歴史上の一場面を描く伝統的な技法ではない新しい描き方で画家が表現をはじめたのだ。ここまでくると、ルネサンスの時代の頃の絵とはだいぶ変わってきているのが、美術に詳しくない私でもよくわかる。そのひとつである「抽象美術」は、目にみえる物を対象として描くのではなく、画面を点や線で構成し表現する。カンディンスキーは、抽象美術こそ、心の奥にある感情を真に表現できる方法だと見ていた。 最後の巻では「現代」における美術をみていく。自分の暮らしている時代は、やはり身近に感じる。絵画、彫刻ばかりでなく、写真もまたひとつの芸術の形だと認められていく。そして芸術の幅は現代においてどんどん広がる。7万株の花からつくられた《子犬》という作品、大きな岩のかたまりに穴をあけ、それをいくつも集めた作品《20世紀の終焉》。子どもたちも、これらの美しい作品をみて、次は自分たちの美術をつくりあげていくのだろうか。新しい美術の形はいったいどんなものだろう――想像すると、なんだかわくわくしてくる。 (林さかな)
【作】アントニー・メイソン(Anthony Mason) 美術史、歴史、地理、探険史など幅広い分野で活躍している作家。著書は子ども向け、大人向けに多数あり、ガイドブックなども手がけている。著書に "Performing Arts: Culture Encyclopedia(舞台芸術――文化の百科シリーズ)"、"Ancient Civilizations of the Americas(アメリカ大陸の古代文明)"(いずれも未訳)など。ロンドン在住。
【訳】熊谷淳子(くまがい じゅんこ)
【訳】武富博子(たけとみ ひろこ)
【訳】木村尚美(きむら なおみ)
【訳】八木恭子(やぎ きょうこ)
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『かぜひいちゃった日』 〈名画で見る世界のくらしとできごと〉 "The Day Babies Crawled Away" "Aleutian Sparrow" MENU |
注目の本(未訳絵本)
―― のどかな1日に起こったあるできごと ――
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注目の本(未訳読み物)
―― 忘れられた戦争とアリュート人の苦難 ――
真珠湾攻撃の7か月後、アラスカとシベリアの間に連なるアリューシャン列島に日本軍が侵略し始め、米国政府はアリュート人881名をアラスカ南東部へ強制疎開させた。安全な生活を守るという名目でありながら、送られた先は長年放置された缶詰工場や廃坑の建物で、電気や下水といった設備もなく、まともなトイレ、清潔な水や十分な食料は望むべくもなかった。政府の人権無視に加え、地元の白人住民による差別も彼らを苦しめてゆく。日本軍が撤退しても帰郷への許可は出ず、3年に及ぶ疎開中、汚物の垂れ流し等の非衛生的な環境による病が蔓延し、多くが命を失った。亡くなったのは主に高齢者と幼子だった。どうにか生き残った人々が帰島するが、待っていたのは、一部の心ない米兵が破壊、略奪しつくした後の悲惨な故郷であった。 アリューシャンの戦いは、米国が外国から受けた唯一の侵略でありながら、ほとんどの米国民が知らず、「忘れられた戦争」と呼ばれている。作者はそのかげにあった先住民の悲しい歴史を伝え残そうと、ヴェラという架空の少女の声で、4行詩形式の物語を作り上げた。アリュート人の血をひき、アラスカ州ケチカンへ強制疎開したヴェラの生活や思いを通して、アリュート人の望郷の念、生活の苦しさ、いわれのない差別への怒り、平和への願いを描き出している。 ヴェラはつねに声高に訴え叫んでくるのではない。研ぎ澄まされた言葉で、様々な思いを静かにじっくりと伝えてくる。奥深い内容を短い言葉で表現する方法は東洋の詩を思わせ、西洋文化と異なるアリュートの言葉や文化の印象を表している。歴史と文化の綿密な調査で当時のアリュート人の視点に立った作者ならではの内容と文体だ。 傷心に崩れる人々の中で、ヴェラはつねにアリュート人であることを大切にして生きている。しかし、文化を継承する年配者を亡くし、島に残した物も破壊され、アリュート人がかつての生活と文化を取り戻すことは果てしなく困難だった。日本軍の侵略とそれに続く悲劇は、民族と文化の存続に暗い影を残した。作者は、過去の歴史と現代が強く共鳴することに心惹かれ、歴史物語を書き、黒人やユダヤ人の受けた差別も題材にしてきた。平和と平等への深い願いを次世代に伝え続けてほしい。 (リー玲子)
【文】カレン・ヘス(Karen Hesse)
【絵】エヴォン・ゼーベツ(Evon Zerbetz)
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●編集後記●
歴史を物語の形として語り継ぐことは、太古の昔からやってきたことです。今、世界のあちこちで起きているいろいろなことも、こうやって語り継がれていくのでしょうか。(あ)
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発行人: | なかつかさひでこ(やまねこ翻訳クラブ 会長) |
編集人: | 赤塚きょう子(やまねこ翻訳クラブ スタッフ) |
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