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月刊児童文学翻訳

─2005年7月号(No. 71)─

児童文学翻訳学習者による、児童文学翻訳学習者のための、
電子メール版情報誌<HP版+書店街>
http://www.yamaneko.org/
編集部:mgzn@yamaneko.org
2005年7月15日発行 配信数 2340

もくじ

 ◎賞情報:速報! 2004年度カーネギー賞、ケイト・グリーナウェイ賞発表
 ◎特集:2004年度ケイト・グリーナウェイ賞予想座談会
 ◎注目の本(邦訳読み物):『クレイジー・レディー!』 
                  ジェイン・レズリー・コンリー作/尾﨑愛子訳
 ◎注目の本(未訳絵本):"Guess Who's Coming for Dinner?"
                キャシー・ティンクネル文/ジョン・ケリー絵
 ◎賞速報
 ◎イベント速報
 ◎世界のお祭り:第4回 チュソク(韓国) 9月下旬
 ◎読者の広場:海外児童文学や翻訳にまつわるお話をどうぞ!

●このページでは、書店名をクリックすると、各オンライン書店で詳しい情報を見たり、本を購入したりできます。

 


●賞情報●速報! 2004年度カーネギー賞、ケイト・グリーナウェイ賞発表

 7月8日、イギリスで最も権威ある児童文学賞、カーネギー賞、およびケイト・グリーナウェイ賞の発表が行われた。受賞作は以下の通り。去年に引き続き、特別推薦作品(Highly Commended)と推薦作品(Commended)は選ばれなかった。
 Frank Cottrell Boyce は、デビュー作でカーネギー賞を受賞した。映画が劇場公開済みの作品が受賞したのは、今回がはじめて。同作品は、2004年のガーディアン賞にもノミネートされていた。今年の秋以降、続々と出版が予定されており、今後が楽しみな作家だ。ケイト・グリーナウェイ賞を受賞した Chris Riddell は、2001年の "Pirate Diary"(『海賊日誌 少年ジェイク,帆船に乗る』長友恵子訳/岩波書店)に続く2度目の受賞。この数年間で特別推薦と推薦も受けており、英国での評価はゆるぎのないものとなっている。
 受賞作がいずれも邦訳出版されていることから、海外の作品に対する日本の出版社の動きは、年々早まっているように思われる。


【カーネギー賞候補作】

Carnegie Medal 2004

★Winner
  "Millions" Frank Cottrell Boyce (Macmillan)

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  『ミリオンズ』池田真紀子訳/新潮社(2005.03)

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【ケイト・グリーナウェイ賞】(画家対象)

Kate Greenaway Medal 2004

★Winner
  "Jonathan Swift's “Gulliver”" Chris Riddell,  text by Martin Jenkins (Walker Books)

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  『ヴィジュアル版 ガリヴァー旅行記』
     ジョナサン・スウィフト原作/原田範行訳/岩波書店(2004.11)

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(横山和江)

【参考】
▼カーネギー賞、ケイト・グリーナウェイ賞サイト
http://www.carnegiegreenaway.org.uk/

▽カーネギー賞、ケイト・グリーナウェイ賞について
               (本誌1999年7月号情報編「世界の児童文学賞」)
http://www.yamaneko.org/mgzn/dtp/1999/07a.htm#a1bungaku

▽カーネギー賞、ケイト・グリーナウェイ賞受賞作品リスト
                        (やまねこ翻訳クラブ資料室)
http://www.yamaneko.org/bookdb/award/uk/carnegie/index.htm
http://www.yamaneko.org/bookdb/award/uk/greenawy/index.htm

▽候補作一覧(本誌2005年5月号)
http://www.yamaneko.org/mgzn/dtp/2005/05.htm#prize1


※編集部より
 当クラブでは、特設掲示板にて「カーネギー賞&ケイト・グリーナウェイ賞候補作を読もう会」を開催中です。
http://www.yamaneko.org/cgi-bin/c-board/c-board.cgi?cmd=tpc;id=cg2005

 

速報! カーネギー賞、ケイト・グリーナウェイ賞発表   2004年度ケイト・グリーナウェイ賞予想座談会   『クレイジー・レディー!』   "Guess Who's Coming for Dinner?"   賞速報   イベント速報   世界のお祭り   読者の広場   もくじ

 

●特集● 2004年度ケイト・グリーナウェイ賞予想座談会

 数ある絵本の中から大賞に選ばれるのはいったいどんな作品なのだろうか。今年6月、全国5か所に集まったやまねこ会員たちが、候補作について語り合った。ロングリストにあげられた全34作品を一度に目にすることができるというまたとない機会に、会員たちは黙々とページをめくっていた。受賞作は7月8日に発表されたが、はたして会員たちの予想はどうだったのだろうか? ショートリストに残った7作品から受賞作を予想し、投票した結果は以下の通りである。

※詳しい書誌情報や邦訳情報は、本誌今月号「賞情報」【参考】を参照のこと。

★☆1位 "Michael Rosen's Sad Book"
 内容は本誌2005年6月号「注目の本」のレビューを参照のこと。

◎絵が文句なしにすばらしい。絵がないと、あのやりきれなさは出なかった。
◎大人の本。ある程度深みのある年齢にならないと理解しにくいかも。
◎気軽にいつでも読める本ではないけれど、家に置きたい1冊。同じテーマの他の本
と違って、淡々と心の動きが書いてあるのがいい。迫力がある。
◎とても温かさを感じた。読み終えてからもずっと涙が止まらなかった。
◎そろそろクェンティン・ブレイクが受賞する時期では?

★☆2位 "Guess Who's Coming for Dinner?"
 内容は本誌今月号「注目の本」のレビューを参照のこと。

◎サスペンス風でおもしろく、はっきりした絵がよい。
◎宮沢賢治の『注文の多い料理店』に似ているが、それよりも子ども受けしそう。
◎日記形式で話が進むところが面白い。絵のあちこちに小道具があるのも楽しめる。
◎少し年長の子どもなら理解できそう。

★☆3位 "One More Sheep"
 内容は本誌2005年5月号「注目の本」のレビューを参照のこと。

◎ラッセル・エイトのマンガみたいな絵が印象的。楽しく動きがある。
◎安心して楽しめる。オチもいいし、子どもといっしょに読むのにおすすめ。
◎おもしろくて、読み聞かせにぴったり。みんなでびっくりする場面がすごく好き。
◎邦訳がすぐ出そうな気がする。
◎とても楽しめるし子ども受けするが、受賞するほどのインパクトがあるかは疑問。

★☆4位 "Dougal's Deep-Sea Diary"
 ダイビングが大好きなドゥーガルは、1週間の休暇をとって海にもぐった。すると海に沈んだお宝が見つかり、さらには……!

◎カラフルな絵が見る者をぱっとひきつける。絵が訴えかけてくる感じ。
◎絵の細部を見て、「あ、こんなところに!」と子どもと楽しめそう。
◎主人公がなぜおじさんなのかが疑問(笑)。ちょっと絵がしつこい?
◎海の中の絵は色あざやかで、すばらしい。ずっと見ていても飽きない。

★☆5位 "Jonathan Swift's “Gulliver”"
 小人の国、巨人の国、空飛ぶ島、馬の国などを旅行するガリヴァーの物語。

◎緻密な線と美しい色彩で、ユーモアのある絵。躍動感・迫力がある。
◎文章量が多くて短時間の座談会ではとても読みきれなかったが、絵は堪能できた。
◎クリス・リデルは2001年度に受賞しているので、今回の受賞は……?

★☆6位 "The Boat"
 内容は本誌2005年6月号「注目の本」のレビューを参照のこと。

◎絵は地味だけど、見ごたえがあった。活字も美しい手書き風。
◎物語がちょっと弱いかも。ストーリーが淡々としていて、盛り上がりに欠ける。
◎最後のページで見せる老人の笑顔がよかった。

★☆7位 "The Whisperer"
 ウエストサイド物語のネコバージョン。双方の親から交際を禁じられたネコたちの恋の行方は……?

◎絵も文章も楽しいが、インパクトに欠けるかも。
◎バックの黒がきいて、読み聞かせをすると映えそう。
◎ネコたちがかわいかった。狂言回しのねずみの役どころもいい。

★☆番外編
 残念ながらショートリストには残らなかったが、話題になった本は?

○"Egyptology Search for the Tomb of Osiris" しかけが楽しくお宝にしたい。
○"Aaaarrgghh Spider!" 絵がかわいく、子どもと楽しめる。
○"Belonging" 文章はないがドラマがあり、飾っておきたい。
○"Biscuit Bear" とにかく絵がかわいい。
○"Vegetable Glue" 好き嫌いの分かれる絵本。絵はかわいいが、シュール。
○"Unwitting Wisdom: An Anthology of Aesop's Animal Fables" 細密画のようで美しい。永久保存版にしたい。

(美馬しょうこ)

 

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●注目の本(邦訳読み物)●

―― 少年の目に映る、母子の愛 ――

クレイジー・レディー!
ジェイン・レズリー・コンリー作/尾ア愛子訳

福音館書店 定価1,575円(税込) 2005.04 267ページ ISBN 1834006441 
"Crazy Lady!" by Jane Leslie Conly
HarperCollins Children's Books, 1993

 第一印象は、まさにクレイジー・レディー。中学生のヴァーノンが見たその女性マキシンは、知的障害児のロナルドの母親だ。いつもみょうちきりんな格好をして町を歩き、「クレイジー・レディー!」と男の子たちに冷やかされれば、口汚くわめいて応戦する。ヴァーノンもそんな男の子のひとりだったが、ひょんなことでマキシン母子と付き合うようになり、親しくなる。
 マキシンのクレイジーな行動のわけを、ヴァーノンは次第に理解していった。悪態をつきながら町を歩くのは、容赦なくからかってくる子どもたちからロナルドを守るため。ロナルドへの愛情なのだ。しかしマキシンには深酒の癖があり、酔って暴れて逮捕されるといった問題をたびたび起こす。
 正気をなくすほど酔っ払い、暴言を吐いたりするマキシンの行為は、ヴァーノンや近所の友だちや、ロナルドまでも心配させ傷つけもする。一見気ままで軽率なマキシンだが、実は愛する息子と引き離されたくないと強く願い、必死だった。自分の悪癖のせいで、警察などからロナルドの母親としてふさわしくないと思われていたからだ。ロナルドの家族は私だけ、だからしっかりしなくてはと思えば思うほど、マキシンは緊張して酒で気分を紛らわそうとし、後になって弱さを悔いる。そんな心情は、痛いほどに理解できる。母の愛は何よりも強いものだけど、母自身はいつでも強いわけではないのだ。マキシンが下した決断はとても切ないが、愛情表現が形を変えただけのこと。母が息子に寄せる思いが変わることは、決してないだろう。
 物語の語り手であるヴァーノンは、母親を亡くしたばかり。マキシンが警察に捕まったとき、家でひとり心細げにしているロナルドと母が恋しい自分を重ねてロナルドを励ます。そして、まだ中学生ながら一生懸命にロナルドの幸せを考えて守ろうとする。そんなヴァーノンはロナルドより年下なのに、兄のように頼もしく見える。
 ヴァーノンをはじめ、マキシン母子に接する人たちはまるで家族のようにとても温かい。子育ては孤独ではないんだと、世の中の母親たちを応援する本でもあるのかもしれない。

 

(井原美穂)

 

【作】ジェイン・レズリー・コンリー(Jane Leslie Conly)

1948年米国ヴァージニア州生まれ。1986年、父親でニューベリー賞受賞作家、ロバート・C・オブライエンの遺稿に加筆して完成させた『ラクソーとニムの家ねずみ』(越智道雄訳/冨山房)でデビュー。1993年、本作でニューベリー賞オナー(次点)になった。米国ボルチモア在住。

【訳】尾ア愛子(おざき あいこ)

1975年東京生まれ。東京大学教養学部イギリス科在学中、シドニー大学に1年留学、児童文学を学んだ。本書が初の翻訳出版作品。現在、東京大学大学院総合文化研究科在学中。

【参考】
▼ジェイン・レズリー・コンリーのページ(The Children's Bookguild 内)
http://www.childrensbookguild.org/conly.html

▽ニューベリー賞受賞作品リスト(やまねこ翻訳クラブ資料室)
http://www.yamaneko.org/bookdb/award/us/newbery/index.htm

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●注目の本(未訳絵本)●

―― ある日届いた招待状、待ち受けているのは何? ――

晩ごはんに来るのはだあれ?』(仮題)
キャシー・ティンクネル文/ジョン・ケリー絵
"Guess Who's Coming for Dinner?"
text by Cathy Tincknell, illustrations by John Kelly
Templar Publishing 2004, ISBN 1840116285
32pp.

★2004年度ケイト・グリーナウェイ賞ショートリスト作品

 表紙の絵は、暗く深い森の入り口だ。ぬいぐるみのようなかわいいブタとガチョウが、小さなオープンカーに乗っている。おや? 木の影に怪しいメガネが光る……。
 ページをめくると、一転して朝の光がいっぱいの明るい部屋。食べ物でごったがえす食卓。ご機嫌なホレス氏のラッキーな週末がはじまる。

      やあ、日記くん! 今朝、すてきな招待状が届いたんだ。
      ぼくとグレンダは、週末の豪華な夕食に無料で招待されたんだよ。

 ブタのホレスとガチョウのグレンダは、大喜びで出かける。招待状の主ハンター博士は科学者らしい。食堂では自動お食事マシーンが、ご馳走をつぎつぎと並べる。でも、気をつけて! だれかが見ている。楽しそうに食事している場合じゃないよ。
 アニメーションを思わせるジョン・ケリーの絵は、明るい光でホレスとグレンダのおっとりのんびりした気分を際立たせる。ホレス氏ののほほんとした言い回しもユーモアたっぷりだ。ふたりのはちゃめちゃな食いっぷりもおかしい。その一方で、暗闇には怪しさと不気味さ、ヒミツの香りが満ちている。いたるところに痕跡はあるが、ハンター博士は姿を現さない。博士の本当の目的を裏付けるヒントがあちこちにあって、読者をハラハラさせる。
 文中の言葉遊びもお話の展開があれこれ想像できて楽しい。Eatum Hall は、eaten のもじりだ。「たくさんご馳走が食べられる」ところ? それとも……。ホレスとグレンダの住所にある Gluttons Way は彼らの性格そのままだ。玄関ホールに置かれた手紙にある fiend は、friend と一字違いで、まったく別の意味になる。どうぞ辞書
をご覧あれ。読み終わったあとに、もう一度、ハンター博士の秘密計画の証拠探しがしたくなるはずだ。
 米国では Candlewick 社から "The Mystery of Eatum Hall" として出版され、2004年度 Bccb Blue Ribbon Picture Book Awards を受賞している。

(尾被ほっぽ)

 

【文】Cathy Tincknell(キャシー・ティンクネル)

1962年英国生まれ。イングラ ンドの Bath Academy 美術学校でグラフィックデザインの勉強をしたのち、児童書出版会社に20年近く勤めた。2002年に独立してからも、児童書出版にかかわり仕事を続けている。この本は彼女の夫ジョン・ケリーとの初めての共著。ロンドン在住。

【絵】John Kelly(ジョン・ケリー)

1964年北イングランド生まれ。独学で絵を勉強したのち、子どもの本のデザインおよびイラストを手がける。"Robot Zoo"、"Slow Magic" などでイラストを担当している。コンピューター上で従来の描画法のように筆を走らせ、生き生きとした絵を仕上げる。

【参考】
▼2004年度 Bccb Blue Ribbon Picture Book Awards 関連ページ
http://www.lis.uiuc.edu/puboff/bccb/blue04.html

▼ショートリストに挙がった著者や画家の生の声と画像が見られるサイト
http://www.carnegiegreenaway.org.uk/shadowingsite/watch_listen.asp#john

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(US版タイトルは"The Mystery of Eatum Hall")

 

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●賞速報●

★2005年ボストングローブ・ホーンブック賞発表
★2005年ブックトラスト・ティーンエイジ賞ショートリスト発表
                     (受賞作の発表は2005年11月の予定)
★2005年ブランフォード・ボウズ賞発表
★2005年ローカス賞(ヤングアダルト小説)発表

海外児童文学賞の書誌情報を随時掲載しています。「速報(海外児童文学賞)」をご覧ください。

 

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●イベント速報●

★展示会情報

千葉市美術館「ブラティスラヴァ世界絵本原画展」他
 

★セミナー・講演会情報

「スペイン語児童文学マスターコース(通信制、2年間)」他
 

★イベント情報

佐倉市立美術館「『イップとヤネケ』をめぐる催し」他
 
 
  詳細やその他の展示会・セミナー・講演会情報は、「速報(イベント情報)」をご覧ください。なお、空席状況については各自ご確認願います。

(笹山裕子/井原美穂)



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●世界のお祭り●第4回 チュソク(韓国)
9月下旬

 もうすぐ夏休み。帰省の計画を立てはじめたかたもいらっしゃるのではないでしょうか。今回はおとなり韓国の帰省シーズン、チュソク(秋夕)をご紹介します。
 チュソクは旧暦の8月15日、新暦では9月下旬のちょうど中秋の名月のころに行われます。そもそもは三国時代(B.C.57-A.D.676)の新羅王朝で、女性たちが麻紡ぎの競争をして、負けた側が勝った側をご馳走や踊り、遊戯などでもてなした行事が、先祖を供養し秋の収穫に感謝する祝祭日になったと言われています。
 韓国では旧正月と同じくらい大切にされているというチュソク。この時期は連休になり、多くの人が家族や親戚と一緒に過ごすために故郷に戻ります。商店が休みになって町中はひっそりと静まりかえり、高速道路や飛行機、列車などの交通機関が大混雑になるというところは、日本のお盆と似ているようです。
 チュソクの前日になると、先祖の祭壇にお供えするご馳走の準備が始まります。代表的なものは、その年にできたばかりのお酒とお米で作ったソンビョンと呼ばれる三日月形の餅です。そのほかにも果物やきのこ、魚、肉などを使った伝統料理が用意されます。
 チュソク当日になると、朝早くから正装してご馳走をテーブルや屏風でしつらえた祭壇に並べ、先祖を祭る儀式チェサ(祭祀)を行います。そのあとは、お墓参りへ行ったり、踊りに参加したりして、親族や友人と楽しく過ごします。チャングという伝統的な打楽器を肩にかけて踊る人々が、道を練り歩くこともありますし、地方によっては、若い女性が輪になって舞い踊る「カンカンスルレ」を見ることもできます。これは「文禄・慶長の役」の際に、海を渡って攻め寄せてくる豊臣秀吉の軍に、大勢の兵士がいるように見せかけた戦術が起源だと言われています。
 この祝祭日の様子がよく分かるのが『ソリちゃんのチュソク』(イ・オクベ作/みせけい訳/セーラー出版)です。町中に住む少女ソリちゃんが、家族と一緒にハルモニ(おばあちゃん)の家へ出かけて親戚の人たちとチュソクを祝い、再び町へ帰ってくるまでが、色鮮やかに描かれています。チュソクの準備で慌しい町の人々、交通渋滞、チュソクの行事やご馳走、そしておみやげをたくさん抱えての帰宅。韓国の人々の帰省風景は日本のお盆休みに重なる点も多く、どこか懐かしい感じさえします。

*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*

 ハルモニが おみやげに とれたての お米や くだものを ふろしき いっぱいにつつんでくれました。こうばしい ゴマあぶらや でこぼこカボチャも はいっています。
「さよなら! さよなら! ハルモニ さよなら!」
よるおそく やっと まちに つきました。おとうさんの せなかで ソリちゃんはハルモニの ゆめを みています。

*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*

 ソリちゃんの心に、温かい思い出が刻まれたようです。この夏、みなさんにも楽しい思い出がたくさんできますように。

(笹山裕子/村上利佳)

★参考文献・ウェブサイト
『韓国歳時記』金渙著 明石書店
韓国観光公社公式サイト
http://japanese.tour2korea.com/03Sightseeing/TravelSpot/travelspot_read.asp?
oid=1937&konum=1&kosm=m3_7&strPage=2(秋夕について)
http://japanese.tour2korea.com/05food/Introduction/foodcul05.asp?kosm=m5_1&
konum=6(料理について)
 

『ソリちゃんのチュソク』の情報をオンライン書店でみる

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●読者の広場●海外児童文学や翻訳にまつわるお話をどうぞ!

このコーナーでは、海外児童書にまつわるお話、ご質問、ご意見等を募集しています。mgzn@yamaneko.org までお気軽にお寄せください。
  • メールはなるべく400字以内で、ペンネームをつけてお送りください。
  • タイトルには必ず「読者の広場」とお入れください。
  • 掲載時には、趣旨を変えない範囲で文章を改変させていただく場合があります。
  • 回答も読者のみなさまから募集し、こちらに掲載させていただきます。編集部からメールでの回答はいたしませんので、ご了承ください。


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●編集後記●

今月号で編集人を降りることになりました。2年近くの間続けてこられたのは、読者のみなさまと、非力な私を支えてくれたスタッフのおかげです。いろいろなことが学べ、実りある日々でした。あらためて感謝します。これからは、別の形で「月刊児童文学翻訳」とやまねこ翻訳クラブに関わっていく予定ですので、よろしくお願いします。(あ)

発 行: やまねこ翻訳クラブ
発行人: 井原美穂(やまねこ翻訳クラブ 会長)
編集人: 竹内みどり/赤塚きょう子(やまねこ翻訳クラブ スタッフ)
企 画: 井原美穂 尾被ほっぽ 蒲池由佳 笹山裕子 早川有加 美馬しょうこ 村上利佳 横山和江
協 力: 出版翻訳ネットワーク 管理人 小野仙内
さかな ながさわくにお ハイタカ
html版担当 ワラビ

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