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2013年3月号
   =====☆                    ☆=====
  =====★   月 刊  児 童 文 学 翻 訳   ★=====
   =====☆   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  ☆=====
                                No.146
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児童文学翻訳学習者による、児童文学翻訳学習者のための、電子メール版情報誌
http://www.yamaneko.org                         
編集部:mgzn@yamaneko.org     2013年3月15日発行 配信数 2380 無料 
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●2013年3月号(デイヴィッド・アーモンド特集)もくじ●
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◎巻頭メッセージ
◎作家研究:デイヴィッド・アーモンド
◎レビュー集:やまねこのおすすめ アーモンド未訳作品
 "Jackdaw Summer"
 "Slog's Dad" デイヴ・マッキーン絵
 "The Boy Who Swam with Piranhas" オリヴァー・ジェファーズ絵
◎賞速報
◎イベント速報
◎お菓子の旅:第61回 作者も大好き、イチジク入りのお菓子 〜フィグロール〜
◎やまねこカフェ 番外編:アーモンドさんと「ミんナ」の物語
 「アーモンド・ワールド」その世界に誘われて
 やまねこ的講演会の楽しみ方 その1
 やまねこ的講演会の楽しみ方 その2
◎読者の広場

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●アーモンド氏からの巻頭メッセージ●
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 2012年10月末から11月初旬にかけて、イギリス児童文学作家デイヴィッド・アーモ
ンド氏が来日し、各地で講演会を行った。当クラブからも多くの会員が参加し、アー
モンド氏の話に深く感銘を受けた。そこで本誌では、今月号をアーモンド特集号と銘
打ち、作家研究やレビューなどさまざまな角度からこの国際アンデルセン賞受賞作家
に迫りたいと思う。
 最初に、アーモンド氏からいただいたメッセージをご紹介する。出版社やエージェ
ントの方々のお力を借りて、われわれの思いと特集号の企画をアーモンド氏にお伝え
したところ、ご本人がメッセージを寄せてくださった。

+ + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + 
Dear Yamaneko Honyaku Club

Thank you so much for your letter. It's lovely to be reminded again of my
trip to Japan, which was such a wonderful experience for me. Yes, I remember
meeting members of the Yamaneko Honyaku Club. It's such a thrill for me to
know that my books are being read and valued in Japan, and to know about
this special edition. I am very pleased to hear about the fig roll recipe!
As Mina knows, they are delicious.

I've had a busy time since coming back from Japan. I finished my new novel,
The Tightrope Walkers, which comes out next spring. And I've started another.
I've just recorded a programme for BBC Radio. It's called Desert Island
Discs and is very popular over here. As part of the programme, I had to
choose a special item to take with me to a desert island. I chose a Japanese
notebook, the kind with patterned cover that I love so much.

I miss Japan, and I look forward to my next trip. Hello to all my readers.
Thank you to everyone who is involved in putting together the 'David Almond
Special'.

All best wishes from the North of England
David

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●作家研究:デイヴィッド・アーモンド●想像力は人間の宝物
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■人と作品■

 デイヴィッド・アーモンドは1951年イングランド北部の炭鉱の町フェリングに生ま
れた。子どもの頃から本が大好きで町の図書館に通いつめ、いつか自分の本がそこに
並ぶことを夢みていた。若いうちから創作を始めるものの、なかなか出版に至らずさ
まざまな職業を転々とする。その頃は大人向けの作品を書いていたが、ある日ふとア
イデアがわいて書き始めたのが、"Skellig"(『肩胛骨は翼のなごり』山田順子訳/
東京創元社)だ。本作はアーモンドの初めての児童書であり、後に代表作と呼ばれる
ようになる。出版されると瞬く間にベストセラーになり、1998年のカーネギー賞とウ
ィットブレッド賞(現コスタ賞)を受賞した。その後YAを中心に多様な作品を発表
し、高い評価を受け、世界中にファンを獲得。2010年には世界でもっとも優れた児童
文学作家に贈られる国際アンデルセン賞を受賞した。

 アーモンドは作品ごとにさまざまな問題を独自の視点で描いているが、一方でどの
作品にも根底には共通するテーマをひそませている。それは、光と闇、生と死、善と
悪、普通と不可思議、完全と不完全、神を信じる心と疑う心など、どんな世界や人間
の中にも同時に存在しうる対極的なものであり、アーモンドはそれを丁寧に、優しさ
をもって写し出している。徹底して舞台背景をリアルに描きながらも、そこにファン
タジーの要素をちりばめ、独自の世界観を生み出す。アーモンドの手にかかればリア
リズムとファンタジーという、相容れない組み合わせも見事に融合される。だから読
者はすっとその世界に入り込める。そこがなんとも魅力的だ。

 アーモンド作品の原点は、生まれ育ったフェリングにある。決して豊かではない古
い炭鉱の町だが、人々の結びつきは強く、温かく、ときに田舎独特の複雑さを持ち合
わせている。そしてキリスト教(カトリック)の信仰心が厚い。幼い頃体験した父親
や妹の死も大きく作品に影響している。少年時代の思い出をつづった短編集
"Counting Stars"(『星を数えて』金原瑞人訳/河出書房新社)にはアーモンド作品
のそうしたエッセンスが詰まっている。その土地に根を張り、その土地の言葉で語り、
自然に対して常に心を開いているという共通点からか、日本の作家では宮沢賢治に親
近感を持っているとのこと。日本人の読者にとってはうれしいエピソードだ。

 アーモンドが最近、新たに取り組んでいるのが、イラストレーターと一つの作品を
創りあげるという作品スタイルだ。イギリスでは、挿絵の入った物語は幼い子どもだ
けのものという認識が強く、YAにおいて挿絵を積極的に取り入れるのは、めずらし
い。しかしアーモンドは「絵はときに文を助けてくれることもあるし、絵も文と同じ
ように美しい。わたしはすべて含めて『本』というものをまるごと愛している」と語
っている。"My Dad's a Birdman"(『パパはバードマン』金原瑞人訳/フレーベル館)
はそんな取り組みの初期にでき上がった作品だ。ある日「鳥人間になる」といいだし、
本気で空を飛べると信じている父親。そんな父親を主人公の女の子が心配しつつも温
かく見守る物語。ポリー・ダンバーのやわらかい画風は、このユーモラスで優しいけ
れど、ちょっと哀しいストーリーにそっと寄り添い、見事なコラボレーションをみせ
ている。2008年にはデイヴ・マッキーンと組み "The Savage"(未訳)を発表。こち
らはポリー・ダンバーとは対照的に、暗く狂気さえ感じさせる迫りくるようなイラス
トでアーモンドの作品がもつ影の部分が巧みに表現されている。アーモンドはデイヴ
・マッキーンとの仕事について「絵と言葉の融合」と語っている。

 日本では昨年 "My Name is Mina"(『ミナの物語』山田順子訳/東京創元社)が邦
訳され、アーモンドファンのみならず幅広い読者から支持された。本作は『肩胛骨は
翼のなごり』の前日までを描いた物語。『肩胛骨〜』の主人公マイケルの隣の家に住
む、ちょっぴり風変わりな少女ミナが主人公だ。感性豊かなミナが感じたこと、思っ
たことをそのまま書きとめたような文体から、アーモンドの少し明るい新しい作風が
うかがえる。『肩胛骨〜』では主人公マイケルが「死」という影のなかに差し込む一
筋の「生」の光を見つける様子が印象的だったのに対して、ミナは父親の死という心
の傷をもちながらも、どんな小さいことでも全身で感じ取り、生きる喜びを惜しむこ
となく、本からあふれ出しそうなほど表現している。『肩胛骨〜』からこの作品が生
まれるまで実に12年。その間にアーモンドのなかで眠っていたミナは「待っていまし
た」とばかりに物語のなかで飛び回っている。

 アーモンドの作品を創り出すエネルギーは尽きることはない。ミナのように次の出
番を待つ主人公たちが、常にアーモンドの頭のなかに行列を作っているという。創作
の際に大事にしているのは、「すべて出し切ること。嘘はつかないこと」、そして
「最初は不完全なものからスタートすること」。不完全であるからこそ想像力が生か
されるのだと語る。「想像力は人間の宝物」という思いが、すべての作品に表れてい
る。そして、読み手にも作品の先を想像させる余裕を残すことを忘れない。それは
「本が完成するときは読者が読んだときだ」という強い思いから生まれている。根底
にある信念は揺るがず、常に最高のタイミングで新しい作品を生み出すアーモンド。
この先もどんな作品で読者を驚かせてくれるか楽しみである。

■レビュー■

 本誌では、これまでアーモンドの作品を数多く紹介してきた。それらのレビューに
ついては、当クラブ資料室のデイヴィッド・アーモンド作品リストを参照していただ
きたい。また、このあとの記事で、未訳作品のレビューを新たに3本お届けする。

【参考】
▼デイヴィッド・アーモンド公式ウェブサイト
http://www.davidalmond.com/

▽デイヴィッド・アーモンド作品リスト(やまねこ翻訳クラブ資料室)
http://www.yamaneko.org/bookdb/author/a/dalmnd.htm

                                (府川圭子)

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●レビュー集●やまねこのおすすめ アーモンド未訳作品
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◆すべては、ナイフで始まり、ナイフで終わる◆

『コクマルガラスの夏』(仮題) デイヴィッド・アーモンド作
"Jackdaw Summer"(US 版 "Raven Summer")by David Almond
Hodder Children's Books, 2009, 219pp. ISBN 978-0340881996 (UK) (PB)
Ember, 2011, 198pp. ISBN 978-0385738071 (US) (PB)
Amazonで詳細を見る
(このレビューは UK 版を参照して書かれています)

 夏の初め、幼なじみのマックスと庭で宝探しをしていたリアムは、1本の古いナイ
フを掘り当てる。そこへ、コクマルガラスが飛んできてキョッキョッと鳴いた。ふた
りは、その鳥に導かれるように古代の廃虚にたどりつき、毛布にくるまれた赤ん坊を
見つける。そして赤ん坊を大切に連れ帰り、警察に通報する。
 猛暑となったその夏、イギリスはイラク戦争に参戦していた。この村の近くには英
軍基地があり、上空をひっきりなしにジェット戦闘機が飛んでいく。リアムは、夜は
庭でマックスとキャンプをし、昼間は近所の少年たちと戦争ごっこに興じた。子ども
じみた遊びは時に凶暴性を帯び、リアムも密かにナイフを持ち歩くようになる。
 ある日、リアムと両親は、赤ん坊が引き取られた里親の家を訪ね、そこでやはり里
子として暮らす、リベリア難民の少年と孤児の少女に出会った。過酷な過去を持つふ
たりの人生に触れたリアムは、自分がいかに恵まれていたかに気づく。そして物語は
大きく展開していく……。
 作家の父を持つリアムは14歳。最近、友だちとの関係の変化や自分の将来にとまど
いを感じ始めている。どんな大人になりたいのか、どう生きたいのかわからない、そ
んなリアムの心の内がひしひしと伝わってきた。リアムにとって運命的ともいえるひ
と夏を通じ、アーモンドは、10代特有の心の揺れと、過ちと背中合わせの「危うさ」
をみずみずしく巧みに描き出している。作者を連想させるリアムの父をはじめとして、
登場する大人たちの、若者たちを見守る目線が温かいことにも心を打たれた。
 捨て子をめぐるミステリーと思春期のリアムの心の葛藤に、戦争の不安がつる草の
ようにからみつく。この地で起きた古代の戦争、海の向こうの現実の戦争、少年たち
の戦争ごっこ。それらが層のように重なり合い、人間の本質は善か悪か、われわれの
なかに凶暴性はあるのか、と問いかけてくる。その緊迫感とノーサンバーランド州の
息をのむような大自然との対比が鮮やかだ。詩的で簡潔な文章が、ローマ時代の長城
や古城が残るこの地の風景を眼前に繰り広げてくれる。つらい過去を持つ子どもたち
の明日への希望を暗示するとともに、アーモンドの新しい可能性を感じさせる作品だ。

                                (大塚道子)

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◆父さん、天国から会いに来てくれたんだね?◆

『スロッグの父さん』(仮題)
デイヴィッド・アーモンド文/デイヴ・マッキーン絵
"Slog's Dad" text by David Almond, illustrations by Dave McKean
Candlewick Press, 2011, 64pp. ISBN 978-0763649401 (US) (HB)
Walker Books, 2012, 63pp. ISBN 978-1406331394 (UK) (PB)
★2012年ケイト・グリーナウェイ賞ショートリスト作品
Amazonで詳細を見る
(このレビューは US 版を参照して書かれています)

 凝った作りの本だ。表紙を開くと黒いページが目に飛び込んでくる。宇宙に無数の
星が瞬いているようなイラストだ。やがて青い地球が見えてきて、グレート・ブリテ
ン島の形がはっきりしてくる。空から見た町の様子、広場がズームアップされ、ベン
チに腰かけた男が大写しになる。イラストだけのページがここまで続いたあと、「春
が来た」と文章がはじまる。まるで映画を見ているかのようだ。
 デイヴィーと友だちのスロッグが広場を通っていたときのことだ。スロッグが、ベ
ンチに腰かけている男を見て「父さんだ」と言った。スロッグの父さんは、すでにこ
の世を去っている。男がスロッグの父さんであるはずはない、とデイヴィーは思うが、
スロッグは父さんだと言い張った。スロッグの父さんは「春になったら天国から戻っ
てくる」と言っていたのだ。ほんとうに戻ってきたのだろうか?
 物語は、デイヴィーが過去を振り返る形で進む。スロッグの父さんが賛美歌を歌い
ながらゴミ収集の仕事をしている姿や、肉屋のおじさんが少年たちを見まもる様子、
会話にまじるイングランド北部の言葉などが、アーモンドの育った町を思わせる。ま
るで、アーモンド自身が少年時代のできごとを語っているかのように感じられた。
 イラストからは、スロッグの感情が痛いほど伝わってきて心を揺さぶられる。スロ
ッグの父さんは病に体をむしばまれて亡くなった。父さんを思うスロッグの耐え難い
苦しみが、ゆがんだ顔に表れている。暗い部屋で悲しみに沈む姿は見るのもつらい。
けれども夢の中で父さんと抱きあっているときの表情は、うっとりとしあわせそうだ。
 もういちど父さんに会いたい! それがスロッグの切なる願いだ。いつか天国で会
えるとしてもそれまで待てない。今すぐ会いたいのだ。そうすればスロッグは父さん
の死を受け入れて前に進むことができるだろう。幻想が現実にとけこんでいるような、
不思議な雰囲気の漂う作品世界の中で、そんなスロッグの気持ちは和らげられていく。
なんてやさしい物語だろう。読み終えたあとで、ふと、もうこの世にいない人が会い
に来てくれることもあるかもしれない、と思った。

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【絵】Dave McKean(デイヴ・マッキーン):1963年英国生まれ。挿絵、コミック、
映画、音楽など、さまざまな分野で活躍するアーティスト。デイヴィッド・アーモン
ドとのコラボレーションとしては、2008年発表の "The Savage" があり、今年5月に
"Mouse Bird Snake Wolf" が出版予定。ニール・ゲイマンとの共作に、ケイト・グリ
ーナウェイ賞2010年ショートリスト作品 "Crazy Hair" などがある。

【参考】
▼"Slog's Dad" 紹介動画(YouTube 内 Walker Books UK のチャンネル)
http://www.youtube.com/watch?v=huq6r0Dknt8

▼デイヴ・マッキーン公式ウェブサイト
http://www.davemckean.com/

▼デイヴ・マッキーン紹介ページ(Walker Books 内)
http://www.walker.co.uk/contributors/Dave-McKean-7584.aspx

                                (中井理佳)

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◆アーモンド流コメディをお楽しみあれ!◆

『ピラニアと泳いだ男の子』(仮題)
デイヴィッド・アーモンド文/オリヴァー・ジェファーズ絵
"The Boy Who Swam with Piranhas"
text by David Almond, illustrations by Oliver Jeffers
Walker Books, 2012, 246pp. ISBN 978-1406320763 (HB)
Amazonで詳細を見る

 両親をなくしたスタンは、おじさんとおばさんとごくごくふつうの暮らしをしてい
た。ところが、とつぜん、その生活は一変してしまった。おじさんは造船所が閉鎖さ
れて仕事を失うと、魚の缶詰をつくってお金をもうけると宣言。家はまたたく間に缶
詰工場と化していく。家のなかは機械でいっぱい、寝る場所もない。学校にも行けず、
朝6時に起きて缶詰をつくる。くる日もくる日も、仕事、仕事、仕事。それでも、誕
生日におばさんのはからいで休みをもらえたスタンは、町にきていた移動遊園地へ出
かけた。そこでアヒルつりゲームの出店の主人と知りあい、ひょんなことから金魚を
手に入れた。スタンは金魚を心のよりどころとしてかわいがったが、金魚にまで悲劇
が起こり、絶望を感じて家をとびだす。そうして、誘われるがままに出店の主人の仕
事を手伝い、移動遊園地の一行と旅をすることになる。ピラニアと泳ぐ男といわれる
人物パンチョ・ピレッリとの出会いが待っているとも知らずに――。
 ユーモアたっぷりで読者に語りかけてくるナレーションに、冒頭からぐいぐいと引
きこまれた。アーモンドの作品といえば五感に訴えるような雰囲気が漂うものが多い
が、本作では特に視覚を意識して書かれている。作者の視点が映像のカメラの役割を
果たし、文章だけを読んでも、まるで映画やアニメを見ているかのようだ。さらには、
ジェファーズの絵が映像を浮かびあがらせ、個性的な登場人物(そして、魚も!)を
も見事に表現し、ユーモアと愛にあふれたこの物語にぴったりとけこんでいる。
 これまでの作品とは一風違ってコメディタッチで描かれているが、スタンと出店の
主人の娘との交流や、夜空の月を眺めながらの語りあいなど、アーモンドならではの
情感にあふれた印象的なシーンもところどころにちりばめられている。エンターテイ
ンメント性が色濃く出ているなかに、こうした作者の感性がきらりと光り、物語に深
みをもたせているのも魅力的だ。
 物語の後半でパンチョ・ピレッリと出会ってからのスタンの言動には、自分を信じ
て勇気をだすことがいかに大切かという、子どもたちへのアーモンドのメッセージが
強く感じられた。最後はほっこりとあたたかな思いにつつまれて、本を閉じた。昨年、
来日講演で見せてくれた作者のやさしいまなざしを思いだしながら。

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【絵】オリヴァー・ジェファーズ(Oliver Jeffers):1977年生まれ。北アイルラン
ド出身。大学を卒業後、絵本作家として活躍し数々の賞を受賞した。2013年のケイト
・グリーナウェイ賞ロングリストには3作品ノミネートされた。邦訳作品に『まいご
のペンギン』(三辺律子訳/ヴィレッジブックス)、『心をビンにとじこめて』(三
辺律子訳/あすなろ書房)などがある。現在、ニューヨークのブルックリン在住。

【参考】
▼オリヴァー・ジェファーズ公式ウェブサイト
http://www.oliverjeffers.com/

▽オリヴァー・ジェファーズ作品リスト(やまねこ翻訳クラブ資料室)
http://www.yamaneko.org/bookdb/author/j/ojeffers.htm

                                (早川有加)

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●賞速報━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

★2012年度ローカス賞YA部門推薦作品発表
★2013年チルドレンズ・ブック賞受賞作品発表
★2013年ゴールデン・カイト賞およびシド・フライシュマン賞発表
★2012年度アガサ賞児童書およびヤングアダルト部門候補作品発表
                     (受賞作品の発表は5月4日の予定)
★2012年度アンドレ・ノートン賞最終候補作品発表
★2013年カーネギー賞ショートリスト発表
★2013年ケイト・グリーナウェイ賞ショートリスト発表
(カーネギー賞およびケイト・グリーナウェイ賞受賞作品の発表は6月19日の予定)
★2013年エズラ・ジャック・キーツ賞発表

 海外児童文学賞の書誌情報を随時掲載しています。「速報(海外児童文学賞)」を
ご覧ください。
http://www.yamaneko.org/cgi-bin/sc-board/c-board.cgi?id=award

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●イベント速報━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

★展示会情報
 ちひろ美術館東京「中国の絵本画家展」
 木城えほんの郷「韓国の絵本原画展」 など

★講演会情報
 岡山こどもの本の会「斎藤惇夫さん講演会」 など

★イベント情報
 ゲートシティ大崎「子どもの本の日フェスティバル2013」 など

★東日本大震災チャリティイベント情報
 遊ホール「てくてく座 塩竈公演」
 安曇野ちひろ美術館
  「手から手へ展―絵本作家から子どもたちへ 3.11後のメッセージ―」 など

 詳細やその他のイベント情報は、「速報(イベント情報)」をご覧ください。なお、
空席状況については各自ご確認願います。
http://www.yamaneko.org/cgi-bin/sc-board/c-board.cgi?id=event

                           (冬木恵子/笹山裕子)

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●お菓子の旅●第61回 作者も大好き、イチジク入りのお菓子 〜フィグロール〜
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FIG ROLLS! WOW! I like to nibble the top of the biscuit off first, then chew
away the lovely figgy stuff (it's lovely slooched around inside the mouth
with chocolate milk), then eat the bottom bit.
                  "My Name is Mina" by David Almond
                       Hodder Children's Books (2010)
                  Amazonで原書を見る
                 『ミナの物語』 デイヴィッド・アーモンド作
                       山田順子訳/東京創元社/2012年
                  Amazonで詳細を見る  hontoで詳細を見る
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 今回は、昨年邦訳が出版されたデイヴィッド・アーモンドの作品に登場するフィグ
ロール(邦訳ではイチジクロール)をご紹介します。ドライイチジクのペーストをシ
ョートブレッドで包んだお菓子で、英国やアメリカでは広く親しまれています。さく
さくとしたビスケットと程よい甘みを持つイチジクのコンビネーションは、どこか懐
かしさを感じさせます。
 旧約聖書にも登場するイチジクは、有史以前から存在する果物のひとつです。原産
地はアラビア半島南部、約6000年前にはエジプトで栽培が行われていたといわれてい
ます。その後地中海沿岸諸国に伝わり、さらに交易によってヨーロッパ各地へ広がり
ました。ヨーロッパや中近東では、古くからイチジクをはじめアプリコット、ナツメ
ヤシなどの果物を乾燥させて携帯食や保存食として利用してきました。私(かまだ)
の住むシドニーでも、スーパーでさまざまなドライフルーツが手軽に入手でき、食文
化の歴史の一端がうかがえます。
 古代エジプトでは、小麦粉を水でこねた生地にイチジクを包んで焼いた菓子パンを
食べていたと考えられています。スコットランド生まれのショートブレッドを使った
フィグロールが、いつ頃作られたのかは定かではありませんが、1891年にアメリカで
ショートブレッドの間にイチジクのペーストを注入する機械が開発され、フィグロー
ルの大量生産が始まりました。
 引用部分は、表現力豊かな女の子ミナがフィグロールの食べ方を説明しているとこ
ろです。大好きなお菓子を、ゆっくり味わいながら食べる様子が目に浮かびます。巻
頭メッセージで「フィグロールはデリシャス」とおっしゃっているアーモンド氏自身
にも、子ども時代こんなふうにして食べた思い出があるのかもしれませんね。

*-* フィグロールの作り方 *-*
                画像はこちら(やまねこ翻訳クラブ喫茶室)
材料(20個)
 薄力粉         115g      全粒粉            115g
 ブラウンシュガー     65g      無塩バター(1cm角切り)   150g
 卵黄          2個      バニラエッセンス     小さじ1
 ドライイチジク     120g      レモン汁         大さじ2

1.ボウルに薄力粉と全粒粉をあわせてふるい入れ、室温に戻しておいたバターを指
  先でくずしながら加えて混ぜる。
2.1にブラウンシュガー、バニラエッセンス、卵黄を加えてこねる。まとめにくい
  場合は大さじ1〜2の水を加える。ひとまとめにした生地をラップで包み、冷蔵
  庫で30分やすませる。
3.鍋に細かく刻んだドライチジクと水大さじ6を入れて、火にかける。沸騰後、弱
  火にしてふたをし、イチジクがやわらかくなるまで煮る。
4.イチジクが冷めたらレモン汁を加え、フードプロセッサーでペースト状にする。
5.冷蔵庫から生地を取り出し、粉(分量外)を振った台の上で15cm×50cmの長方形
  にのばす。それを7.5cm×50cmの帯状になるよう、半分に切る。
6.生地を横長に置き、手前半分にイチジクをのせ均等にならす。イチジクにかぶせ
  るように向こう側半分を手前に向かって折り、縁を押さえる。厚さが均等になる
  ように、全体を上から軽く押さえ棒状にする。もう半分の生地も同様にする。
7.包丁で、生地をそれぞれ10等分に切る。
8.クッキングシートを敷いた天板に生地をのせ、190度に予熱したオーブンで12〜
  15分、少し焼き色がつくまで焼く。焼けたらオーブンから取り出し、金網の上で
  冷ます。

★参考図書・ウェブサイト
『パンの研究 文化史から製法まで』(阿久津正蔵監修/越後和義著/柴田書店)
"Nice Cup of Tea and a Sit Down" by Stuart Payne (Sphere, 2004)
The Food timeline
http://www.foodtimeline.org/index.html

お菓子の話題は喫茶室掲示板へどうぞ。
★「やまねこ翻訳クラブ喫茶室掲示板」
        http://www.yamaneko.or.tv/open/c-board/c-board.cgi?id=kissa

                   (かまだゆうこ/冬木恵子/加賀田睦美)

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●やまねこカフェ 番外編●アーモンドさんと「ミんナ」の物語
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 特集の最後に、昨秋の来日以来いまだ興奮さめやらぬ、やまねこたちの声をお届け
します。アーモンド氏への思いや、本号発行までの裏話をお楽しみください。

◆「アーモンド・ワールド」その世界に誘われて◆

 なぜ、こんなにアーモンド作品に惹かれるのだろう? デビュー作から最新作まで
読んだが、どれもすぐに物語の世界に引きこまれ夢中でページをめくった。アーモン
ドの作品を読むと、情景のイメージが鮮やかに浮かびあがり、いま生きていることへ
のよろこび、また生に対する驚異を感じる。初期のころの作品ももちろん好きなのだ
が、最近の進化した(?)作風はさらに好みだ。特に、"My Name is Mina"(『ミナ
の物語』)は詩的で叙情的でありつつ、ことばあそびがふんだんに取りいれられ、表
現形式や文字などにも凝っている。またそのほかの作品でも、アーモンドは「書くこ
とはつねに勇気をもつこと」とのことばどおり、勇気をもって、自由にのびのびと書
いている。来日講演では、「想像力は使えば使うほど増え、減ることはない」という、
なんともすてきなことばも聞けた。想像の翼をはばたかせて、いつまでもその世界へ
とわたしたちを誘っていってほしい。(ずっとずっと、ついていきます!)

                                (早川有加)

◆やまねこ的アーモンド氏講演会の楽しみ方 その1◆

 2012年秋、アーモンド氏が来日し、講演会が連日催された。岩手、大阪、東京と場
所を変え、ときには1日2度の開催。そんな過密スケジュールをこなす氏は、体力気
力ともにすばらしかったのだけれど、やまねこ翻訳クラブも負けていなかった(?)。
 当クラブには氏のファンが多い。そのため、会員にとって来日はまさに生アーモン
ドを味わえる(笑)うれしく貴重な機会。大阪の講演会には近県からも会員が集まり、
東京の各講演会に至っては、はしごしている会員が何名もいた。
 やさしいおじさまという雰囲気のアーモンド氏は、やわらかく簡潔な語り口で創作
や作品について話してくださった(絵や文字でびっしりの創作ノートまで披露!)。
 氏の来日後はしばらく、会員限定の掲示板が感想と感動を分かち合うコーフンに満
ちたコメントでにぎわった。中でもおかしかったのが、とある会での氏のシャツの色
をめぐるコメント。だれかがふと書いた「赤いシャツ」という言葉から、「青だった
のでは?」「緑だったかも」となぜか参加者の記憶が混濁。それだけみんなが氏の言
葉を記憶し、メモすることに忙しかったのだろう(ということにしておきたい)。
 わたしはその会には残念ながらうかがえなかったのだけれど、7日の会でのシャツ
が鳥の柄だったことは断言できる(自慢)。氏の作品といえば、鳥。そう、絶対に作
品イメージに合わせたシャツを着てきてくださったのだ! と、妙な点に感激して、
その日は会場を後にした。次回の来日でも、密かにシャツに注目しようと思っている。

◆やまねこ的アーモンド氏講演会の楽しみ方 その2◆

 やまねこ翻訳クラブは、本や作家への愛が高じて、とてつもないパワーを発揮する
ことがある。今回も楽しい奇跡を起こした。
 アーモンド氏の連日の講演会で、会員が最初に集結したのが大阪会場だった。その
際なんと、本誌のW編集長が機転を利かせ、当クラブHPの絵と説明を印刷した「ウ
ェルカムカード」を用意。そこに、英語を母国語のように使いこなすS会員が英文メ
ッセージを添え、氏にお渡しすることに成功! 翌日、その報告にクラブは湧いた。
 そこで東京近隣の会員もがんばった。連日の講演会後のサイン会で各自「大阪で仲
間がカードを渡した“やまねこ”の者です」と氏にごあいさつ。はたして氏がどこま
で当クラブを認識してくださったかは定かではないが、布石は打った(笑)。
 そして、わたしたちは無謀な挑戦を試みる。ウェルカムカードとサイン会でのごあ
いさつという限りなく細いつながりを頼りに、超多忙な人気作家アーモンド氏に連絡
を試みたのだ。「当クラブのメールマガジンにお言葉を寄せてくださいませんか」と。
 依頼のメールは、W編集長が文面を書き、オーストラリア在住のH会員(とご主人)
がその英文をチェック。こうして完成したメールを、『ミナの物語』を出版した東京
創元社の担当編集者Kさんに頼みこんで、タトル・モリ エイジェンシーのNさん経
由で氏へ送ってもらった(Nさんにはその後も仲立ちをしていただき、感謝です)。
 結果は……本誌をご覧ください! 当クラブ会員のアーモンド氏への愛と連係プレ
ーが実を結びました! わたしたちのお願いを快くお引き受けくださったアーモンド
さん、ご協力くださった関係者のみなさん、本当にありがとうございました。

                               (田中亜希子)

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表するライフスタイルブランドです。1984年、時計メーカーとして始まったフォッシ
ルは時計をファッションアクセサリーの一つと考え、カジュアルな「TREND」ライン
からフォーマルなシーンにも使える「CERAMIC」など、年間300種類以上のモデルを発
売し続けています。またフォッシル直営店では、時計以外にもレザーバッグ、革小物、
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●編集後記●今月号は、いつもより1週間ほど前倒しで編集作業を始め、連日の熱い
やりとりを経て発行となりました。アーモンド氏来日時のエピソードを思い出したり、
ご本人からメッセージが届いて興奮したりと、編集メンバー一同、それぞれの自宅の
パソコン前で、一緒に盛り上がりました。アーモンド氏にメールを送る際は、東京創
元社さんとおつきあいのある会員が、取り次ぎ役を果たしてくれました。また、来日
講演会に参加した会員が多数いたことは記事の中でお伝えした通りですが、実は会員
が司会という大役を務めた会もあったことを付記しておきます。なお、アーモンド氏
がメッセージでふれているBBCのラジオ番組は、インターネットで聞くことができ
ますので、URL をお知らせします。ちなみに、このサイトに出ている写真のシャツの
柄は鳥(!)です。http://www.bbc.co.uk/programmes/b01r50yy(お)
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発 行 やまねこ翻訳クラブ
編集人 大作道子/植村わらび/蒲池由佳(やまねこ翻訳クラブ スタッフ)
企 画 大塚道子 尾被ほっぽ 加賀田睦美 かまだゆうこ 小島明子 笹山裕子
    田中亜希子 中井理佳 早川有加 府川圭子 冬木恵子 村上利佳
    森井理沙
協 力 出版翻訳ネットワーク 管理人 小野仙内
    からくっこ くらら ながさわくにお NON ゆま
    html版担当 ayo
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