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━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 2015年6月号 =====☆ ☆===== =====★ 月 刊 児 童 文 学 翻 訳 ★===== =====☆  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ☆===== No.164 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 児童文学翻訳学習者による、児童文学翻訳学習者のための、電子メール版情報誌 http://www.yamaneko.org 編集部:mgzn@yamaneko.org 2015年6月15日発行 配信数 2540 無料 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ●2015年6月号もくじ● ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◎この人に聞きたい! やまねこ会員インタビュー:第2回 小島明子さん ◎この人に聞きたい! 連動レビュー:『きょうは、おおかみ』 キョウ・マクレア文/イザベル・アーセノー絵/小島明子訳 ◎注目の本(邦訳読み物):『ぼくと象のものがたり』リン・ケリー作/若林千鶴訳 ◎賞速報 ◎イベント速報 ◎読者の広場 |
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ●この人に聞きたい! やまねこ会員インタビュー●第2回 小島明子さん ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 旧「新人応援!」コーナーをリニューアルして2014年9月に始まった当コーナー。 やまねこ翻訳クラブでの活動がどのように生かされてきたのかという点にも注目しな がら、頑張っている会員に話を聞いていきます。 第2回は、広島で出版社を立ち上げ、第19回いたばし国際絵本翻訳大賞(英語部門) 最優秀翻訳大賞受賞作品『世界のまんなかの島 わたしのオラーニ』(クレア・A・ ニヴォラ文・絵/伊東晶子訳)と、自らが訳した第20回同賞受賞作品『きょうは、お おかみ』(キョウ・マクレア文/イザベル・アーセノー絵 ※本誌今月号「この人に 聞きたい! 連動レビュー」を参照)の2冊を刊行した小島明子さんにお話を聞きま した。 【小島明子(こじま あきこ)さん】 +――――――――――――――――――――――――――――――――――――+ |広島県生まれ。国際基督教大学教養学部卒業、広島大学大学院社会科学研究科博| |士課程前期修了。やまねこ翻訳クラブスタッフ。大人を対象とした英語読書会を| |主宰し、児童書を原書で読む楽しみを伝えている。第20回いたばし国際絵本翻訳| |大賞(英語部門)最優秀翻訳大賞受賞を機に、2014年、株式会社きじとら出版を| |設立。 | +――――――――――――――――――――――――――――――――――――+ 【小島明子さんインタビュー ロングバージョン】(6月18日公開予定) http://www.yamaneko.org/bookdb/int/akojim_i.htm Q★やまねこ翻訳クラブ(以下、やまねこ)に入会されたきっかけを教えてください。 A☆地元で主宰している英語読書会で児童書をテキストにしていたことから、情報収 集のためにやまねこの資料室などをのぞくようになり、やまねこってすごいなあ、自 分も本気で児童書の翻訳家をめざそう!と、2011年に入会しました。 Q★これまでどんな活動に参加されましたか? その中で、特に印象に残っているこ とは? A☆参加できるものには何でも参加しています。いたばし国際絵本翻訳大賞事後勉強 会、シノプシス勉強会、原書読破マラソン、オフライン読書会、毎年11月に行われる やまねこ賞の投票など、どれも印象深いです。中でも鮮やかに気持ちがよみがえるの は、初めて読書室掲示板に投稿したミニレビューに、先輩会員さんからすぐにコメン トをいただいたときのうれしさでしょうか。しかも、その年のやまねこ賞でその作品 に投票してくださって、やったー!と思いました。 Q★小島さんにとって、やまねこはどのような存在ですか? また、翻訳をしていて、 やまねこでの活動が役に立っていると感じられることはありますか? A☆やまねこは児童書や翻訳のことを好きなだけ語り合える貴重な場で、自分の居場 所を見つけたという思いです。勉強会やメールマガジンへのレビュー執筆では、掲示 板上で積極的にコメントのやりとりをしながら文章を推敲します。それが、自分の文 章を客観的に見る訓練になっていると感じます。 Q★翻訳はどのように勉強されましたか? おすすめの勉強法があったら教えてくだ さい。 A☆地方在住、しかも育児中だったので、インターネットが強い味方でした。やまね この勉強会のほかにも、オンラインで翻訳学習ができるサイトを見つけては訳文を投 稿していました。個別の講評をいただけるものもあり、勉強になりました。 やまねこの原書読破マラソンに参加中、英語の作品をたくさん読むのと同時に、日 本語の本も読んでいました。日本の作家さんのもの、翻訳もの、ジャンルは問わず。 そうしているうちに、二つの言語が自分のなかであまり区別されないような感覚にな ってきて、作品それぞれの個性やリズム感をつかめた気がしました。 Q★いたばし国際絵本翻訳大賞には何回くらい応募されましたか? A☆第18回〜第20回の計3回です。最初は、せっかくやまねこに入会したのだから事 後勉強会に参加したいと思って、応募しました。 Q★大賞を受賞された第20回では、訳すうえで特に意識されたことはありましたか? A☆語り手であるバネッサの言葉と、おおかみのようになった妹バージニアのせりふ がうそっぽくならないようにと心がけました。お姉さんはやさしく包容力がある感じ、 妹バージニアはぶっきらぼうだけれど繊細なイメージで。 Q★きじとら出版を立ち上げた経緯についてお聞かせください。 A☆2014年2月、いたばし国際絵本翻訳大賞受賞の通知をいただき、もしや出版して いただけるのではとひそかに期待していたのですが、その気配がないので、厚かまし くもコンテストを主催する板橋区に電話で尋ねてみました。出版の見込みは薄いと聞 いて、「それでは、わたしが出してもいいですか?」と。それが昨年5月のことです。 すぐにやまねこの先輩に相談して、東京でお手伝いをしてくださるコーディネーター さんを紹介していただき、出版社立ち上げに向けて動き出しました。 Q★決心されたときの心境や、ご家族の反応は? A☆出版社をつくりたいという気持ちは以前から漠然とあったので、いたばし国際絵 本翻訳大賞の受賞は自分にとって一生に一度しかないチャンスだと思いました。なの で、悩むことはありませんでした。家族もまったく反対することなく、「応援するよ」 と言ってくれました。今も、家族に支えてもらっています。 Q★出版社設立のノウハウはどうやって学ばれましたか? A☆日本書籍出版協会が刊行している各種手引書で勉強しながら、具体的な動きにつ いてはコーディネーターさんを頼りにしました。会社設立には創業を支援する公的機 関のサポートを受けています。 Q★編集作業はどのようにされましたか? 版権の交渉は? A☆編集に関して、わたしはまったくの素人なので、プロの編集者さんに作業を依頼 しました。編集作業の進捗状況については情報を共有し、必要に応じて版元としての 要望を伝えました。版権については、版権エージェントに依頼して、海外の権利者と 交渉してもらいました。 Q★営業活動について、苦労はありますか? A☆東京での営業をプロの方にお願いしていることもあり、苦労といえるような苦労 はありません。自分で地元の書店さんを訪問しても、いつも気持ちよく対応してくだ さるので、お話しさせていただくのが楽しいです。 雑誌や新聞等の媒体には意識して働きかけています。おかげさまで、紹介される機 会が増えてきて、きじとら出版の絵本のことを少しずつ知っていただけるようになっ てきたかなと感じています。 Q★『きょうは、おおかみ』を出版するにあたって、翻訳に気をつかわれた部分はあ りますか? 翻訳に関してどなたかに相談されましたか? A☆違和感のない日本語になるよう、家族を相手に音読したり、代わりに読んでもら ったりして、音の響きを何度も確かめました。編集・校正の方から、わかりにくい表 現などを指摘していただき、訳文の推敲を重ねました。監修の金原瑞人先生には、語 尾や言葉の選び方に細やかなアドバイスをいただきました。初めての訳書なので、悩 むこともありましたが、「小島さんが訳者なんだから、好きなように自由に!」と言 っていただき、最後は自分の言葉としてかたちにできたと思っています。 Q★完成した絵本をご覧になったとき、どんなお気持ちでしたか? A☆装丁が仕上がり、かわいい帯が巻かれて、まさに感無量でした。書店に並んでい るのを見て、息子も「ママの絵本だ!」と喜んでくれました。 Q★評判や売れ行きは? 読者からどんな感想が届いていますか? A☆おかげさまで、大変ご好評をいただいております。お客さまが店頭で注文された 分を書店さんが取り寄せられることも多く、読者の方とのつながりを実感できてうれ しくなります。自分の住む地域から遠い、北海道や東北の書店さんからお電話をいた だいたときなど、喜びもひとしおです! 小さなお子さんをもつ親御さんからは、「おおかみの言葉が楽しくて、喜んでいま す」、高学年の男の子は最後の場面に「そうきたか!」。女の子がおおかみになると いう設定が面白いようで、「どうしておおかみになったの?」という素朴な疑問も。 大人の読者からは、「うちの子もおんなじ! わかる、わかる!」「大人にも、おお かみ気分の日はあるのよね」といった共感の声、「お姉ちゃん、素晴らしい!」と姉 バネッサへの称賛の声が寄せられています。心の苦しみを抱く家族を持つ方には、い っそう特別な絵本になったようです。感動してプレゼント用にもう1冊購入したとい う方もいらっしゃいます。 Q★思い切って出版社を設立されてみて、率直な感想をお聞かせください。やってよ かった、うれしかったというエピソードはありますか? A☆これまで知らなかった世界に飛び込んで、毎日わくわくの連続です。この1年、 たくさんの方にお会いしました。板橋区の方々、監修の先生方、やまねこ翻訳クラブ の先輩、出版・マスコミ関係の方々、取次・書店のみなさま……。みなさんに助けて いただき、感謝の気持ちでいっぱいです。良い絵本を読者に届けようという同じ目標 があるため、惜しみないご助力をいただけているのだと思います。 特にうれしかったのは、『きょうは、おおかみ』の帯に推薦の言葉をいただけない か、金原瑞人先生におずおずとお願いしてみたところ、ご多忙にも関わらず二つ返事 で引き受けてくださったこと。そして、まったく面識のなかった柳田邦男さんにまさ にダメもとでお手紙をお送りし、『世界のまんなかの島 わたしのオラーニ』の推薦 文を書いていただけたこと。快諾のお返事が速達で届いたときは本当に感動しました。 Q★最後に、読者へのメッセージと、きじとら出版の今後の予定を。また、翻訳者と して読者に届けたい作品への思いもお聞かせください。 A☆子どもも大人も楽しめる素敵な絵本をこれからもご紹介できるよう、息の長い出 版社をめざします。「いたばし国際絵本翻訳大賞」は、きじとら出版の生みの親とも いえるコンテストなので、これからも受賞作品を出版できるよう力を尽くしていきた いと思っています。 出版社が軌道に乗りましたら、また翻訳に挑戦したいです! 読んでいると思わず にっこり、読み終わると温かい気持ちになれる、そんな作品を届けることができれば 素敵ですね。 *** *** *** *** *** *** *** *** *** *** *** *** *** *** *** 【参考】 ▼きじとら出版公式ウェブサイト http://kijitora.co.jp/ ▼「いたばし国際絵本翻訳大賞」を主催する東京都板橋区の公式ウェブサイト http://www.city.itabashi.tokyo.jp ▼同サイト内「いたばしボローニャ子ども絵本館」のページ http://www.city.itabashi.tokyo.jp/c_kurashi/002/002177.html ▽本誌「この人に聞きたい! やまねこ会員インタビュー」コーナー目次 http://www.yamaneko.org/mgzn/corner/newface.htm ▽やまねこ翻訳クラブ 学習室目次 http://www.yamaneko.org/gakushu/index.htm ▽やまねこ賞について(やまねこ翻訳クラブ資料室) http://www.yamaneko.org/bookdb/award/yn/index.htm (取材・構成:赤塚きょう子) |
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ●この人に聞きたい! 連動レビュー●姉妹が描く夢の庭〈ブルームズベリー〉 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 『きょうは、おおかみ』 キョウ・マクレア文/イザベル・アーセノー絵/小島明子訳 きじとら出版 定価1,800円(本体) 2015.03 32ページ ISBN 978-4908214011 "Virginia Wolf" text by Kyo Maclear, illustrations by Isabelle Arsenault Kids Can Press, 2012 ★2012年カナダ総督文学賞児童書部門(絵)受賞作品 Amazonで詳細を見る hontoで詳細を見る Amazonで原書の詳細を見る ある日、妹のバージニアは目が覚めると、おおかみみたいにむしゃくしゃしてた。 「ぐるるる、がるるる」とほえて怒って、何をしても笑ってくれない。ベッドで隣に 寝ころんで、窓から雲をながめていたら、「この空を飛んで、ブルームズベリーに行 きたい」ってバージニアが話してくれた。クリームたっぷりのケーキがあって、きれ いなお花が咲いていて、絶対に悲しい気持ちにならないところなんだって。でも、ブ ルームズベリーなんて、地図帳でも見つからない。元気になれる場所がないのなら、 わたしが作ってみるよ。バージニアのために、夢の庭を。 "Virginia Wolf" という原題の本書は、作家バージニア・ウルフと、その姉で画家 のバネッサ・ベルをモチーフにしている。精神に病を抱えたバージニアを姉が献身的 に支えたことはよく知られており、作者は2人のきずなからインスピレーションを受 けたと語っている。ブルームズベリー(Bloomsbury)は姉妹が暮らした英国の地名だ が、作中では Bloomsberry とつづりを変え、花が咲き木の実がなる夢の場所として 登場している。 姉妹の1日は姉のバネッサの視点から語られるが、イラストの色調はバージニアの 心の変化と呼応していて、2人の心情が同時に伝わってくる。バージニアの孤独や心 の葛藤は黒で表現され、バージニア自身黒いおおかみの姿をしている。全体的な色合 いも、物語半ばまでは色味を抑えたモノトーンだ。しかしバネッサが庭を作る場面に なると、赤い大輪の花を中心に鮮やかな色が溢れだす。バージニアの心に光が差しこ む様子を、色彩の移りかわりで見事に描きだしている。どのページにも差し色として 使われている淡い黄色と水色は、それぞれ、ほがらかな姉とおおかみ気分ではないと きの妹を象徴しているように感じられた。 作者はバージニアの心の闇を "wolfish mood" と形容し、難しくなりがちなテーマ を親しみやすい物語に仕上げた。誰にでもおおかみ気分になるときがあるけれど、ゆ っくりいつものあなたに戻ればいいんだよ、というメッセージが込められている。バ ネッサの優しい言葉と、繊細で美しい絵に心を癒される一冊である。 ※バージニア・ウルフ及びバネッサ・ベルのカタカナ表記は、本書の表記にそろえま した。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 【作】キョウ・マクレア(Kyo Maclear):1970年、英国生まれのカナダ人作家。英 国人の父と日本人の母をもつ。トロント大学で美術を学び、小説家、美術評論家とし て高い評価を受けている。2010年に "Spork"(イザベル・アーセノー絵)で初めて絵 本の文章を手掛けた。トロントで、音楽家の夫と2人の子どもたち、愛猫と暮らして いる。 【絵】イザベル・アーセノー(Isabelle Arsenault):ケベック大学モントリオール 校卒業。雑誌のイラストレーターとして活躍後、2004年に初めて絵本のイラストを手 掛け、カナダ総督文学賞児童書(絵)部門を受賞。これまでに同賞を3度受賞してい る。邦訳は本書のほか、『アンナとわたりどり』(マクシーン・トロティエ文/浜崎 絵梨訳)、近刊予定の『ジェーンとキツネとわたし』(ファニー・ブリット文/河野 万里子訳)がある(いずれも画家名表記はイザベル・アルスノー/西村書店)。 【訳】小島明子(こじま あきこ):本誌今月号「この人に聞きたい!」参照。 【参考】 ▼キョウ・マクレア公式ウェブサイト http://kyomaclearkids.com/ ▼イザベル・アーセノー公式ウェブサイト http://www.isabellearsenault.com/ (山本真奈美) |
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ●注目の本(邦訳読み物)●勇敢な人は、怖くても正しいことをする ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 『ぼくと象のものがたり』 リン・ケリー作/若林千鶴訳 鈴木出版 定価1,600円(本体) 2015.03 317ページ ISBN 978-4790233060 "Chained" by Lynne Kelly Farrar, Straus and Giroux, 2012 Amazonで詳細を見る hontoで詳細を見る Amazonで原書の詳細を見る インドのとある村に住む10歳の少年、ハスティン。貧しいながらも母と妹と仲良く 暮らしていた彼の生活は、妹が熱病にかかったことで一変する。治療費の借金のかた に働き始めた母を助けようと、進んでサーカスの象の世話係になったものの、待って いたのは無慈悲で過酷な現場だった。やがてハスティンは、自分が鎖につながれてい るも同然なことに気付く。そう、サーカスに捕らわれている子象と同じように……。 本作品に描かれているのは、インドでこの21世紀に起きている不法な児童労働の現 状だ。はじめは1年という雇用期間だったのに、やれペンキの缶を置き忘れただの、 わらを落としただのと、借金は雪だるま式に増えていき、いつ故郷に帰れるとも知れ ない。希望を持って刻み始めた壁の日付の印も、いつしか1日の終わりの儀式に過ぎ なくなる。つらい毎日の中、心のよりどころとなったのは、亡き父の教えと料理人ネ ミンの存在だった。象の世話に詳しく、なにかとハスティンに心配りをしてくれるネ ミンのおかげで、ハスティンは子象ナンディタと心を通わせていく。ナンディタを自 由にしてやりたいと願うハスティンにとって、いつのまにかナンディタは、自分以上 に大切な存在となっていた。ナンディタを見捨てて自分だけ逃げ出しても問題は解決 しないと苦悩するハスティン。そんな彼にネミンが言う。「怖いと思っても正しいこ とをする――それを勇敢という」果たしてハスティンは、勇敢な人になれるのか。 この作品が秀逸なのは、主人公の少年の心を鮮明に描き出しているだけではなく、 サーカスで働く大人たちがそれぞれ封印したい過去を持ち、それゆえ心の葛藤を抱え ている点にもスポットを当てているところだ。料理人ネミンと象の訓練士シャラッド、 それぞれが「象」に対して抱く思いにもぜひ注目しながら読んでほしい。 わたしが読了した日はちょうど、日本では「子どもの日」が祝われ、子どもたちの 明るい笑顔がニュースを彩っていた。しかし、世界では今日もどこかで、つらい労働 に歯を食いしばって耐えている小さな子どもたちがいる。豊かと言われている日本と て、子どもの貧困はひそかに広がっているという。すべての子どもたちが笑顔になれ る日が1日も早く訪れることを、祈らずにはいられない。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 【作】リン・ケリー(Lynne Kelly):1969年米国生まれ。スティーブン・F・オー スティン州立大学で心理学を学ぶ。手話通訳、特別支援教育の教師を経て、2012年本 作品で作家デビュー。本作品は、児童書の国際団体であるSCBWI主催のクリスタ ル・カイト賞、南アジア図書館賞オナーブックを受賞している。 【訳】若林千鶴(わかばやし ちづる):大阪府生まれ。大阪教育大学大学院修了。 公立中学校で国語科と図書館を担当しながら、翻訳家としても活躍。現在は翻訳に専 念している。著書に『学校図書館を子どもたちと楽しもう』(青弓社)、訳書に『ス ターリンの鼻が落っこちた』『アルカーディのゴール』(ともにユージン・イェルチ ン作・絵/岩波書店)などがある。 【参考】 ▼リン・ケリー公式ウェブサイト http://lynnekellybooks.com/wordpress/ (村上利佳) |
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ●賞速報● ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ★2015年オーストラリア児童図書賞候補作品発表 (受賞作品の発表は8月21日の予定) ★2015年MWA賞受賞作品発表 ★第62回産経児童出版文化賞発表 ★2014年度アガサ賞児童書およびヤングアダルト部門受賞作品発表 ★2015年ローカス賞YA部門最終候補作品発表 (受賞作品の発表は6月26〜28日の予定) ★2015年ブランフォード・ボウズ賞ショートリスト発表 (受賞作品の発表は7月9日の予定) ★2015年CBI最優秀児童図書賞発表 ★2015年ボストングローブ・ホーンブック賞発表 ★2014年度アンドレ・ノートン賞受賞作品発表 ★2015-2017子どものためのローリエット(Children's Laureate)発表 ★2015年ニュージーランド児童書及びヤングアダルト小説賞候補作品発表 ★2015年ミソピーイク賞児童書部門最終候補作品発表 (受賞作品の発表は8月1日の予定) 海外児童文学賞の書誌情報を随時掲載しています。「速報(海外児童文学賞)」を ご覧ください。 http://www.yamaneko.org/cgi-bin/sc-board/c-board.cgi?id=award |
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ●イベント速報● ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ★展示会情報 EXPO'70パビリオン「世界の国からこんにちは 70年万博と世界の絵本展」 安曇野ちひろ美術館「戦後70年特別企画展覧会」 など ★講演会情報 板橋区立美術館「2015イタリア・ボローニャ国際絵本原画展関連 夏の教室」 神奈川県立近代文学館「佐野洋子展 記念対談、記念講演会」 など 詳細やその他のイベント情報は、「速報(イベント情報)」をご覧ください。なお、 空席状況については各自ご確認願います。 http://www.yamaneko.org/cgi-bin/sc-board/c-board.cgi?id=event (笹山裕子/冬木恵子) |
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ●読者の広場● 海外児童文学や翻訳にまつわるお話をどうぞ! ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ このコーナーでは、本誌に対するご感想・ご質問をはじめ、海外児童書にまつわる お話、ご質問、ご意見等を募集しています。mgzn@yamaneko.org までお気軽にお寄せ ください。 ※メールはなるべく400字以内で、ペンネームをつけてお送りください。 ※タイトルには必ず「読者の広場」とお入れください。 ※掲載時には、趣旨を変えない範囲で文章を改変させていただく場合があります。 ※質問に対するお返事は、こちらに掲載させていただくことがあります。原則的に編 集部からメールでの回答はいたしませんので、ご了承ください。 |
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ●お知らせ● 本誌でご紹介した本を、各種のインターネット書店で簡単に参照していただけます。 こちらの「やまねこ翻訳クラブ オンライン書店」よりお入りください。 http://www.yamaneko.org/info/order.htm ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ・☆・〜 次 号 予 告 〜・☆・ 詳細は10日頃、出版翻訳ネットワーク内「やまねこ翻訳クラブ情報」のページに掲 載します。どうぞお楽しみに! http://litrans.g.hatena.ne.jp/yamaneko1/ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ▽▲▽▲▽ 海外児童書のシノプシス作成・書評執筆を承ります ▽▲▽▲▽ やまねこ翻訳クラブ(yagisan@yamaneko.org)までお気軽にご相談ください。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ☆☆ FOSSIL 〜 Made in USA のライフスタイルブランド ☆☆ 独創的なデザインで世界120ヶ国以上で愛用されているフォッシルはアメリカを代 表するライフスタイルブランドです。1984年、時計メーカーとして始まったフォッシ ルは時計をファッションアクセサリーのひとつと考え、カジュアルでポップなライン からフォーマルなシーンにも使えるアイテムまで、年間300種類以上のモデルを発売 し続けています。またフォッシル直営店では、時計以外にもレザーバッグ、革小物、 ファッションサングラスなどのラインを展開しています。 TEL 03-5992-4611 http://www.fossil.co.jp/ (株)フォッシルジャパン:やまねこ賞協賛会社 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ★☆ 出版翻訳ネットワークは出版翻訳のポータルサイトです ☆★ http://www.litrans.net/ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ★☆メールマガジン『海外ミステリ通信』 隔月15日発行☆★ http://honyakuwhod.blog.shinobi.jp/ 未訳書から邦訳新刊まで、あらゆる海外ミステリの情報を厳選して紹介。翻訳家や 編集者の方々へのインタビューもあります! 〈フーダニット翻訳倶楽部〉 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ *=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*= やまねこ翻訳クラブ広報ブログ =*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=* ★広報ブログ「やまねこ翻訳クラブ情報」(litrans グループ ブログ内) http://litrans.g.hatena.ne.jp/yamaneko1/ ※各掲示板の話題やクラブの動きなど、HOTな情報をご紹介しています。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ●編集後記●5月号をお休みして充電したあとの今月号では、会員の活躍ぶりにたっ ぷり刺激を受けながらの編集作業となりました。「賞速報」には、この2か月の間に 発表された各国の児童文学賞がずらりと並びました。来週はいよいよカーネギー賞と ケイト・グリーナウェイ賞の受賞作品発表。注目です!(お) ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 発 行 やまねこ翻訳クラブ 編集人 大作道子/蒲池由佳(やまねこ翻訳クラブ スタッフ) 企 画 赤塚きょう子 尾被ほっぽ 岡田衣央 加賀田睦美 かまだゆうこ くどうあきこ 小島明子 笹山裕子 冬木恵子 増山麻美 三好美香 村上利佳 森井理沙 安田冬子 山本真奈美 横山和江 協 力 出版翻訳ネットワーク 管理人 小野仙内 くらら ながさわくにお ゆま html版担当 ぐりぐら ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ・このメールマガジンは、「まぐまぐ」( http://www.mag2.com/ )を利用して配信 しています。購読のお申し込み、解除もこちらからどうぞ。 ・バックナンバーは、http://www.yamaneko.org/mgzn/ でご覧いただけます。 ・ご意見・ご感想は mgzn@yamaneko.org までお気軽にお寄せください。 ・無断転載を禁じます。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ |
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