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●賞情報●2014年カーネギー賞、ケイト・グリーナウェイ賞ショートリスト発表
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3月18日、カーネギー賞およびケイト・グリーナウェイ賞のショートリスト(最終
候補作品)が発表された。英国図書館・情報専門家協会(CILIP: The Chartered
Institute of Library and Information Professionals)が主催するこの賞は、イギ
リスで最も権威ある児童文学賞である。昨年11月5日にノミネート作品リスト(カー
ネギー賞76作品、ケイト・グリーナウェイ賞61作品)が、続いて今年2月4日にそれ
ぞれ20作品のロングリストが発表されている。受賞作品の発表と授賞式は6月23日。
本号では、ショートリストに選ばれた作品をご紹介する。ロングリストは、やまね
こ翻訳クラブウェブサイトの「速報(海外児童文学賞)」コーナーに掲載中。
http://www.yamaneko.org/cgi-bin/sc-board/c-board.cgi?cmd=tre;id=award#atop
▼カーネギー賞、ケイト・グリーナウェイ賞公式ウェブサイト
http://www.carnegiegreenaway.org.uk/home/
▽カーネギー賞、ケイト・グリーナウェイ賞について
(本誌1999年7月号情報編「世界の児童文学賞」)
http://www.yamaneko.org/mgzn/dtp/1999/07a.htm#a1bungaku
※2002年より、賞の名称が The CILIP Carnegie and Kate Greenaway Medals に、ま
た賞の主催が、英国図書館・情報専門家協会(CILIP: The Chartered Institute of
Library and Information Professionals)に変更されました。
▽カーネギー賞、ケイト・グリーナウェイ賞受賞作品リスト
(やまねこ翻訳クラブ資料室)
http://www.yamaneko.org/bookdb/award/uk/carnegie/index.htm
http://www.yamaneko.org/bookdb/award/uk/greenawy/index.htm
【カーネギー賞ショートリスト】
〜 The CILIP Carnegie Medal 2014 Shortlist 〜(作家対象)
"All the Truth That's in Me" by Julie Berry (Templar)
"The Bunker Diary" by Kevin Brooks (Puffin)
"The Child's Elephant" by Rachel Campbell-Johnston
(David Fickling Books)
"Ghost Hawk" by Susan Cooper (Bodley Head)
"Blood Family" by Anne Fine (Doubleday)
"Rooftoppers" by Katherine Rundell (Faber & Faber)
"Liar & Spy" by Rebecca Stead (Andersen Press)
"The Wall" by William Sutcliffe (Bloomsbury)
本年は、20作品のロングリストの中から8作品がショートリストに残った。大ベテ
ランから新人まで幅広い層の作家が挙がり、虐待や民族対立などシリアスなテーマを
扱った作品が目立つラインアップとなっている。
米国の作家 Julie Berry による "All the Truth That's in Me" は、アーサー・
ミラーの『るつぼ』やナサニエル・ホーソーンの『緋文字』を彷彿とさせるヒストリ
カルミステリー。猟奇的な犯罪に巻き込まれ舌を切られた Judith は、周囲の人々か
ら疎まれ孤独な生活を送っていたが、ある事件をきっかけに、失った声を取り戻そう
と決意する。18歳の Judith が恋する相手に向けた二人称の語りが、詩的で忘れがた
い印象を残す。
カーネギー賞ノミネート常連の Kevin Brooks による "The Bunker Diary" は、日
記形式のミステリー作品だ。16歳の少年 Linus は突然誘拐され、地下室に監禁され
る。その後、さらなる5人の被害者――女子児童、薬物依存症のホームレス、経営コ
ンサルタント、不動産業者、哲学者――が同様に閉じ込められるが、犯人の目的は不
明瞭だ。密室での恐怖を描いたダークな展開が読者の心をかき乱す問題作。
Rachel Campbell-Johnston のデビュー作 "The Child's Elephant" は、アフリカ
のサバンナが舞台。牛飼いの少年 Bat は、密猟でみなしごとなった子象を育てあげ、
群れに返す。そんなある日、Bat の運命が急転する。誘拐され、少年兵とされてしま
ったのだ。密猟や内戦というアフリカの厳しい現実を扱いながらも、美しい自然描写
や少年と象の絆が読者の心を打つ感動作である。
ハイファンタジーの名手 Susan Cooper の "Ghost Hawk" はアメリカの植民地時代
を舞台とし、先住民の少年 Little Hawk と英国人の見習い職人 John Wakeley を主
人公に、2つの異なる視点で物語を紡ぐ。運命がからみあう2人の少年の成長と友情
を大胆な構成で描いた本作は、先住民迫害の歴史と寛容な精神の大切さを考えさせる
内容となっている。
"Blood Family" の作者は、"Goggle-Eyes"(『ぎょろ目のジェラルド』岡本浜江訳
/講談社)、"Flour Babies"(『フラワー・ベイビー』墨川博子訳/評論社)に続く
史上初3度目の受賞が期待される Anne Fine。母親のボーイフレンド Harris の暴力
におびえ、ネグレクトされて育った Edward は、7歳で保護され、理解ある家庭の養
子となる。だが思春期を迎えた Edward は、自分がおぞましい Harris の血を受け継
いでいることを知って苦しみ、酒とドラッグに手をそめるのだった。困難な状況にあ
る子どもへの作者の愛情と信頼が、重いテーマに救いと希望を与える。
Katherine Rundell の "Rooftoppers" は、19世紀後半を舞台とした物語。船の難
破に遭った赤ん坊は、助けてくれた学者の Charles に引き取られ、Sophie と名付け
られてロンドンでのびやかに成長した。だが、独身男性と12歳の少女がともに暮らす
ことはよしとされず、Sophie は孤児院に入れられそうになる。そこで2人はパリに
逃げ、Sophie の母親探しを始める。Sophie を手助けしてくれるのは、屋根の上で暮
らす少年たち。パリの街で繰り広げられる冒険がおとぎ話のような輝きを放つ、温か
い作品である。
"Liar & Spy" は、"When You Reach Me"(『きみに出会うとき』ないとうふみこ訳
/東京創元社)でニューベリー賞を受賞した Rebecca Stead の第3作。父親が失業
し、ブルックリンのアパートに越してきた7年生の Georges は、スパイクラブを主
宰する少年 Safer に出会い、スパイ見習いとしてアパートの住人 Mr. X をスパイす
ることになる。鮮やかな謎解きと魅力的な登場人物たちがさわやかな読後感を残す。
2013年ガーディアン賞を受賞。詳しくは、本誌2013年11月号のレビューを参照いただ
きたい。
ユダヤ系作家 William Sutcliffe の "The Wall" は、ヨルダン川西岸にそびえる
コンクリートの壁に着想を得たフィクション。主人公 Joshua は壁の向こうには敵が
いると教えられてきたが、13歳のある日、トンネルを発見し壁の向こう側に出た。そ
こで少年たちの一団に襲われたところを、少女 Leila に助けられる。だが、ふたり
の出会いは恐ろしい悲劇へとつながっていく――。パレスチナでの取材をもとに、人
と人とを分断する「壁」を普遍的テーマとして真っ向から描いた作品だ。
【参考】
▼Julie Berry 公式ウェブサイト
http://www.julieberrybooks.com/
▼"All the Truth That's in Me" 作品公式ウェブサイト
http://allthetruththatsinme.com/
▼Kevin Brooks 紹介ページ(Penguin ウェブサイト内)
http://www.penguin.co.uk/nf/Author/AuthorPage/0%2c%2c1000071404%2c00.html
▼Rachel Campbell-Johnston 公式ウェブサイト
http://rachelcampbelljohnston.com/
▼Susan Cooper 公式ウェブサイト
http://www.thelostland.com/
▼Anne Fine 公式ウェブサイト
http://www.annefine.co.uk/
▼Katherine Rundell 紹介ページ(Faber and Faber ウェブサイト内)
http://www.faber.co.uk/catalog/author/katherine-rundell
▼Rebecca Stead 公式ウェブサイト
http://www.rebeccasteadbooks.com/
▼William Sutcliffe 紹介ページ(The Guardian ウェブサイト内)
http://www.theguardian.com/profile/william-sutcliffe
▽ケヴィン・ブルックス作品リスト(やまねこ翻訳クラブ資料室)
http://www.yamaneko.org/bookdb/author/b/kbrooks
▽スーザン・クーパー作品リスト(やまねこ翻訳クラブ資料室)
http://www.yamaneko.org/bookdb/author/c/scooper.htm
▽アン・ファイン作品リスト(やまねこ翻訳クラブ資料室)
http://www.yamaneko.org/bookdb/author/f/afine.htm
▽"Liar & Spy" レビュー(本誌2013年11月号「注目の本」)
http://www.yamaneko.org/mgzn/dtp/2013/11.htm#myomi
(小島明子)
【ケイト・グリーナウェイ賞ショートリスト】
〜 The CILIP Kate Greenaway Medal 2014 Shortlist 〜(画家対象)
"The Paper Dolls" by Rebecca Cobb, text by Julia Donaldson
(Macmillan Children's Books)
"Where My Wellies Take Me" by Olivia Lomenech Gill,
text by Clare Morpurgo & Michael Morpurgo
(Templar)
"The Day the Crayons Quit" by Oliver Jeffers, text by Drew Daywalt
(HarperCollins Children's Books)
"This Is Not My Hat" by Jon Klassen (Walker Books)
"The Dark" by Jon Klassen,
text by Lemony Snicket (Orchard Books)
"Mouse Bird Snake Wolf" by Dave McKean,
text by David Almond (Walker Books)
"Oliver" by Birgitta Sif (Walker Books)
2014年ケイト・グリーナウェイ賞ショートリストは、常連が並ぶ一方で、ニューフ
ェイスも登場し、にぎやかな顔ぶれとなった。
昨年に続きショートリストに残った Rebecca Cobb。Julia Donaldson が書いた
"The Paper Dolls" では、切り紙で作られた5人の紙人形と女の子が一緒に遊ぶ空想
の世界を描いている。子ども部屋から始まる冒険の旅で、紙人形は恐竜やワニと出合
い、草原のかくれんぼの途中で姿を変える。紙の持つ特性が随所に盛り込まれ、紙人
形の愛らしい表情が心に残る作品だ。
"Where My Wellies Take Me" は、Michael Morpurgo が妻の Clare の草案に賛同
し、英国を代表する詩人たちの詩を選び、それを載せた作品を共著で創り上げた。絵
を担当した Olivia Lomenech Gill は、デビュー作の本書でショートリストに選ばれ
た。少女 Pippa が Peggy おばさんの家を訪れ、散歩に出かけた田園地帯や、空に舞
う鳥や野に咲く花々を秀逸なデッサン力で描き、まるでスケッチブックにしたような
美しい絵に仕上げている。添えられた詩は Pippa の心模様を代弁しているかのよう
だ。選ばれた詩は、子どもたちに優れた言葉を贈りたいという Morpurgo 夫妻の思い
を伝え、描かれた田園風景は、Clare が幼少期を過ごしたイングランド南西部のデヴ
ォン州への郷愁を表わしている。
Oliver Jeffers は、デビュー以来昨年までに5作品がショートリストに残り、
2013年の同賞ロングリストには3作品が選ばれた実績を持ち、作家としても画家とし
ても、子ども心をくすぐる作品を多く発表している。今回イラストを担当した "The
Day the Crayons Quit" は、クレヨンを題材に、まるで自分が描いているような気に
させる楽しい作品だ。どの色にも大切な役割があり、誰もが主人公だよというメッセ
ージが伝わってくるようだ。
カナダ出身で米国在住の Jon Klassen は、長編アニメ映画や社説のイラストも手
がけるなど、幅広く活躍する作家であり画家でもある。2年連続でショートリストに
残り、今回は2作品が選ばれた。"This Is Not My Hat"(『ちがうねん』長谷川義史
訳/クレヨンハウス)では、墨を流したかのような漆黒の海を舞台に、大きな魚と、
その魚の帽子を盗って逃げる小さな魚を描いた。絵の力もさることながら、言葉の魅
力が満載。当クラブ主催の2013年やまねこ賞絵本部門の大賞にも輝いた作品だ。絵を
担当した "The Dark"(『くらやみこわいよ』レモニー・スニケット文/蜂飼耳訳/
岩崎書店)では、家の中にある暗闇を描いた。その対比にある明るい光が印象的。大
人も子どもも暗闇は怖い。そんな気持ちを知っているからこそ、ほのかな光がとても
温かく感じられる作品だ。
"Mouse Bird Snake Wolf" は、神の創造物である人間が神の領域に踏み込む愚かさ
と、神々の偉大さに焦点を当てた作品だ。David Almond が作った物語のイメージを、
画力も感性にも定評のある Dave McKeanが、繊細かつ大胆な構図と深みのある色使い
で鮮明に伝えている。世界に必要なものを創り上げ、雲の上で悠々と休む神々。ある
時、人間の子どもたち3人はそれぞれネズミ、鳥、蛇を創り出した。それが危険な力
と知りながら、年長の2人は自分たちの手には負えないものを創り出してしまった。
赤い眼を見開き、地の底から響くようなオオカミの遠吠え。全てを掌握しているかの
ごとく穏やかな神々。荘厳な雰囲気をまとった作品は、現代が抱えるさまざまな問題
への警鐘を鳴らすかのようだ。
Birgitta Sif は、アイスランドで生まれ、現在スウェーデン在住。ニューヨーク
でデザイナーの仕事を経て、英国のケンブリッジ・スクール・オブ・アートで児童書
のイラストを学んだ。デビュー作 "Oliver" でショートリストに選ばれた。鉛筆の柔
らかく温もりのある線で描かれた絵が、想像の世界に浸る主人公の心模様を鮮明に描
き出している。一人遊びが大好きで、友達はぬいぐるみで十分だと思っていた
Oliver はある日、心を通わす友達に出会い、外遊びの楽しさを知る。一人も大事。
一緒も大事。子どもの心を丁寧にすくい取った作品だ。
今回、ショートリストに残った作品について知れば知るほどにその魅力のとりこに
なった。作家の思いを余すことなく伝える力を持った絵や、文と絵が相乗作用の力を
生み出す作品が並び、どの作品が選ばれても不思議はない。発表がとても楽しみだ。
【参考】
▼Rebecca Cobb 公式ウェブサイト
http://www.rebeccacobb.co.uk/
▼Olivia Lomenech Gill 公式ウェブサイト
http://www.oliviagill.com/
▼Oliver Jeffers 公式ウェブサイト
http://www.oliverjeffers.com/
▼Jon Klassen 公式タンブラー
http://www.jonklassen.tumblr.com/
▼Jon Klassen 紹介ページ(Walker Books ウェブサイト内)
http://www.walker.co.uk/contributors/Jon-Klassen-9349.aspx
▼Dave McKean 公式ウェブサイト
http://www.davemckean.com/
▼Dave McKean 紹介ページ(Walker Books ウェブサイト内)
http://www.walker.co.uk/contributors/Dave-McKean-7584.aspx
▼Birgitta Sif 公式ウェブサイト
http://www.birgittasif.com/
▼"Oliver" 紹介動画(YouTube 内 Walker Books のチャンネル)
http://www.youtube.com/watch?v=zHM1newwS98
▽オリヴァー・ジェファーズ作品リスト(やまねこ翻訳クラブ資料室)
http://www.yamaneko.org/bookdb/author/j/ojeffers.htm
▽ジョン・クラッセン作品リスト(やまねこ翻訳クラブ資料室)
http://www.yamaneko.org/bookdb/author/k/jklassen.htm
▽『ちがうねん』("This Is Not My Hat")レビュー
(本誌2013年12月号「注目の本」)
http://www.yamaneko.org/mgzn/dtp/2013/12.htm#hehon
(三好美香) |