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2022年10月号
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  =====★   月 刊  児 童 文 学 翻 訳   ★=====
   =====☆   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  ☆=====
                                No.216
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児童文学翻訳学習者による、児童文学翻訳学習者のための、電子メール版情報誌
http://www.yamaneko.org                         
編集部:mgzn@yamaneko.org     2022年10月15日発行 配信数 2520 無料
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●2022年10月号もくじ●
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◎賞情報:速報! 2022年全米図書賞児童書部門 ファイナリスト発表!
◎訳者が語る! 注目の本(邦訳絵本):『きょうはふっくら にくまんのひ』
                     メリッサ・イワイ文・絵/横山和江訳
◎mikiron の親ばか絵本日誌:第11回 『だれがいちばん? がんばれ、ヘルマン!』
◎賞速報
◎イベント速報
◎お菓子の旅:第78回 トラにはこれでじゅうぶん 〜おもち〜

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●賞情報●速報! 2022年全米図書賞児童書部門 ファイナリスト発表!
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 10月4日、2022年全米図書賞(National Book Awards)のファイナリスト(最終候
補作品)が発表された。
 アメリカ人作家による優れた文学作品の普及と読書人口の増加を目的として1950年
に創設された本賞は、1989年から全米図書財団(The National Book Foundation)が
主催している。対象部門は時とともに変遷し、2018年から、フィクション、ノンフィ
クション、詩、児童書、翻訳作品の5部門となった。前年12月1日から当年11月末日
までにアメリカで出版された(または出版される)作品を対象に、文学的価値を重視
して選考される。児童書部門は1969年に設けられ、1984年にいったん廃止されたが、
1996年に復活した。以来、ジャンルを問わずもっとも優れた児童書に贈られている。
 今年は9月14日から16日にかけて各部門のロングリスト10作品が発表され、その中
から各5作品がファイナリストに選ばれた。受賞作品の発表は、11月16日の予定。
 本号では、児童書部門(Young People's Literature)のファイナリストおよびロ
ングリストに選ばれた作品をご紹介する。

▼2022年全米図書賞発表ページ(National Book Foundation ウェブサイト内)
https://www.nationalbook.org/awards-prizes/national-book-awards-2022/

▼上記ウェブサイト内、児童書部門発表ページ
https://www.nationalbook.org/awards-prizes/national-book-awards-2022/?cat=ypl

▽全米図書賞(児童書部門)受賞作品リスト(やまねこ翻訳クラブ資料室)
http://www.yamaneko.org/bookdb/award/us/nba/index.htm

(※邦訳がある作家、画家については初出の際に片仮名表記を併記しています)

★Finalists(5作)

"The Ogress and the Orphans"
 by Kelly Barnhill (Algonquin Young Readers)
"The Lesbiana's Guide to Catholic School"
 by Sonora Reyes (Balzer + Bray)
"Victory. Stand!: Raising My Fist For Justice"
 by Tommie Smith, Derrick Barnes, and Dawud Anyabwile (Norton Young Readers)
"All My Rage"
 by Sabaa Tahir (Razorbill)
"Maizy Chen's Last Chance"
 by Lisa Yee (Random House Books for Young Readers)

 "The Ogress and the Orphans" は、心優しいオーグリス(女の巨人)と孤児たち
が登場するファンタジー小説。Stone-in-the-Glen はかつて美しい町だったが、次々
に起こる災害で破壊され、人々はお互いを信じる心まで失っていた。ひとりの孤児が
行方不明になったとき、町の人々はオーグリスに疑いの目を向ける。賢い孤児たちは、
そんなはずはないと訴えるが、だれも耳を貸してくれない。町の人々は、本当の善と
悪に気づき、美しい町を取り戻せるのか? 作者の Kelly Barnhill(ケリー・バー
ンヒル)は、"The Girl Who Drank the Moon"(『月の光を飲んだ少女』佐藤見果夢
訳/評論社)で2017年にニューベリー賞を受賞した。

 "The Lesbiana's Guide to Catholic School" は、裕福な白人ばかりのカトリック
校に転校してきた16歳のメキシコ系アメリカ人の Yami が、レズビアンとしての自分
を押し殺し、ストレートとして生きていこうと葛藤する物語。転校前に、好きだった
親友にレズビアンであることがばれてしまってから、Yami はもう恋はしないと心に
誓っていた。しかし、学校で唯一クィア(LGBT以外の性的マイノリティー、また
は性的マイノリティーの総称)を公表している魅力的な Bo に、次第に心惹かれてい
く。作者の Sonora Reyes は移民2世のクィアで、本書がデビュー作。

 "Victory. Stand!: Raising My Fist For Justice" は、1968年10月16日、メキシ
コシティオリンピックで人種差別への抗議を示した Tommie Smith の半生を描いたグ
ラフィックノベルだ。200メートル走で金メダルを獲得した Smith は、銅メダルを獲
った John Carlos とともに、表彰台で黒い手袋をはめた拳を掲げ、アフリカ系アメ
リカ人に対する人種差別に抗議した。小作農家に生まれ、家の手伝いで学校にもろく
に通えなかった幼少期や、陸上競技との出合いといった生い立ちも明かされる。文は
Smith と、2018年にニューベリー賞オナー(次点)に選ばれた Derrick Barnes との
共著で、大胆で力強いイラストはイラストレーター Dawud Anyabwile による。

 "All My Rage" は、パキスタン系アメリカ人の少年 Sal と、母親の Misbah、幼な
じみの少女 Noor がそれぞれ一人称で語る、怒りと許しをテーマにした小説。Sal の
両親はある悲劇をきっかけにパキスタンから渡米し、カリフォルニアの小さな町でモ
ーテルを開く。Sal はこの町で疎外感を抱きながら育つが、親友以上の存在である
Noor がいつもそばにいてくれた。母は病気を患い、父はアルコール依存症という状
況で、Sal はなんとかモーテルを立て直そうと奮闘するが、Noor は内緒で大学進学
を決めてしまい……。作者の Sabaa Tahir(サバア・タヒア)は、本書で2022年ボス
トングローブ・ホーンブック賞フィクションと詩部門を受賞した。邦訳にファンタジ
ー小説『仮面の帝国守護者(上・下)』(原島文世訳/早川書房)がある。

 "Maizy Chen's Last Chance" は、中国系アメリカ人の少女が自分のルーツを解き
明かしていく物語だ。Maizy は祖父の病気をきっかけに、ミネソタ州の Last Chance
という町に初めてやってきた。他にアジア系の住民は皆無のこの場所で、Maizy の一
族は「ゴールデンパレス」というレストランを代々経営していた。レストランを手伝
ううちに、Maizy は一族の抱える秘密に気づきはじめる。作中、高祖父たち中国系移
民が差別を受けて苦労した歴史が入れ子構造で展開され、謎が少しずつ明らかになっ
ていく。作者の Lisa Yee は中国系アメリカ人3世で、これまで20冊以上の児童書を
出版している。

★Longlist(5作)

"The Life and Crimes of Hoodie Rosen"
 by Isaac Blum (Philomel Books)
"A Thousand Steps into Night"
 by Traci Chee (Clarion Books)
"Swim Team"
 by Johnnie Christmas (HarperAlley)
"Self-Made Boys: A Great Gatsby Remix"
 by Anna-Marie McLemore (Feiwel & Friends)
"Lotus Bloom and the Afro Revolution"
 by Sherri Winston (Bloomsbury Children's Books)

 "The Life and Crimes of Hoodie Rosen" は、信仰のことで揺れ動く現代の若者の
心情や、異文化間の理解をテーマにしたYA作品。15歳の少年、Hoodie たち超正統
派ユダヤ教徒コミュニティは、生活費の安い環境を求め、非ユダヤ教徒ばかりの静か
な町に引っ越してきた。町の人々は、ユダヤ教徒が一度にたくさん流入してきたこと
を快く思っていない。それでも Hoodie はこれまでどおり気楽に過ごしていたが、ユ
ダヤ教徒を町から締め出そうとしている町長の娘に恋をしてしまい、初恋の相手と自
分の知る唯一の世界の間で板挟みになっていく。作者の Isaac Blum は本書がデビュ
ー作で、大学などで英語を教えている。

 "A Thousand Steps into Night" は、日本の民話に着想を得て書かれた冒険ファン
タジー。Miuko は、神と怪物と人間が共存する Awara という国で平凡に暮らしてい
たが、ある日、呪いで魔物に変えられてしまう。元の暮らしを取り戻すため旅に出た
Miuko だったが、さまざまな試練をくぐりぬけるうち、かつてない自由を感じはじめ
る。女性にとって抑圧的な Awara での暮らしに、本当に戻る価値があるのか――。
作者の Traci Chee は日系4世のアメリカ人YA作家で、主な著作にニューヨークタ
イムズのベストセラーとなった "The Reader" 3部作や、2020年に全米図書賞児童書
部門のファイナリストに選ばれた "We Are Not Free" などがある。

 "Swim Team" は、泳げなかったアフリカ系アメリカ人の少女が、学校の水泳選手と
なって奮闘するグラフィックノベル。フロリダの中学校に転校してきた Bree は、希
望しない水泳の授業をとることになってしまった。弱っていたところ、同じアパート
に住む Etta さんが、その昔、同じ学校の水泳選手だったと知り、頼みこんで泳ぎを
教えてもらう。特訓で泳げるようになった Bree は、水泳チームに入るよう勧められ、
学校のプールの存続をかけて州大会出場を目指すことに。選手たちはぶつかりあいな
がらも徐々に団結し、周りの期待を背負って強力なライバル校に挑む。作者の
Johnnie Christmas は、グラフィックノベル作家で、"Tartarus" など、SFシリー
ズ作品を多く手がけている。

 "Self-Made Boys: A Great Gatsby Remix" は、F・スコット・フィッツジェラル
ドによる『グレート・ギャツビー』の主要人物をラテン系に置きかえた翻案作品。
1922年、ニューヨークに出てきたトランスジェンダーの若者 Nick は、いとこの
Daisy から家を借りる。隣の豪邸に住む Jay Gatsby と知り合いになった Nick は、
Jay もトランスジェンダーであることを知り、彼の奔放で理想を貫く生き方に惹かれ
ていく。Jay に、彼のかつての恋人であった Daisy との復縁を手伝ってくれるよう
頼まれる Nick だったが……。作者の Anna-Marie McLemore は、メキシコ系アメリ
カ人のYA作家で、全米図書賞児童書部門ロングリスト入りは今回で3度目となる。

 "Lotus Bloom and the Afro Revolution" は、人種差別的な校則との闘いを描いた、
実話をモデルにした作品だ。Lotus はバイオリンの才能があり、芸術系の学校に入学
できることになった。しかし、嫉妬した他の生徒からいやがらせを受け、保護者から
もアフロヘアが校則違反だと指摘されて、退学の危機に陥る。親友は抗議活動をする
べきだと言うが、平和主義の Lotus は気がすすまない。アフリカ系アメリカ人の生
徒に対する不公平な扱いに、Lotus は立ち向かうことができるのか? 作者の
Sherri Winston は、"President of the Whole Fifth Grade"(President シリーズ)
など、中学年向け読みものを多く発表している。

《参考》
▼Kelly Barnhill 公式ウェブサイト
https://kellybarnhill.com/

▼Sonora Reyes 公式ウェブサイト
https://www.sonorareyes.com/

▼Tommie Smith 公式ウェブサイト
https://tommiesmith.com/

▼Derrick Barnes 公式ウェブサイト
https://derrickdbarnes.com/

▼Dawud Anyabwile 公式ウェブサイト
https://www.anyabwile.com/

▼Sabaa Tahir 公式ウェブサイト
https://sabaatahir.com/

▼Lisa Yee 公式ウェブサイト
http://www.lisayee.com/

▼Isaac Blum 公式ウェブサイト
https://www.isaacblumauthor.com/

▼Traci Chee 公式ウェブサイト
http://www.tracichee.com/

▼Johnnie Christmas 公式ウェブサイト
http://johnniechristmas.com/

▼Anna-Marie McLemore 公式ウェブサイト
http://author.annamariemclemore.com/

▼Sherri Winston 公式ウェブサイト
https://voteforcupcakes.com/

                                (平尾陽子)

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●訳者が語る! 注目の本(邦訳絵本)●『きょうはふっくら にくまんのひ』
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 本コーナーでは、やまねこ翻訳クラブ会員である訳者本人が、訳した作品の魅力や
翻訳にまつわるエピソードを語ります。
 今回の執筆者は横山和江さん。取り上げるのは、刊行されたばかりの、「できたて
ほやほや」の作品です。

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『きょうはふっくら にくまんのひ』 メリッサ・イワイ文・絵/横山和江訳
偕成社 定価1,500円(本体) 2022.10 41ページ ISBN 978-4033486000
"Dumplings for Lili" by Melissa Iwai
W. W. Norton & Company, 2021
Amazonで検索する:書名と作者名
Amazonで検索する:ISBN

 ある日、いつものようにツイッターを眺めていると、とてもかわいらしい表紙が目
にとまりました。女の子がせいろのふたをあけていて、肉まんらしきものが見え、テ
ーブルにもおいしそうな料理がならんでいます。ゆげがほんわかわきあがり、できた
てほやほやなのが伝わってきます。調べてみると、表紙のリリは中国系の女の子で、
世界のダンプリング(小麦粉を練って作った生地に具をいれた料理)が登場する、6
階建てアパートを舞台にしたお話だとわかりました。
 アパートの1階に住むおばあちゃんのナイナイといっしょに、リリが肉まんを作っ
ていると、必要な材料がひとつ足りません。そこでリリは、6階に住むポーランド系
のバブシアへ借りに行きます(エレベーターが故障中のため移動はすべて階段で!)。
するとバブシアにも料理の材料に足りないものがあり、リリはバブシアに頼まれ2階
に住むジャマイカ系のグランマのところへ行き……リリが食材を借りたり届けたりす
るたびに、どの家でも温かく迎えられ、住人のだれもがほかの住人のために材料をわ
けてあげます。
 本書の一番の特徴は、「幸せ」という言葉が一度も出てこないのに、読むうちに幸
せな気持ちに包まれること。訳出作業をしながら、こんなアパートがあったら住みた
い……と心から思いました。おばあちゃんたちのダンプリング作りから幸せが伝わっ
てくるうえに、みんなの料理が完成したときに、最高のダンプリングに出会えます!
 ピエロギやファティール、タマレスなど日本になじみのない料理も出てくるため、
ダンプリングの説明と世界地図、それぞれの国のおばあちゃんたちの呼び名や、おば
あちゃんたちが話す「たいへん!」を意味する言葉について説明する訳者あとがきを
つけました。邦訳の発売日である9月26日は偶然にも National Dumpling Day(アメ
リカのダンプリングの日)。ナイナイ直伝の肉まんはもちろん、さまざまなダンプリ
ングをきっと食べたくなるでしょう。

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【文・絵】メリッサ・イワイ(Melissa Iwai):米国の絵本作家。文と絵の両方を手
がけた自作の絵本 "Soup Day" "Pizza Day" のほか、これまで30作以上の作品に絵を
描いてきたが、邦訳が出るのは初めて。本作は米国児童図書作家・画家協会(SCB
WI)が選ぶ2022年クリスタルカイト賞を受賞。絵は手描きとデジタルを組みあわせ
て仕上げている。家族と柴犬のニッキとともにニューヨーク市ブルックリン在住。

【訳】横山和江(よこやま かずえ):子どもの本の英日翻訳者。訳書は『目で見る
ことばで話をさせて』(アン・クレア・レゾット作/岩波書店)、『地球のことをお
しえてあげる』(ソフィー・ブラッコール文・絵/鈴木出版)、『ジュリアンはマー
メイド』(ジェシカ・ラブ文・絵/サウザンブックス社)など。やまねこ翻訳クラブ
会員。JBBY会員。

【参考】
▼メリッサ・イワイ公式ウェブサイト
https://www.melissaiwai.com/

▽横山和江訳書リスト(やまねこ翻訳クラブ資料室)
http://www.yamaneko.org/bookdb/int/ls/kyokoyam.htm

                                (横山和江)

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●mikiron の親ばか絵本日誌●第11回 『だれがいちばん? がんばれ、ヘルマン!』
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 本コーナーでは、わたくし mikiron が親ばかを承知のうえで、6歳の息子「青
(しょう)ちゃん」との日常を記しつつ、お気に入りの絵本をご紹介していきます。
どうぞおつきあいくださいませ。

 幼稚園最後の運動会が近づいてきました。今年は年長さんということで、ダンスや
かけっこが中心だった去年までと比べ、リレーやパラバルーンなど難しそうなプログ
ラムが組まれている模様。のんびり屋で話を聞いていないことの多い青ちゃんが練習
についていけるか心配していたところ、幼稚園でのふだんのようすを見学させてもら
う機会がありました。要領のいい子に比べればワンテンポ遅れてはいるものの、先生
の話にきちんと耳を傾け、焦ることなくひとつひとつ取り組む姿に成長を感じました。
工作の時間には、手を動かしながら(ときには手をとめてしまいましたが)お友だち
と談笑するようすが微笑ましかったです。わたしの心配は、取り越し苦労なのかもし
れません。運動会当日、どうか晴れますように……。
 そんななか、オランダの絵本『だれがいちばん? がんばれ、ヘルマン!』(イヴ
ォンヌ・ヤハテンベルフ文・絵/野坂悦子訳/講談社)をいっしょに読みました。主
人公は黒いぶたのヘルマン。泥のおふろが大好きで、一日じゅうのんびり、ばちゃば
ちゃしています。誰かと比べなくたって、いつだってヘルマンがいちばん。なのにめ
んどりたちときたら、卵をうむ順番やかけっこの速さを競って大さわぎ。おんどりも、
朝いちばんに起きる自分は最高、といばっています。うんざりしたヘルマンは、「い
ちばん さいこう」なのは自分だと示そうと、走りだしました。めんどりたちも加わ
って、競走のはじまりです……。
 ヘルマンやにわとりたちのユーモラスな表情が、力強い線と鮮やかな色でいきいき
と描かれ、読みながらヘルマンといっしょに走っているかのような気分になりました。
青ちゃんは、黒くてどろんこなぶたが出てくるだけでじゅうぶん面白いらしく、最初
のページからくすくす笑っていましたが、動物たちが「がんばれ ヘルマン!」と応
援する場面も気に入ったようです。勝っても負けても、速くても遅くても、ありのま
まの自分がいちばん。そんなメッセージに、わたしも肩の力が抜けました。この絵本
がうまれたオランダは、世界一子どもが幸せな国と言われているそうです。ひとりひ
とりの個性を尊重し、見守る姿勢があるからでしょう。自分はそのままで最高なんだ、
と心から思えることこそが、かけがえのない宝物。成長とともに、誰かと比べられる
機会も増えますが、マイペースを貫き通してほしいものです。その姿を、わたしは応
援しつづけるつもりです。「がんばれ、青ちゃん!」と。

【参考】
▽本誌バックナンバー「親ばか絵本日誌」コーナー
http://www.yamaneko.org/mgzn/corner/oyabaka.htm
『だれがいちばん? がんばれ、ヘルマン!』を Amazonで検索する:書名と作者名                                 (山本みき)

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●賞速報━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

★2022年チルドレンズ・ブック賞発表

 海外児童文学賞の書誌情報を随時掲載しています。「速報(海外児童文学賞)」を
ご覧ください。
http://www.yamaneko.org/cgi-bin/sc-board/c-board.cgi?id=award

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●イベント速報━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

★展示会情報
 長岡市栃尾美術館「とべ!とべ!ぺんぎんたち 齋藤槙えほん展」
 小さな絵本美術館カフェ・響き館「『海のアトリエ』絵本原画&パネル展」 など

★講座・講演会情報
 国立国会図書館国際子ども図書館(動画配信)
   「スペインと中南米の子どもの本―この100年の変遷と今―」
 北鎌倉 葉祥明美術館
   「絵本原画展『おばあちゃん だいすき』トーク&サイン会」 など

 新型コロナウイルス感染拡大の影響で、イベントは中止や延期になる場合がありま
す。最新の開催情報は「児童書関連イベント情報掲示板」掲載の各参考ウェブサイト
でご確認ください。
http://www.yamaneko.org/cgi-bin/sc-board/c-board.cgi?id=event

 ツイッターアカウントでも最新情報を提供していますので、どうぞご注目ください。
▽やまねこ翻訳クラブ*イベント情報 Twitter
https://twitter.com/YamanekoEvent

                          (山本真奈美/冬木恵子)

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●お菓子の旅●第78回 トラにはこれでじゅうぶん 〜おもち〜
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I Google a recipe on my phone, and we start throwing stuff together--mochi
flour and brown sugar and coconut milk.

               "When You Trap a Tiger" by Tae Keller
                    Random House Children's Books (2020)
               『トラからぬすんだ物語』
               テェ・ケラー作/こだまともこ訳/評論社/2022年
Amazonで検索する:書名と作者名

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 ハルモニ(韓国語でおばあちゃんの意味)と暮らすため、リリーはママとお姉ちゃ
んと一緒に小さな町に引っ越してきました。けれど、すぐにハルモニが重い病気であ
ることがわかります。ハルモニはリリーに、昔トラから物語を盗んだせいで、トラに
追われているのだとうちあけます。リリーの目の前に現れたトラは、盗んだ物語を返
せば、ハルモニはよくなるといいました。リリーはその言葉を信じ、物語を返すため、
わなをかけてトラをつかまえようと考えます。それにはおもちが必要です。
 移民1世であるハルモニは、長くアメリカで暮らしながらも、韓国の風習にならっ
て、食事の前に必ず先祖にお供えものをします。リリーはいつも準備を手伝っていま
したが、お供えに欠かせないあずきのおもちの作り方は教わっていません。スマート
フォンでレシピを検索するのが引用部分です。
 ハルモニが作っていたあずきのおもちは、韓国語でパッシルトックといいます。
〈パッ〉はあずき、〈シル〉は底に穴のあいた陶器製の蒸し器、〈トック〉はもちの
こと。厄除けになると伝えられ、お祝いごとや法事のときなどに食べられてきました。
引っ越し先でのあいさつまわりにも配られるようです。うるち米の粉ともち米の粉を
合わせ、水分を加えた生地と、ゆでてつぶしたあずきを、交互に重ねて蒸して作りま
す。
 今回は、パッシルトックではなく、リリーが作ったおもちを再現してみました。リ
リーはあんこを別のもので代用しましたが、日本ではあんこのほうが手に入りやすい
ので、そこは真似していません。パッシルトックとはまったくちがうお菓子ですが、
トラにはこれでじゅうぶんかもしれません。

*-* おもちの作り方 *-*
                  画像はこちら(やまねこ翻訳クラブ喫茶室)

材料(21cm×15cm×7cmの耐熱ガラス製保存容器1個分)
 もち米粉        100g     きび砂糖          35g
 ベーキングパウダー   小さじ1   ココナッツミルク      120cc
 塩           ひとつまみ  粒あん           適量

1.粉類と塩を合わせて1回ふるう。容器にクッキングペーパーを敷いておく。オー
  ブンを180度に予熱する。
2.きび砂糖とココナッツミルクをボウルに入れ、砂糖がとけるまでよく混ぜる。
3.2にふるった粉類を加え、さらに混ぜる。
4.容器に生地を流し入れ、上に粒あんをまんべんなく広げ、オーブンで45分焼く。
5.焼き上がったら、容器に入ったまま網にのせて冷ます。1時間ほどそのままにし
  て、完全に冷めたら容器から出し、適当な幅に切る。

★参考図書・ウェブサイト
『世界の食文化 1 韓国』(朝倉敏夫著/農文協)
『世界の祝祭日とお菓子』(プチグラパブリッシング)
Adzuki Red Bean Mochi Bar(Craving Nomz ウェブサイト内)
 https://www.craving-nomz.com/red-bean-mochi-bar/
韓国料理レシピシリーズ:パッシルトック(KOREA.net ウェブサイト内)
 https://japanese.korea.net/NewsFocus/Culture/view?articleId=142435

"When You Trap a Tiger" 原書レビュー(本誌2021年3月号「注目の本」)
 http://www.yamaneko.org/mgzn/dtp/2021/03.htm#myomi
本誌バックナンバー「お菓子の旅」コーナー
 http://www.yamaneko.org/mgzn/corner/cake.htm
つくってみた。(「お菓子の旅」のお菓子を作ってみたレポート)
 http://tsukuttemita.jugem.jp

                              (赤塚きょう子)

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●お知らせ●

・本誌に対するご感想をはじめ、海外児童書にまつわるお話、ご質問、ご意見等をお
待ちしています。mgzn@yamaneko.org までお気軽にお寄せください。ご質問等は本誌
に掲載させていただく場合があります。

・11月号は定期休刊です。次号(2022年12月号)の配信は12月15日の予定です。お楽
しみに!

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編集者の方々へのインタビューもあります!    〈フーダニット翻訳倶楽部〉
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●編集後記●毎年恒例の「やまねこ賞」に先立ち、読書室掲示板で「やまねこ賞読書
月間」が開催中です。面白そうな本が次々に紹介され、盛り上がっています。「やま
ねこ賞」の結果は、次号12月号でお伝えします。どうぞお楽しみに!(も)
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