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━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 2023年12月号 =====☆ ☆===== =====★ 月 刊 児 童 文 学 翻 訳 ★===== =====☆  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ☆===== No.224 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 児童文学翻訳学習者による、児童文学翻訳学習者のための、電子メール版情報誌 http://www.yamaneko.org 編集部:mgzn@yamaneko.org 2023年12月15日発行 配信数 2550 無料 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ●2023年12月号もくじ● ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◎特集:第26回やまねこ賞──会員が選んだ、今年の児童書ベスト5は? ☆読み物部門 ☆絵本部門 ◎訳者が語る! 注目の本(邦訳読み物):『西の果ての白馬』 マイケル・モーパーゴ作/ないとうふみこ訳 ◎注目の本(邦訳絵本):『つきよのアイスホッケー』 ポール・ハーブリッジ文/マット・ジェームス絵/むらおかみえ訳 ◎賞速報 ◎イベント速報 |
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ●特集●第26回やまねこ賞 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ やまねこ翻訳クラブ恒例のやまねこ賞の投票が、今年も11月にオンラインで開催さ れました。やまねこ賞は、前年10月から本年9月までに出版された邦訳児童書(読み 物、絵本)を対象に、会員がベスト5を選び、大賞作品を決定するものです。読み物 部門、絵本部門の大賞に輝いた作品の翻訳者には、当クラブより賞状と副賞の図書カ ードをお贈りします。 以下、今年の投票結果を、読み物部門、絵本部門の順で発表し、投票者から任意で 寄せられたコメントの一部を掲載します(投票者名は省略)。コメントは原則として 投票時のままです。 ★☆★☆【2023年 第26回やまねこ賞 読み物部門】☆★☆★ ★大賞 『西の果ての白馬』マイケル・モーパーゴ作 ないとうふみこ訳 徳間書店 Amazonで検索する:ISBN Amazonで検索する:書名と作者名  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ イギリス南西端の地コーンウォールを舞台に、ベテラン児童文学作家モーパーゴが 紡ぐ短編集。「巨人のネックレス」「アザラシと泳いだ少年」など5編を収録。 (本誌今月号「訳者が語る! 注目の本」をご参照ください) ◎作品全体にコーンウォールの風と不思議な雰囲気が漂っていて、たちまちその世界 に引き寄せられた。 ◎全編通してコーンウォールの厳しくも美しい自然が感じられる。ぞっとさせられる 物語あり、あたたかな物語あり、いろいろな話が楽しめた。 ◎幽霊や特別な力を持つおばあさん、ノッカーと呼ばれる小人など、どこか謎めいて 不思議なお話が集められた短編集。切ない後味を残す物語もあるけれど、コーンウ ォール地方の風土を感じられて惹きつけられる。 ◎美しく心震えるファンタジー。いままでに読んだモーパーゴのなかでいちばん好き。 ◎各編単独の物語でありながら、5編がつながる、粋な仕掛けになっている。 ◎明るさと暗さが入り混じった短編を読んでいくうち、えも言われぬ独特な気持ちに なってくるのですが、5編目でああそうだったのかと膝を打ちます。読書のこうい うおもしろさを子どもたちに届けてくれる本。 ◎ちょっと仕掛けのある短編集。「ネコにミルク」を読んで思った。猛暑をエアコン でしのいでいる私たちは愚か者だなって。きっと、ノッカーのために毎晩一杯のミ ルクや、毎年畝一列のジャガイモを差し出すことが、大切なんだと思う。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ☆【受賞のことば】 翻訳家 ないとうふみこさん☆ これまでに何冊も手に取って読みふけったモーパーゴさんの作品を翻訳することが でき、さらにやまねこ賞までいただいて、このうえなく光栄です。訳していて何度も 「ああ! やっぱりさすがだな」と感じる瞬間があり、原文にみちびかれながら訳す という幸せな作業を体験しました。少しふしぎで、少しもの悲しく、少し幸せな短編 たちの根底に流れるのは、コーンウォールの自然と伝承に対する尊敬の心。そのあた りが少しでも伝わっているならさいわいです。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◆2位 『赤毛のアン』L・M・モンゴメリ作 田中亜希子訳 小学館  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ カナダの自然豊かな島で、空想好きの少女が成長していく姿を描いた名作の新訳。 紙の本の名作図鑑と、電子書籍125作品をセットにした新しい形の全集『小学館世界 J文学館』の中の1作で、今年3月には当クラブでオンライン読書会が開催された。 ◎みずみずしいアンの世界に感動。すべての章で涙があふれた。 ◎まったく新しいアンに出会え、ますます好きになった。紙の本で発売して続編も作 ってほしい。 ◎ひとりひとりの登場人物に命を吹きこむ生き生きとした翻訳に引きこまれ、夢中で 読んだ。自然や風景の描写も細やかに鮮やかで、目の前に情景が広がっていくよう。 アンの成長をマリラとマシューの気持ちになって見守る、切なくも幸せな時間だっ た。 ◎アンの成長が瑞々しく描かれており、マリラの視点でその様子を愛おしく読むこと ができました。また、プリンスエドワード島の自然の美しさも素晴らしい訳で表現 されており、感動しました。古い作品ですが時間を感じさせない訳だったと思いま す。 ◆3位 『わたしの心のきらめき』 シャロン・M・ドレイパー作 横山和江訳 鈴木出版  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ 12歳の女の子メロディは、人生初のサマーキャンプに参加する。脳性まひで言葉を 話せず、体もほとんど動かせないメロディが語る、かけがえのないひと夏の物語。 ◎『わたしの心のなか』を読んだのがちょうど9年前。続編ではその1年後の姿が描 かれる。つらい経験を乗りこえたメロディが元気に活躍していて、その生き生きと した様子がなによりうれしかった。 ◎臆病だったメロディが初体験に魅了されていく過程が印象的。サポート役との信頼 関係とともにある不自由さに気づき素直な思いを主張するメロディの成長がまぶし い。キャンプ後の生活も視野もきっと心きらめくと思う。 ◎薄紫色の夕暮れに黄緑色のホタルが現れるシーンが心に残った。共感覚のメロディ の見る色と光の世界がきれい。脳性麻痺のメロディが初めてうちの人から離れてサ マーキャンプに行くのだけど、行ってよかったね! ◆4位 『星をつかんでポケットへ』 アイシャ・ブシュビー作 吉井知代子訳 ほるぷ出版  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ サフィヤは、ゲームが好きな10代の女の子。ある日、口げんかをして仲直りしない まま、母親が倒れてしまう。病院に行くと、母親の故郷クウェートの夢を見て……。 ◎夢の中で子どもの頃のママと会い、それが現実とリンクするという設定や、そのヒ ントを元にママを理解していくという展開がおもしろい。サフィヤのママの香りを 想像しつつ読み進み、最後は涙した。 ◎親子関係は難しく、ついつい言いすぎて後悔することもあるけれど、それが最後に なってしまったら……と想像するととても悲しい。そんな主人公の心情が丹念にみ ずみずしく綴られていました。 ◎訳者あとがきに書かれているとおり、これは救いの物語。サフィヤが見つけた最後 の「鍵をあける言葉」、わたし自身は、まだその言葉を口にはできない。サフィヤ はもちろん、サフィヤのママよりもずっと年上なのに。 ◆5位 『図書館がくれた宝物』ケイト・アルバス作 櫛田理絵訳 徳間書店  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ 第二次世界大戦中のイギリス。地方に疎開した孤児の3人きょうだいには、新しい 保護者を探すという秘密の計画があった。はたして、親になってくれる大人は見つか るのか? ◎3人きょうだいが、図書館と本に心を慰められながら、疎開先での苦しい暮らしを 乗り越えていく様子に胸が打たれた。作中に有名な児童書がたくさん登場し、それ についてのきょうだいの感想も興味深い。特に『クマのプーさん』は、戦争中の厳 しい暮らしの中で、こんなに子どもたちの心を慰めるものなのかと感動した。 ◎なつかしく、あたたかい雰囲気の物語。過酷な状況で本が心の支えになるところは、 きっと多くの方が共感されたと思います。 ◎過酷な状況が過酷に書かれているのに、読むのにつらくない。これぞ児童書という 感じ。主人公の子どもたちはどの子も好きにならずにいられないし、司書さんはい つでも場面を明るく温かくしてくれる。よかった。 ◆6位以下の作品 6位『アンナは、いつか蝶のように羽ばたく』 7位『アリとダンテ、宇宙の秘密を発見する』『最後の語り部』 『パフィン島の灯台守』(3作同点) 10位『そして、あの日 エンリコのスケッチブック』『葉っぱの地図』(2作同点) ★☆★☆【2023年 第26回やまねこ賞 絵本部門】☆★☆★ ★大賞 『つきよのアイスホッケー』 ポール・ハーブリッジ文 マット・ジェームス絵 むらおかみえ訳 福音館書店 Amazonで検索する:ISBN Amazonで検索する:書名と作者名  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ぼくらは雪にうもれながら山道をすすむ。目指す先にあるのは……。月明かりの下 でアイスホッケーに夢中になる子どもたちの高揚感と厳しい寒さの中での自然の美し さが、主人公の少年の素直な言葉と深い青を基調とした絵で表現された作品。 (本誌今月号「注目の本(邦訳絵本)」のレビューをご参照ください) ◎マイナス20度の苛烈な寒さのなか汗びっしょりになる天然リンクでのアイスホッケ ー。夜の風景のなかに浮かび上がる少年たちの躍動感もわくわくする。子どもの心 をまっすぐとらえそう。 ◎冷たい夜の空気、少年たちの吐く白い息、情景が不思議なぐらいリアルに感じられ た。 ◎つめたい冬の空気と夜の静けさと満月……大自然を存分に味わう子どもたちの様子、 サイコーです。 ◎力強い絵から、凍てつく空気、吐く息の白さが伝わってきそう。満月の下アイスホ ッケーをする特別な時間は、大人になってもきっと忘れられないだろうと思う。た き火を囲んで食べるサンドイッチ、美味しそう! ◎イラストの力強さにおどろかされた。子どもたちの姿は生き生きとしており、とこ ろどころで描かれる、真っ暗な夜を照らす月がうつくしい。全体的に文字は多いの に、大きく絵のみで描くページもあるのがうまい。 ◎あらすじに夜の冒険と見えた瞬間に好みの作品だと思った。黒い森、軽くてひらひ らした雪、白い岸辺に囲まれたまっさらな氷、寒空に浮かぶ月の白が幻想的。りん とした寒さが伝わってくる画力が凄い。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ☆【受賞のことば】 翻訳家 むらおかみえさん☆ カナダに住む大切な友人が「とても素敵な絵本がある」と言って贈ってくれたのが、 When the Moon Comes でした。青の濃淡で描かれる極寒の月夜の透明感、スケート靴 が氷を削る音や子どもたちの歓声が聞こえてくるような躍動感あふれる描写は、まさ にカナダそのもの。カナダの大自然の魅力を日本の子どもたちにぜひ伝えたいと思い ました。冒険に向かう子どもたちのわくわく感、目的を成し遂げた満足感が読者の心 にも届くといいのですが…。素晴らしい作品に出会えたことに感謝しつつ、やまねこ の皆様に評価していただいたこと、大変光栄に思っております。ありがとうございま した。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◆2位 『世界はこんなに美しい アンヌとバイクの20,000キロ』 エイミー・ノヴェスキー文 ジュリー・モースタッド絵 横山和江訳 工学図書  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ 1973年、女性が一人旅をすることが珍しかった時代に、アンヌはパリを出発し、バ イクで世界をめぐった。旅先で出会った風景や人々が温かい色調で描きだされ、世界 の美しさと優しさがつづられた作品。 ◎邦題も素晴らしい。どこの地でも空が広くて色とりどりで、美しいとはこんな風景 のことなのだなと思った。アンヌの感性が、美しい世界とよき人々との出会いを導 いたのだろう。道の声がきこえるような旅をしてみたい。 ◎アンヌと一緒に、遠い国で夕焼けを眺めた気持ちになれる一冊。旅に出たくなりま す。 ◎好奇心と冒険心あふれるアンヌに勇気をもらいました。ユーコン川の夜空のシーン がお気に入り。 ◎モデルとなったアンヌさんの生き方とこの旅、そして、この絵本にたずさわったす べての方々の仕事をすばらしいと感じました。 ◆3位 『おばあちゃんのにわ』 ジョーダン・スコット文 シドニー・スミス絵 原田勝訳 偕成社  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ぼくと、英語があまり話せないおばあちゃんは、身ぶりや手ぶりなどで思いを伝え 合う。二人の温かな交流が、数々の賞を受賞した『ぼくは川のように話す』(原田勝 訳/偕成社)の作家・画家ペアによって丁寧に描きだされた作品。 ◎光と影のなか、ふたりの時間がゆっくりながれていく。とにかく美しい絵。ため息 しかない。 ◎無口なおばあちゃんと孫の心の通い合いが、みずみずしい絵とともに胸にしみる。 ◎こぼした食べものを拾ってキスして……のシーンに込められた深い思いに胸を打た れました。著者の思いをしっかり、でもやわらかく伝える絵もよかったです。 ◎暮らしの道具や食べものが並ぶおばあちゃんの台所、雨のなか集めたミミズを庭に まくふたり、ぼくを見つめるおばあちゃんの、そのときどきに変わりゆく表情。言 葉と絵のすべてに胸を打たれる。庭にまくミミズが土を育むように、ぼくの心は、 「おばあちゃんのにわ」で豊かに育ったのだろう。 ◆4位 『カメラにうつらなかった真実 3人の写真家が見た日系人収容所』 エリザベス・パートリッジ文 ローレン・タマキ絵 松波佐知子訳 徳間書店  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ 第二次世界大戦中、立場の異なる3人の写真家が強制収容所へ送られた日系アメリ カ人たちを撮影した。彼等の残した写真と、イラストや証言を組み合わせ、収容所と そこで生きた人々の真実に迫るノンフィクション絵本。米国や日本などで賞を受賞。 (本誌2023年6月号「賞情報」をご参照ください) ▽本誌バックナンバー2023年6月号 http://yamaneko.org/mgzn/dtp/2023/06.htm#sokuho ◎内容のよさもさることながら、本の構成やレイアウトの巧みさが印象的だった。 ◎戦争の側面を描いた歴史的価値のある資料的な作品。 ◎第二次世界大戦下の日系人収容所。そして、3人の写真家がとらえた収容所の生活。 なにを撮り、なにを撮らなかったのか。本書を読むとき、ある歴史上の出来事を写 真などの資料に基づいて正確に知ることはそもそも可能なのかと考えざるをえませ ん。 ◎貴重な写真や雰囲気のあるイラストや緻密な解説から、日系人収容所の理不尽さや 違法性、そこで暮らす人々のたくましさがひしひしと伝わってきました。 ◆5位 『ぼくのじゃがいも』 ジョシュ・レイシー文 モモコ・アベ絵 みやさかひろみ訳 こぐま社  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ どうしてもペットがほしいアルバートに、ある日パパが「ペット」としてプレゼン トしたのは……。ペットを大切に思う気持ちが主人公の中で育っていく様子を描いた、 くすっと笑えて心が温かくなる物語。 ◎ストーリーとイラストがベストマッチ! 読んでいるうちに、「おじゃが」が本当 に生き物に見えてくる! ◎じゃがいもがペット?と、ナンセンスに笑ってしまう絵本かと思いきや、いのちを 愛しみ大切に育むアルバートの姿に胸がじんとしてしまうし、その後のさらに意外 な展開もいい。日本語の名前を「おじゃが」にした翻訳のセンスに脱帽。 ◎「おじゃが」というネーミングが最高。いろんな帽子をかぶったり、いつのまにか 本当にかわいく見えてくるのが不思議。短い中に大きなドラマがあってすごい絵本 だった。 ◎じゃがいもならではの展開に心をくすぐられた。 ◆6位以下の作品 6位『きょうはふっくら にくまんのひ』 7位『絵で旅する国境』 8位『ユキエとくま』 9位『バレエ団のねこピンキー』 『ヨシ 3万7千キロをおよいだウミガメのはなし』(2作同点) 見事大賞に輝かれました、ないとうふみこさん、むらおかみえさん、おめでとうご ざいます! お忙しいところ、快く「受賞のことば」をお寄せくださったおふたりに、 心から感謝申し上げます。 なお、やまねこ賞では、会員が過去1年間に読んだ、新刊以外の邦訳児童書と原書 を対象とする、オールタイム&原書部門も設けています。集計は行わず順位もつけま せんが、例年、会員の幅広い読書傾向を反映して、バラエティー豊かな作品が並ぶ投 票結果となっています。 今年は、読み物部門44作品、絵本部門55作品に投票がありました。本誌に掲載した タイトルは10位までですが、「これまでのあゆみ ( http://www.yamaneko.org/yn_award/index.htm#ayumi )」の「過去の投票の様子」 で、投票があった全作品のタイトルをご確認いただけます。オールタイム&原書部門 もあわせて、ぜひご覧ください。 「読み物」「絵本」の分類については、原則として各出版社、書店などの種別を参考 に、当クラブの判断で決定しています。 【参考】 ▽やまねこ賞受賞作品リスト(やまねこ翻訳クラブ資料室) http://www.yamaneko.org/bookdb/award/yn/index.htm ▽やまねこ賞大賞受賞作品一覧(やまねこ翻訳クラブ資料室) http://www.yamaneko.org/bookdb/award/yn/ichiran.htm (綿谷志穂/はまさきひろみ) |
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ●訳者が語る! 注目の本(邦訳読み物)●『西の果ての白馬』 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 本コーナーでは、やまねこ翻訳クラブ会員である訳者本人が、訳した作品の魅力や 翻訳にまつわるエピソードを語ります。 今回の執筆者は、ないとうふみこさん。取り上げるのは、第26回やまねこ賞「読み 物部門」大賞に輝いた作品です。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 『西の果ての白馬』 マイケル・モーパーゴ作/ないとうふみこ訳 徳間書店 定価1,600円(本体) 2023.03 197ページ ISBN 978-4198655983 "The White Horse of Zennor and Other Stories" by Michael Morpurgo Farshore, 1982 モーパーゴの短編集を訳してほしいという依頼を受けたのは、昨年(2022年)の9 月ごろでした。すぐに原書を読みはじめて、「えっ、モーパーゴさんて、こんなにビ ターなお話も書くの?」とびっくり。しかし、最後の5編めまで読みおえると、「や っぱりモーパーゴだったわ。すごい……」と、感動が押しよせてきました。と同時に、 これって、子どもが楽しめる読み物になるのかなという不安もありました。だって、 4編めの「ネコにミルク」なんて、子どもがほとんど出てこないじゃありませんか。 でも、いざ訳しはじめてみると、そんな不安はすぐに解消しました。やはりモーパ ーゴの語りがうまいし、人物の造形がすぐれているので、どれもごく短いお話なのに、 動きもせりふも生き生きとしているのです。貝がら探しにとりつかれたチェリー、わ なに足をはさまれたノッカーのおじいさん、足の不自由な少年ウィリアム……。地域 の伝承を生かした昔話ふうの話が多いので、もっと淡々と語れば、たとえビターな話 でも「どんとはらい」で終わらせることができるでしょう。でも人物も情景もあざや かに描かれているがゆえに、喜びや悲しみがひしひしと伝わってくるのです。 じつはわたくし、悲しくもイギリスに足を踏みいれたことがありません。ですので、 編集の方が資料を送ってくださったコーンウォールの伝説をざっと読みつつ、グーグ ルマップを開きっぱなしにして、岩場だらけの海岸線やヒースにおおわれた荒れ地、 人が泳げそうな潮だまりなどを探してイメージをふくらませました。苦労したといえ ば、地形や位置関係の把握が一番大変だったかもしれません。著者は自分がよく知っ ている土地だと、説明を省いたりすることが多いのですよね。だから地理にかんして は、読者が混乱しないようところどころ文の順番を入れかえたりもしています。 妖精ノッカーが、農場主に1杯のミルクと畝1本分のジャガイモを求める話があり ます(「ネコにミルク」)。それは、人が厳しい自然を征服するのではなく、自然に 対して少しのリスペクトを持ちつづけることが大切という意味だとわたしは解釈しま した。この本の原書は40年以上前の1982年に出版されたものです。しかし今でも、と いうか、今だからこそ痛切に伝わってくるメッセージもあるのではと感じています。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 【作】マイケル・モーパーゴ(Michael Morpurgo):絵本からヤングアダルトまで 150以上の作品を出版している英国の児童書作家。映画化された『戦火の馬』(佐藤 見果夢訳/評論社)をはじめ、戦争を題材にしたものも多い。日本でも40近くの作品 が紹介されるなど人気が高く、昨年12月から今年3月にかけても本書のほか、『ガリ バーのむすこ』(杉田七重訳/小学館)、『パフィン島の灯台守』(ベンジー・デイ ヴィス絵/佐藤見果夢訳/評論社)と3冊の邦訳があいついで出版された。 【訳】ないとう ふみこ:英米文学翻訳家。訳書に『アリスとふたりのおかしな冒険』 (ナターシャ・ファラント作/佐竹美保絵/徳間書店)、『貸出禁止の本をすくえ!』 (アラン・グラッツ作/ほるぷ出版)、『最後の竜殺し』(ジャスパー・フォード作 /竹書房)、『ネイサン・チェン自伝 ワンジャンプ』(ネイサン・チェン著/児玉 敦子、中村久里子共訳/KADOKAWA)などがある。いたばし国際絵本翻訳大賞の副審査 員もつとめている。 (ないとうふみこ) ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ●注目の本(邦訳絵本)●冬の月夜のひそやかな冒険 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 『つきよのアイスホッケー』 ポール・ハーブリッジ文/マット・ジェームス絵/むらおかみえ訳 福音館書店 定価1,800円(本体) 2023.01 40ページ ISBN 978-4834085815 "When the Moon Comes" text by Paul Harbridge, illustrations by Matt James Tundra Books, 2017 ★2017年カナダ総督文学賞児童書(絵)部門最終候補作品 冬がやってきた。ぼくたちはビーバー池が完璧に凍るのを待っている。次の満月の 日がそのときだ。スケート靴を持って、みんなで森へ出かけた。アイスホッケーをす るのだ。まっさらな氷に足を下ろすのは、とっておきの儀式。暗闇に野生動物がひそ んでいてこわいけど、空で月が見守ってくれている。あたたかい月明かりにつつまれ て、ぼくたちは銀盤を滑走する――。 表紙を見ただけで、すぐに心を奪われた。少年たちがカラマツの森をひそやかに進 んでいる。これが特別な冒険だというのが、静かに伝わってきた。ページをめくれば、 少年たちだけでなく、大自然そのものも、物語の主人公だとわかってくる。黒い森に 紺色の空、星のまたたき。木々が映る湖氷に、さらさらした雪の冷たさや、マイナス 20度の、肺がひりひりしそうな空気。すべてが幻想的でうっとりする。 はじめのほうに、月が満ちていくさまが描かれたページがある。ゆっくり移ろう時 の流れを見ていると、わたしにも、かつて知っていた、待つことのよろこびが蘇って きた。満月のもと、いよいよ、「フェイスオフ!」の声で試合がはじまるときは、こ ちらの胸まで高鳴った。天然のリンクを疾走し、空に飛んでいきそうだというシーン にも惹かれる。それは、カナダの大自然ならではの感覚かと思うと、なんともうらや ましい。 この絵本は、氷に彫刻したかのような繊細な線で凜とした冬の森を映し出し、人生 のほんの一瞬の、だからこそかけがえのない子ども時代のきらめきを生き生きと描い ている。それもそのはずで、カナダ在住の作家が、父の子ども時代の体験をもとに文 を書いたのだ。少年たちはリンクの上で汗をかきながら歓声をあげている。試合が終 わると、焚き火を囲んでパーティーを開いた。その光景がきらきら輝いている。ここ で食べたサンドイッチは世界一おいしいと思う。どんな形であれ、こんな幸せなひと ときが、すべての子どもたちにあるようにと、祈った。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 【文】ポール・ハーブリッジ(Paul Harbridge):オンタリオ州マスコーカ育ち。エ トビコーク在住の作家。絵本や短編作品を手がけるかたわら、言語聴覚士をつとめる。 2022年、"Out into the Big Wide Lake" で、優れた新人作家に贈られる、エズラ・ ジャック・キーツ賞を受賞した。 【絵】マット・ジェームス(Matt James):オンタリオ州トロント在住のイラストレ ーター兼ミュージシャン。2013年に "Northwest Passage" でカナダ総督文学賞児童 書(絵)部門を受賞。複数の著書がカナダ内外の賞で評価を受ける。2021年に発表し た "The Funeral" で、はじめて絵のほかに文も担当している。 【訳】むらおか みえ(村岡美枝):英文学者、翻訳家。祖母は、モンゴメリの著作 などを数多く翻訳した村岡花子。祖母と同様、カナダと日本の文化交流を促進する活 動に携わる。カナダの作家と画家による絵本の翻訳に『ひびけわたしのうたごえ』 (カロライン・ウッドワード文/ジュリー・モースタッド絵/福音館書店)がある。 【参考】 ▼ポール・ハーブリッジ公式ウェブサイト https://paulharbridge.com/ ▼マット・ジェームス公式ウェブサイト http://www.mattjamesillustration.ca/ (小原美穂) |
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ●賞速報● ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ★2024年度アストリッド・リンドグレーン記念文学賞候補者発表 (受賞者の発表は2024年4月9日の予定) ★2024年カーネギー賞作家賞(旧カーネギー賞)、カーネギー賞画家賞(旧ケイト・ グリーナウェイ賞)ノミネート作品発表 (ロングリストの発表は2024年2月13日、ショートリストの発表は3月13日、 受賞作品の発表は6月20日の予定) ★2023年全米図書賞児童書部門受賞作品発表 海外児童文学賞の書誌情報を随時掲載しています。「速報(海外児童文学賞)」を ご覧ください。 http://www.yamaneko.org/cgi-bin/sc-board/c-board.cgi?id=award |
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ●イベント速報● ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ★展示会情報 板橋区立美術館「館蔵品展 展覧会のちょっといい話 絵本と近代美術のあれこれ」 ひろしま美術館「ひだまりの絵本画家 柿本幸造展」 など ★講座・講演会情報 幸田町民会館 「絵本作家 とよたかずひこ講演会 『東海道本線にのってももんちゃんがやってきた』」 香美市立やなせたかし記念館・詩とメルヘン絵本館 「田島征三 アートのぼうけん展& 田島征三 公開制作&スピーチ『絵本のちから いのちの力』」 など 詳細やその他のイベント情報は、「児童書関連イベント情報掲示板」をご覧くださ い。なお、空席状況については各自ご確認願います。 http://www.yamaneko.org/cgi-bin/sc-board/c-board.cgi?id=event X(旧 Twitter)アカウントでも最新情報を提供していますので、どうぞご注目く ださい。 ▽やまねこ翻訳クラブ*イベント情報 X(旧 Twitter) https://twitter.com/YamanekoEvent (山本真奈美/冬木恵子) |
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ●お知らせ● ・本誌に対するご感想をはじめ、海外児童書にまつわるお話、ご質問、ご意見等をお 待ちしています。mgzn@yamaneko.org までお気軽にお寄せください。ご質問等は本誌 に掲載させていただく場合があります。 ・1月号は定期休刊です。ニューベリー賞・コールデコット賞・プリンツ賞の発表に ともなう号外を1月下旬に発行する予定です。どうぞお楽しみに! ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ★☆メールマガジン『海外ミステリ通信』 隔月15日発行☆★ https://www.mag2.com/m/0000075213 未訳書から邦訳新刊まで、あらゆる海外ミステリの情報を厳選して紹介。翻訳家や 編集者の方々へのインタビューもあります! 〈フーダニット翻訳倶楽部〉 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ *=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*= ◇各掲示板の話題やクラブの動きなど、HOT な情報をご紹介しています◇ ★やまねこ翻訳クラブ Facebook ページ https://www.facebook.com/yamaneko1997/ ★やまねこ翻訳クラブ X(旧 Twitter) やまねこアクチベーター https://twitter.com/YActivator やまねこ翻訳クラブ☆ゆる猫ツイート https://twitter.com/yamanekohonyaku やまねこ翻訳クラブ*イベント情報 https://twitter.com/YamanekoEvent 巷で見かけたやまねこたち https://twitter.com/ChimataYamaneko *=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*= ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ●編集後記●26回目となるやまねこ賞。会員お勧めの、魅力たっぷりな作品が並びま した。冬休みにぜひお読みください。今年も「月刊児童文学翻訳」をお読みいただき、 ありがとうございました。2024年もどうぞよろしくお願いいたします。(も) ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 発 行 やまねこ翻訳クラブ 編集人 森井理沙/平野麻紗/三好美香(やまねこ翻訳クラブ スタッフ) 企 画 赤塚きょう子 尾被ほっぽ かまだゆうこ 蒲池由佳 小島明子 小原美穂 ないとうふみこ はまさきひろみ 冬木恵子 松倉真理 安田冬子 山本真奈美 横山和江 綿谷志穂 協 力 からくっこ ながさわくにお ゆま html版担当 ayo ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ・このメールマガジンは、「まぐまぐ」( http://www.mag2.com/ )を利用して配信 しています。購読のお申し込み、解除は下記のページからお手続きください。 http://www.mag2.com/m/0000013198.html ・バックナンバーは、http://www.yamaneko.org/mgzn/ でご覧いただけます。 ・「月刊児童文学翻訳」編集部 連絡先 mgzn@yamaneko.org ・無断転載を禁じます。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ |
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