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やまねこ翻訳クラブ 資料室
尾高薫さんインタビュー

『月刊児童文学翻訳』2003年9月号より

【尾高 薫(おだか かおる)さん】
1959年、北海道生まれ。国際基督教大学卒業。理論社の「ガールズ」シリーズ『ガールズ・イン・ラブ』で翻訳デビュー。現在は東京に在住。9月22日には、『ガールズ・アウト・レイト〜もう帰らなきゃ〜』が出版される。
『ガールズ イン ラブ』表紙

シリーズ1作目
『ガールズ イン ラブ』
『ガールズ アウト レイト』表紙

シリーズ3作目
『ガールズ アウト レイト
〜もう帰らなきゃ〜』
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Q★「ガールズ」シリーズとの出会いについて教えてください。
A☆きっかけは、友人である翻訳家の千葉茂樹さんから理論社を紹介していただいたことです。当時、同シリーズについて出版を検討していた理論社より運良く声をかけていただき、シリーズ第1作のシノプシスと感想、第1章の訳文を仕上げて提出。その後、正式に「ガールズ」シリーズ翻訳の依頼を受けました。ウィルソンの作品と言えば、低学年向けの物語は訳書で読んだことがあったのですが、この時初めて原書を読みました。

 

Q★英語や翻訳の学習歴について教えてください。
A☆高校の時に(財)エイ・エフ・エス日本協会の留学制度を利用してアメリカのテキサス州ヒューストンに1年間留学しました。帰国後は日本の高校を卒業し、国際基督教大学に進学しました。大学では社会科学を専攻しましたが、大学の性格上、寮で英語が飛び交うなど日常的に英語に接する機会はありました。

 また、大学卒業後は日本の金融機関に就職し、国際金融市場に関する調査部門に8年間ほど在籍しました。そのため外電や月報・年報などを日本語に訳したり、外国人の投資家向けに資料を英訳したりする機会が頻繁にありました。

 その後、夫の赴任に伴い2人の子どもと共にカナダへ。オンタリオ州トロントで3年半を過ごしました。

 帰国後は第3子が生まれたこともあり、自宅でできる仕事を探しました。こうして英語教室をスタート。教室を開いて今年で9年、現在では70人の生徒に教えています。また、知人の紹介で金融関係のビジネス書、教育マニュアル、英会話教材などの翻訳にも関わりました。以上のように、翻訳を専門的に勉強した経験はないのですが、英語とは常に関わってきました。

 

Q★「ガールズ」シリーズの特徴とも言えるテンポのよい会話や効果的なカタカナの使い方についてうかがいます。このようなセリフ回しや訳調、カタカナの使い方などは、原書を読んですぐにひらめいたのですか?
A☆「ガールズ」出版にあたり、出版社側には「ふだんあまり本を読んだことのない子どもにも読んでもらいたい」という思いがありました。そのため装丁も、子どもが手に取り易いようなデザインになっています。また、ページ内が漢字だらけにならないよう漢字の使用頻度にも気を配りました。会話文については、主人公と同年代の子どもたちが親しみ易いような訳文を心掛けました。

 そこでまず参考にしたのが、主人公と同年代の我が子や英会話教室の生徒の会話、彼らのカタカナの使い方です。

 ただし、流行りの言葉だけを使えば、数年後には古くて読むに耐えない訳文になってしまいます。ですから、ごく普通の言葉遣いを基本に柔らかい言い回しを織り交ぜながら、主人公と同年代の子どもたちが違和感なく読めるような口調を目指しました。
 また、今の子どもは書き言葉にカタカナを多く使用するので、話している時にも頭の中にはカタカナが浮かんでいると考えました。現代の子どもには、言葉も含めたあらゆる事柄を音や視覚などの感覚でとらえるという特徴があります。そこで会話には今の子どもの特徴を取り入れて感覚的なカタカナを多めに用いることにしたんです。例えば「妊娠/ニンシン」など、地の文では漢字、会話文ではカタカナで表記するといった使い分けをしました。一方で、カタカナばかりで読みにくくならないよう、バランスにも配慮するよう心掛けました。また、若い世代の人にも是非知って欲しいと思うような漢字については、ルビを振るなどの工夫をしました。
『ガールズ アンダー プレッシャー』表紙

シリーズ2作目
『ガールズ アンダー プレッシャー〜ダイエットしなきゃ!〜』
 本シリーズの作者、ジャクリーン・ウィルソンの文章には一定の気品があります。彼女は子どもの目線に合わせつつ、彼らに対して明確なメッセージを伝えます。そんなウィルソンの姿勢が作品の気品を保ち、大人が読んでも共感できる内容になっているのだと思います。さらに、ウィルソンの文章はスパイスが効いていてテンポがある。つまり原文自体、今の子どもがすんなりと読めるような文体なんです。ですから、訳文も原文の品を保ちつつ、今の子どもに受け入れられるようなものを目指しました。

 

Q★シリーズ作品ということで、各キャラクターのセリフを訳出する際、特に気を付けたことはありますか?
A☆「ガールズ」は4巻シリーズになりますが、全巻を通して主人公の年齢はほとんど変わりません。しかしながら子どもは大変な勢いで成長し、夏休みなどをきっかけに別人のように変わります。シリーズ中の主人公3人もどんどん成長します。ですので、登場人物の言葉遣いを完全に決めてしまうのではなく、彼らの成長に合わせて訳文も変えていく、というスタンスで訳しています。

 

Q★お使いになっている辞書や作業環境について教えてください。
A☆英和辞典は主にリーダーズとリーダーズ・プラスを使用し、訳文はパソコンに入力して作成します。日本語の辞書は広辞苑のCD-ROM版の他、岩波の国語辞典など紙の辞書も併用しています。英英はロングマン。その他、アルクのオンライン辞書も利用しますね。単語の正確なニュアンスをつかむために、電子辞書のサーチ機能などを使い、複数の辞書をこまめに引くよう心掛けています。それから訳文は1度訳し終わったら印刷してチェックします。また、チェックする際には必ず音読して、リズムを確かめながら訳文を調整します。

 調べものは主にインターネットを活用。現地のレストランやクラブ、バーなどの名称や店内の様子、画家の名前や作品など色々確認できて便利ですね。

 

Q★今後、挑戦したい分野はありますか?
A☆自分自身が子育て中であること、英語教室で多くの子どもに接していることから、子どもに関する仕事に挑戦したいと思っています。彼らと接する中で、子どもを取り巻く環境や、子どもたちの成長について危機感を覚えることがあります。モノと情報が影響力を増す一方で、子どもの中の成熟した部分と未熟な部分の差が大きくなっているように感じます。彼らの中には、早熟な部分と育つことを放棄してしまっている部分、幼稚な面と若くして達観してしまっている部分が共存している。そんな状態だと、すぐに疲れてしまうんじゃないかと心配です。ですから、今の子ども達の心に届くような作品を訳すことができたら最高ですね。フィクション、ノンフィクション、YA、児童文学などジャンルにはこだわらず、子どもを視野にいれた作品を手がけたいと思います。

 

Q★最後に、翻訳学習者にアドバイスをお願いします。
A☆人との出会いや作品との出会いを大切にしてください。私自身、人とのつながりが本書を訳すきっかけになったこともあり、出会いは大事だと実感しています。また、翻訳という仕事は年齢に関わらず始めることができます。過去の人生経験がとてもプラスになりますし、非常に魅力ある仕事だと思いますよ。また、辞書は使い慣れたものをベースに色々なものを使うといいと思います。

 

 ※「ガールズ」シリーズについては年内に増刊号を発行予定です。こちらも是非お楽しみに!

 

取材・文/瀬尾友子
2003-9-16作成

※本の表紙は、出版社の許可を得て使用しています。


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