洋書でブレイク |
アメリカのすぐれた絵本に贈られるコールデコット賞。インターネットで今年の受賞作品をチェックしていたところ、5歳の息子が突然身を乗り出して「ママ、ママ、これなに?」ときいてきた。オレンジと黄色の背景に、ワルガキ風男の子の表紙。落ち着いた雰囲気の作品が多いなか、これだけちょっと浮いている。凄いいたずらをするのかな。息子に真似されたら困るけど、怖いもの見たさか、好奇心が頭をもたげてくる――。 数週間後、本が届く。ページをめくると、主人公の5歳児デイヴィッドが椅子を踏台にして、棚の上のクッキー缶に手を伸ばしている。見開きで迫力のある構図だ。文字は手書きで“No, David!”とあるだけ。デイヴィッドのママの声だが、姿は描かれていない。次はリビングを泥足で歩くデイヴィッド。体中いたるところに泥がついていて、頭のてっぺんからはキノコが生えている。文字は“No, David, no!”。裸で外に飛び出して“Come back here!”、フライパンをバンバンたたいて“Be quiet!”。デイヴィッドのいたずらとママの叫びは28ページ、14シーンも続く。 登場するデイヴィッドは、まるで幼児が描いた絵のようだ。実は、この本は、作者デイヴィッド・シャノンが5歳のときに描いた絵をもとにしている。だから、絵本の中のデイヴィッドは、子どもの頃に描いた自画像のままなのだ。一方、背景部分に目を向けると、棚に並んだ食器、散らかり放題の玩具、リビングの調度品など、正確なデッサンと鮮やかな色彩の絵が見えてくる。単純な線描きの主人公が生き生きしているのは、背景描写とのコントラストの影響もあるのだろう。シャノンの絵本は、日本では『ストライプ』(清水奈緒子訳/セーラー出版)『みにくいむすめ』(レイフ・マーティン文/常盤新平訳/岩崎書店)などが紹介されているが、いずれも丹念に描き込まれた画風だ。 洋書といっても英語はごくわずか。絵がたくさんのことを語ってくれるタイプの本。最近笑っていないと思うかたは、ぜひ手にとって見てほしい(ただし、笑い過ぎに注意)。それと、育児に疲れたときにも開いてほしい1冊だと思う。某幼稚園ひまわり組では、先生と園児がデイヴィッドのとりこになっていることも付け加えておく。 (河原まこ)
|
「キッズBOOKカフェ」(月刊『翻訳の世界』1999年10月号掲載)のホームページ版です。
メニュー>読書室>レビュー集>キッズBOOKカフェ>洋書でブレイク
Copyright (c) 1998-2002 yamaneko honyaku club All rights reserved.