洋書でブレイク |
“ESIO TROT”――このタイトルを見てくすりと笑った方。あなたは頭の回転が速いか、あるいは、ひねくれているのかも。なにしろ、ホッピーさんのカメ語がわかったのだから。 ホッピーさんは独り者の初老のおじさん。すてきな中年女性シルバーさんに片想いをしている。ある日、ホッピーさんはシルバーさんの悩みを知った。ああ、どうしてわたしのぺットのカメちゃんは、大きくなってくれないの。チャンスと思ったホッピーさんは、シルバーさんにおまじないを教える。これを唱えれば、あなたのカメは早く成長しますよ。けれどもそのおまじないはでっちあげで、ホッピーさんの作戦だった。シルバーさんへの恋を実らせるため、ホッピーさん、大勝負に出る! 奇想天外なストーリーに、ダールおじさんの語りかけるような文体。ダールの児童書ではおなじみの特徴が、この本でも楽しめる。挿し絵もいつもの名コンビ、クェンティン・ブレイクのものだ。とぼけた感じのコミカルな絵が、物語を引き立てている。薄くてあっという間に読めるので、原書を読み慣れていない人にもお勧めだ。「ダールの短編小説や、映画なら知っているけれど」という人にも、この軽妙でおしゃれな雰囲気は、気に入っていただけるはず。小学校3年生ぐらいから大人まで楽しめる読み物だ。 ここで“ESIO TROT”の種明かしをちょっぴりしておこう。ホッピーさん曰く、それは「カメ語」で、おまじないの一部でもある。ヒントは“backwards”。なにはともあれ、まずは原書を手にとって、カメ語のおもしろさを味わってほしい。さらにカメ語の訳を自分で練ってみれば、楽しさ倍増だ。翻訳書を読むのは、それからでも遅くはない。 この作品を出版した1990年、ダールはこの世を去る。そして計らずも、最後の題材は「おじさんとおばさんの恋」となった。なんとなく、じんとくる話である。 (田中亜希子)
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