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異世界への旅は、現実からの解放であり、それは同時に、現実に向き合って生きる力にもなりうる。絵本というものは、そうした、あらゆる物語の普遍的なテーマを、より効果的に見せてくれる媒体ではないだろうか。 1年間全く歩けずにベッドの上ですごしているヨーランのもとに、あるとき小さなふしぎなおじさんが訪ねてくる。「夕あかりの国」へ連れていってあげると言うおじさんだが、ヨーサンは、足が悪いからと尻込みする。するとおじさんは、「そんなこと、へいきだよ。夕あかりの国では、なんでもないんだ」。 この『夕あかりの国』は、『長くつ下のピッピ』などで知られるリンドグレーンが1949年に書いた短編を、近年になって絵本化したものだが、なるほど物語の普遍性を感じずにはいられない。 普遍性をいうならば、大人と子どもの関係というものも、時代を超えて変わらないものだろう。『おとなってじぶんでばっかりハンドルをにぎってる』は、「おとなって、いつでも時間を気にしてる」など、子どもの目から見た大人像を、38態並べあげた作品。シニカルな視点が心地よく、子どもの目からは「やった!」、大人の目からは「やられた!」と思うこと請け合い。楽しみながら、自分の大人度チェックをしてみるのもいい。次第にこのタイトルが、意味深に思えてくる。 ブタを描かせたら天下一品のアーサー・ガイサートは、『コブタをかぞえてIからMM』が出た。いちおう、ローマ数字の勉強絵本ということなのだが、38態どころか、2000体ものコブタが見開きで登場。気になる人は、ぜひ数えてみてほしい。コブタ1匹1匹の表情に、作者のコブタ好き加減がうかがえ、たまらなく愛らしい。 『夕あかりの国』だけじゃなく、こんなゆかいな絵本だって、たしかな生きる力になる。だって、こんな素敵なモノに出会えずに、人生終わりたくないもんね。 (ながさわくにお) |
「キッズBOOKカフェ」(月刊『翻訳の世界』1999年7月号掲載)のホームページ版です。
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