洋書でブレイク |
「あれえ、どこにいったのかなあ。どっかにあるはずなんだけど……」目を皿のようにして、家の中をはいずりまわっている女の子。お気に入りのクマのぬいぐるみが見当たらないのだ(まあ、この部屋の散らかりようじゃあ、見つからないのも仕方ない)。自分ひとりではらちがあかないので、両親と姉に助けを求めるのだが、誰も手伝ってはくれない。「ああ、もうクマちゃんとは一生会えないんだわ……」 作者のジュールズ・ファイファーは有名なカートゥーン作家で、1986年にはピュリッツァー賞も受賞している(その他、劇・シナリオ・子どもの本も書いている)。なるほど、コマ割りのページがあったり、セリフがふきだしになっていたりして、全体の雰囲気はマンガだ。絵もとてもシンプル。何気ない表現に作者の人間観察の鋭さがきらりと光ったり、絵を見ただけでクスッと笑えたり……。そういうのってやっぱり、マンガならではの視点なのかもしれない。 話は、クマのぬいぐるみを探す、ただそれだけ。ぬいぐるみが話しだすわけでも、魔法使いが出てくるわけでもない。でも、現実をそのままチョキンと切りとったような話の中に、こんなにドラマが隠されていようとは! 話の展開にあわせて、女の子の気持ちは、怒りから落胆、希望、喜び、絶望、自己嫌悪、歓喜、そして自己満足へとくるくる変わり、それが読み手にダイレクトに伝わってくる。 姉と妹の間に繰り広げられるかけひきも、おもしろい。近寄ると反発し合うのに、それでも近寄らずにはいられない姉と妹。「あたしのクマちゃん、取ったでしょう。返してよね」なんて、そんな高飛車な態度に出たら、助けてくれるはずがない。でも、八方ふさがりの状況に突破口を開いてくれたのは、やっぱりお姉ちゃんだった。うまくいくかどうかは別だけど。 実は私も物をなくす名人で、部屋の中をはいずりまわる格好は彼女とまったく同じ。だからこの話は他人事とは思えない。ついつい感情移入してしまう。でも、探し物には縁のない几帳面な人も、クマのぬいぐるみなんてもう何年も触ってない人も、この絵本を見れば必ず心のどこかがくすぐられるはず。一度、おためしあれ。 (植村わらび)
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