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理論社といえば、日本児童文学の名作を数多く出版している創作物の老舗。その理論社が、98年9月の『犬のウィリーとその他おおぜい』(ペネロピ・ライヴリー作/神宮輝夫訳)の出版を皮切りに、翻訳書にも力を入れ始めている。そこで調査隊は、編集部の小宮山民人さんと平井拓さんを訪ね、同社が翻訳書の出版を始めた経緯と、今後の予定などについてうかがった。 もともと理論社は「日本人作家による日本の子どものための文学」という理念で創作物を中心とした出版活動を行ってきた。しかし、ここ数年情報化が進んだことで、外国との価値観のずれが減少し、日本の子どもたちにとって外国の文化はより身近なものとなりつつある。こうした時代性もあり、「翻訳書も含めて出版の幅を広げていきたいと考えるようになりました」(小宮山さん)。そこへ海外の作品にも詳しい平井さんが入社、本格的な翻訳書出版がスター トすることとなった。 これまでに翻訳書が出た作品は、原書が出版された国も様々なら、内容やテーマにも一見共通性はない。出版を決める基準をうかがったところ、「テーマを追うだけの押しつけがましい話ではなく、たとえシリアスな内容でも、作品世界そのものを純粋に楽しめる『風通しのいい』作品を選んでいます」(平井さん)。確かに、『レーナ』(ジャクリーン・ウッドソン作/さくまゆみこ訳)や『ひねり屋』(ジェリー・スピネッリ作/千葉茂樹訳)などは、テーマは重いが、作者の筆力でぐいぐい先を読ませる力のある作品だ。また内容だけではなく、いろいろな意味で「児童書はこうあるべき」という枠を外していきたいと平井さんは言う。実際、児童書ではめずらしい、短編集や500ページを超える長編も出版されている。対象年齢もあえて厳密な設定をせず、「大人も子どもも自由に楽しめる」作品を中心にしていきたいとのことだ。 11月刊行予定の『「少女神」第九号』(フランチェスカ・リア・ブロック作/金原瑞人訳)は、ロサンゼルスを舞台に、少女たちの生活をポップに描いた短編集。2000年には、ジョーン・エイキンの隠れた名作 THE FELIX TRILOGYの第1部『海に鞍を』、クラウス・コルドンの大作BERLIN、ニューベリー賞受賞作ほか、海外児童書ファンにとって嬉しい作品の出版が予定されている。 「風通しのいい」作品たちが、今後どんな新風を巻き起こしてくれるか、とても楽しみだ。 (森 久里子) |
「キッズBOOKカフェ」(月刊『翻訳の世界』2000年1月号掲載)のホームページ版です。
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