『かようびのよる』(当麻ゆか訳/ベネッセ)でカエルを飛ばしたウィーズナーが、今度は雲を飛ばした!
息で曇ったスクールバスの窓に、指で絵を描く少年。きっと学校からマンハッタンへ社会見学に来たのだろう。そう、「きっと」なのだ。なぜなら、この作品には文章がない。だから「きっと」。
エンパイアステートビルの展望台はもやがかかって手探り状態。そこで少年が出会ったのは、帽子にマフラー、手袋まではめた雲。少年は雲に誘われ、空へと飛び立つ。目指すは天空の城か? 幻想的な筋書きを期待して、はるかな世界に酔いだしたら作者の思う壺。あっというまに裏切られ、見えてくるのは巨大な工場。中では次々と雲が作られ配送されていく。ところが、どうも雲たちは満足していないようだ。そこで……。
いずれは消える雲のはかなさに、少年の純粋さを重ね合わせ、巨大な空のキャンバスに、縛られない心の自由を描きだす。ウィーズナーファンならずとも、手を叩いて喜びたくなるエネルギッシュな秀作に仕上がっている。作者の空想力は絵に凝縮され、言葉の代わりとなる色や構図が饒舌に語り出す。クライマックスでのスケールの大きさは圧巻だし、ラストの繊細な美しさにはため息がでる。
一見、奇をてらったようでいて、不思議と現実感たっぷりなのが、この作者の魅力のひとつ。違和感を麻痺させる天才だ。「火曜の夜になると、思わず窓から外を見てしまう」なんていうカエルファンも、これからは昼夜を問わず空を見上げるに違いない。日本上空はSECTOR16、それとも17かな?
コーヒー片手に、たまには絵を翻訳してみるのもちょっとおつなブレイクではあるまいか。遊び心いっぱいの仕掛けに、「あれ?」っと楽しめるおまけ付き。その上、重厚な雰囲気まで醸し出す。
霧で視界ゼロのエンパイアに上って、この作品の構想を練ったというウィーズナー。さて、次は何を飛ばすのか?
(大原慈省)
SECTOR 7
by David Wiesner, 1999
(Houghton Mifflin $16.00 48pages)
|
|